SIR 2012報告~エビデンスがテーマ、でも都合の悪いエビデンスは無視?~
林 信成(IVRコンサルタンツ)

2012.04.05
会場入り口
会場ロビー
メイン会場
学術口演会場
インターネットコーナー
ポスター会場
新製品展示コーナー
朝食講演会にて
夕方に一杯
SIR 2012報告
~エビデンスがテーマ、でも都合の悪いエビデンスは無視?~

林 信成(IVRコンサルタンツ)

 2012年3月24日から29日まで、カリフォルニア州サンフランシスコにて開催されたSIR 2012に参加した。今回はサンフランシスコという、交通の便が良くて観光資源にも豊富な大都市での開催とあってか、参加者は久しぶりに多かったように思う。日本からの参加者も、年度末にもかかわらず、SIRにしてはかなり多く、20人は超えていたように思う。この時期のサンフランシスコが寒いのはある程度予想していたが、何日かかなり強い雨が降って天候は必ずしも良くなかった。ただ天候とは関係なく、会場は多くのセッションで、どこもかなり混雑していた。最近のSIRは参加者の減少にあわせてか、会場が小さくなってきている。今回は特に、メインの会場でさえ収容能力が1500人あまりとなっていた。これは今回は、明らかに小さすぎだった。人気のあるセッションではいつも、後方に多くの立ち見が出ていた。
 今回の統一テーマは、「IR・エビデンス」である。エビデンスの重要さは言うまでもないが、それが保険診療に直結して死活問題となっていること、緊急症例などエビデンスの確立が難しい領域が少なくないこと、臨床の実感と大きく異なるエビデンスが出たために混乱の生じている分野があることなど、彼らもまた苦労し、精一杯戦っていることはよくわかる。しかしながら、都合の良いエビデンスは大声で宣伝するが、都合の悪いエビデンスが出たとしても、ビジネスの縮小に差し障ることには難癖をつけて断固として拒否するという、医師会ギルドらしさが目に余る姿勢は、科学者としてどうかと思う。いつものように参加することができたセッションを中心に、聞き取れた範囲で報告する。

エビデンス
 今回の統一テーマであり、ほとんどのセッションに関連していたので、まず最初にこの問題についてまとめたい。Hot Topic Debateのセッションでは、EBMそのものが命題の1つにされた。現在の医学においてはレベルIエビデンスが医療の基本とされ、誰も大筋としては逆らえない状態である。しかしながらこれは、総論賛成・各論反対の典型例でもある。そしてそのエビデンスが自分たちの行っている実診療を侵すものであれば、「徹底してあら探しをして攻撃し、受け入れを拒否して自己正当化に走る」という姿勢があまりにも目立っていたように思う。例えばセメント注入による経皮的椎体形成術は、2つのランダム化比較試験でその有効性が否定されたにも関わらず、SIRはこれを完全に否定する立場である。腎動脈ステンティングも、過去に行われた全てのランダム化比較試験で敗北してるが、これに対しても憤懣やるかたないという印象で、ASTRAL試験がいかに多くの問題を抱えていたかばかりが繰り返し講演されている。これでCORAL試験(現在進行中の最終決戦)で負けたらどうするつもりなんだろうと思うほどである。そのCORAL試験は、947人が登録されて本年中に終了するので、結果は来年明らかになる。
 TACEは過去に6戦負けているが、2戦だけは勝った。負け戦に対しては、その試験の問題点を詳細に批判してきたのだが、同じような問題点を有している勝ち戦に関しては、ひたすら最終結果を吹聴するのみである。ランダム化比較試験というのは、薬剤であれ手技であれ、「勝つためのものであって医学的真実を解明するためのものではない」ということがよくわかる。また、負け惜しみを言うときやランダム化比較試験を実施しない言い訳としていつも引き合いに出されるのは、有名な「パラシュートを装着することの有効性に関するランダム化比較試験(BMJ)」である。これは実際、論理をすり替えた屁理屈であり、詭弁としか思えないのだが、侵襲的治療を施すことを仕事にしている職人たちの本音かもしれない。IVRに限らず、肝移植をはじめとする多くの外科手術やIMRTも、レベルIのエビデンスには乏しいのだから。
