働き方ノート Vol.14 ふくろう先生

2023.02.14

医療以外の定期収入を確立したいと思い、本業と株式・不動産投資を両立しています。

■仕事編

・放射線科医になった動機、やりがい

 大学のカリキュラムで、臨床医とともに研究をするというものがありました。どの科に入るにしても画像診断は役立つと考えて放射線科を選んだことが、放射線科医になったきっかけです。指導医のもと、大学生のうちに学会発表と英語論文作成を行いました。学生のうちから画像診断を見学する中で、所見の拾い上げから診断までが理論的に行われていることを面白く感じ、知識が武器になることに魅力を感じました。座学での勉強が得意だったので、勉強したことが即臨床で役立つ科に進みたいという思いもありました。私はIVRをしない読影専門ですが、正確な診断は治療に直結しますし、他科からのコンサルトで頼られることもあり、やりがいを感じられます。特に専門のPET/CTでは、日常臨床の中でも専門性を生かした仕事ができています。

・株や不動産投資を始めたきっかけ

 株と不動産投資は、いずれも祖父の影響で始めました。祖父は建築士で戸建住宅の建売も行っていたのですが、引退後は駐車場の経営をしており、不動産収入と株の配当、年金で生活をしていました。私は小学生の頃から駐車場の清掃を手伝ったり、証券会社に連れて行ってもらったりと、振り返ると普通の子供とは違う教育を受けていました。

 私が株を始めたのは中学2年生の頃で、元金は祖父と父の援助を受けました。本をたくさん買って勉強したのですが、当時は今と異なりテクニカル分析全盛の時代で、投資する会社の業績や将来性よりも値動きやチャートばかりを見て売買していました。当然勝てる訳もなく、勝負したマイカルが倒産して資金の大半を失いました。大学生になり株を再開してからは勝ったり負けたりでしたが、リーマンショックで再び資金の大半を失い退場。

 私に株は無理だと一度諦め、その後に始めたのが不動産投資です。私は昔から漠然と医療で稼ぐことに抵抗感があり、医療以外の定期収入を確立したいと思っていました。不動産経営であれば、本業があっても両立できると思い、「金持ち父さん貧乏父さん(筑摩書房)」や浦田 健さんの不動産経営本を手掛かりに、不動産の本を読み漁りました。本を読み進めるうちに、経営努力によって多くの大家よりも優位に立てると確信し、600~700万円台の都内の区分マンション(1部屋保有)から、少しずつ物件を買い始めました。リーマンショックの後に東日本大震災が起き、不動産価格は今よりかなり安く、また銀行の融資が積極的かつ低金利の時代で、不動産経営を始める環境が揃っていました。この時に始めることができたのは幸運だったと思います。

・株などの投資で生計を立てられますか?

 株式投資ではほぼ不可能ですが、不動産では可能だと考えます。

 株式投資で勝ち続けられる人はごく一握りです。株式投資で常勝する人はいますが、多くは株を数秒~数日のみ保有する短期取引をしている方で、専業の仕事に近いイメージです。また、普通の人は短期取引で収支をプラスにすることは極めて難しく、私にもできません。他の仕事がある兼業投資家は、一般的に株を数か月~数年単位で保有する中長期投資を行いますが、どうしても米国市場・日本市場全体の動きや景気サイクルの影響を受けてしまいますし、投資した会社が思ったような業績を上げてくれない場合に株価が急落することもよくあります。株だけで生活するのはかなり難しいです。保有する現金が多い場合は、高配当株を買って年利5%程度の配当を受け取りながら生活することは不可能ではないと思います。しかし、資産が減り続ける局面は必ずあり、他の収入がないと精神的になかなか耐えられません。

