第87回 日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー 講演1:ERCP関連手技

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2014.12.03

第87回 日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー

CアームX線システムを用いた胆膵内視鏡治療Update
日時:2014年5月15日
場所:福岡国際会議場
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長

 

愛知県がんセンター中央病院
山雄健次 先生

講演1 ERCP関連手技

 

演者
 

手稲渓仁会病院消化器病センター
真口宏介 先生

【KEY Sentence】
●ERCP関連手技には、鮮明なX線画像が得られるX線システムが必須である。
●内視鏡とX線画像のモニタの隣接配置により処置が効率的になる。
●他の撮像済みの画像情報も同時に確認できる環境があるとよりよい。
●アンダーチューブ方式の採用・X線遮蔽の工夫により術者の被ばく低減が可能になる。
●「見える透視像」により細かなERCP関連手技を安全に実施することができる。

 
 
近年増加傾向のある内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)関連手技を効率的に実施していくためには、術者の内視鏡手技の向上だけでなく、使いやすいX線室あるいはX線システムが欠かせないものとなる。本稿では、胆・膵内視鏡医が求めるX線室の姿と当センターで使用しているFPD搭載CアームX線システム(Ultimax-i、東芝メディカルシステムズ社製)の有用性について症例画像を示しながら紹介する。
 

図1 ERCP関連手技件数の推移
ERCP関連手技は増加傾向にある。
はじめに
 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)関連手技は、乳頭切開、胆管ドレナージ、胆嚢ドレナージ、膵臓に対する治療、乳頭切除など多岐にわたる。最近では術後腸管例に対するバルーン内視鏡を用いた診断・治療法も行われるようになってきていることから、X線を用いた検査も増加している。当センターでもERCP関連手技の実施件数は増加傾向にあり、年間1,000例を超える勢いである(図1)
。そのような状況で胆・膵内視鏡医が効果的にERCP関連手技を実施するためには、どのようなX線室が求められるのだろうか。

図2 X線室での処置や治療の増加に応える設備

当センターのX線室は2部屋あり、
その間に操作室を置いている。

 
CアームX線システムUltimax-i(東芝メディカルシステムズ社製)

 

図3 オーバーチューブとアンダーチューブの散乱線量比較(相対値)
図4 術者の被ばく防護
図5 アンダーチューブ方式の有用性
遮蔽の工夫によって術者被ばくを抑えることができる。
胆・膵内視鏡医が求めるX線室とは
 胆・膵内視鏡医が望むX線室のポイントはいくつかある。まずガイドワイヤーを用いた細かな処置やステントの先端の位置を確実に把握するための鮮明なX線画像が得られること。数多くの手技を行っていく状況においての術者の被ばく低減。さらに、内視鏡とX線画像のモニタが隣接配置されていることで処置が効率的でスムーズに行える。また、MRCPなど他の撮像済みの画像情報も同時に提示される環境があるとより処置がしやすくなる。これらのポイントを満たしながら、可能な限り十分なスペースを確保し、内視鏡室内に専用のX線室を設ける、あるいは常時使用可能なX線室がある環境が理想的である(図2)
 
拡大しても鮮明な透視像
 X線画像を拡大して表示する機能の利用価値は非常に高い。当センターでは内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)や小さな結石の摘出、あるいはバルーンが完全に膨らむ直前で圧を止めるなどの工夫をするときに拡大して観察している。また選択的に肝内胆管枝あるいは胆嚢管にガイドワイヤーを挿入するような場合も、拡大機能を用いてモニタリングすることで安全に手技を進めることが可能となる。Ultimax-iに搭載されたFPD:Flat PanelDetectorの透視像は拡大しても画像が鮮明で、迷わず手技を進めることができる。
 
アンダーチューブ方式による術者の被ばく低減

 術者の被ばくについて、実際にオーバーチューブとアンダーチューブでの散乱線量を測定すると、オーバーチューブの場合には術者の上半身側への被ばくが多く、アンダーチューブの場合には術者の下半身側への被ばくが多くなることがわかった(図3)。従来は上方からX線を出力するオーバーチューブが一般的に用いられていたが、手技を行う上半身側は遮蔽することが難しいため、アンダーチューブを用いて下半身側に遮蔽の工夫を行うことで被ばくを最小限にとどめられると考える。当センターでは、図4のようにアンダーチューブに遮蔽カーテンと遮蔽板を設置することによって下半身側の散乱線を防護している。これにより、胸部より下側の被ばくが大幅に低減できた(図5)。これらの遮蔽カーテンや遮蔽板は、術野の邪魔にもならず、手技を円滑に進めることができる。