 さて厄介なのは、エビデンスの有無が保険償還に直結することである。これはすなわち、食べていくこと(贅沢すること)に大きく影響する。医療費の高騰は世界中どこでも大きな社会問題であり、特に米国のそれは、金額も伸び率もダントツ世界一であるため、支払い側がエビデンスを盾にとって何とか無駄な医療費を減らそうとするのは当然である。しかしながら、「EBMが医療コストを下げる」というエビデンスもまた存在しない。ソラフェニブは進行度Intermediateの肝細胞癌を対象に、ランダム化比較試験でレベルIエビデンスが得られ、そのおかげで爆発的に売れた。しかし、あくまでもIntermediateより進行した群でしか証明はない。またその有意とされた生存期間の延長を知って、「その程度か」と思った人は多かろう。しかし、Debateによれば最近はもっと酷いようである。「ソラフェニブに比べて有意に優れている」と結論づけられ、FDAにも承認された薬剤の、有意と結論づけらた無再発生存期間の延長幅は、わずか6日だった。それでいてソラフェニブの2倍ものコストだという。別の薬剤は、生存期間で有意差が認められなかったものの無再発生存期間が4日延びたため、これをもってレベルIエビデンスを有するとして、FDAから承認されたらしい。こういうことにレベルIエビデンスが利用されているのである。「米国の製薬会社やFDAは何かおかしい」と感じるのが普通だろう。
 腫瘍に関連したランダム化比較試験の数は著しく多くて、もう何が何やら良くわからない。ソラフェニブとTACEにしても、それぞれのON/OFFで2通り作れるし、ソラフェニブを両群ともONにしてビーズによるTACEと従来型TACEを比較した試験もある。また外科手術、RFA、TACE、移植などそれぞれの後にソラフェニブをON/OFFしての試験もある。さらにはエンドポイントを、生存期間、進行までの期間、無進行生存期間、それぞれに設定した似たような試験もたくさんある。ソラフェニブではなくアバスチンやその他の新薬を組み合わせての試験も続々とある。これではもうManage不能である。
 さらにIVRの世界で厄介なのは、Y-90を用いた放射線塞栓術関連のランダム化比較試験だけでも、膨大な数に上ることである。TACEとの比較や薬剤の選択、異なる腫瘍それぞれで試験が走っている。さらに驚くべきことに、「初回治療は自由。それらで難治である例を対象に、肝臓全体にY-90を注入する群としない群で比較」という試験が始まることである。これだけ試験が多ければ、かなり対象を絞り込めてしまう。ひょっとしたら効くかもしれない例が優先的にこの試験に組み入れられ、万が一にも無進行生存期間の延長で有意差が出れば、レベルIエビデンスになってしまうのである。これはもう科学かどうかを疑ってしまうし、そもそも医療財政は完全に破綻するだろう。どの試験に組み入れるかをランダム化する必要がある。
 私自身もJIVROSGにずっと参加してきて、日本におけるエビデンス作りの経過をずっと見てきたが、日本のように「IVRの医学的価値を高めたい」という純粋な意図で行われている臨床試験は、世界でも稀な例と思われる。欧米での臨床試験の大半は、薬剤やデバイスや手技を正当化するために行われているのが実情である。それは資金面からある程度は仕方ないのだが、その過程や背景も科学的に評価してもらいたいと思うし、結果が出てから文句を言うのはずるい。

慢性脳脊髄静脈機能不全(CCSVI)
