ACCURARY CLINICALREPORT

2024.02.22

 

Radixactの導入経験
~大学病院での1台運用経験を中心に~


 
勝井邦彰1)、渡邉謙太1)、元田興博2)
1)川崎医科大学 放射線腫瘍学 2)川崎医科大学附属病院 中央放射線部

はじめに

 川崎医科大学附属病院は学校法人川崎学園が擁する3つの大学病院のうちの1
つで、1182病床と33の科・センターを擁する、特定機能病院・地域がん診療連携拠点病院である。川崎医科大学附属病院に導入されたRadixactを一時的に1台体制で運用する経験をしたため、その所感を述べる。学術的ではなくとりとめのない内容で、稼働してまだ1年と少しの経験で医学物理士が不在でもあり、経験豊富な施設からご覧になって多数の至らない点があろうかと思われるがご容赦いただきたい。

1台体制での運用、特にスループットの向上や勤務態勢について

 小職は2021年4月に現職に赴任した。現在までの機器入れ替えの概要を図1に示す。Radixactは2022年3月中旬に装置搬入、6月中旬より稼働、2022年7月末から2023年6月下旬までの11ヶ月間は1台体制で運用された。計画の時点で旧リニアックまたはRadixactの1台体制での運用が1年8カ月ほど見込まれたため、スループット向上を目的に下記の対応などを進めた。


・ 比較的症例の多かった乳房温存術後の照射時の物理ウェッジの使用を中止した。
・外来に加え入院患者さんでも予約制であったため、時に治療室で空き時間が発生していた点について、看護部長の協力を得た上で、入院患者さんの照射予定時間を未定として治療室の状況に合せてお呼びするよう変更した。
・外来患者は毎日診察を行っていて、経過観察等の患者さんも含めると2021年度は最大で71名の外来受診数となってい た。 外 来 看 護 師 長 の 協 力 を 得 て2022年8月のRadixact1台 体 制 開 始 直後に週1回の診察を導入することができた。医師の負担軽減以外に治療室のスループット向上、コロナ禍での外来診察室前待合の過密状態解消、週4回分の患者さんの診察待ち時間の消失とそれによるスタッフの負担軽減にも繋がった。

・Radixactでの照射時間は患者さんお一人あたり6分以下を目標とした。可能な場合、骨転移など2か所の照射を1計画で行った。当院は850 MU/分の機器で 照 射 時 間 は や や 長 い が、VOLO TMUltra導入後は照射時間の短縮化にも寄与している。なお、寡分割照射は、以前より乳房温存療法や緩和照射にて積極的に行われ、1日の治療患者数の抑制に寄与している。

 スループットの向上に最も寄与したと考えているのは治療患者さんの専用更衣室の整備である。広島市民病院への見学時に、スループットの向上に更衣室は最も有用な設備とアドバイスいただき、当時は驚いた記憶がある。実際、2023年4月の更衣室の運用開始後は明らかに患者さん一人あたりの治療室滞在時間が減少し、概算で1日当たり1時間以上短縮できた。幸運にも恵まれ、医師が常駐している治療計画室の移転も実現し、治療室、操作室、計画CT室、更衣室、待合室などが直線的で距離がなく、スタッフの導線を大幅に短縮できた。

 1台体制の間は、日勤帯は主に外来患者さんを治療し、化学療法がない、または全身状態が比較的良好な入院患者さんには夕方以降に治療を行うようにご協力を頂いた。スタッフの勤務体制について、診療放射線技師と看護師は時差出勤とした。図2に1台体制時の診療放射線技師の勤務例を示す。医師は照射終了までの待機を曜日別の当番で対応した。受付スタッフは外来患者さんの治療終了まで勤務し、その後の病棟患者さんへの対応は、診療放射線技師や看護師が受付業務などを兼任した。Radixact 1台体制の期間中1日の最大治療患者数は41名であった。同日は7時30分よりdaily QA開 始、8時40分より照射開始、21時に照射終了、22時30分に患者QA終了であった。このうち、システムの再起動に要した20分を含んでいる。1名あたり20分の予定も、実際はそれ以下で運用できている。1台体制を理由とした他院への紹介はしておらず、緊急照射や全身照射は継続した。スタッフの多大な努力によるものではあるが、Radixact 1台体制の運用は事前に予想したほどの負担感はなかった。

