2025年7月22日、アボットメディカルジャパン合同会社(本社:東京都港区、代表執行役員社長:千田真弓氏、以下「アボット」)は、2025年7月17日に、日本初となる経皮的三尖弁接合不全修復システム「TriClip™システム」(以下「TriClip(トライクリップ)」)の製造販売承認を取得した。三尖弁逆流症(Tricuspid regurgitation(TR))は、これまでは積極的な外科的介入を行うことができない場合に薬物療法以外の選択肢がなかった。本システムの導入により、薬物療法でTRの重症度や症状が改善されず、かつ、高齢や併存疾患を有するなど外科的手術が最適ではないと判断された患者さんに、カテーテル治療による新たな低侵襲の治療選択肢が提供されることになる。

TriClip™ システム

4つのクリップサイズにより幅広い治療オプションを提供

TriClip留置例
三尖弁は心臓の右心房と右心室の間にある弁で、血液の流れを一方向に保ち、逆流を防ぐ役目を担っている。この弁がきちんと閉まらなくなると血液が右心房へと逆流する。これを三尖弁逆流症(TR)といい、心臓に過度の負担がかかり、腹水、末梢浮腫、肝腫大、食欲不振、頸静脈怒張または腹部膨満などの症状を引き起こす。重度の患者さんには薬物療法が推奨されるが、治療選択肢が限られることから管理が難しく、心不全による入院の繰り返しが多くみられる。また、単独の三尖弁外科手術は院内での死亡率が高いことが報告されている。日本における心臓弁膜症患者は推計約50万人で、そのうち三尖弁にかかわる弁膜症患者数(TRを含む)は約22万人と推計されている。また、後天性の三尖弁にかかわる弁膜症のほとんどがTRで、高齢化に伴い患者数は増加傾向にある。
TriClipは大腿静脈からカテーテルを挿入し、先端にあるクリップで三尖弁の弁尖を留めることで血液の逆流軽減を図る。TriClipはアボットの経皮的僧帽弁接合不全修復システム「MitraClip™」の技術を基盤として設計されている。2020年に初代TriClipが欧州CEマーク認証を取得してから、すでに15,000件以上の症例実績があり、現在、欧州、米国、カナダを含む50カ国以上で使用されている。国内での発売時期は2026年春を見込んでいる。
TriClipの安全性と有効性を評価した国内のAMJ-504試験は、適切な薬物療法を行ったにもかかわらずTRの症状が改善されず、三尖弁手術が最適治療ではないと判断された患者を対象に行われ、被験者37名中37名がTriClip術後12カ月時に全死亡または三尖弁外科手術実施を回避できた。また、術後12カ月時の心不全による年間入院率は1患者あたり0.03件だった。心不全患者のQOL(自覚症状、生活の自立や社会参加)を評価するカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)のスコアは、術後12カ月時点で15ポイント以上改善した被験者の割合が22%だった。また、80%の被験者において、術後30日時のTR重症度が中等度以下まで軽減され(うち、46%は軽度まで軽減)、術後12カ月時においてもTR重症度の軽減が持続した。
TriClipの安全性と有効性において、薬物療法とTriClip治療を受けた患者群(本品群)と薬物療法のみを行った患者群(対照群)を比較評価したTRILUMINATE ピボタル試験(米国、カナダ、欧州で実施)の最新データでは、TriClip治療2年後の結果が以下のとおり示された。なお、本試験結果は2025年3月29~31日に行われた米国心臓病学会(ACC.25)にて発表され、アメリカ心臓協会の学術誌Circulationに同時掲載された。
1.心不全による再入院率が有意に減少
本品群の心不全による年間再入院率は1患者あたり0.19件、対照群は0.26件だった。また、対照群の中で後にTriClip治療を受けた患者群の年間再入院率も1患者あたり0.5件から0.35件へと減少した。
2.84%の被験者のTR重症度が中等度以下に軽減
対照群の21%に対し、本品群の84%が中等度以下のTR重症度(グレード≤2以下)を示した。対照群の中で後にTriClip治療を受けた患者群にも同様の傾向が見られ、術前の3%に対し、術後30日後には81%の被験者においてTR重症度が中等度以下まで軽減された。
3.QOLを評価するKCCQスコアが平均15ポイント改善
本品群では術後2年時で平均15ポイント以上改善した。同様に薬物療法群の中で後にTriClip治療を受けた患者群も、術前・術後の比較で平均13ポイント改善した。
富山大学 第二内科 循環器内科・腎高血圧内科 科長の絹川弘一郎教授は、次のように述べている。「心不全を合併する重症僧帽弁逆流に対するMitraClipの有用性は、COAPT試験をはじめとする様々な臨床データの積み重ねで実証されてきました。一方で三尖弁逆流を有する心不全患者に対する治療介入は開心術を含めてエビデンスと呼ばれるものに乏しかったのが事実です。特に単独の三尖弁逆流は利尿薬治療しか施行されていないのが現状でしたが、このTriClip治療により重度の三尖弁逆流が中等度以下に制御できる可能性が高いことがわかりました。1年までは差のなかった心不全再入院率もTRILUMINATE ピボタル試験で2年までフォローアップすると差が見えてきたことで三尖弁逆流の患者の予後を改善する有用性がより明確になったと考えます。今後我が国においてTriClipが実装されていく中で、この再入院予防効果が患者さんに大きなベネフィットをもたらすことを期待しております。」
また、アボットメディカルジャパン合同会社の執行役員で、ストラクチュラルハート事業部長を務めるジュールス・コーステンは、次のように述べている。「TriClipは国内初の経皮的三尖弁接合不全修復システムです。この製品によって、高齢や併存疾患を有するなど外科的手術が最適ではないと判断された重度の三尖弁逆流症患者さんに、外科的手術よりも低侵襲の治療選択肢を新たに提供できることを非常に嬉しく思います。TriClipが重度の三尖弁逆流症の治療に立ち向かう日本の先生方や患者さんにとって新たな希望となることを心より願っています。来春の上市に向けて、社員一丸となって取り組んでまいります。」
アボットはこれからも構造的心疾患のアンメットメディカルニーズに応え、より良いソリューションを提供し、人々が可能な限り充実した生活を送ることができるよう引き続き努めていく。
販売名:TriClipシステム
承認番号:30700BZX00164000
お問い合わせ先
アボットジャパン合同会社
TEL:03-4555-1002
email: paj@abbott.com