 「慢性脳脊髄静脈機能不全の治療が多発性硬化症患者の症状を軽快させる」という話題は、一昨年から何度も報告してきた。しかしおそらく、SIR会員でも半分以上、CIRSE会員の大半は、これを信じていないと思われる。昨年のSIRでも批判的な質問が相次いだし、CIRSEではまさに袋だたきであった。Dr.DakeはCIRSE前会長に、「希望を失った患者に嘘を売るな」とまで言われたのである。しかしながら、そんなことで引き下がらないのが彼らのしたたかさである。何と今年のSIRのセッションでは、「積極的に施行している施設のIVR医」だけで講演者全員を固め、反対する医師たちには講演させなかったのである。もちろん演者たちはいずれも、反対論があることやこれらの意見にはかなり配慮をしていたが、やはり講演を聴いているとマインドコントロールに陥り、「患者さんのためには積極的に施行すべき医療なのかも」という誘惑に駆られてしまうだろう。参加者500人程度のさほど大きくはない会場であったが、ほぼ満員で、昨年のように会場全体がブーイングの雰囲気で包まれることは無かった。
 内容的に大きく変わったことはないが、ポイントを幾つか上げておく。まず慢性脳脊髄静脈機能不全は、多発性硬化症の原因ではない。これはほぼ、否定されている。そうではなくて、その病態を治療することが、多発性硬化症の一部の症状、特に自律神経失調症的な症状(全身倦怠、不眠、体温調整異常、膀胱機能障害、胃腸機能障害)の緩和につながる、という考えである。この慢性脳脊髄静脈機能不全という病態の成因については、先天性かどうかも含めて、謎のままである。また1人の演者は、「慢性脳脊髄静脈機能不全という呼び方はおかしい。慢性頸静脈高血圧と言うべきである」と述べていた。弁の異常や狭窄によって圧が高まっていることが、疾患のキーなのだという考えである。
 邪推かもしれないが、「自律神経失調症状の改善」というところに、「このIVR手技の適応を多発性硬化症以外の疾患へも広げよう」という意図が感じられる。しかしおそらく、その大きなきっかけは、「多くの神経内科医たちが、多発性硬化症の診断や治療を決して手放そうとしない」からではないかと推測される。日本とは比べものにならないほど、欧米では多発性硬化症の患者が多い。しかしながらMRIなどで客観的証拠が確立している症例は必ずしも多くない。前述のように、日本なら自律神経失調症とされるような症例が、「専門の神経内科医」によって独占的に問診や身体所見で診断確定され、長期に治療されているのである。新型うつ病や慢性疲労症候群などと同様、器質的客観的証拠に乏しく、機能的主観的に担当医に診断されているようにも見える。もちろんこれらの疾患では、治療が確立しているとは言い難い。多発性硬化症では、治療薬のランダム化比較試験を行うと、プラセボ群でも奏効率が60%に上るそうである。
 すでに世界中で1万例を超える症例が治療されたと思われるが、驚くべきは、それらがほぼすべて「口コミ」からということである。ブレイクのきっかけはカナダのテレビ番組での報道だが、その後Facebookで数百万ヒットを記録し、今なお投稿が増え続けている。米国の病院も心得たもので、積極的な広報活動は控え、確立されていないプラセボ効果かもしれない治療であることや致死的合併症が生じた報告もあることなどを十分に説明した上で、全額患者負担で治療している。患者の便宜のために、トラベルエイドも入っている(空港から送迎したり、病院近くのホテルを専門コンシェルジェつき1泊600ドルくらいで手配したり)。美容外科と同様、保険診療でない世界は、経営的に美味しかろう。ただ日本くらい公的保険診療が安価で充実している国は世界に例がない(日本も財政的に破綻寸前ではあるが)ことは考慮しておく必要があろう。またどの施設でも数%から10%くらいにステント留置を行っている。そしてクモ膜下出血や脳出血と言った重篤な合併症が、熟練した施設でも生じているのである。

末梢動脈