 一方、不動産収入のみで生活することは可能だと考えています。例えば、600万円の区分マンション(1部屋保有)や戸建を表面利回り(年間家賃収入÷物件価格)10%で購入すると、年に60万円の家賃収入があります。1億円の1棟マンションを表面利回り10%で融資を受けて購入し、満室経営をすれば、年に1,000万円の収入です。ローンを組めれば、自己資金が少なくても1棟物件を購入することも可能です。実際には空室による機会損失、賃貸管理費、修繕費、金利支払い、各種税金など様々な出費があり、手元に残るお金(キャッシュフロー)は収入の一部のみですが、家賃収入から借金返済(元金返済)が進んでいきます。最初は不動産事業の規模拡大を優先してもよいですが、ある程度の規模で拡大を止めたり、売却で利益を確定したりすれば、不動産のみで生活するような仕組みを作ることも不可能ではありません。

・若い人は投資するべきでしょうか

 投資することに特に抵抗がないのなら、できるだけ早くから投資についての勉強を開始し、行動するべきです。株式投資・不動産投資ともに早い時期から始めるほど複利を生かすことができます。100万円を年利5%で運用すると10年後には約163万円になりますが、30年後には432万円にすることができます。これが複利の力です。

 本業があり株式投資に時間を作れない人にオススメなのはインデックス投資です。インデックス投資とは、全世界株や米国株などの市場全体に分散投資を行い、市場平均のリターンを得る投資手法で、過去には年利5%程度のリターンが得られています(今後も同様のリターンが継続する保証はありません)。インデックス投資については、「ウォール街のランダムウォーカー(日本経済新聞出版)」や「お金は寝かせて増やしなさい(フォレスト出版)」に詳しい説明があります。多くのアクティブ型投資信託や個人投資家はインデックス投資のパフォーマンスに負けてしまうので、普通の人にとっての株式投資の最適解はインデックス投資です。毎月一定額を投資信託の積立を行えば市場平均のリターンを得ることができますが、一時的にはリーマンショックやコロナショックなどの暴落に見舞われることもあります。暴落時に狼狽して投げ売りせず、積立を継続するのがポイントです。

 不動産も、若いうちに勉強をして物件を探し始め、小規模でも早くから初めて経験を積めばより多くのチャンスを拾うことができます。ただし、現在は不動産価格が非常に高くバブルの状態で、普通の物件を買っても思ったように利益が出せません。現在の相場では数少ない好条件の売り物件を取り合う状況です。私は都内23区や埼玉県南部を中心に表面利回り(年間家賃÷物件価格)10%以上の物件や、5~10年保有しても値段が下がらないような物件にこだわり、その中でも厳選していますが、2018年を最後に最近は全く買えていません。今後も不動産価格の高騰が続いてしまうかもしれませんが、今後下落して収益がよい物件が多く出る時期に備えて、準備をしておくことに損はありません。

図1 会社四季報
日本株投資では、会社四季報を毎号買って読んでいます。2020年春号から全ページ(全銘柄)の通読を継続しており、通読を始めてから明らかに投資成績が上がりました。

・不安や葛藤は?

 コロナ禍の初期である2020年の4月に、二つの職場で非常勤医師の全員出勤停止となりました。片方は業務委託のため収入がなくなり、もう片方は時給制の給与でしたが結局休業補償は支払われませんでした。この時までは医師、特に専門性が高い放射線科医であれば仕事に困ることはないと思っていたのですが、コロナはそれを考え直すきっかけになりました。

 今後はAIが読影レポートを書くようになるという話もよく聞きますが、それが実現すると非常勤医までは要らなくなってしまうので、今の生活スタイルをいつまでも続けることはできないかもしれないという不安はあります。

図2 読影室の本
本は電子書籍よりも紙派。各職場に自分の本を置いていて、同じ本を何冊も持っています。

■ プライベート編

・ある一週間のスケジュール

月:PET/CT読影(検査施設)
火:CT・MRI読影(病院)
水:休
木:CT読影(病院)
金:CT・MRI読影(病院)
土:休
日:休

 水・土・日は不動産の仕事(平均して週1~2時間程度)、個別株の研究、勉強、子供の中学受験勉強、読書、趣味などの時間にしています。読影ヘルプがある場合は週5~6日勤務になる場合もあります。

