関西・中部合同IVR報告 ~大勢の参加者、多彩な演題、活発な討論:さすがに疲れた~

2012.02.20

関西・中部合同IVR報告
~大勢の参加者、多彩な演題、活発な討論:さすがに疲れた~

IVRコンサルタンツ
林 信成

 平成24年2月18日にホテルエルセラーン大阪にて開催された日本IVR学会第32回中部・第31回関西合同地方会に参加した。今年の冬は格段に雪が多く、北陸は当日も雪であった。私の住む大津でさえも今シーズン初めての本格的な積雪に見舞われ、道路は凍てつき、鉄道ダイヤもかなり乱れていた。それでも会場は、朝一から大勢の参加者で賑わっていた。
 会場となったホテルエルセラーン大阪は、大阪駅からは少し距離があるものの、地下街を歩けば一本道である。何と言ってもホテルでは珍しく会場が階段状の劇場型になっており、フラットでないからスライドが見やすい。400人あまりを収容する会場なのでいつもの地方会なら余裕なのだが、今回は2年に一度の関西・中部合同の集会なので、300名を超えたであろう参加者でけっこうな混雑ぶりであった。ほぼドンピシャの会場規模であろう。
 さて学会は、夏・秋の空白期間をおいた後なので、膨大な演題の数であった。一般演題だけで63題もあったため、特別企画がランチョンセミナーのみ(世話人は聞けず)だったのに終了は午後6時頃となった。さらに中部にせよ関西にせよ、地方会では初めて、午後の一部は2つの会場にて口演発表が同時並行で行われた。ただ記憶をふりしぼれば、初めて合同IVRを開いた頃は中部でも関西でも、2日に分けて開催していた。もちろん賛否両論あるだろうが、時節柄もう2日かけての開催は厳しかろう。また今年は5月のIVR学会総会時に国際シンポジウムやAPCCVIRも併催される。昔はこういうのが重なった年は2年に1度を3年に一度に先延ばししたこともあったし、総会との都合で時期をずらせたこともあった。次回は2年後に名古屋で合同IVRの予定だが、今後の方の参考までに書いておく。私の勘違いならごめんなさい。今回もまた、拝聴することができて印象に残った演題を中心に報告する。

 最初のセッションのテーマは門脈であった。一筋縄ではいかない短絡路を苦労して治療した演題が相次ぎ、臨場感に溢れていて楽しかった。フロアからの質問やコメントも、極めて具体的な内容で、ずっとゆっくり聞いていたかった。発表6分討論2分というのは、いかにも討論時間が少なすぎる。口演時間が守られなくて質問が1つに限られてしまう問題も生じていた。こういう技術の会は、発表4分討論4分でも良いくらいに思う(実際、大昔にそうしたことがある)。今回は少なかったが、教育講演のようにだらだらと話す演者の場合は、無理矢理発表を打ち切ることも必要だろう。なおBRTOは、ようやく欧米でもかなり認知度が高まっている。具体的な時間(オーバーナイトの必要性など)やFoamの是非などについて、何らかの答えが日本から出ないと、そろそろまずそうな気がする。

 その後は、BRTO中にタコツボ型心筋症を来した1例などの比較的珍しい症例報告が続いたが、デンバーシャント後に嵌頓性臍ヘルニアを発症して亡くなった症例が一番イタかった。一生懸命苦労して治療したのに、足をすくわれてしまってさぞ無念だったろうと思う。なるほど急に腹が縮めば嵌頓も生じるだろうし、腸管壊死を生じていなかったのに全身状態の悪化で亡くなるところが肝硬変の怖さである。なお生体肝移植後の静脈吻合部狭窄に対する治療では、ステントの可否やタイミング、追加治療などが話し合われた。最近は成人での症例が増えていることや、生命予後が良くて当然のようになっていることなどから、私が自ら関与していた20年前とは大きく風景が変わっている。ただ何とかして金属ステントのような異物を残さない治療法が発展してもらいたいものである。生体吸収性ステントの必要性を企業の方たちに必死に説いていたのはその頃からであった。