 米国におけるこの分野での放射線科医のシェアの低下は、目を覆うばかりである。それでも日本より多少はましだろうが。少し前まで、血管外科医は放射線科医に比較的優しく、両者が共同でVascular Centerという形で専門施設を作るのが流行っていたのだが、血管外科医の仕事がどんどん経カテーテル治療にシフトし、大動脈ステントグラフトがますます普及してますます血管外科医のシェアが上がり、結局は血管外科医のカテーテル手技が向上し、放射線科医の出番が減る、という図式に思える。放射線科医の方も、最も大きな使命・存在意義のひとつである「Self-referralを防ぐ」ということばかりを主張していては飯の食い上げなので、この10年以上SIRは、「自ら外来を開いて患者を診る」方向へと会員たちを鼓舞している。しかし現状を見ると、必ずしもそれは一般会員に十分には浸透していない。そういう仕事をしたくない人もいれば、画像診断と二股で行きたい人も多いからだろう。日米ともに難しい問題である。「血管外科医と仲良く血管治療センターを運営していたが、病院チェーンが進出してきて外科医が大量に引き抜かれてしまった。今や最大の敵は病院である」という講演もあった。徹底した競争社会である米国医療の一面が垣間見える。ビジネス的なセッションでは、そのようなターフバトルで困っている講演が、今回は少し目立っていたように思う。SIRには多数の医学生が参加しているので、司会をしていたDr.Katzenが思わず、「未来は明るいから心配しないで良いよ」と、根拠のない言い訳をしていたのが印象に残る。
 間歇性跛行の患者を対象に、監督下運動療法と動脈ステンティングを比較したCLEVER試験の6ヶ月成績が、昨年確定した。一次エンドポイントである最大運動持続時間に関しては、完敗であった。しかしながら、試験が終わって結果が出たらすぐに、「運動療法を受けている患者は筋力がアップして運動に慣れているのだから、この結果は当然だ」と負け惜しみを言い、「QOL評価ではステント治療の方が有意に優れていた」ことを強調し(QOL評価は二次エンドポイント)、結論として「多少の痛みを我慢しても長時間歩きたい人には運動療法を、今まで通りの生活をエンジョイしたい人にはステント治療を」と結論づけるのは、我田引水がすぎないだろうか?
 その一方で、多くの臨床試験が次々と終了した浅大腿動脈領域は、元気である(従来型バルーンPTAとの比較試験が主体だから?)。Zilver PTXはじめ柔軟性を増したステントたちの、その後の成績も悪くないようである。カバードステントは長期成績が悪くて両端を改良したタイプが出たのだが、やはりエッジ部分での狭窄は避けられないようである。急性閉塞例も目立つようだし、高額なので適応は限られよう。結局は、「比較的若年者の長い完全閉塞例では、やはり外科手術が優先される」のがコンセンサスのままであった。なお薬剤コーティングバルーンは、欧州での盛り上がりが別世界のように、ほとんど話題にならなかった。承認の問題や、当初の期待を裏切って高額なこと、欧州でそろそろ長期的にはイマイチな成績が出つつあること、などが理由のようである。
 膝窩部以下ではYUKON-BTK、ACHILLES、DESTINYなどの試験が行われており、いずれも1年後成績は良好だが、どれだけ一般診療として普及していくのかよくわからない。重症下肢虚血ではエビデンス的に、「2年以上の生存が見込まれる患者にはバイパス手術、それまでに亡くなりそうな患者や併存疾患の重篤な患者には血管内治療」というコンセンサスが得られつつあるのだが、それでも患者の非侵襲治療を望むトレンドは強く、血管外科医がどんどん自ら血管内治療医へと転向してしまっている。これは日本でも同じだろう。そのために血管吻合術という技術の伝承、トレーニングの機会が無くなっているというのも、内視鏡手術の普及と全く同じ図式である。
 なお、Cryoplastyやカッティングバルーン、アテレクトミーやレーザーなどは、消えたままである。一応ごく部分的に「適応のある症例が残る」的発言はあるが、もはや市場として成立しないだろう。

Renal Denervation
