第33回日本画像医学会ランチョンセミナー:320列面検出器CTと3テスラMRIによる最先端の臨床応用

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2014.07.23

第33回日本画像医学会ランチョンセミナー

320列面検出器CTと3テスラMRIによる最先端の臨床応用
日時:2014年2月21日
場所:ステーションコンファレンス東京
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長

 

広島大学大学院医歯薬保健学研究院放射線診断学研究室
粟井和夫先生

MR Flow labeling imagingの可能性
―Time-spatial labeling inversion pulse(Time-SLIP)法の種々の部位への応用―

 

演者
 
広島大学大学院医歯薬保健学研究院放射線診断学研究室
福本 航先生

【KEY Sentence】
●Vantage Titan 3Tを用いたTime-SLIP法は、従来と原理の異なる非造影MRAの手法として注目されている。
●Time-SLIP法は血管系の形態を描出できるほか、反転時間を段階的に変化させることで血行動態の把握も可能になる。
●Time-SLIP法は、血流のみならず脳脊髄液、尿、唾液、膵液などさまざまな液体の流れも描出可能なFlow labeling
imagingである。
●Time-SLIP法には大きくFlow-in法とFlow-out法があり、撮影部位によって適切に選択することが必要である。
●より効果的な撮影方法や反転時間の設定などを定めることで幅広い臨床応用が期待される。
 
Time-SLIP法は血流だけでなく脳脊髄液や尿、唾液、膵液などの流れ(flow)も描出可能であるため、従来のMR angiography(MRA)を拡張した「Flow labeling imaging」の手法ととらえることもできる撮影方法である。その最大のメリットは造影剤を使用することなく、血管系・非血管系を問わずあらゆる領域のflowの画像化が可能な点である。Vantage Titan 3Tの臨床経験をもとに、非造影MRAの一手法として近年注目されているTime-SLIP法の臨床応用の可能性について症例を呈示して解説する。
 

図1 Flow-in法
図2 Flow-out法
あらゆる体液のflowを描出できるMR flow labeling imaging
 従来、体幹部のMR angiography検査には造影剤を使用するのが主流だった。しかし、腎機能低下や喘息を有する患者には造影剤を使用できない。また、ガドリニウム造影剤による腎性全身性線維症(NSF)の問題もあり、安全性の観点から非造影MRAに大きな期待が寄せられている。非造影MRAには従来から使われているtime-of-flight(TOF)法やphasecontrast(PC)法がある。
 そんな中で近年注目されているのが、従来法とは非造影の原理が異なる撮影方法であるTime-spatial labeling inversion pulse(Time-SLIP)だ。Time-SLIP法は、空間選択的IRパルスを関心領域に印加することでその領域の信号を抑制し、空間選択的IRパルス印加後に流入してくる血流などを、造影剤を使用することなく画像化できる撮影方法である。
 Time-SLIP法はさまざまな領域の流れを描出できるため、MRAというよりもさらに広くFlow labeling imagingの手法ととらえることもできる。パルスシーケンスとの組み合わせにも自由度があり、FASE法やTrueSSFP法などと組み合わせることでより良好な画像が得られる。
 
