NVIDIA、NVIDIA AI DAYS 2022を開催~富士フイルムが明かした、未来の画像診断支援AI開発DX~

2022.07.26

 画像診断の世界的リーダーである富士フイルムは、未来の医療に向けたDX戦略に、NVIDIAのプラットフォームをはじめとする最先端の技術を採用しながら取り組んでいる。2018年には、ヘルスケアや高機能材料等の分野で AI 開発を加速するために日本で初めて NVIDIA DGXシステムを導入した。また医療ITシステムで医療課題を解決、今年、心臓を撮影するために特化した富士フイルムヘルスケアのソフトウェア、Cardio StillShotにもNVIDIAのテクノロジを初めて採用し、画像再構成の分野を含めて富士フイルムグループ全体でNVIDIAとコラボレーションを進めている。

 6月に開催されたNVIDIA AI DAYS 2022では、富士フイルム株式会社 メディカルシステム事業部 マネージャー 兼 富士フイルムホールディングス株式会社 ICT戦略部 マネージャーの越島康介氏が「富士フイルムが目指す未来の画像診断支援AI開発DX」と題して講演を行い、同社の戦略や数々の最新の開発情報を紹介した。

医療ITシステムで医療課題を解決

 高齢化や人口増加による医療費の増大、医療サービスの地域間格差、医師や看護師などの人材不足と過酷な労働環境は、世界各国共通で、切迫した医療課題となっている。富士フイルムは医療ITシステムを通じて医療従事者の負担の軽減を目指しており、その代表例が、病院内の画像データを管理・保管するプラットフォームである医用画像情報システム、PACS※1 (Picture Archiving and Communication System) である。PACS運用前は、X線やCTで撮影された画像はそれぞれ別に活用、保管されていたが、PACSを使うことで院内のどこからでも閲覧可能になる。PACSや3D画像解析システムを活用することで、アナログだった運用をデジタル化、医療従事者の負担を軽減できる。

 越島氏は一例として、ある病院の部門システムの中の情報のデータ量の比率を示した。PACSに入っている画像の量は64%と圧倒的に多いことがわかる。この膨大な画像データに様々なAIアプリケーションを組み合わせることで新たな価値を生み出すことが可能である。富士フイルムのPACSである「SYNAPSE」は現在世界シェアNo.1であり、このPACSプラットフォームにAIを載せて広く世界中に普及させていくのが富士フイルムの戦略である。PACSに蓄積されている大量の画像データと高度な画像処理技術を掛け合わせて2018年に発表したAI技術ブランドが「REiLI(レイリ)」である。

NVIDIA DGXを活用した診断支援AIプラットフォーム

 富士フイルムでは、メディカル事業のDX戦略の一つとして 「顧客体験を変える」ことを掲げているが、診断において「顧客体験を変える」とは、診断支援AIにより画像診断のトータルワークフローを圧倒的に効率化していくことである。読影医は検査、可視化、検出、分類を行い、最後にレポートをまとめる。これをAI により半自動化する。そして余裕時間を生み出すことができれば、人間にしかできない業務にあてられるようになる。このようにAIでワークフロー全体を支援することで読影効率を飛躍的に上げることができる。診断支援AIプラットフォームは発売から2年半の2021年で170以上の施設に導入され、PACSのシェア拡大にも貢献した。

 医療AI開発においては、高画質化、臓器セグメンテーション、コンピュータ支援診断、ワークフロー効率化の4つの技術ステップで進化を進めている。初めにデータの質を上げて、解剖学的な構造の把握を支援するために区域分けをし、病変の検出・計測を支援し、レポート作成を支援するという流れである。この一連のステップにおけるAIの学習を支えているのが、世界最先端のAIシステムであるNVIDIA DGXシステムである。学習させたAIは次世代AI読影支援プラットフォームや次世代AIレポートプラットフォームにも搭載・活用されている。

 可視化、様々な病変の検出、計測・分類、所見レポート作成とワークフロー全体にAIを活用し、画像診断の質向上と効率化をサポートすることが富士フイルムの狙いである。

 全身の主要臓器のセグメンテーション技術は、ほぼ完成している。臓器、血管、神経などを自動で抽出し、人体の地図を作ることができる。

 セグメンテーションが難しい臓器である肝臓についても、動脈と静脈を精度良く見分け、区域を機能ごとに領域分割する技術を確立している。ヘビーユーザーの外科医からも「従来は手作業で40分かかっていた作業が4分で済むようになった」と高評価を受けている。

 セグメンテーション後は病変検出を行うAIが実行され、計測が行われ、所見文の候補が生成される。富士フイルムはこれらを一つのプラットフォームに載せて提供している。越島氏は画像から病変部分が特定され、サイズが計測され、所見文候補が生成される様子をデモで示した。

 「どの部位にどのような結節が見られるか」といった文章が一定のルールで自動生成されるので、ユーザーからも受け取り側は「どこに何が書かれているのかわかり易い」「記載漏れがない」「区域の記載があるのが助かる」といった声が挙がった。

