MY BOOKMARK No.5 放射線治療分野で活かすCTのアプリケーション~Brain Time StackとTime-MIP~ 

2021.11.27

さいたま赤十字病院 放射線科部 

渡部伸樹 先生、池野裕太 先生、寺澤和晶 先生

はじめに

 さいたま赤十字病院では、放射線治療計画CTで、AquilionONE(キヤノンメディカル社製)を用いている。特に、呼吸による腫瘍の動きに合わせて放射線治療が可能であるCyber Knife(Accuray社製)にとって、16cmの幅でリアルタイムに呼吸性移動を確認できるAquilion ONEは非常に有用である。呼吸性移動を確認することで、腫瘍のInternal Margin(IM)をより正確に把握することが可能である。さらに、当院ではCyber Knifeの治療計画画像として、Primary画像の他に、自然呼吸下での、吸気相、呼気相を用いている。放射線治療を行うために、これらの画像を重ね合わせPlanを作成する事に関して、面検出器とそのアプリケーションは圧倒的である。そこで、Planを作成する上で、重要な画像を提供できるお気に入り製品(主にアプリケーション)を実際の使用例も含めて紹介する。

Aquilion ONEの有用なアプリケーション

 Brain Time Stackは、本来頭部用の処理である。さらに、Dynamic Volume scanされた複数時相(最大25Volume)のVolumeデータを加算処理行う機能であり、低線量時に大幅なノイズ低減が期待できる。また、Time-MIP(T-MIP)は、最もCT値の高いものを集め1つのVolume画像を作成することができる。

Brain Time Stackを用いた撮像

 本来の目的は頭部用の処理であるが、当施設では、主に肝臓の処理の時に用いている。撮像条件を表1に示す。通常、肝臓がターゲットの場合、自然呼気での息止めにてPrimaryの画像を撮像する。その後、Dynamic Volume scanを動脈後期相、門脈相、平衝相の3Phaseを撮像する。また、Dynamic Volume scan時、間欠で撮像するのではなく、連続scanしている。撮像時間は、10秒間としている。これは、人間の正常な呼吸数は約12回~18回/分であり、10秒程度収集できれば、2周期分のデータを得ることができると考えたためである。また、表1よりPrimaryの撮像では、管電圧120kVを用いているのに対し、Dynamic Volume scanでは100kVで撮像している。本来、放射線治療計画CTでは、管電圧を変化させるとCT値-相対電子密度テーブルが変化してしまうので、管電圧固定で撮像するのが一般的である。しかし、Fusionで用いる画像(吸気相、呼気相)は、あくまでも参考画像であるので、管電圧を変化させても問題な
い。当院では、造影効果を向上させる目的で、Dynamic Volume scanでは管電圧を100kVにしている。さらに、管電流に関して、CT-AECを用いて設定SDが5mmでSD11と設定しているが、被ばくを考慮し、CT-AEC値の半分となるようマニュアルで設定して撮像している。同時に、再構成の時相に関しては、再構成時間とVolume数の関係から当院では0.55秒間隔で再構成している。

表1 肝臓Dynamic撮影条件

再構成方法の工夫

 表1のような条件で撮像した画像は、Viwe数の低下、線量不足、自然呼吸下でのモーションアーチファクトの影響など、様々な要素により、画像ノイズが多く腫瘍が描出しにくくなってしまう。そこで、得られた複数時相のVolumeから、吸気相、呼気相それぞれ抽出する(図1)。しかし、0.55秒間隔で再構成すると、吸気相、呼気相共に、3Volume程度しかBrain Time Stackの処理をすることができない。以前、私が実験したデータでは、6Volume以上Brain Time Stackで処理をすることができれば、CT−AEC設定時の管電流で収集した画像と同等のSDを得ることが可能であるという結果であった。そのため、複数時相から呼気相を1Volume決定し、その前後時相のVolumeを細かい再構成間隔時間(0.1秒間隔時間)で再構成し直し、呼気相だけのVolumeを増やし、Brain Time Stackの処理を行っている。同様に吸気相も同じように処理を行っている(図2、図3)。
 この処理を行うことで、図4のように画像のSDをはっきり感じとれるほど改善することが可能である。

図1 吸気相と呼気相の抽出
図2 Stack前の再構成方法
図3 Stack処理
図4 Stack画像の比較
a No Stack
b Stack

Brain Time Stackの臨床的有用性

 Brain Time Stackを用いることで、腫瘍の描出が格段に向上するので、可能な限りノイズを抑制した画像を提供することが可能である。つまり、被ばく低減に有効ともいえる。
 Primaryの画像と、吸気相、呼気相を組み合わせPlan作成することで、Primaryのみの画像と比較して、線量分布が劇的に改善される(図5)。

図5 線量分布図
a 呼吸性移動考慮なし
b 呼吸性移動考慮あり

Time-MIPを用いた処理

 Time-MIP(T-MIP)は、Dynamic Volume scanされた複数時相のVolumeから各ピクセルそれぞれに最もCT値の高いものを集め1つのVolumeを作成するアプリケーションである。時間軸上でCT値が最大となるピクセルのみ抽出して表示するため、低線量時や低コントラスト時における脳血管、末梢血管の描出に優れている。シェーマを図6に示す。

図6 Time-MIPのシェーマ

T-MIPを目的にした撮像

 T-MIPは、特に使用部位に制限はないが、当施設では肺の画像収集時に用いている。特に、肺野の孤立性腫瘍に対して有用である。撮像条件を表2に示す。また、肝臓同様、間欠でscanするのではなく、連続scanしており、撮像時間は10秒間としている。再構成間隔時間は、0.275秒間隔で行っており、Volume数としては、20Volume程再構成するようにしている。

表2 胸部撮影条件

T-MIPによる工夫

 肺野の場合も、肝臓同様、自然呼気での息止めにてPrimaryの画像を撮像する。その後、Dynamic Volume scanを行い、腫瘍の呼吸性移動を確認する。肝臓では、吸気相、呼気相を抽出していたが、T-MIP処理を行うことで、移動の軌跡を1つのVolumeとして提供することが可能である。吸気相と呼気相をワークステーションでFusionした画像と、T-MIP処理をした画像を図7に示す。

図7 Fusion画像とT-MIPの比較
a Fusion画像
b T-MIP

T-MIPの臨床的有用性

 肺野の孤立性の腫瘍は、吸気相、呼気相だけでは、呼吸性移動範囲がどの程度なのか判別困難なことが挙げられる。しかし、T-MIPを用いて呼吸性移動の軌跡を提示することで、IMをより正確に囲うことが可能である。

まとめ

 今回、Aquilion ONEに搭載されているアプリケーションのBrain Time StackとT-MIPを放射線治療分野で活かす工夫を紹介させていただいた。既存のアプリケーションを発想の転換で応用することにより、高精度な放射線治療に有用な画像を提供することが可能となった。やはり、放射線治療計画CTであっても、機能を駆使した上で、可能な限り被ばくを抑えながら、Plan作成に耐えうる画像情報を提供することが重要であると考える。ことさら、放射線治療領域においては、より高精度なPlanに対応するためにハイスペックなCT装置の選択が必要になってくるともいえる。