MY BOOKMARK No.32 多様なCT依頼をこなす三本柱

2022.02.24

久我山病院

柴 俊幸

はじめに

 2017年5月に64列CTであるGE社製Revolution EVO(図1)に更新、同時に富士フイルム社製ワークステーション VINCENT、根本杏林堂社製インジェクター Dual Shot GX7(図2)を導入した。中規模病院としては決して早い導入時期とは言えないものの、ある程度の情報が成熟したこともあり新しい検査にも積極的に取り組むことができた。なにより、導入されたこれらの装置が経験の浅い診療放射線技師に対して、どんな煩雑な検査であっても再現性を持ってルーチンとして行うことの手助けをしてくれたのは大きな事実だと感じている。

病院紹介

 当院は複数科を有する199床の地域中核病院であり、一般撮影、CT、MRI、MMGから外科用・血管造影用X線装置と幅広く稼働しており、装置の更新は比較的緩やかな施設であったが、病院方針として循環器内科、特にPCIに注力することとなり2017年1月に血管造影装置を更新、同年5月にCT更新及び循環器内科が2名入職となった。診療放射線技師は13名所属しており、そのうち11名が20〜30歳台と年齢層は比較的若く、また当直帯もこの11名の中でローテーションしているため、日勤帯に行う検査は全て習得してからの当直業務となっている。

 導入から1年の総CT検査数は12,405件と前年と比較し1.1割程度の微増ではあるが、1台運用の施設としては少ない件数ではなく、そのうち造影CT検査は約1.6倍の1,053件となった。それまでほぼ行っていなかった冠動脈CTは327件の依頼となっており、件数の増加以上にDynamic CTや脳血管・冠動脈を含むCTAや複雑なワークステーション処理が増加したが、経験の少ない診療放射線技師が再現性良く検査できているという視点で、それぞれの装置の特徴とともに紹介したい。

整形外科領域CT

 当院は年間約600件の整形外科領域の手術が行われており、特にインプラント挿入後のCT検査ではMetal artifact reduction(MAR:金属アーチファクト低減処理)が有用である。椎体間固定術に使用するスクリューによるアーチファクトを低減できることで適切な固定がされているのかを観察でき、また患者説明用のVolume rendering(VR)画像の評判も良い。なおBalloon kyphoplasty(BKP:経皮的椎体形成術)の術後検査ではサイズ依存による影響が大きいためか、骨セメント周囲の情報が観察しづらくなることがあり使用していない。また、VINCENTにはノイズ低減フィルターや量子フィルターが複数搭載されているため、Bone関数から滑らかなVR画像を作成することもできるため、時間のかかるMARを用いた画像を複数再構成する必要がないこともメリットとなる。

腰椎側方椎体間固定術前CT

 腰椎側方椎体間固定術においては整形外科領域の中でも術前CTの意義が大きい。この手術の特徴は側臥位にて外科的に椎体間固定を行うが、開創も小さく、背側の筋や神経に触れることがないため、比較的低侵襲であることがメリットである。その反面、側方アプローチのため、動静脈や尿管、腸腰筋の走行や、ターゲットが上位腰椎であれば横隔膜と肋骨、下位腰椎であれば腸骨など解剖学的な情報の把握が必要となる(図3)。当院では尿管描出のための造影剤を撮影前に40mLを低速で注入し、その8分後に60 mLを3〜4mL/secで注入しながらの動脈系の撮影、さらに一相目での尿管描出不良を補填する意味でその90秒後に静脈相を撮影する多相撮影を行い、VINCENTでVR画像を作成し画像を提供している。VINCENTにはマルチ3Dのプロトコルが使用可能であり、相ごとに処理することも、同時に処理することも可能であり、重ね合わせてのキャプチャーや動画作成も容易にできることから、完成画像の複雑さに見えるほどの難易度はなく、解剖さえ把握していれば数十分で画像の提供が可能であり整形外科医からの評判も良い。また、CT値上昇に乏しい静脈や腸腰筋においても三軸上で簡易的にトレースするだけで補完によりマスクを描出してくれるため描出は容易である。

心臓CT

 心臓CTは解剖学的・生理的知識はもちろん、造影効果影響因子や再構成原理など、通常の体幹部CTとは異なった知識も要求され、安定した検査には修練を要する。特に冠動脈という細い血管がターゲットのCTAであるため、造影理論は理解しなければならず、また腎機能が低下した症例も少なくないため、造影条件の確立は必要不可欠である。Dual Shot GX7の特徴は体重あたりの注入レート、所謂Fractional dose〔mgI /kg/sec〕での設定が可能なことであり、さらにFractional doseを固定したまま注入時間や製剤のヨード濃度を変更することが可能である(図4)。また、複数のプロトコルを登録できるため、心機能低下や高体重、若年者症例などの造影効果が通常より低下する症例においてもFractional doseや注入時間を上げたプロトコルを登録することができ、どの現性良く、かつ理由づけのされた検査を行うことができる。救急時の大動脈、肺動脈、冠動脈疾患のTriple rule out症例においても事前に段階的な注入条件変更や生理食塩水フラッシュ、インターバルを登録しておけば、当直帯であってもルーチンとして検査を行うことが可能である。また、インジェクターとCTが同期でき、検査ごとの注入条件がDICOM画像で保存されるためPACS管理が可能であり、フォローアップCTや造影不良症例など、後からの見直しにも役立つ。