 肝細胞癌に対するTAEのセッションでは、入江先生が提唱されたバルーン閉塞下TACEの初期経験や3Fシステムを用いたTACEの演題などがあったが、適応はまだよくわからない。福井県済生会病院の宮山先生は、門脈臍部近傍の腫瘍への栄養血管を分析してS3とS4の枝のクロスオーバーの頻度について明らかにしたり、右下横隔動脈近位枝から尾状葉への供血様式を検討したり、相変わらずこの分野で孤高の独壇場である。胆嚢動脈を確実にはずしてTACEを施行したのに壊疽性胆嚢炎が生じた1例では、術後の肝表面にできた無数の細かい動脈がMDCTの三次元再構成像で鮮やかに示され、これを通じての関与が示唆されていた。人体の不思議が画像診断の進歩によってどんどん解明されているのだが、肝血流が関わる素朴な疑問に対する答えを今も変わらず究明し続けられている姿勢には頭が下がる。その後、肺や縦隔リンパ節転移に対するTACEの演題や、SMA経由の動注リザーバーカテーテル留置について再検証した演題などがあったところで昼休みとなった。このあたりでそろそろ、細かい点まで聴き取る気力・体力が衰えて来たような気がする。

 午後は前述のように2会場に分かれて行われた。メイン会場で発表があった大動脈ステントグラフトは、かなり裾野が広がって一般病院でも実施施設となるところが増えてきているが、演題はやはり昔から多数手がけている施設からのものが多い。ますます難度の高い、本来なら適応外とされる症例が急増している実態がよくわかる。ただ術者の腕も上がっているし、様々な工夫もなされている。そういう細かく具体的な工夫のポイントが、活発で紳士的に語り合われている様子が素晴らしい。

 サブ会場へは途中から参加し、RFAの発表を聞いた。TACEと併用した10年治療成績は世界トップクラスだが、局所再発率こそ低いものの、無再発生存率もまた少なく、半数近くは肝不全で死亡していた。C型肝炎・肝硬変の辛いところである。ただ高齢化して天寿を全うしている患者さんは確実に増えている気がする。GGOに対するRFAにしても、生存率はもちろん高いのだが、局所再発が意外と少なくないようで、そもそもGGOや1センチ未満の腫瘤にどこまで医療を施すべきか、悩ましいところである。MDCTやPETのおかげでIncidentalに見つかる腫瘍はあまりにも多い。PETでは甲状腺癌の発見例が多いことも含め、今後の医療費を考えると頭がくらくらしてくる。誰かが何らかのかたちで、その費用を負担しなければならないのだから。

 中心静脈カテーテル関連では、上腕からのPICCの演題が3つもあった。静脈閉塞などの挿入後の合併症から、特に日本ではさほど普及が進んでいないPICCだが、うまくやっている施設ではますます症例が増えているように思う。もちろん、挿入時の合併症が少ないのは圧倒的な利点である。内頸静脈と鎖骨下静脈の選択についても、施設間で大きな差があって、どちらを支持する報告も存在する。体格の差もあるので、どちらが正しいという結論を導くことはおそらくできないだろうが、手技の詳細はもう少し標準化されてよさそうな気がする。とはいえ、変にガイドラインが作成され、それから少し逸脱したといって訴訟ネタにされても困るが。

最後はまたメイン会場に戻って、いくつか動脈塞栓術の口演を聴いた。部分脾塞栓術の演題が2つあった。すごく古典的な技術なのだが、塞栓のエンドポイントや目指すべき血小板数の目標などは、いまだに曖昧なままのようである。「全身化学療法を施行するため」という適応が加わっているのだけは、時代の変化を感じさせる。合併症を起こしては元も子もない患者を相手に、効果を発揮するためにはある程度の合併症が必然に近い治療を施すのは、さぞや大変だろうと思う。なお基礎的な実験の報告は、日本では薬事承認が絶望的に思えたり、ヒトとの違いから実臨床でどれだけ役に立つかわからないように思えたりするのだが、だからといって会場で感情的に言い合うのはもっと虚しい。言葉遣いが大切なのは、政治家に限ったことではない。

 といったあたりですでに5時を過ぎて疲れ果て、一足早く会場を離れた。帰りのJRが地震感知装置の誤作動で急停止して遅れるという想定外のお土産つきであったが、久しぶりにねっとりと丸一日学会場にいて十分に楽しかった。2年後もこの演題数ならまた大変そうだが、とりあえずは5月末のIVR学会を楽しみに待つとしよう。その前にはサンフランシスコでのSIRも横浜での日医放総会もあるし。