 大きな新技術に乏しい中で、最近一番大きな期待を担っているのは、この高血圧の治療法であろう。Simplicity試験は米国でのランダム化比較試験がHTN-3として進行中だが、すでにLancetに報告されたHTN-2における24ヶ月後の成績も良好なようである。すでに15社以上がこの分野に進出しており、RFだけでなく凍結凝固や超音波を用いる試みや、針を刺して周囲にフェノールなどの薬液を注入する試みもされている。
 一番驚いたのは、適応拡大への試みである。難治性高血圧や蛋白尿、また心不全はもちろん、「インシュリン抵抗性糖尿病や閉塞性睡眠時無呼吸症候群にも有効かもしれない」と言うことであった。いずれも交感神経の働きを抑制することで効果を発揮するようである。またブドウ糖の20%は腎臓で作られている(そういえば学生時代に習った)。

頸動脈ステンティング
 臨床試験について、ターフについて、保険について、この領域は、それらを概観するのにとても役立つ。頸動脈ステンティング(CAS)と内膜摘除術(CEA)を比較した初期のランダム化比較試験では、CASが連戦連敗で、合併症の多さから早期終了を余儀なくされた試験も少なくなかった(ついでに最近では、脳内動脈ステンティングが、薬物治療に負けて早期終了した)。しかしながら、お互いが熟練の術者を揃えてガチンコ対決したCREST試験の結果では、両者の成績は同等だったのである。塞栓性合併症の頻度はCASで高いが、重篤なものは少ない。CEAは心筋梗塞の発生率が高く、それが長期予後に悪影響を与える。神経損傷はCEA特有の合併症である。問題は、この試験結果を一般臨床に外挿できるかということである。試験の歴史をずっと見ていると、CASでは特に、試験のたびに合併症発生頻度が減っている。すなわちそれだけLearning curveが明瞭に存在するということである。一般の術者が同じような合併症発生率で施行できるわけではない。
 さらに残る大きな問題は治療適応である。症候性患者に対して治療を施すことに関してはほぼコンセンサスが得られているが、無症候性高度狭窄患者に対して治療を行うかどうかに関しては、いまだに議論がある。「合併症のリスクを考えれば施行すべきでない」と主張する者もいれば、「合併症の頻度がこれだけ少なくなった現在、将来的な梗塞のリスクを考えれば施行すべきだ」と主張する者もいる。さらには「無症候性狭窄の治療が認知症の改善に結びつく」との報告もある。しかし一方で、薬物療法の進歩や患者教育の改善も考慮に入れるべきであろう。そして現実には、どの程度上手な術者が施行するかが最も大切なキーポイントである。無症候性狭窄を保険償還の適応とするかどうかは、保険財政上も大きな問題がある。無症候性狭窄に適応を拡大すれば、腎動脈ステンティングのように際限なく(節操なく)過剰適応が広がってしまうリスクがある。「トータルでみれば医療コストを下げる」と言いながら、そうならなかった新規治療法はいくらでもある。ただ一方で保険適応とならなければ、企業は収入を得られないし、企業にある程度の収入がなければデバイスの進歩は望めない。「神経内科医などの第三者が適応を判定する」という方法もあるが、現実に十分に機能するかどうかは疑わしい。
 遠位塞栓防止デバイスを用いるかどうかについては、真のランダム化比較試験の成績は出ていない。しかしながら、「試験が本当に必要かどうか」についても議論の余地がある。それはデバイスが毎年のように改善され、術者が毎年のように熟練していくからである。理論的に有利とされる治療法が普及してしまった現在、今さら膨大な経費とマンパワーを臨床試験に投じることの是非が問われている。この分野の臨床試験には、すでに100億円単位の経費が次ぎこまれている。臨床試験のタネはつきないが、その経費はデバイスの価格に反映されてしまう。さらに数%程度の合併症で有意差を証明するには数千例の症例が必要になる。こうなると倫理的にも、実行可能かどうか疑わしい。

腫瘍