・仕事とプライベート(趣味など)との両立

 現在、放射線科医として週4回の非常勤勤務を行っています。不動産の管理は基本的には管理会社に委託しているので、不動産に割く時間は平均して週に1~2時間程度のみです。空いている時間は家族との時間や勉強、個別株の研究、映画鑑賞などの趣味に充てています。個別株の研究やTwitterでの情報交換も趣味になってしまっています。

・これから放射線科医をめざす方に向けて一言

 放射線科医は院内でも一目置かれる存在で、日常業務の中でもやりがいを感じられる仕事です。継続的に勉強して所見の質を上げ、また、一例一例を大切にして丁寧に読影することを心掛けてください。初学者のうちは所見記載に時間を掛けられるので、勉強のチャンスです。

■ ふくろう先生に聞きたい!

・学生のうちに、やっておくといいこと

 学生のうちの勉強は一生の宝で、医学を徹底的に勉強することをおすすめします。医者になってからやればいいという人もいますが、特に他科のことを勉強するまでは時間が取れず、学生のときが唯一の勉強機会になる分野もあります。画像診断は勉強したことが即臨床に役立つ分野で、勉強の習慣がある人、勉強を楽しめる人は向いています。私は学生のときに不動産の勉強もしましたが、医学の勉強時間を犠牲にすることなく、余った時間のみで行いました。

・株、不動産投資で気をつけている(心がけている)こと

 最大のリスクを見積もり、安全圏を保つということです。株式投資は信用取引を併用して元金以上の金額を買うことも多いですが、証券口座の全ての現金を失っても生活に支障が出ないように、真の余裕資金のみで運用しています。不動産投資では、規模拡大と安全性のバランスを取るように心掛けています。規模拡大を優先し過ぎると借入金が増え、金利上昇や入居率悪化などの要因により借金返済ができなくなる可能性があります。家賃収入を増やすために規模拡大したいという気持ちを抑え、家賃収入に対する返済比率を一定以下に抑える、急な修繕に備えて現金を確保しておくなどの安全寄りの経営を行っています。

・株式投資で失敗しないコツ

 買いたい衝動を抑えることがコツだと考えています。私は個別株メインで投資していますが、株価上昇の確度が高くない銘柄を買わない、株価下落が予想される期間は思い切って現金比率を増やすという、「買わない」行動をできるように意識しています。なお、個別株投資は一般的に時間が掛かり、日経平均・S&P500(米国株式の指数)といった市場全体の指数に勝てる投資家は少ないです。私は半分趣味で個別株投資を行っていますが、そうでない方には市場指数の値動きに連動をめざす投資手法である、インデックス投資をオススメします。具体的には、S&P500や、全世界株式指数に連動するインデックス型投資信託です。インデックス投資、特に積立メインであれば、市場の値動きや個別銘柄のニュースに惑わされずに淡々と資産形成を行うことが(個別株投資よりは)容易です。

・この先、取り組んでいきたいこと

 放射線科医としては、日々の読影を行うだけでなく、いずれは臨床研究に関わりたいと思っています。幸い、専門医取得前の後輩と一緒に読影する環境にあり、教育を行いたいという願いは叶っています。

 投資家としては、近いうちに新築アパート・マンションに取り組む予定です。今までの不動産の経験は区分・1棟マンション、アパート、小規模ビル、1棟倉庫/工場、シェアハウス、住居から店舗・事務所まで一通りあるのですが、全て中古物件を取得しており新築の経験がありません。今は中古物件価格が高止まりして魅力が減っているので、築古物件の建て替えや土地から仕入れた新築マンションを経験してみたいと思っています。

「安全の範囲内で勝負する」
どんなに失敗しても生活に支障が出ない範囲で、取れるリスクを取っています。投資に限らず、働き方にも当てはまります。