MY BOOKMARK No.31 救急外来CT Aquilion Exceed LBと画像処理ワークステーションVitrea

2022.02.22

順天堂大学医学部附属静岡病院

杉山巧也

はじめに

 私が所属している順天堂大学医学部附属静岡病院は、静岡県東部、伊豆半島のつけ根に位置する三次救急医療施設であり、577床の病床を有し、静岡県東部では最大規模の病院である。また、静岡県東部ドクターヘリ運航基地病院に指定され、2004年4月より運航が開始された。導入後、ヘリの運行回数は毎年増加し、2020年度には総出動件数943件であり、救命救急センターと協働し、静岡県東部の救急医療の中心として貢献している。2020年3月から2021年4月までの期間において救急外来患者数は、11,222件(ドクターヘリ:943件、救急車:6,091件、他:4,188件)であった。疾患別では、脳虚血性障害が553件、心・大血管疾患が288件、外傷が483件。また、同期間における救急外来でのCT検査数は9288(単純:7,726件、造影:1,562件)で、救急外来を受診された患者の約83%がCT検査を実施していた。当院は2021年8月に新棟が竣工し、救急外来の移転に伴い救急外来内にCT装置が設置され、キヤノンメディカルシステムズ社製Aquilion Exceed LB(以下、ExceedLB)及び画像処理ワークステーションVitreaを導入した(図1)。今回は、新たに導入されたExceed LB及びVitreaの特長や実際に使用してみての臨床的有用性について紹介する。本稿では、当院における使用初期経験上の報告であり、不十分な記述や説明があった場合はご容赦いただきたい。

Exceed LBの特長

1. 大開口径

 Exceed LBの最大の特長はなんと言っても900mmの大開口径である。1分1秒を争う診断と治療が求められる救命救急の現場において、バックボードや呼吸器などの蘇生器具が装着されたままそれらに干渉せずに撮影できる点はメリットである。また、大開口径によるポジショニングの自由度も大きな特長である。高齢者など上肢の挙上が不十分な患者でも肘がガントリーに接触してしまう心配がなく、撮影可能である。さらに、C-FOVをXLに設定する事で、最大撮影領域700mm、拡張再構成900mmまで可能である。従来、多発外傷における全身撮影時に上肢(特に肘関節)は撮影範囲外にあり、追加撮影が必要な場合が度々存在した。しかし、Exceed LBでは、ほぼ全ての患者に対して一度の撮影により全身の画像情報を有する事が可能である。

2. PUREViSION Optics

 従来、大開口径CTは通常CTと比較してX線管と検出器の物理的距離が大きい為、同一撮影条件下においては空気による減衰に影響され、検出器に到達するX線フォトンの数が少なくなる。その為、同等の画質を得るためにはより高線量の撮影条件が必要となるが、Exceed LBに搭載されているPUREViSION Optics(図2)は照射する連続X線において画質への寄与が少ない低エネルギー成分を抑制する事で低被ばくと高画質を両立させている。

3. Advanced intelligent Clear-IQ Engine(以下、AiCE)

 ディープラーニングを用いて設計された新しい画像再構成AiCEが搭載され、低線量で収集した画像に対しても短時間で大幅なノイズ低減効果を得ることが期待できる。実臨床においても、体重100kgを超える腹部CT画像を比較すると、従来のfiltered back projection(FBP)やAdaptive Iterative Dose Reduction3D(以下、AIDR-3D)に比べ、AiCEはノイズが低減している事がわかる(図3)。また、前述したPUREViSION Opticsにより線量

に関しても体重超過の患者ではあるが、Volume EC10の設定でDRLs2020の値(上腹部-骨盤部CTDIv:18mGy)と比較しても、CTDIvが14.60mGyと線量過多ではなかった。

4. Single Energy Metal Artifact Reduction:SEMAR(図4)

 インプラントなどの体内に金属が留置されている場合は金属周辺においてダークバンドなどのアーチファクトが問題となるが、金属アーチファクト低減再構成のSEMARを適用する事で、効果的にアーチファクト成分のみを低減させる事ができる。この機能は、撮影時に設定できるだけでなく、撮影後に画像再構成においても設定できる点も使い勝手が良い。