 Clinical Controversyのセッションは、正直つまらなかった。小さな腎腫瘍や肺腫瘍に対するアブレーション治療の是非がそれぞれ異なる立場から論じられたのだが、討論の形をとっておらず、反対者も「アブレーションで十分だとは言えない」という程度だったからである。Survival Benefitを含めたハードエンドポイントでもっと議論して欲しかった。このセッションでは、「TACEに分子標的薬を加えることの是非」といった話題も取り上げられていたが、中途半端な論拠ばかりで、結論も中途半端なままであった。
 塞栓術に関するシンポジウムはなかなか愉快だった。最初は前立腺肥大症に対するTAEの話である。女性の子宮筋腫にあたるのだから治療対象となるのは当然のように思われるが、臨床的に問題となる年齢が、両者で大きく異なる。子宮筋腫の対象は主に更年期前の女性だが、前立腺肥大症患者のほとんどは高齢者であり、動脈硬化の進行度が高いために技術的に難しい。また成績を聞くと、短期効果は9割前後と高いが、数年すると少し落ちていく。それ自体は子宮筋腫に似ているが、女性と違って進行は止まらないし、肥大症による症状は一生続いてしまう。αブロッカーは平滑筋弛緩による姑息的な症状緩和療法だが、近年市販されているテストステロン阻害剤は、副作用はあるものの根治的に前立腺を小さくする。ただいずれにせよ、欧米でも最大の問題は、泌尿器科医という大きな壁だろう。コメンテーターたちが聴衆に、本治療を行ったことがあるかどうか尋ねても、数人しか手は挙がらなかった。院内倫理委員会を通すことさえ難しいという意見もあった。最後に1人が、「この話を泌尿器科医に持ちかける際にはボディーガードを同席させる必要があると思う人、手を挙げて」というと、大勢が笑いながら挙手した。こういう本音が楽しい。正論だけでは通らないのである。
 子宮筋腫の関連では塞栓剤の違いについて概説されたが、これまでに報告されている内容と大差はなかった。ここでもまた、「結局は個人個人の詰め方の違いだろう」とぶっちゃけた話が出たのが一番嬉しかった。私たちが関与しているJIVROSGでTACEの有効性を検証しようとする際の最大の問題点もここにある。技術的詳細がIVR医によって施設によって違うのはもちろん、患者の状態によって手加減することもあれば、マイクロカテーテルの進み具合によって計画したのと詰める位置が異なることも少なくない。「腫瘍血管が消えるまで」とか「5心拍動きが止まるまで」とか色々言われるが、最後の一押しで変わることも希ではない。そういうのが結局、IVRにおいてエビデンスを生み出していく上での障害となっているのだろう。
 乳癌の難治性転移に対する治療について、IGTゲートタワークリニックの堀信一先生が、皮膚転移・肝転移・リンパ節転移をSAPで綺麗に治療した症例を多数提示された。もちろん、全例でそのような著効が得られるわけではないが、全体として8割くらいの患者さんで症状が緩和されていたのだから、大切なLast Resortの1つだろう。いずれにせよ、多くのIVR医がこの塞栓剤の市販を待ち望んでいる。
 Interventional Oncology –New Frontier- と題された学術口演セッションは、150名収容くらいの比較的狭い会場ながら、人で溢れていた。大半が最後まで残っていたから凄いものである。昨年までなら、せいぜい30名程度の参加であっただろう。前半は近赤外線照射による熱アブレーションとか定番のNanoparticleなど、近未来的な動物実験の発表が続いてちょっとついていけなかったが、後半になるとIrreversible Electroporation(IRE)の演題が5連発もあった。何度も報告しているように、このアブレーションデバイスは、細胞膜に障害を与え、既存構築は温存する。今回は動物実験が2題、臨床成績が3題だった。動物実験では、走査電子顕微鏡を使って、中心部には同じ大きさの非可逆的な穴が空いていること、その辺縁12㎜には約1時間後に可逆的な障害が見られること、などが示されていた。