 VINCENTによる画像処理はほぼ半自動で主要3血管のトレースが可能であり、提出画像も3血管まで同一画面でCPR保存が可能なため(図5)、PACS画像での視認性も良い。また、自動でプロトコルを走らせることが可能であるため、他の業務を行いながらの処理も可能であり、多忙な場合でのスループットの向上も可能である。

 また、心臓CTでは撮影後に適切な心位相を選択し直しての再構成が必要な場合があるが、Revolution EVOではECG edit画面においてTrigger心拍や再構成範囲が視覚的に分かりやすく、ドラッグで移動させることも可能であり直感的にも操作がしやすく、どの心位相を使用するのかコンソール上での教育もしやすいと感じている。データ欠損や補間に用いられる心位相も表示されるため、再構成された画像のアーチファクトの原因が分かりやすいことも経験の浅い診療放射線技師には嬉しい。

頭頸部CTA

 Dual Shot GX7におけるFractional doseの設定が可能であることは心臓CTの項で記した通りである。再構成においてVINCENTは脳血管抽出アプリケーションを備えており、半自動的に動静脈や骨の認識はもちろん、クリップや石灰化などの異物も独立したマスクとして抽出されるため、VR処理はもちろんMIP画像も迅速に提供可能である。

 また、subtractionが可能なため、従来観察しづらかった頭蓋底周辺の血管の視認性も良くなり、椎骨動脈解離症例の説明に有用である。

 また、複数撮影を行うため被ばく線量が多くなりがちであるがsubtraction用の単純撮影においては高コントラスト部位である骨のみの情報で良いため、強くASiRをかけた場合のテクスチャーの違和感も気にすることなく、低線量で撮影することが可能である。

腎機能低下症例

 当院では造影検査可能の指標として算出糸球体濾過量(eGFR)値を用いているが、腎機能低下症例では造影剤減量の指示が含まれることがある。ヨード濃度〔mgI/mL〕が異なる造影剤を複数扱っているため、単純に注入量〔mL〕のみを変更するだけでは再現性に乏しく、記録に残す際にも製剤のヨード濃度と注入量を記載する必要があり煩雑になる。Dual Shot GX7では使用する造影剤のヨード濃度と総ヨード量が設定可能であり、医師の指示に応じた減量、例えば20%の減量であれば600mg/kgから480mgI/kgに変更すれば良く、また、適切なシリンジ容量の造影剤準備にも役立つ。

COVID-19検査

 近年、全国で増加していると思われる、疑いを含むCOVID-19関連の検査であるが、施設によっては人員配置の関係上、診療放射線技師がCT室内に入らず医師や看護師にポジショニングを任せる状況も発生しうる。Revolution EVOではプロトコルごとに、事前に基準点を設定することが可能であり、胸部の場合は通常胸骨上窩(SN)に設定されている。この場合、患者を寝かせ、フットペダルを踏み続けることで胸骨上窩の位置まで寝台がガントリー内に進入し、また高さもおおよそ体厚中心まで上昇する。ポジショニングの経験がないスタッフであってもおおよそ頭の位置を指示し、「患者さんを寝かせてからフットペダルを寝台が止まるまで踏み続けてください」と指示さえすれば負担が少なく協力を仰ぐことができる。ほぼCTに触れることがないことからも清拭作業もスムーズに行うことができる。

さいごに

 ここまで、いかにも先を見据えて装置選定を行ったような記事に見えるが、私自身の入職は新CT稼働の半月ほど後になる。それまで前職にてVINCENTは使用していたものの、Aquilion &Medrad製インジェクターという組み合わせを10年以上使用していたため、新しい装置や機能に心を躍らせながらも、「使い勝手が違う」「あれはできないのか」など不安や戸惑いも少なくはなかった。しかし今回の執筆にあたって改めて装置と向き合ってみると各メーカーともより良い医療を提供するために研究開発に切磋琢磨し、それが私たちに届いていることを実感した。これまでの業務を肯定するために、はじめは欠点や使いづらさに目が行きがちになるが、機能や特性を理解し、どの業務にどう応用するのかを考え、実行することで一歩先の仕事ができる診療放射線技師となれるのではないだろうか。目新しい情報こそ少なかったと思うが、明日からの業務の参考になれば幸いである。