MY BOOKMARK No.6 高い機動性を備えたポータブル装置CALNEO AQRO

2021.11.28

京都第二赤十字病院

梶迫絵美 先生

小型で軽量、使いやすい

 私の最近のお気に入りの装置は富士フィルム社製の移動型デジタルX 線撮影装置FUJIFILM DR CALNEO AQROである。AQROはFPDとX線制御部とが一体化したポータブル装置で、小型で軽量であるため小回りがきき、狭い病棟内でもスムーズに移動できる優れものである(図1)。総重量が約90kgという軽量ボディに4輪キャスターを備え、その場での回転や任意の方向へのスライド移動が容易に行えるために女性でも片手で取り回しが可能である。アームの可動域が少ないために導入当初は戸惑いもあったが、ボディが自由自在に動くため、装置全体をスライド、回転させるだけで簡単にポジショニングが可能である(図2)。そして小型であるために、装置の移動時に前方や下方の視界が遮られることなく安全に移動できる。当院の女性技師は150cm台の身長の者が多いが、アームを畳んだ移動時の装置の高さは146cmであるため視界の確保がしやすいというところは非常に好評である。
 また、FPD(FUJIFILM DR CALNEO Smart)はフレームの側面がラウンド状で、病棟撮影時に患者とベッドの間への挿入性が良いため評判がよい。そして凹凸の少ないフラットなデザインで「Hydro Ag+」で抗菌コートされており、防水構造で丸洗いも可能である。装置についてもスッキリとしたデザインで全体が抗菌コートされ、特に頻繁に触れる操作パネルとハンドスイッチには「Hydro Ag+」でコーティングが施されているため汚れの除去が簡単に行え、クリーンな状態を保ちやすいところも感染対策が取りやすく非常にありがたい。
 一方で、医師に好評なところは撮影後すぐに画像確認できるところである。これはもはやFPD一体型ポータブル装置では当然のことだが、やはりこの点がまず大変好評である。操作コンソールは大きな画面で見やすくなっており、救急やOPE室では医師複数人で同時に確認が出来る。また可動関節が3か所あり、自在に向きを変えることができるため、周りの光の反射を避けて医師が見やすい位置に持っていくことでストレスなく画像確認を行うことができるというところは非常に便利である(図3)。

図1 FUJIFILM DR CALNEO AQRO
図2 装置全体のスライドおよび回転
図3 自在に動かせる操作コンソールパネル

バッテリーを消費しない駆動システム

 導入時に私が一番驚いたのは装置の移動が電動ではないというところである。電動駆動でないと移動が重く大変なのではと思われるかもしれないが、意外に重さはほとんど感じない。ボディ自体は非常に軽量で、4輪キャスターでスムーズに動くため、女性の私でも体力を使うことなく簡単に移動できる。坂道はさすがに重さを感じるかもしれないが、坂道の多い病棟はそう多くはないだろう。そして電動駆動ではないということはつまり、装置の移動にバッテリーを消費しないということであり、そこは大変大きなメリットである。以前当院で使用していた装置は電動駆動であったため、放射線科から遠い病棟まで行き、撮影を続けているとすぐにバッテリーがなくなってしまうということもあったがAQRO導入後はそういうことはなくなった。というのも、AQROは高性能リチウムバッテリーを搭載しており、15分の充電で1時間(20ショット)使用できる急速充電が可能であり、4時間のフル充電で12時間(20ショット/時)使用できるため、日中の稼働時間には充電の必要がない。また、バッテリー残量が低下してもAC電源から充電をしながら撮影することができる。移動にはバッテリーが必要ないので、病室への移動後に充電しながら撮影できるため、非常に便利である。FPDに関しても移動時はスマートスロットにより常時充電されているため、FPD自体のバッテリーが切れるという心配もない(図4)。ちなみにバッテリーが切れてバッテリー交換を行った場合は、30秒以内に撮影準備が完了するため、ストレスなく交換することができる。

