医療現場を “見えない技術”で支える ~Qt医療機器担当トップ Roger Mazella氏をインタビュー~

2025.07.25

 The Qt Company Oy(以下Qt)は、フィンランド発祥のQt Groupから2016年に独立した会社だ。世界で約900名の人材を擁し、ユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)を主に扱う会社である。メディカル分野においても同社の技術は多くの機器に採用されており、私たちは知らないうちにその恩恵を受けているという。例として、超音波診断装置や手術ロボット、患者モニタリングシステムなどが挙げられる。今回、同社の医療機器担当リーダーであるRoger Mazella氏へ、同社の戦略や今後の展望について伺う機会を得た。


Roger Mazella氏


成長続く日本の医療市場 Qtが目指すアジア展開

 今回の来日についてMazella氏は、今後アジア市場での展開を見据え、まずは日本の実態を把握することが目的と語った。現状、日本の医療技術市場は拡大し続けており、年間成長率は5%を超える。とりわけコロナ禍のパンデミック以降は、在宅診療や遠隔医療などの“病院外での”ケアが急速に広まったため、誰にとっても使いやすく、そして様々な医療機器間で円滑に連携・情報共有可能な製品が求められている。

 こうした背景のもと、遠隔医療やデジタルヘルスソリューションへの関心が高まっており、Qtはそういった医療機器のUIフレームワークを開発。医療技術トップ企業100社のうち、Qtを利用している会社は80社にものぼる。これほど多くの支持を集める理由としてMazella氏は、テクノロジーの他、「医療業界の複雑性や課題を正確に押さえていることへの評価」、「医療を含め多分野にわたる経験を持つ人材」を挙げていた。


多様な医療機器を支えるQtの技術 認知拡大が課題に

 紹介された導入事例のひとつに米国clarius社の超音波スキャナがある。ワイヤレスかつハンディと使い勝手が良いだけでなく、取得したデータをスマートフォンなどの普段使いの端末で閲覧できる仕組みとなっている。Qtの技術は、このDICOM画像変換及び他ツールとの相互運用性の向上に活用されている。

 そのほか、冒頭で挙げたように多岐にわたる医療機器の基盤としてQtが採用されている。しかし、その存在はあまり表に出ず、医療業界や開発者を除けば、認知度はまだ高くない。ブランディングは今後の課題の一つであると、Mazella氏は語った。


Qtが重視するユーザビリティの本質 「使いやすさ」が支えるもの

 Qtの心電図モニターEcho Cardioのデモ機は、よりリアルな臓器イメージの表示のほか、画像の回転など直感的な操作を可能にする設計となっており、Qtのユーザビリティへのこだわりを実感した。デモ機を紹介する中でMazella氏は、医療機器の価値について次のように語った。「医療機器が意図された形で機能し、使用されることの価値は何でしょうか。正しく機能すれば本来は素晴らしい機器であるとしても、使い勝手が悪いせいで、例えばヒューマンエラーが起こったりすれば、その価値は損なわれてしまいます。Qtを通じて開発された製品であれば、直感的で扱いやすく、意図された機能で使用されるため、その本来の価値を発揮できるのです」。

 Qtの社名の由来は、キュート(かわいい)からきたものだという。Qt社はユーザビリティを重視し、今後の人々の健康をキュートに支える大きな力となるだろう。



お問い合わせ先

電話:+81 3 6264 4500

メール:japan@qt.io