高精度放射線治療について

 強度変調放射線治療の強度変調のレベルは高い。Radixact導入前は、いわゆるstep and shootにて主に前立腺癌、頭頸部癌が対象であったがRadixact 1台体制中に大半の疾患に拡大し、頭部定位放射線治療、Radixact Synchronyによる追尾照射を導入した。図3に頭部血管肉腫症例の線量分布を示す。頭部から顔面に及ぶ凹凸のある部位においても病変に均一に照射し、繋ぎ目のない線量分布を得ることできた。電子線を使わないことでスループットの向上にも大きく寄与している。なお、当院では菌状息肉症、ケロイドと睾丸に対してリニアックの電子線を使用する予定である。図4に局所進行非小細胞肺癌の症例を示す。脊髄、肺、甲状腺、気管支、食道全てに配慮して線量分布の作成が可能であった。経過観察で無気肺を呈したのは右上葉のみで右中葉は温存でき、晩期有害事象は軽度の食道炎のみであった。全身照射では、肺、腎臓の線量を抑制した上で、全身に均一な照射が可能である。他にも、乳房全切除術後放射線療法ではhalf field法の様な胸鎖関節レベルでの繋ぎ目がなく、内胸リンパ節領域に照射しつつ、肺の線量を抑制可能である。頭部定位放射線治療では、全脳照射との併用を容易に施行可能である。2台体制に復帰した後も、高精度放射線治療はRadixact主体に行われている。

 ClearRT TM ヘリカルkVCT画像は明瞭で、有用性を実感している。両側早期非小細胞肺癌に対する治療の早期に閉塞性肺炎を来した症 例のkVCT画 像を図5に示す(黄色矢印:閉塞性肺炎、青矢印:原発巣)。肺野にもかかわらず明瞭に描出されている。放射線治療に加え、抗生剤の速やかな開始も寄与したためか、徐々に軽快し外来治療が継続できた。他にも、乳房温存術後の照射期間中の膿瘍、前立腺癌への治療の際に直腸の過度の拡張や膀胱の拡張不足などをkVCT画像から確認でき、有用であったことは多い。また、施設により運用は様々とは思われるが、照射部位の間違い事故は注意してもごく稀に発生することがある。毎回、明瞭なkVCT画像を確認し、治療計画装置で作成した標的体積内に合致させることでこのような事故の発生を低減することができる安心感は大きい。

大学病院、地域の中核病院として

 岡山県には、陽子線治療装置、各社リニアック、CyberKnife、Gamma Knife、Vero4DRT、低・高線量率密封小線源治療装置と、中国・四国地方で最も多種多様な放射線治療装置が存在し、当院のRadixact設置によって、大半の放射線治療装置が導入されたことになる。当院は診療、教育、研究を行う大学病院・特定機能病院であり、地域の中核病院としても、高度な医療の実践が求められている。Radixactによる高度な強度変調放射線治療、明瞭なkVCT画像、追尾照射などの高精度放射線治療の継続と質の更なる向上に努めたい。全脳全脊髄照射など、Radixactでの治療が望ましい患者さんに是非利用頂きたいと考えている。放射線治療も評価いただいて地域のがん患者さんに当院を選んでもらえるように尽力したい。機器による環境整備は重要であるが、人材育成はそれ以上である。岡山県内では、岡山大学の医師、医学物理士、診療放射線技師等が中心となって研究会や勉強会を行っており、メディカルスタッフは知見を容易に得て技量の向上を図ることができる。また本学園は、川崎医科大学、川崎医療福祉大学、川崎医療短期大学を擁し、当院は医師、診療放射線技師、看護師などを目指す学生や若手メディカルスタッフの実習、研修の場で、教育には 全 て の ス タッフ が 注 力 し て い る。Radixactにて高度な放射線治療を体験し、いままで以上にがん患者さんに貢献することを実感し、がん診療や放射線治療を志す医師、診療放射線技師、看護師を輩出できればと考えている。学位や医学物理士、専門資格や認定資格を取得したり、本学園の関係者が本学やおかれた地域で活躍してくれればこれに過ぎたる喜びはない。