図4 スマートスロット

画質について

 これだけ軽量化されると画質が心配になってくるのではないかと思う。特にヘッド部分の軽量化はX線出力の低下による画質の劣化につながることが懸念される。実際に、軽量化のためにX線出力は、最大管電圧100kV、最大mAs値25mAsと必要最小限に抑えられている。しかし、FUJIFILMの画像読み取り技術であるISS(Irradiation Side Sampling)方式とノイズ低減回路によって低線量でも高画質なX線撮影を可能にしたFPD「FUJIFILM DR CALNEO Smart」と、X線の散乱成分を除去し低線量の撮影でも粒状性を向上させる画像処理技術「Virtual Grid処理」により小さいX線出力でも適切な画像生成が可能となっている。まず、ISS方式とは、従来型のFPDとは反対側のX線照射面にセンサーを配置し、X線の照射面側よりX線から返還された光信号を読み取るFUJIFILM独自の方式で、入射側の強度の高いシンチレータの発光と受光素子までの距離が短く、発光があまり散乱されずに効率よく検出できるという特徴がある(図5)。またVirtual Gridとは文字通り仮想グリッドであり、画像処理により散乱線成分を高速かつ忠実に算出し、散乱線によるノイズを抑制してコントラスト調整を行うものである。この技術も大変便利でグリッドのつけ外しを行うことなく多部位の撮影を続けて行えるというメリットがある。またVirtual Grid処理は管電圧、mAs値、撮影距離により散乱線
成分が推定されるため、撮影メニューごとに設定を行い、グリッド比も変更可能である。また、登録した撮影条件と大きく異なる条件で撮影した場合は、QA画面で正しい撮影条件を入力することにより調整可能である。画質に関しては、実グリッドと比較して高コントラストが得られ、斜入の影響もなく安定した画像が得られている。また、実グリッドと比較して50%近い線量削減が可能で、当院でもVirtual Grid使用時は実グリッド使用時の半分の線量で撮影を行っており、被ばく低減が図れるというところは最大のメリットであると考えられる。

図5 従来方式とISS方式の違い

留意すべきところ

 ここまでくると欠点がないように思えるが、そうではない。私が一番懸念している点はブレーキがないというところである。装置の前後にペダル式の車輪のストッパーがあるため、撮影中や停車中に動かないように固定することはもちろん可能ではあるが、走行中に停止しようと思うと進行方向と逆方向に自ら力を加えて止まるのが一番早い。電動駆動のポータブル装置であれば手を離せばその場に停止していたが、AQROは手動走行であるため、瞬間的には停止できない。軽量であるため、力を加えればすぐに止めることは可能であるが、その場で瞬間的に停止していた以前の装置と比べると少し不安の残るところである。また、もう一点不満をあげるとすると、アームの可動域が少ないというところである。支柱の回転は左右15度ずつしか回転せずアームの可動関節がないため、導入当初は特にこの点を不満にあげる者が多かった。しかし装置自体の小回りが利くため慣れていけばそう不便には感じなくなるが、狭くて物が沢山置いてある病室へ行くと「ここでもう少し支柱が回転すれば…」、「アームの可動関節が一つでもあれば…」などと思うことがなくもない。また特徴的な前輪にも注意が必要である。前輪の上には何もない状態であるため、ベッドの下に入り込み、よりベッドに近づいて方向を変えることが可能となっているが、これは死角になりやすく、ベッド脇にあるバルーンやドレーンバック、ベッドの車輪などにぶつかるのを見逃してしまう恐れがあるために注意が必要である(図6)。

図6 死角となりやすい前輪

AQROの魅力

 欠点を考慮したとしても、AQROはやはりそれ以上にメリットの方が上回る。当院のような救急病院では、FPD一体型装置はこの装置一台で全ての処理が完了できるというところが災害時や緊急時にも非常に強みになってくる。停電やシステムダウンが起こってもこの装置は単体で使用可能である。そして何より小型で軽量であるために小回りが利き、バッテリーを消費することなくどこまでも走っていけるそのタフさがやはり魅力的である。さらにはFPDや装置自体が抗菌コートされ、凹凸のないシンプルなデザインとなっているために血液や汚物に汚染された場合でも汚れが付きにくく、ふき取りやすい構造であるため、救急やOPE室ではもはや欠かせない存在である。ちなみに当院にはこの度3台目のAQROが導入される。この事実こそがAQROの良さを物語っているといえるだろう。私を含めて当院の技師のお気に入りの装置であることは間違いない。