 富士フイルムは最終的に、CTで全身をスキャンしたら異常アラートを鳴らし、専門医への割り当て、通知、レポート作成などを自動で行えるようにすることを目指している。

REiLIによる新たな診断支援技術

 肺がん向けには「VirtualThinSlice」という技術が開発されている。疾患部分がぼやけてしまう5mm程度の厚いスライスしかない検査でも正確な肺がん診断を行うために、より詳細なThinスライスを再現する技術である。ディープラーニングを使うことで、5mm厚のスライスから0.625mmの薄いスライスへの補完を行うことができる。この処理により結節の視認性が大幅に向上し、より緻密な3次元解剖構造を再現可能になる。

 また、脳解析ソフトウェアも新たな技術として販売している。画像のなかで強調したい部分をフィルタで色付けして医師に提示する。異変部位を提示することで処置の時間を短縮化できる。

 このように、ITシステムに載せるAIや、富士フイルムの内視鏡やX線機器に搭載するAI等、AIを活用した同社の技術は世界中70カ国で販売されている。

 また、特徴的な画像所見を確信度スコアとして提示するCOVID-19肺炎画像解析プログラムや、異常所見の可能性をヒートマップで示し、見落としを防ぐ胸部単純X線病変検出ソフトウェアなどのAI技術をデジタルX線撮影機器と軽量移動型撮影装置の組み合わせに実装したり、携帯型X線撮影装置に搭載することですることで、COVID-19スクリーニングや結核スクリーニングに活用されている。機器の画面のなかでAIが動いて疾患部位が特定されるので、その場で診断支援が可能になる。

クラウド上のNVIDIA GPUがAIの民主化を支える、「SYNAPSE Creative Space」

 もう一つのメディカル事業のDX戦略として富士フイルムが掲げるのが 「ビジネスモデルを変える」ことである。希少疾患に対するAI技術の開発を進めるためには、社会全体でAI開発のハードルを下げるインフラやエコシステムが必要です。主要疾患には企業も技術力を投入できるが、希少疾患に対しては企業だけではやりきれない部分があるのが現実だからである。そこで富士フイルムではビジネスモデルとしてオープン戦略をとり、AI開発プラットフォームを外部に提供して、開発を医師にアウトソース化している。技術ができれば企業が引き取ってプラットフォームに搭載し、社会実装を行うという考え方である。

 それが2022年4月から試験サービスを行なっているクラウド型AI技術開発支援サービス「SYNAPSE Creative Space」である。プロジェクト管理、アノテーションツール、学習プラットフォーム、AI実行の環境を全てそろえ、プログラミングの知識がなくてもAI開発ができるというものであり、「AIの民主化」を目指している。

 ダッシュボード、アノテーションワークリスト、学習状況管理ビュー、学習エンジン、実行ビューワなどから構成され、オールインワンでAI開発がサポートされている。複数人数でのプロジェクトや、リモートでの協働研究にも対応可能である。アノテーションも医師が使い慣れている読影ビューワベースのため使いやすく、学習済みモデルを新規画像に対する候補アノテーションのガイダンスとして使用することで効率化できる。またさまざまな階層の情報を構造化したアノテーションとして付与し、画像と一緒に学習させることができまるこの学習エンジンには、Azureのクラウド上のNVIDIA GPUを活用することで、あらゆるAIのトレーニングを加速し、開発から運用までの時間を短縮している。

 「SYNAPSE Creative Space」は、最初は国立がん研究センターと共同開発して発表した。今後は骨転移の自動検出や原発性脳腫瘍のセグメンテーションなどを社会実装の実例として進める予定だ。将来的には医療AIの研究開発の民主化を推進するために、放射線画像以外、すなわち内視鏡画像やDICOM以外の画像への対応、複数タスクの組み合わせによるモデル構築も進めていくとのことだ。医療従事者の教育課程での学習教材としての活用も視野に入れている。

 越島氏は実際に原発性肺がんのCADを作るというAI開発の流れを、プロジェクト作成から学習データの追加など一連のフローをデモしながら解説した。学習のためにGPUを使うスケジュールなども設定できるため、複数の人のプロジェクト管理も容易である。前述のように、最初は少量データで学習させ、それを元にアノテーションを進めていくこともできるため、効率的な開発が可能である。

治療支援、画像診断、診療支援の3つのAI開発に注力

 最後に越島氏は「富士フイルムは医療画像診断AI技術、世界シェアNo.1のPACS、先進医療機器サービスのラインナップの3つを掛け合わせることで医療アクセスの向上を実現し、社会課題の解決に貢献したいと考えている」と述べた。2030年度までには全ての国と地域に同社の医療AI技術活用サービス、製品を導入し、医療アクセスの向上を実現することが目標である。

 また、AI開発においては、「今後も治療支援、画像診断、診療支援の3つを進める。あらゆる疾患に対して最適な治療を提供し、早期診断による治療のコスト・負荷を抑制し、ワークフローを自動化することでミスのない高品質な医療の実現を目指す」と締めくくった。

※画像提供:富士フイルム

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富士フイルムメディカル株式会社

https://www.fujifilm.com/fms/ja