Flow-in法とFlow-out法で液体の流れを高信号に描出
 Time-SLIP法は大きくFlow-in法とFlow-out法に分けられる。
 Flow-in法は、関心領域に空間選択的IRパルスを印加することで、関心領域内に流入してくるflowを高信号に描出する方法である(図1)。目的とする範囲に空間選択的IRパルスを印加することで、血管などを含めた背景が低信号となる。空間選択的IRパルスを印加してからの反転時間(Black blood inversion time:BBTI)が経過するにつれて、目的範囲外から流入してくる液体が高信号に描出される。
 これに対して、Flow-out法ではまず非選択的IRパルスを印加し、関心領域外に空間選択的IRパルスを印加することで関心領域に流入してくるflowを高信号に描出することが可能となる(図2)。最初に非選択的IRパルスを印加し、全体を低信号化させる。目的とする撮影範囲の上流に選択的IRパルスを印加する。BBTIが経過するにつれて、この領域から流出する液体が高信号となって描出される。
 Flow-in法とFlow-out法の使い分けについては研究段階である。目的とする液体の流速や呼吸性変動の有無を考慮し、部位によって適切な撮影方法を選択する必要がある。
 Flow labeling imagingでは、腎動脈や門脈、末梢血管などの血管系の形態を描出できるほか、反転時間を段階的に変化させることで血行動態の把握も可能になる。さらに、脳脊髄や尿管、唾液腺、膵臓などでは生理的条件下での体液の流れが描出可能である。これらがTime-SLIP法の大きな特徴の一つであり、さまざまな疾患や機能障害の診断などに応用できる有力な手法と目されている。
図3 腎動脈(右腎細胞癌術前)
図4 門脈(先天性胆道閉鎖症術後の肝硬変)
図5 手の末梢血管(ボランティア)
血管系のTime-SLIP法臨床例―腎動脈、門脈、手の末梢血管
 以下、血管系疾患の臨床症例を示す。血管系疾患において、Time-SLIP法は選択的に血管が描出できるため、血行動態を観察できることが大きな強みである。
 図3は右腎細胞癌の症例。Flow-in法で撮影している。BBTIは1500msで、撮影シーケンスはTrueSSFP法を使用した。右腎動脈が腎門部まで描出可能だった。この症例は腎機能が良好で喘息などの既往もなかったため、造影剤を用いたダイナミックスタディも行ったが、Time-SLIP法により、「造影あり」の撮影と比較的近い画像が得られた。
 腎動脈狭窄や腎腫瘍などの症例では腎機能が低下している場合もある。Time-SLIP法は造影剤を使用せずに腎動脈の評価を行えるため有用である。
 Time-SLIP法は肝外門脈系の描出にも優れており、左右門脈の二次分枝レベルまでの描出が可能である。門脈の形態は造影CTなどでも評価できるが、門脈圧亢進症などでは血行動態の評価も重要である。Time-SLIP法ではBBTIを変化させることにより造影剤を使用することなく非侵襲的に血行動態の評価を行える可能性がある。
 図4は先天性胆道閉鎖症術後の肝硬変の症例(17歳、女性)である。門脈系の血行動態を評価する目的でFlow-in法により撮影した。撮影シーケンスはTrueSSFP法を用いている。BBTIは1300ms、1800ms、2500msと変化させた。この症例では門脈圧亢進症があるために、BBTIが延長するにつれて脾静脈が逆行性に描出されている。BBTI2500msの画像では背景信号も回復してくるのでややわかりにくいが、脾腎シャントと思われる蛇行した血管まで描出されているのがわかる。
 一方、比較的流速の早い末梢血管でもTime-SLIPによるflowの評価が可能かどうかを確認した。
 ボランティア(25歳、男性)の手の末梢血管をFlow-out法で撮影した。まず、BBTI1500ms、FASE法を用いて撮影したところ、固有掌側指動脈まで描出できた。だが、指の血流は個々により異なるため、症例ごとのBBTIを決定する必要がある。図5はBBTIを1500ms、1650ms、1800ms、2500msと段階的に変化させたものである。BBTIを延長することによって、より末梢まで描出可能となることがわかる。ただし、BBTIを延長すると背景信号がやや回復してくるのでコントラストがつきにくくなる。
 糖尿病では末梢血管の血流障害を呈することがあるが、腎機能低下を合併している例も少なくない。腎機能低下を有する末梢の血流障害の評価にもTime-SLIP法の応用が期待さ
れる。
図6 脳脊髄液(ボランティア)
非血管系のTime-SLIP法臨床例―脳脊髄液、唾液腺、尿管、膵液
 前述したようにTime-SLIP法では、血流以外の体液の生理的動態の評価も可能である。ここからは非血管系の症例を紹介する。
 図6はボランティア(25歳、男性)の脳脊髄液を撮影したものである。Flow-out法で撮影し、画像シーケンスはFASE法を使用した。全体を低信号化し、上流に再びIRパルスをかけて高信号化した領域から流出する脳脊髄液が高信号に描出された。さらに、BBTIを2000msから4800msまで200msごとに段階的に変化させたところ、関心領域から出ていくflowが拍動性に描出されていることが確認された。
 脳脊髄液では、動態変化を描出することで水頭症の原因検索や治療効果判定などに有用である可能性がある。われわれは、中脳水道狭窄やクリプトコッカス髄膜炎による水頭症が疑われる症例に対してFlow-out法を用いて脳脊髄液の動的変化を観察している。いずれも、BBTIを段階的に変化させながらの撮影を行い、flowの停滞により狭窄・閉塞の部位が確認され、水頭症の原因検索に有用であった。
 唾液腺の生理的動態の評価にもTime-SLIP法を用いることができる。ボランティアの方にレモン液を使用して唾液の排出を促進し、Flow-in法で撮影したところ、耳下腺管内の唾液が描出されることが確認できた。連続的にレモン液刺激を行って撮影したところ、間欠的に耳下腺管内の唾液が描出された。
 シェーグレン症候群や放射線治療後では唾液の分泌が低下することが知られる。唾液の分泌を描出することで新たな診断の一助となる可能性がある。
 また、尿管の描出は造影CTや通常のMRUでも可能だが、これらは静止像であり、尿の流れなど動的変化については評価できない。Time-SLIP法では生理的条件下での尿の流れも描出可能であり、尿管膀胱逆流などの異常を評価できる可能性がある。
 尿管の尿の流れを評価するためにボランティアの尿管をFlow-out法で撮影した(シーケンスはFASE法)。BBTIを1500msで一定にし、連続的に撮影したところ、尿管内の尿が上から下へ流れていく様子が確認された。
 最後に紹介するのは膵液のflowである。ボランティアをFlow-out法で撮影した(BBTIは2500ms、FASE法)。選択的にIRパルスをかけることで、そこから出る信号からわずかながら膵液が描出されるのが確認できた。ただし、膵液の流れは遅いため、背景信号が回復してくるのが問題点である。急性膵炎では膵液の排出低下がみられる。また、膵液分泌の低下している慢性膵炎にも応用できるとの報告もあり、今後の臨床への応用が期待される。

今後の展望
 Time-SLIP法により、血流のみならず、脳脊髄液、唾液、尿、膵液といった体液の流れも描出が可能であることが確認された。Time-SLIP法では、さまざまな領域のflowの描出が可能だが、まだ症例数が少なく、撮影方法や反転時間の設定など明確に定まっていないことも多く、現段階ではまだ撮影には経験が必要とされる。今後、さらに症例数を蓄積して撮影方法などを確立することで、新たな診断の一助となる可能性があると考えている。
 
(本記事は、RadFan2014年5月号からの転載です)