大阪大学大学院工学研究科、島津製作所、シグマクシス、 3Dバイオプリント技術で協業 ~技術開発を加速し、環境・食糧・健康など社会課題の解決を目指す~

2022.03.29

 国立大学法人大阪大学大学院工学研究科、株式会社島津製作所(以下、島津製作所)、株式会社シグマクシス(以下、シグマクシス)は、「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業に関する契約を締結した。また、それに先立ち大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は、「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」に関する共同研究契約を締結した。

 3Dバイオプリント技術を研究する大阪大学大学院工学研究科と、自動前処理装置を含む分析計測機器を手掛ける島津製作所、フードテック領域におけるコンサルティングやエコシステム構築に強みを有するシグマクシスの3者が協業することにより、本3Dバイオプリント技術の開発を加速させるとともに、同技術の社会実装に向けた関連企業・研究機関との連携を推進していく。3者は本活動を通じて、環境・食糧問題の解決や、人々の健康増進、創薬、医療の進化に貢献していくことを目指していく。

3Dプリント技術を基盤とする科学技術開発

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発

 本3Dバイオプリント技術は、筋肉組織構造を自由自在に作製するもので、松崎典弥氏(大阪大学大学院工学研究科 教授)が開発した。本技術は「筋・脂肪・血管の配置が制御された培養肉」「ヒトの細胞による運動器や内臓モデル」など食糧や再生医療、創薬分野での利活用が期待されている。

 これまで報告されている培養肉のほとんどは、筋線維のみで構成されるミンチ構造であり、複雑な構造の再現は困難であった。そこで松崎氏ら研究グループは、筋・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリントで作製し、それらを束ねて統合する、3Dバイオプリント技術を開発した。これにより和牛の美しい“サシ”などの再現だけでなく、脂肪や筋成分の微妙な調節も可能になった。今後、大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は、本技術による培養肉の生産を自動化する装置を共同で開発を行う。

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

3Dバイオプリント技術の社会実装に向けた協業

 あわせて3者は、協働で下記の活動を推進していく。
1.3Dバイオプリント技術の開発推進に向けた他企業との共同研究
2.周辺技術・ノウハウを有する企業・団体との連携
3.食肉サプライチェーンを構成する企業・団体との連携
4.3Dバイオプリント技術に関する社会への情報発信

 各活動の推進において、3者はそれぞれ、次の役割を果たしていく。

 大阪大学大学院工学研究科は、引き続き、3Dバイオプリントを含む組織工学技術の開発に尽力する。松崎氏が開発した3Dバイオプリント技術は、筋や脂肪、血管の線維を束ねて筋肉や運動器を生体外で構築する独創的な技術であるが、より複雑な組織・臓器構造の再現は困難である。また、血管を介して外部から培地や薬物を送達することは一部可能となってきたが、大きな臓器モデルを長期間維持することは困難であり、世界的にもまだまだ大きな課題である。そこで、これまでの組織工学・3Dバイオプリントの知見を基盤とし、新しい「複雑な組織・臓器構造の再構築」や「血管による栄養・酸素の循環による臓器モデルの長期培養」を実現するために必要な基礎技術の開発に努めていく。

 島津製作所は、幅広い産業分野に対して様々な分析計測機器・技術を提供してきた。最近は健康に対する意識の高まりから、食品に新たな機能性を持たせる動きが活発で、研究開発段階から安全・安心を守る品質管理まで、装置のみならず各工程で求められるソフトウェアやデータベース類も充実させてきた。2019年からは国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構と農産物の機能性成分解析を目的とした共同研究にも従事している。また、近年はAIやロボット技術によって細胞培養工程を自動化・効率化する装置・技術の開発にも力を入れてきた。こうした知見・技術・製品を活かして、3Dバイオプリント技術を用いた培養肉の自動生産装置の開発に取り組んでいく。
 島津製作所が協業を通じて果たす役割は、「3Dバイオプリント技術による培養肉生産の自動化」と「培養肉開発に関わる分析計測技術の提供」である。前者は、3Dプリント技術で得られる筋肉・脂肪・血管の繊維をステーキ様に束ねる工程を自動化する専用装置の開発。後者は、味や食感、風味、噛み応えなど「美味しさ」に関わる項目はもちろん、栄養分などの含有量といった「機能性」の分析を行うソリューション開発。それだけに止まらず3Dバイオプリント技術を再生医療や創薬の分野での利活用も視野に入れている。3Dバイオプリント技術による培養肉の生産技術を発展させて、例えばヒトの臓器モデルを作成することで、動物実験の代替が可能となり、稀少疾患の研究や個別化医療への応用が可能。このように島津製作所は食糧としての培養肉だけでなく、医療・創薬における可能性も探求していく。

 シグマクシスは、コンサルティング事業を通じて培った高いプログラムマネジメント能力と、フードテック・コミュニティをはじめとした多様な企業とのアライアンス・ネットワークを生かし、3Dバイオプリント技術の社会実装に向けたプログラム・マネジメント・オフィスとしての役割を担う。本技術の活用テーマごとの取り組み方針の策定、テーマ別に必要となり得る周辺技術やノウハウを有する企業・団体との企業間の連携、各取り組みにおける体制づくり、進捗管理、課題管理などを推進するアグリゲーターとして、本協業において貢献していく。

 3Dバイオプリント技術は、動物の細胞を活用することで培養肉を生産し、食糧問題や環境問題を解決に導くことができる。また、ヒトの細胞を活用することで、再生医療や創薬への応用も期待できるなど、社会課題を解決する大きな可能性を有している。大阪大学大学院工学研究科、島津製作所、シグマクシスは、本技術を多様な企業とともに活用することで社会への実装を加速し、より豊かな未来づくりに尽力していく。

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