心臓ペースメーカ初の4極リードシステム搭載 Allure QuadraTMがさらに多くの 心不全患者に貢献する

2014.06.30

2014年6月、セント・ジュード・メディカルは、ペースメーカ市場で初の4極リードを用いたQuadripolarテクノロジーを採用したAllure QuadraTM CRT-P(心臓再同期治療ペースメーカ)を日本で発売した。Allure QuadraTMは、4極リードを採用したことによる個々の患者に合わせた最適なリード留置や独自の脳卒中リスク識別アルゴリズムの採用、またMerlin.netTMとの接続によるユーザへの適切な患者管理機能などにより、患者の生命予後改善に貢献する。

 
心不全治療の新たな選択肢「心臓再同期療法」
 心不全は、身体が必要とする血液を心臓が十分に送り出すことができない状態を指し、一般的に心室が適切に拡張・収縮を行うことができないことによる心臓の拍出機能障害が原因とされる。現在、日本における心不全患者数は5万人を超えている。心臓の拍出機能障害の原因としては、高血圧や冠動脈疾患、糖尿病などが考えられることから、初期は生活習慣の改善と薬物治療が中心となるが、その効果が乏しく冠動脈疾患が原因である場合には血行再建術やバイパス手術などにより心不全の諸症状を緩和することが可能である。また、徐脈性不整脈患者には右心房・右心室にリードを留置する通常型のペースメーカが適応となり、慢性心不全患者の一部は心臓再同期療法(CRT)の適応となる。CRTデバイスは、右心房、右心室に加え左心室(トリプルチャンバ)の調律を行うことにより、最適な収縮のため2つの心室を同期させ、心不全を改善することを目的としている。CRTを行う除細動器をCRT-D、CRTを行うペースメーカをCRT-Pと呼び、致死性不整脈発生のリスクが低いと考えられる患者にはCRT-Pが選択される。

 

図1 Allure QuadraTM CRT-PとQuadripolarテクノロジー
Quadripolarテクノロジーの採用により、
従来の2極リードでは実現できなかった
新たなペーシングオプションが利用可能になった。
生理的な形状により、植込み部位も目立たない。
4極リードによりリード留置を最適化
 従来は2極リードを用いたCRT-Pが用いられてきたが、その際は植込んだ10例の患者のうち1例ぐらいの頻度で再手術が必要になると思われる合併症が発症していた。セント・ジュード・メディカルが開発した4極ペーシング技術(図1)により従来の2極リードシステムでは実現できなかったベクトルからの新たなペーシングオプションを利用できるようになった。これらの新たなオプションは他社にない画期的なもので、個々の患者に合わせた最適なリード留置を可能にするとともに、リードの位置を修正するための再手術という負担を患者にかけることなく、 一般的なペーシング合併症を管理することが可能である。
 
診断・患者管理性能の向上
 セント・ジュード・メディカルの低電圧機器(LV)のラインナップを飾るこの新しい製品Allure QuadraTMには、同種の機器として唯一欧州のCEマークを取得した独自の脳卒中リスク識別アルゴリズムが採用されている。このペースメーカベースの診断アルゴリズムを用いて不整脈を検出することにより、心房細動の既往のない高齢の高血圧患者における脳卒中のリスクを予測できるかどうかを検証するべく、臨床試験ASSERT(ASymptomatic AF and Stroke Evaluation in Pacemaker Patients and the AF Reduction Atrial Pacing Trial)が実施されている。その結果、心房性頻脈または心房細動の既往はないが、ペースメーカによって不整脈が発見された患者は、ペースメーカによって不整脈が発見されていない患者に比べ約2.5倍脳卒中発症リスクが高いことが明らかとなった。
 また、Allureシリーズのペースメーカには、CorVueTMインピーダンスモニタリング機能が搭載されており、胸郭内水分量に応じて変化する胸郭インピーダンスの変動情報を医師に知らせる。これにより、胸郭インピーダンスの変動を継続的にモニタリングし、心不全の指標となり得る情報が提供されるため、患者管理の向上を図ることが可能である。
 Allure QuadraTMは、インターネットベースの患者管理システムMerlin.netTMに接続可能であり、心房細動の新規発症を検出するAT/AFアラートなどの機能を用いてユーザに適切な患者管理をもたらす。さらにDirectTrendTMレポートと組み合わせることにより、個々の患者の経時的変化を横断的に閲覧し、すべての診断データを簡略化した形で表示することもできる。

 
従来機種から継承される機能
 QuickOptTM、InvisiLinkTMワイヤレステレメトリやACapConfirmTM、BiV-Cap ConfirmTMなど、従来機種から引き継がれる機能によって、個々の患者に応じた至適プログラミングが可能となる。さらに、TailoredTherapyTM機能により、植込み時とその後の経過観察時に4極システムを最適化することによって、変化する心不全特有の難しさにも対処できる設計になっている。
 図1に示すような生理的な形状も特長の一つである。ラウンドシェイプとアングルドヘッダー採用により、植込み部位が目立たないばかりか、植込み後の圧迫壊死や感染予防にも貢献するという。

 
Merlin.netTM遠隔モニタリング対応
 Allure QuadraTMの診断データは患者の自宅に設置した読み取り装置、Merlin@homeTMを通じてサーバに転送され、主治医や担当医師はセント・ジュード・メディカルが運営するインターネットサービス、Merlin.netTMを通じて個々の患者のデータを閲覧することができる。Allure QuadraTM治療対象となる慢性心不全の管理においては、患者の運動量や心拍数変化、胸郭インピーダンスや心房性不整脈の記録など、継時的変化のトレンドを見極めることが重要となるが、外来診療ではその観察頻度に限りがある。Merlin.netTMではデータのアップロード頻度を個々の患者の状態に合わせてカスタマイズできるため、病態の安定している患者では3か月ごとに、不安定な患者では緊密なフォローアップを行う、という使い分けも可能となる。

 
4極リードの有用性を示すエビデンス
 2極リードのCRT-Dと4極リードのCRT-Dの有用性を比較した研究結果が、2014年5月に開催された米国不整脈学会で発表されている1)。CRTによる心不全の予後改善効果が知られているが、4極リードを使ったCRTは2極リードでは設定できないベクトルからのペーシングが可能である。この機能によって治療効果がさらに改善する可能性がある。
 CRT-Dシステムの新植込み症例で4極リードを用いた5,152症例と2極リードを用いた18,026症例の生存率を比較したところ、100患者・年あたりの死亡数は、4極リード群5.88例、2極リード群7.23例と4極リード群のほうが有意に少なかった(p=0.003)。さらに多変量解析の結果、4極リードシステムは死亡リスクを有意に低減したことも示された(HR0.794, 95% CI[0.696-0.906], p<0.001)。このようなエビデンスからも、4極リードシステムのCRTにより心不全患者がより効果的なCRTを受けることができる可能性が高い。    以上のように、4極リードを用いたAllure QuadraTMにより個々の患者に最適なリード留置が可能になり、横隔神経刺激を回避できる可能性を示すような報告も散見され始めている。合併症や再手術の低減にもつながる可能性があり、ひいては心不全患者の予後改善にもつながることが期待される。
 
<文献>
1) Heart Rhythm , 2014;11;5;Suppl:S117; PO01-51