また神経障害について検討したブタ実験では、亜急性障害としてAxonの腫大や神経周囲浮腫が見られること、2~4週間後には末梢にワーラー変性が生じていたこと、これらが8週間後に再生すること、最終的にEndoneuronは傷害されず、シュワン細胞の再生能も維持されること、などが示された。臨床例ではまず、CTによる経過観察で血管障害について検討した報告があった。56人の72病変が治療され、治療前と15ヶ月後の隣接血管の状態について精査されていた。対象となったのは84本の血管で、うち61本が治療部位から5ミリ未満、その他23本が5~10㎜の距離にあったのだが、変化が認められたのは3本(3.6%)のみであり、うち2本は右門脈の狭窄であった。これは最も期待度が高かった領域なので、一安心かもしれない。膵臓癌の報告では4人が7回にわたって治療されていた。現時点で4人中3人が生存中であるが、まだ生存期間は3~4ヶ月なので、結論を出すには早すぎるだろう。RFAと同様に、生食を注入して胃を離していた。全例が全身麻酔下で、動脈ラインも確保して施行されている。血圧が上昇する例が多い他、脾梗塞が生じていた例もあった。脾動脈自体は温存されるはずだから膵臓癌自体によるものかもしれないが、要注意に思えた。肝腫瘍の報告では、肝細胞癌33人・大腸癌肝転移16人の計49人、76病変が対象となっていた。腫瘍の平均径は2.1(0.8~6.0)cmであった。造影効果が無くなることで判定したCRが41%、PRが39%、SDが20%であり、無進行生存期間は平均11.3ヶ月であった。当然のことながらCR例で生存期間が長い。意外とCR率が低いのが少し気になった。やはり何本も針を刺す大がかりな治療だからかもしれない。実際、呈示された症例でも、胆嚢近くの数センチ台の腫瘤に5本の針を刺していた。気胸や胸水、心房細動といった合併症が生じていたのは想定内だろう。期待の大きいデバイスだが、やはりRFAが危険な位置にある病変や他に治療法がない進行膵臓癌などで、少しずつ症例が蓄積されるよりなさそうである。なおPlenaryセッションでも、進行膵臓癌に対するダウンステージを狙ったIREの報告が優秀演題として発表され、15人を対象に施行されていた。Event-freeの生存期間中央値6.7ヶ月というのはどんなものなのか、やはりまだ判断には時期尚早である。
 このセッションでは最後に、イタリアのDr.Solbiatiが、甲状腺乳頭癌局所リンパ節再発に対する超音波ガイド下レーザーアブレーションの報告をされていた。レーザーと超音波を合体させた装置のようであったが、針が21Gというのが安心感を与えるところである。治療成功率も90%を軽く超えていた。一部施設に集中するためか、一般の医療機関ではさほど頻度の高くない甲状腺癌難治再発例の治療にとっては朗報だろう。10年後にはひょっとすると大問題になっているかもしれないから。
 その他、マイクロウエーブとの比較(こちらの方が、大きな腫瘍や太い静脈に近い病変では効果が高い、局所再発が少ない、コストが高い、針が壊れやすい、皮膚まで焼けて皮膚瘻を作った例がある、など)やPETガイド下生検、メラノーマ肝転移に対する免疫塞栓療法、などの講演もあった。
 また一般演題では、肝細胞癌を対象にアドリアマイシン・リピオドール/シスプラチン・アドリアマイシン・マイトマイシン/アドリアマイシン溶出ビーズの三者を比較し、ビーズが一番優れていると結論づけた発表があった。しかしながら、患者選択は「術者の好み」で行われており、ビーズ以外の治療における塞栓の詳細は曖昧であった。このようなミスリードしかねない結論を安易に発表しないで欲しい。さらには「AFP値の測定がTACEの経過観察に有用」という脱力感あふれる発表もあった。米国の肝細胞癌治療のレベルは、いまだにこんなものである。
