第33回 日本脳神経外科コングレス総会ランチョンセミナー:CTとMRIの基本と応用

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.08.31

第33回 日本脳神経外科コングレス総会ランチョンセミナー

CTとMRIの基本と応用

 
日時: 2013 年5 月11 日( 土)
場所: 大阪国際会議場
共催: 東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
筑波大学医学医療系脳神経外科
松村 明 先生

脳卒中と穿通枝動脈
―MRIの穿通枝動脈をはじめとした画像解析―

 

演者
 
医療法人河内友紘会河内総合病院脳神経外科
後藤 哲 先生

 
small vessel diseaseという概念
 われわれが脳卒中救急で遭遇することの多いラクナ梗塞や、白質の虚血性変化、microbleedingなどは、臨床的にはそれぞれ治療方法が異なるため、異なった疾患として認識されている。しかしながら最近、これら脳卒中関係の病態を “small vesseldisease”、すなわち小血管病変として1つの病態と捉え、どのような経路をたどって最終的にそれぞれの表現型に至るのかについて、一元的に考えてみようという考え方が注目されている。例えば脳出血では、アミロイドの血管内皮への沈着や、microaneuryによる血管の破綻から脳出血に至る、また脳梗塞の場合は、血管平滑筋の損失、血管壁の肥厚などにより急性の脳虚血が生じ、それが脳梗塞に至る、との考えである。
 MRAで多くの患者の脳血管を診ていると、動脈硬化により、明らかに血管表面の凹凸が激しい患者でも脳梗塞を起こさない場合や、また逆にMRAでは脳血管に問題の認められなかった患者が脳梗塞を起こすというのはよく経験することであり、動脈硬化から脳梗塞を発症する機序に関して疑問に思うことも多い。実際、2009年の論文1)では、主幹動脈の動脈硬化の変化と脳卒中の表現型とが必ずしも一致しないことが報告されており、臨床での実感が研究レベルでも明らかにされつつあると感じている。また例えばアミロイドアンギオパシーにおいても、microbleedingだけで済んでいる症例と、ある程度の血腫も伴う症例との2種類があり、両者を病理的に比較すると、脳深部の血管の病理変化に差が認められることがわかっている2)
 

図1 3D-CTA
図2 Cone-beam CT v.s. 3D-CTA
イメージングによる脳卒中発症機序へのアプローチ
 以上に述べてきたように、脳卒中に至る機序を解明するためには、脳出血、ラクナ梗塞、microbleed、leukoaraiosisといった病変を、small vessel diseaseによる病態として捉えることが重要と考えられ、その方法としては、細胞生物学的な、遺伝子のシグナル伝達の仕組みからアプローチする方法や、シグナル伝達のメカニズムからのアプローチなどが特に注目されている。そこでここでは、イメージングによるアプローチを考えてみた。脳卒中の機序にイメージングからアプローチするためには、穿通枝動脈の造影が必要であり、その方法としては、3D-CTや、3D-アンギオによる脳血管造影、さらにMRAが考えられる。 最近、3次元構成された3D-CTが汎用されているが、元画像で中大脳動脈(MCA)から分岐して有孔質に入ってくる部分を見ると、細い穿通枝を何とか認めることができる(図1)。ただし、本来は被殻に穿通枝動脈があるはずであるが、この部分は造影されなかった(図2)。本画像は64列CTで撮影しているため、最近のCTではもう少し検出能が向上している可能性はあるものの、やはり3D-CTには限界があると思われた。通常行われているMRAでは、穿通枝まで表示するのは困難であるが、3D-アンギオとフュージョンすることにより、穿通枝と病変との関係なども把握することが可能となる。また2009年の論文 3)では、7TのMRIを使用して微細な穿通枝動脈を表示できたと報告されている。しかしながら実際の臨床で、超高磁場である7TのMRIを使用することは不可能である。そこで今回は、1.5Tにおいて、新しい脳MRAの技術で、より微細な部分まで描出できる、Flow Sensitive Black Blood(FSBB)というシーケンスを利用して、穿通枝動脈の造影を試みた。またこのFSBB法は、現在まだ改善の予地のある開発途上の技術であることから、撮像条件でどのように変化するかも同時に調べてみたので、報告したい。
図3 Flow Sensitive Black Blood (FSBB)
図4 FSBB sequence
図5 FSBB 法とcone-beamCT とT1W1 の比較
図6 FSBB acquistion conditions and lmages
図7 Mean voxel values
FSBB法を利用した穿通枝動脈の造影
 FSBB法とは、高速流から低速流までの血流をdephaseさせ、Black Bloodとして描出させるという手法であり、gradientecho法にMPGという傾斜磁場をかけることによって、細かい血管まで描出させることに成功している(図3)。FSBB法の画像(図4)を見ると、元画像はノイズが多く分かりづらいものの、よく見ると、穿通枝動脈も目で追える程度のコントラストがついていることがわかる。さらにMIP画像にして画像を反転させると、穿通枝動脈や静脈が明確に確認できる。次にcoronalで見ると、やはり多少コントラストが弱いものの、よく見ると穿通枝がMCAから被殻に入っていくのが確認できる。FSBB法と、thin sliceで撮った3D-アンギオおよびT1WI画像とで、どの程度穿通枝動脈が表示できるのかを比較したところ、FSBB法では、他と比べかなりしっかりと穿通枝動脈が表示されることがわかる(図5)
 そこで、撮影条件や、繰り返し時間(TR)、エコー遅延時間(TE)の組み合わせを変化させ、FSBB画像の変化を観察した。その結果、フリップ角(FA)を一定20°のままTRおよびTEを短くした場合はT1の成分が強い画像となり、例えば脳室の中は黒色に描出された。一方TRおよびTEを延長していくと、T2の成分が強くなっていき、脳室の中の脳脊髄液(CSF)は白色に描出された(図6)。次に、それぞれのTR/TEにおいて穿通枝動脈のproxymalからdistalにかけて3点撮影し、その信号値をプロットすると、近位から遠位に移動するにつれ、当然血管は次第に細くなっていくため、コントラストは低下していくが、画像としては次第に脳の信号の強度に近づいていくことが示された(図7)。穿通枝の遠位部のみで比較すると、TEを延ばせば延ばすほど、次第に信号値が低下していき、末梢の血管まで描出できることがわかる。このように、TRとTEの組み合わせを変化させることにより、血管の末梢までしっかりコントラストが出るか否かが異なってくることが示された。これらの検討の結果、TR/TEが50/40、b valueを4、FAを20にした時に、穿通枝の末梢まで最も明瞭に描出されるとの結論に至った。したがって当院では、以降は本条件にて解析を実施することとした。ただしこの条件においても、やはりコントラストが不十分な部分が少なくなく、しかも測定者自身が目で追っていかなければならないなど、測定が困難と感じる部分も多い。そこで現在、これらを自動化する研究を行っている。上記でTR/TEを少しずつ変化させたように、b valueを少しずつ変化させ、動脈または静脈が描出されやすい値や、脳脊髄液の信号値の変化のパターンを調べ、Support Vector Machineという方法でそのパターンを機械学習させて画像を自動認識させることで、例えば画像が脳実質なのか、穿通枝なのか、それとも脳脊髄液バックグラウンドなのかということを自動認識できるのではないかと考えている。
 