図6  当センターのX線室の配置の変遷
図7 わかりやすい4面モニタ
術中ナビゲーションが安心して行える。
視線を大きく変えずに様々な情報が得られるモニタの配置
 モニタの配置に関しては、以前は術者、患者、モニタの位置関係を現場でかなり工夫する必要があったが(図6)、現在はUltimax-iを導入し、4面モニタを配置してなおかつ、十分なスペースを確保できている。4面モニタの活用方法として、当センターでは内視鏡とX線透視像を下段の左右に並べ、MRCPやCTなどほかの検査の画像情報と同一検査内に撮影したX線撮影像を上段に配置している。これにより視線を大きく変えずに、撮影像などの参照したい画像と透視像を対比しながら処置を進めることが可能である(図7、左上:他の画像情報 右上:撮影(静止画) 左下:内視鏡 右下:透視(動画))
図8 Cアームの有用性
Cアームを動かすことで骨との重なりのない見やすい画像を表示している。
様々な角度から観察できるCアーム
 ERCPを実施する際、原則的に患者はセデーション状態にあるため患者を動かして撮影することは難しいが、Ultimax-iのCアームを用いることで、骨や金属インプラントが写りこまないようアームの角度を変えて撮影することが容易になる(図8)。また、ステントの下端や上端、あるいは狭窄部が中心に来ているかといった確認をするうえでもCアームは重宝する。観察したい様々な角度から必要な情報を迅速かつ的確に得られることが、Cアームを備えたX線システムの大きなメリットの一つである。

「見える透視像」の有用性を実感したERCP関連手技
 
症例1 膵癌による閉塞性膵管炎と胆石胆嚢炎の合併例

 図9は膵癌による閉塞性膵管炎と胆石胆嚢炎を合併した症例である。このような症例において、Ultimax-iの透視像ではガイドワイヤーがはっきりと見える。この症例では、膵管狭窄部を越えて1本目のガイドワイヤーを留置し、2本目のガイドワイヤーをループテクニックで胆嚢管を越えて胆嚢内に挿入し、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)と内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージ(ENGBD)を同時に施行した。このようにガイドワイヤーがよく見えることにより、手技の成功率が向上すると考えられる。
 
図9 透視像 膵癌による閉塞性膵肝炎+胆石胆嚢炎

a 膵管にガイドワイヤーを入れる。
b 胆嚢管起始部を造影して胆嚢管を確認し、
ループテクニックで胆嚢管を超える。

症例2 胆管多発狭窄に対するEMS留置
 図10に示したのは大腸癌のリンパ節転移で胆管に多発狭窄が起こった症例で、まさに見える透視像の必要性を実感した難しいケースであった。胆管上流と中部に変位を伴う狭窄があり、右の胆管は映っているが、開存していない左側は全く映っていない。ここで、0.035インチのラジフォーカスガイドワイヤーで左に探りながら挿管していく。 その後狭窄部を通すためにバルーンカテーテルを用いてガイドワイヤーが手前に戻らないようにブロックする。ここで使用しているのは0.025インチのガイドワイヤーであるが、透視像ではっきりと視認することができる。狭窄部を突破した後、右の前区域枝側にガイドワイヤーを誘導し、狭窄部をバルーン拡張してメタリックステントをpartial stent-in-stentの形で留置した。
 
図10 透視像 胆管多発狭窄に対するEMS留置

a 胆管上流と中部に変位を伴う狭窄があり、左胆管は開存していない。
b 0.025インチのガイドワイヤーの動きを透視像で確認しながら狭窄部を通してゆく。

c 狭窄部を通すためにバルーンでガイドワイヤーの戻りをブロックする。
d ステント留置のためバルーンで狭窄部を拡張する。

症例3 迷入したプラスチックステント(PS)の回収
 図11に示すのは、胆管ステントが狭窄部を越えて肝内胆管まで迷入した症例で、ステントの回収を行った。まずガイドワイヤーを狭窄部を越えて挿入しバルーンで狭窄部を拡張し、その後バルーンで回収したいステントを手前側に引いてくる。この操作をすることによってバスケット内にステント下端を入りやすくし、つかむことが容易になる。このような細かい手技を行うことができるのは、透視像の画質が非常に良いこととその画質を維持したまま必要なときに拡大できることによる寄与が大きいと考える。
 

図11 透視像 迷入EBS(PS)の回収

a バルーンで狭窄部を拡張する。
b バスケットでプラスチックステントをキャッチし、回収する。

まとめ
 ERCPやEUSなどX線室での内視鏡検査件数が増加している状況においては、内視鏡室に高画質低被ばくのFPD搭載CアームX線システムをはじめとしたX線室の設備の充実が望まれるだろう。あるいは専用の内視鏡室でなくとも、内視鏡医が常時使用できるような環境をつくることにより、低侵襲で効果的なERCP関連手技が今後さらに発展していくことを期待している。

 
 
(本記事は、RadFan2014年8月号からの転載です)