 デバイス関連では、HydroCoilのランチョンセミナーが面白かった。ヒツジの腎動脈を0.018インチ、内腸骨動脈を0.035インチのHydroCoilで塞栓し、従来型ファイバーつきコイルと比較検討していた。必要としたコイルの数は変わらないし、閉塞までに要する時間も変わらない。しかしながら、組織的に検討すると、従来型コイルでは閉塞部分の69%が血栓であるのに対し、HydroCoilでは42%にとどまっていた。そのためか、1ヶ月後・4ヶ月後の再開通率は、HydroCoilの方が有意に少なかったのである。どちらのコイルにしても顕微鏡的に観察すると、血管壁と血栓の間には隙間が認められた。またどちらのコイルでも、0.018インチの方が0.035インチに比べて、再開通率が高かった。このことから、金属量が多いことに加えて、コイル自体の血管壁に対する強さも重要であることが示唆されていた。臨床例では、脾外傷や肺AVMの例などが紹介されていた。

門脈圧亢進症
 最も嬉しかったのは、ようやく「BRTOが米国でも完全に認知された」印象を受けたことである。パネルディスカッションでは廣田先生が綺麗なスライドで概要を解説され、いつもにまして質問が多かった。また他の米国人講演者たちが追加コメントとして、自分たちのBRTOに関する経験や補足説明をしている様子を見ると、かなりの浸透ぶりがわかる。以前はPTOとの違いを十分理解していなかったり、食道静脈瘤の悪化を過度に恐れたりする意見が目立ったが、TIPSとは対照的に、肝臓への門脈血流を増やし、肝機能を改善する可能性に、期待が高まっているのだろう。デバイスや硬化剤の違いが克服されるまでには、さほど時間はかかるまい。TIPSとBRTOは決して二者択一の治療法ではないが、保険の問題からTIPSが容易に施行できない我が国の現状を思うと、きっと数年後には、TIPSとBRTOを比較した論文が、米国から山のように出てくると思われる。仕方ないことかもしれないが、ちょっと複雑である。それからこの画期的な治療法の開発者である金川博史先生の名前があまり知られていないのも、極めて失礼に思う。B-RTOのハイフンが消えたことは仕方ないと思うが。

その他
 Dotter Lectureは面白くなかった。当たり前の現状やガンバロウが示されただけである。それよりもLeaders in Innovation Awardを受賞したDr.Dakeの受賞スピーチの方が、たった数分であったが、みなぎる勇気と確固たる意志に溢れいて素晴らしかった。多くの名言を引用しつつ、「君の前に道はない、でも君の後に道はできる、IVRという松明を高く掲げ、みんなで未来に明かりをともそうではないか」、といった主旨である。満員の聴衆は絶賛するスタンディングオベーションで応えていた。私も感動して涙が溢れそうになった。彼はやっぱり特別である。
 Film Panelは、またしても早押しクイズであった。対戦型で1時間に100問くらいが繰り出されたと思う。何が起こった?(答:大腿動脈偽動脈瘤)、これは何の血管造影?(答:BRTO)、この人は誰?(ジャドキンス)といった問題であった。まあショウとしては面白いのだが、じっくり説明してもらいたい症例も多々あった。
 一部前述したHot Topic Debateセッションも、「科学ではなくショウである」と最初から言明され、不愉快だった。昨年は競技ディベートのルールが適応されて優れた討論が展開されたし、今年は2人ずつなので二人制ディベートかと想像していたのだが、まったく期待はずれであった。またジャッジの連中も、科学的論理的議論展開をしたかどうかではなく、自分の日常診療から見て許容できるかどうかで採点を行っていた。メチャクチャである。

 以上、久しぶりにかなりの盛況であったSIRを十分に楽しんだのは確かである。そして日米ともに政治の混乱が続き、巨額の財政赤字を抱えていることから、高騰する医療費をめぐる問題についても、あらためて色々と考えさせられる年次総会であった。来年はニューオーリンズでの開催なのだが、4月初旬なので、日本医学放射線学会と重なっている。久しぶりに参加できない可能性が高いのが残念である。