高血圧、糖尿病、および高脂血症と穿通枝動脈との関連
 2009年の論文3)において、7TのMRAでは、高血圧例では描出される穿通枝の本数が少ないこと、しかも、特に脳卒中と関連してこのような現象が認められるわけではなく、正常人を対象とした比較により、このように高血圧の有無により穿通枝が描出されるか否かが分かれることが報告されている。また別の論文では、同様にMRAを使用して確認できる穿通枝動脈数を計測し、その多寡により、最終的に脳卒中と関連性があるか否かについて研究している。そこで当院において19例を対象としてMCAから分岐した穿通枝(レンズ核線条体動脈)の本管の部分の本数を3D-アンギオ画像を用いて計測し、その中でもっとも長い枝の道のりと距離とを計測してその比を算出することにより、穿通枝動脈の蛇行の状態を定量的に評価した。その結果、高血圧、糖尿病および高脂血症の有無と、穿通枝の描出数との間に傾向は認められなかった。また穿通枝の描出距離は、高血圧、糖尿病、高脂血症のいずれかがある場合に短い傾向が認められ、特にすべてを有する例でその傾向が強かった。高血圧例では、動脈硬化が進むため、穿通枝の蛇行が強いことが示された。またこれを出血群、ラクナ梗塞群、心原性脳梗塞、血管解離、およびそれ以外の群に分けて比較したところ、サンプル数が少ないため明らかな傾向はみられないものの、穿通枝は脳出血群で比較的太く長く描出され、蛇行が強いとの傾向が認められた。

まとめ
 以上より、イメージングにより穿通枝であるレンズ核線条体動脈の変化を評価できることが示され、最終的にはsmall vesseldiseaseの評価にイメージングが応用できると考えられ、このことによって、脳卒中関連疾患の病態の解明と臨床応用につながることが期待される。特にFSBB法では、非侵襲、非造影で穿通枝動脈を観察できることが大きなメリットといえよう。

 
 

〈文献〉
1) Man BL et al:Lesion patterns and stroke mechanisms in concurrent atherosclerosis of intracranial and extracranial
vessels. Stroke 40(10):3211-3215,2009
2) Greenberg SM et al:Microbleeds versus macrobleeds: evidence for distinct entities. Stroke 40(7):2382-2386, 2009
3) Kang CK et al: Hypertension correlates with lenticulostriate arteries visualized by 7T magnetic resonance angiography. Hypertension 54(5): 1050-1056, 2009

 
 

(本記事は、RadFan2013年8月号からの転載です)