ECR2012欧州放射線学会見聞録
瓜倉厚志(静岡がんセンター画像診断科)

2012.03.26

2012年3月1~5日に、ウイーンにて開催されたECR2012の参加報告を、
瓜倉厚志先生よりお送りいただきました!

 
 

ECR2012欧州放射線学会見聞録

静岡がんセンター画像診断科

瓜倉厚志

図1 オーストリアセンター前の風景
図2 ECRバッグ、ネームカード、抄録集など
図3 ECR welcome lounge 付近
図4 口述発表会場の様子
 2012年3月1日から5日まで、オーストリアのウィーンで開催された欧州放射線学会 (European Congress of Radiology: ECR) に参加した。今シーズンは、日本の冬も寒い日が多かったので、ウィーンの寒さも覚悟して現地入りしたのはECR開催前日(2月29日)の夜であったが、意外にも暖かく拍子抜けした。
  初日の午前中、さっそく地下鉄で会場のオーストリアセンターに向かい、Registration desk で抄録やバッグを受け取った。さすがヨーロッパだけあってバッグやネックストラップのデザインも洒落ている。

 まずはSiemensのSatellite Symposiumで、「Imaging for Breast Cancer Therapy Planning、 Execution and Control 」というテーマのセミナーを聴講した。各モダリティのスペシャリスト4名による講演があり、Digital Breast Tomosynthesis (DBT) に関して、国立がん研究センターの内山菜智子先生のご講演も聴講した。その他、3D Breast Ultrasound に関する講演ではMRとの対比や、computer-aided detection (CAD) への応用が、レジデントによる読影の正診率向上に寄与するというデータなども示されていた。

 今回、筆者はelectric poster session (EPOS) で、CTの逐次近似系画像再構成における空間分解能評価法に関する演題を発表した。近年のCTにおける逐次近似画像再構成法は一大トピックである。ECRにおいても、EPOSで “iterative” に関するものがおよそ70演題あり、関心の高さをうかがうことができた。
 一方、EPOSで “CT”、 “physics”に関する演題数は20程度、そのうちの多くは日本からの発表であった。やはりECRではphysicsに関する演題が少ないと感じた。
 会場で聴講した口述発表でも逐次近似再構成に関する演題は多くみられた。内容としては、臨床における撮影線量の低減と診断能に関するものや、冠動脈CTにおける高周波数領域強調関数の使用とノイズ低減に関する演題であった。大雑把にその評価項目をまとめると、ノイズの評価にはCT値の標準偏差(standard deviation: SD)、低コントラスト検出能の評価にはcontrast-to-noise ratio (CNR)、あるいは signal-to-noise ratio (SNR)、 線量評価には、CTDIvol [mGy]、 eff. Dose [mSv]、等が用いられ、視覚評価による診断能との対比により、逐次近似再構成による大幅な線量低減が可能であるという演題が多かった。逐次近似技術による線量低減と診断能の評価に関するデータの蓄積は、今後のCTにおける撮影線量最適化のエビデンスとなっていくことは言うまでもない。ただし、CTの画質評価を専門とする診療放射線技師の立場から言わせていただくならば、画像SDやCNRによる物理評価が、逐次近似再構成法の画質変化を捉えているとは言い難く、これを安易に線量決定の指標にすることは、診断能低下のリスクを伴うと考える。しかしながら、CTの線量低減と画質向上はいずれも重要な課題であり、今後も画質評価法や線量最適化について確立していく必要がある。

  ECRのプログラムには 「Radiographers」というセッションがほぼ毎日組まれていて、各国の放射線技師が口述発表を行っていた。世界の放射線技師の発表を聴講する機会は今までなかったため、興味を持って会場へ向かった。聴講したセッションでは、各モダリティの線量評価に関する演題群の発表が行われていた。抄録集に収載された演題名には “radiological protection”、 “dose optimization”、 “image quality and radiation dose” 等、日本の放射線技術学会の発表でもよくみられる単語が並んでいた。しかし、実際に聴講した発表内容は、予想とは異なっていた。自国や施設の紹介に終始するような発表もみられ、学術発表というには少し“寂しい”内容であった。
  また、ECRのプログラムには、一般演題だけでなく教育セッションも充実している。それぞれのセッションで基礎から最新技術まで学ぶことができるため多くの学生も学会に参加しており、熱心に聴講していた。このようなセッションで各分野のスペシャリストによる講義を聴講し、基礎的な理解を深めたり、最新技術に関する詳細な情報を得たりすることも、国際学会に参加するひとつの利点であるのかもしれない。

※続きは「RadFan2012年5月号」(2012年4月下旬発売)にてご高覧ください。