米プロビデンスがん研究センター、がん研究会との国際共同研究を開始
質量分析技術を用いた新しいがん免疫療法の開発を加速

2022.12.19

 島津製作所は、11月14日に米国のプロビデンスがん研究センター(Providence Cancer Institute、オレゴン州ポートランド、以下Providence)、公益財団法人がん研究会(江東区有明、以下がん研究会)と、新しいがん免疫療法の開発に関する国際共同研究契約を締結した。契約期間は2年間となる。

 島津製作所は、2018年より4年間、Providenceと共同で、質量分析および抗体医薬分析キット「nSMOL Antibody BA Kit」などの技術を用いて、新しいがん免疫療法の研究開発を進めてきた。これまで、免疫チェックポイント阻害剤併用投与の第1相試験※1、外部リファレンス分子に依存しない抗体定量技術の開発※2などの成果を得ている。このたびの共同研究の目的は、これらの成果を基に、がん免疫療法開発をさらに推進することである。

 次世代のがん免疫療法において個々人のがんの目印(抗原)や治療薬の体内動態解明は、がん治療における個別化医療の確立に貢献する。がん研究会は近年、がん抗原を大規模に検出する技術の開発で大きな成果を得ている※3。三者は本共同研究を通じて、人種差を越える新たながん免疫治療法の開発につなげていく。

 T細胞治療の先端的研究者であるProvidenceのエリック・トラン博士は「がんの変異やがん原ウイルスを標的とするT細胞は、がんを退縮させることができる。しかし、これらは必ずしもがん細胞の表面に現れないので、変異やウイルス全てがT細胞に認識されるわけではない。この共同研究により、どのがん変異やウイルスタンパク質が細胞表面に現れるかを評価できる。そして、この情報によって、T細胞治療で標的とするがん変異やウイルスタンパク質を選択できるようになる」とコメントした。
 新規のがん抗原プロファイリング技術で日本を代表する、がん研究会・がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣博士は「がん免疫療法の開発において異なる分野で先端的な研究を行う3拠点による国際産学連携で、次世代のがん治療法の開発、臨床応用をさらに加速できる」と話す。

  • ※T細胞治療:免疫細胞の1つであるT細胞の、がん細胞を攻撃するという性質を利用して行う治療。

Providence Cancer Instituteについて

 Providence St. Joseph Healthの一機関であり、がん領域に関する最新の診断、治療、予防、教育、支援、国際研究を展開している。オレゴン州ポートランドのRobert W. Franz Cancer Centerに世界最先端の研究施設を有している。        1993年の設立以来、がん免疫治療研究開発の分野で世界をリードしてきた。西海岸の医療機関・研究施設と提携を進め、非営利病院機構における全米第3位の規模となる。

公益財団法人がん研究会について

 がん研究会は、「がん克服をもって人類の福祉に貢献する」という理念のもと、明治41年(1908年)に設立された、日本で最初のがん専門機関である。先進的ながん診断・治療方法を開発する研究部門(がん研究所)と患者さんへ最先端医療を提供する病院部門(がん研有明病院)との相乗効果により、日本のがん研究と診療を常に牽引してきた。2021年度の手術件数は8358件を数え、全国随一のハイボリュームセンターとしての役割を果たし続けている。加えて2016年には「がんプレシジョン医療研究センター」、2019年には「先端医療開発センター」を開設し、早期診断・新治療法開発・創薬等の最新医療技術の実現に取り組み、創立から110有余年経った今も、基本理念の実現に向けて日々歩みを進めている。

参考資料:

※1 Enhancing clinical and immunological effects of anti-PD-1 with belapectin, a galectin-3 inhibitor. Curti BD, Koguchi Y, Leidner RS, Rolig AS, Sturgill ER, Sun Z, Wu Y, Rajamanickam V, Bernard B, Hilgart-Martiszus I, Fountain CB, Morris G, Iwamoto N, Shimada T, Chang S, Traber PG, Zomer E, Horton JR, Shlevin H, Redmond WL. J Immunother Cancer. 2021 Apr;9(4):e002371. doi: 10.1136/jitc-2021-002371. PMID: 33837055
 

※2 A rapid and universal liquid chromatograph-mass spectrometry-based platform, refmAb-Q nSMOL, for monitoring monoclonal antibody therapeutics. Iwamoto N, Koguchi Y, Yokoyama K, Hamada A, Yonezawa A, Piening BD, Tran E, Fox BA, Redmond WL, Shimada T. Analyst. 2022 Sep 26;147(19):4275-4284. doi: 10.1039/d2an01032a. PMID: 35997223
 

※3 Differential ion mobility mass spectrometry in immunopeptidomics identifies neoantigens carrying colorectal cancer driver mutations. Minegishi Y, Kiyotani K, Nemoto K, Inoue Y, Haga Y, Fujii R, Saichi N, Nagayama S, Ueda K. Commun Biol. 2022 Aug 18;5(1):831. doi: 10.1038/s42003-022-03807-w. PMID: 35982173