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※1 鳥取大学医学部病態解析医学講座画像診断治療学分野
※2 鳥取大学医学部附属病院放射線部
石橋 愛※1、崎本翔太※2、奥田恭平※2、藤井 進※2、森山 茂※2、田邉芳雄※1、小川敏英※1
123I-FP-CITによるドパミントランスポーターイメージングは、使用装置や撮像・処理条件によって画像に差異が生じるため、異なる装置間での比較には慎重な評価が必要である。特に2検出器型装置と3検出器型装置では感度、分解能とも異なる。当院で2検出器型及び3検出器型両方で検査を施行した2症例を紹介する。
In dopamine transporter SPECT imaging with 123I-FP-CIT, the image quality varies according to SPECT systems which have different types of collimator, attenuation correction, image processing, image acquisition methods, reconstruction algorithms, and others. Therefore, the careful evaluation should be needed in the comparison between different SPECT systems. Especially, triple-head SPECT systems provide better imaging performance than dual-head systems. We reviewed 123I-FP-CIT SPECT findings in two cases which were examined using both a tri plehead system and a dual-head system.
■はじめに
123I-FP-CITを用いたドパミントランスポーターイメージング(DAT-SPECT)は、使用するSPECT装置や撮像条件、再構成・補正などの画像処理条件などによって、得られる画像に差異が生じうるため、他施設・他装置間での比較の際には慎重な評価が必要とされる。当院では、2014年11月より頭部SPECT検査用として3検出器型装置GCA-9300R(東芝メディカルシステムズ株式会社)が導入されたが、特に2検出器型装置と3検出器型装置では感度、分解能とも異なることに注意を要する。DAT-SPECTにおいて2検出器型および3検出器型装置の両方で検査を施行した2症例を紹介する。
●症例1
症例:50歳代、男性。
主訴:歩行障害。
病歴:1年前より歩行障害、立ちくらみを自覚し、耳鼻咽喉科で精査するも異常を認めなかった。家族歴にパーキンソン病があるため、同疾患の可能性も考えられ、精査加療目的に神経内科紹介受診となった。
●画像所見および経過
初診時頭部MRI:
軽度の小脳萎縮および大脳白質の慢性虚血性変化を認めるのみで、その他には明らかな異常所見を認めなかった。
約半年後のMRI(図1):
橋、両側中小脳脚、小脳虫部、小脳半球の萎縮を認めた。
初回DAT-SPECT(図2):
2検出器型装置で撮像。線条体の集積は両側とも高度に低下し、DaTView(AZE社)による特異的結合率(specific binding ratio: SBR)は1.09( 右1.20、左0.98、asymmetryindex 20.3%)であり、高度障害が示唆される所見であった。
左側優位のパーキンソニズムおよび著明な自律神経障害を認めた。遺伝子解析およびその他の検査、臨床症状からパーキンソン病は否定され、多系統萎縮症と診断された。外来にて経過観察となったが、症状増悪し、再評価のため、半年後に画像再検査となった。
2回目のDAT-SPECT(図3、4):
2検出器型および3検出器型装置で施行。いずれの装置においても、線条体集積は両側とも高度に低下しているが、集積が比較的保たれている尾状核頭部の集積は3検出器型装置でより明瞭に描出されていた。SBRは2検出器型装置では1.38(右1.48、左1.29、asymmetry index 14.1%)、3検出器型装置では1.26(右1.34、左1.17、asymmetry index 13.6%)。
同時期の頭部MRI(図5):
中小脳脚および橋底部下部の萎縮が進行し、橋正中に線状のT2WI高信号域を認めた。
現在も外来にて経過観察中である。
●症例2
症例:70歳代、男性。
主訴:下肢の不随意運動。
病歴:2012年より右上肢振戦が出現し、パーキンソン病疑いにて精査を行うも診断確定せず、経過観察となった。2014年6月より振戦の増悪、固縮、小刻み歩行、認知機能障害が出現し、パーキンソン関連疾患疑いにて、精査加療目的に入院となった。
●画像所見および経過
入院時頭部MRI:
びまん性脳萎縮および慢性虚血性変化を認める他には、異常所見を認めなかった。中脳被蓋や海馬・海馬傍回などの局所的な萎縮も見られなかった。
初回DAT-SPECT(図6):
2検出器型装置で撮像。線条体へのトレーサー集積は比較的保たれており、明らかな左右差や局所的な集積低下を認めない。SBRは3.00( 右 3.03、左 2.96、Asymmetry index2.4%)であった。
123I-MIBG心筋シンチグラフィ:
明らかな心交感神経機能低下を認めなかった。
99mTc-ECD脳血流SPECT:
局所的な脳血流低下は認めなかった。
遺伝子検索にて遺伝子異常なし。臨床症状、画像所見から、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症、多系統萎縮症、正常圧水頭症は否定的と考えられた。薬剤性パーキンソニズム疑いにて、原因と思われる薬剤を中止し、経過観察となった。上肢の症状は改善するも、緩徐な経過であり、夜間の下肢不随意運動が持続するため、DAT-SPECT再検となった。