その他

 VOLO TM Ultra導入により、治療計画の計算時間は大幅に短縮した。医師が受容可能な線量分布が完成するまでの時間を比 較 す る と、 従 来 の VOLO ClassicとVOLO TM Ultraでの計算時間はそれぞれ、頭頸部腫瘍では、160分程度と305秒(5名平均)、前立腺癌では45分程度と172秒(3名 平 均 ) に なった。TBIで あってもVOLO TM Ultraでは上半身667秒、下半身450秒(2名平均)と短時間で計算でき、働き方改革対応には必須のソフトウェアである。治療装置の特徴的な形状による利点として、精神疾患をお持ちの方やご高齢の方、大きな固定具を使用する方々において、ガントリとの衝突の危険がないこと、落下リスクが低いこと、寝台位置がリニアックのそれより低い位置にあることなどによる安堵感があげられる。

 システム接続については関係各社には感謝しかないが、病院電子カルテ、バリアンメディカル社製ARIA OIS、TrueBeam、Radixactが直接接続されている(図6)。TrueBeamとRadixact を接続し、ARIAをOIS(治療RIS)として使う運用は国内初と聞いている。Radixactの照射オーダーやスケジュール管理もARIA OIS上で可能で、放射線治療のオーダーや調整が簡便で重宝されている。当院のシンプルなシステム構成は、管理のしやすさと導入・維持費の低減、スペースの節約に寄与し、厳しくなる一方の病院運営の環境下で予算をお願いする立場からすれば大変有り難く思っている。

 過去に、治療計画の計算が終了しなかったりフリーズしたりして、半年か1年ほど原因の探索に難渋したことを他院で経験した。治療計画装置とそのサーバーの接続に病院の回線を使用していたことが原因で、当時は現場スタッフがシステムの接続まで配慮を要した時代であった。Radixactシステムに関し、操作室スペースの制約と災害時等のデータ保全の観点からサーバーと治療計画装置は別の階に設置した。治療計画の計算に影響はなく、稼働後もトラブルはない。Radixactシステムは、本体、操作端末、計画装置、サーバーともに専用の閉じたネットワークで管理運用されるため病院のインフラ水準に左右されず、スタッフに過度の負荷はかからない。パッケージとして高いレベルでシステムが完結している点も個人的な評価ポイントである。当院の旧装置(XiO)のDicom RTデータは、他社製の治療計画支援システムで多くの場合で読み込めず、他院より照会があった際にデジタルデータに加えて紙面の資料もお送りしている。AccurayPrecisionは読み込み可能であり、安堵している。

最後に

 高精度放射線治療や特殊な治療も行う大学病院において、Radixact 1台体制での運用は、40人程度までは可能であった。医学物理士が不在の中でも、予想以上にスムースに導入・稼働できていると考えている。これらは完成度の高いシステムや各社スタッフの強力なサポートに加えて、step and shootによる強度変調放射線治療など多大な労力を要して経験を積んできた診療放射線技師の存在が大きいと考えている。簡便に高精度放射線治療が行えるシステムに安住せず、人材育成と安全管理体制の更なる整備を進めていきたい。当院はひとまず導入・稼働できたというだけであり、研究会等では是非学ばせていただきたいと考えている。機器導入や運用に関して貴重なアドバイスをいただいた、飯塚病院 佐々木 智成先生、久留米大学 淡河 恵津世先生と医局の先生方、愛知県がんセンター 古平 毅先生、呉医療センター 幸 慎太郎先生、昭和大学 伊藤 芳紀先生、徳島大学生島 仁史先生、宝塚市立病院 田ノ岡 征雄先生に深く御礼申し上げる。コロナ禍に加え、当方の厳しい要望に応えてご調整、ご尽力いただいた関係各社の皆様には感謝しかない。