5. SUREPosition

 操作室のコンソールで寝台左右上下動の操作ができるSUREPositionは、スカウト撮影後目視で確認ができる為、ズレがなく確実な撮影範囲を設定できる。特に救急患者などを撮影する際は入室から撮影までを迅速に行う必要があるが、この機能により、寝台中心に寝かせるなどある程度のポジショニングを行い、その後SUREPositionでアイソセンターまで動かす事により、ポジショニング時の微調整が不要となりワークフローが向上する。さらに、アイソセンターに移動する事により被ばくの低減、画質も向上してくる。また、昨今の新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大により、当院でも昼夜を問わずCOVID-19患者のCT撮影を施行する機会が多くなっている。SUREPositionは患者にあまり接触しなくても、ポジショニングが可能である為、COVID-19をはじめとする感染症患者の撮影において感染対策の点からも有用である。また、ガントリーのコンソールでも同様に左右にそれぞれ最大85mmの寝台移動が可能である為、整形外科領域の肩や上肢の撮影を施行する際にも容易に撮影部位をアイソセンターに近づける事が可能である。

Exceed LBの留意すべき点

 前述したところでは、特に欠点がないように思えるが、そうではなく留意すべき点もある。使用経験上、まず気になる事が上肢挙上不可症例における上肢からのアーチファクトである。体格にもよるが、AiCEにより画像全体を均一化する為、上肢からのアーチファクトが特に表現されてしまう。改善策としては再構成をAIDR-3Dに変更する事も一つの改善策である。また、上肢下垂時のポジショニングも重要である。上肢を腹部の上に上げる、もしくは下垂した状態でも体幹部と上肢の間にタオルやクッションなどを置き、スペースを設ける事でアーチファクトは軽減できる(図5)。しかし、救急患者はこれらのポジショニングが困難な場合もある。もう一点留意すべき点を挙げるとすると、Exceed LBは最大の特長でもある大開口径によるガントリー自体の駆体が大きくガントリーのチルト機能が使用できない点も実臨床を行う点で不満がある。頭部撮影時は、施設により基準線が存在すると思うが、当院ではOM line(orbitomealbase line)に撮影断面を設定している為、頭部単純撮影時にはポジショニングによりOM lineに合わせるか、撮影後の画像再構成が必要となる。これまで頭部撮影時、既存のCT装置でチルト機能を使用した撮影を行ってきた為、装置の仕様ではあるが手間に感じるところではある。

4Dデータを活用した画像処理ワークステーションVitrea

 当院は前述したように脳虚血性障害の症例も多く、また脳卒中ホットラインを開設し、24時間、365日脳神経外科医に直接コンサルトできる体制となっている。必然的に、単純CTだけでなく、3D-CTA及びCT-Perfusionの撮影も多くなっている。そこで、今回画像処理ワークステーションVitreaで4Dデータを用いてのCT-perfusion解析についても紹介する。Vitreaでは、CTで撮影した4Dデータが自動転送され、ワンボタンで自動解析し、コアやペナンブラなどの虚血領域を表示し、Cerebral Blood Volume(CBV)、Cerebral Blood Flow(CBF)、Mean Transit Time(MTT)、Time-to-Peak(TTP)といった各マップが全て並行自動作成される。また、CT-perfusionベイズ推定アルゴリズム(Bayesian)は従来のsingulur value decomposition(SVD)法に比べ、解析精度が向上している。また、体動補正も自動設定されている(図6)。Vitrea導入後間もない為、診療科(臨床医)へBayesianでの情報提供は未提案である。その為、実臨床での画像提示には至っていない。しかし、急性期脳梗塞の治療は治療開始までの時間を短縮し、いかに的確に治療適応を判断するかが重要である。Vitreaでの解析により、CTで短時間での灌流状態とその裏付けとなる精度の高い新たな臨床情報を提供する事でr-tPAや血管内治療の適応判断が短時間で行える事を期待している。

おわりに

 今回、私個人のお気に入りの製品として2つ紹介したが、本稿の執筆をしている現在、Exceed LB及びVitreaは導入からまだ1ヶ月しか経過していない為、所属している診療放射線技師のほとんどがまだ使い慣れていないのが現状である。しかし、救急外来に設置されている為、日勤の検査だけでなく夜間や休日の検査にも対応する装置である。研修及び個人の自己研鑽が必要であるが、使い手側がAiCEやAIDRなどの使い分けや画像再構成、装置の特徴を十分に理解し、使いこなしていけば救急用としても力を発揮できる装置である。今後も改善点や問題点などが出てくると予想されるが、メーカーのバックアップの下、装置のポテンシャルを最大限に引き出せるよう業務に取り組んでいく所存である。

謝辞

 本稿の執筆にあたり、当院の平入技師、中村技師にご指導とご助言を賜り、心から感謝申し上げます。