2回目のDAT-SPECT(図7、8):
2検出器型および3検出器型装置で施行。2検出器型装置では、被殻後部の集積がやや低下して見え、SBRは2.22( 右2.36、左2.09、asymmetry index 12.4%)であった。一方、3検出器型装置では、線条体集積は比較的保たれて見え、SBRは4.98(右4.82、左5.14、asymmetry index 6.3%)であった。
下肢振戦は、筋電図と出現特性から夜間周期性四肢運動障害、下肢静止不能症候群(むずむず脚症候群)と診断され、外来にて経過観察中である。
■解説
当施設では、2014年11月に頭部SPECT検査用として、3検出器型SPECT装置(GCA-9300R、東芝メディカルシステムズ株式会社)が導入されてから、DAT-SPECTを含む頭部SPECT撮像は3検出器型装置で行っている。3検出器型装置の導入前は、2検出器型装置(E.CAM、Siemens)でDAT-SPECTを施行していた。DAT-SPECTにおけるSPECT装置の撮像条件、処理条件の詳細は別表に示す(表1、2)。いずれも123I-FP-CIT 167MBq投与3時間後より撮像を開始している。
DAT-SPECTは、線条体が放射線の減弱・吸収の影響を受けやすい脳の深部に位置すること、線条体そのものが複雑な小構造であり、部分容積効果を受けやすいことなど、DaTイメージング特有の問題が存在する。また、撮像に関しても、収集条件、画像処理、画像表示に関して多くの設定が可能であり、使用するSPECT装置やコリメータ、撮像条件、再構成・補正などの画像処理条件などによって、得られる画像に差異が生じる。
臨床における線条体のトレーサー集積評価には視覚的判定が用いられるが、より客観的に評価するために、定量的評価を加味することが推奨されている。定量的指標として、線条体の特異的結合による放射能と非特異的結合による放射能との比から算出されるSBRがよく用いられている。当院では、Bolt法を用いたDaTView(AZE社)によりSBRを算出している。しかし、定量的評価も撮像条件や画像処理条件による影響はもちろんのこと、機種間差など様々な要因によって変動しうる。
3検出器型装置は、三角状の検出器の配置から、検出器を120°回転させるだけで360°分のデータ収集が可能である。そのため、従来の汎用2検出器型装置と比較して、同等の収集時間でノイズの少ない高画質な画像が得られる。また、頭部領域ではファンビームコリメータが用いられるため、測定対象を拡大して撮像することにより、3検出器との相乗効果によって、優れた空間分解能と飛躍的な感度向上が期待できる。
線条体ファントムを用いた2検出器型装置と3検出器型装置の比較検討1)では、感度・分解能ともに優れている3検出器型装置の有用性が示されている。低濃度ファントムでは2検出器型装置では線条体の形状が担保できず、バックグラウンドとの識別が不明瞭になったが、3検出器型装置は視覚的に線条体を確認することが可能であった。また、短時間収集においては、3検出器型装置では線条体の集積の均一性が比較的保たれているのに対し、2検出器型装置では背側で集積分布が不均一に低下することが確認されている。
DAT-SPECTの臨床例で2検出器型装置と3検出器型装置を比較した研究はまだ報告されていないが、頭部専用リング型装置と2検出器型装置でDAT-SPECTの臨床例を比較した検討2)では、正常集積を示す対照群と集積低下群(パーキンソン病、脊髄小脳変性症2型)の診断能に差はなかったが、2検出器型装置のSBRの値はリング型の約半分程度であり、集積低下群よりも正常集積群で集積差が大きくなる傾向が見られた。臨床例における、2検出器型装置と3検出器型装置の比較検討でも同様の結果が得られることが予想される。
画像処理・再構成条件の違いによる検討は、主に線条体ファントムを用いて実施されている1、3)。SBRは、散乱線補正、減弱補正を行うことで、線条体とバックグラウンドとのコントラスト比が高くなり、補正がない場合と比較して、より高値を示し、ファントムの設定値に近くなる。特に散乱線補正による影響が大きく、補正なしのSBRから約3~4割程度上昇する。
今回の症例では、症例1は線条体集積が非常に低下しているため、機種間の差が目立たなかったと思われる。一方、集積が比較的保たれていた症例2では、機種および再構成条件の違いによる影響が強くなり、3検出器型装置で線条体の集積増強およびSBRの高値が見られたと考えられる。
DAT-SPECTの画像やSBRが、機種や撮像条件・画像処理条件によって異なることは以前から言われており、線条体ファントムを用いた検討が行われている。今回は、過去のDAT-SPECTとの比較のために2つの装置で撮像を行ったが、実臨床においても装置間および撮像・処理条件が視覚的評価および定量的評価に影響することが示された。他施設・他装置間での比較の際には慎重な評価が必要であり、今後は施設を超えた比較を行うためにも、DAT-SPECTにおける定量的評価の標準化が望まれる。
〈文献〉
1) 関本道治ほか:ドパミントランスポータシンチグラフィーの基礎技術.臨床核医学 48(3):38-42, 2015
2) Varrone A et al: Comparison between a dual-head and a brain-dedicated SPECT system in the measurement of the loss of dopamine transporters with [123I] FP-CIT. Eur J Nucl Med Mol Imaging 35(7):1343-1349, 2008
3) 崎本翔太ほか:線条体イメージングにおいて、Bolt法を用いた定量的指標算出の際の減弱補正、散乱補正の必要性.核医学技術 35:372,2015
(本記事は、RadFan2016年1月号からの転載です)