CCT2013 ランチョンセミナー:PCI術者における最新の被曝マネジメント

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2014.05.29

CCT2013 ランチョンセミナー

患者にやさしい循環器医療の実践
日時:2013年10月18日
場所:神戸国際展示場
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長

 

国家公務員共済組合連合会虎の門病院
山口 徹先生

PCI術者における最新の被曝マネジメント

 

演者
 
医療法人社団田貫会高瀬クリニック
大井田史継先生

近年、経皮的冠動脈形成術(PCI)で主体的な役割を果たすX線血管撮影において、患者と術者の被曝の問題に関心が高まっている。本稿は慢性完全閉塞(CTO)を例に、PCIにおける最新の被曝低減技術と今後の被曝マネジメントの展望を紹介する。
 
[KEY Sentence]
●患者と術者の被曝低減をめざす新たなPCI被曝マネジメントが求められている。
●PCIの線量低減に「透視収集」、「低パルスレート」、「スポット透視」が有用である。
●「Rotation Angio(回転撮影)」は、線量を分散させることで低被曝PCIを実現する。
●入射皮膚線量をリアルタイムに把握できる「Dose Tracking System(DTS)」が登場した。
●DTSは、これからのPCIの被曝マネジメントに必要不可欠な機能になるであろう。
 

図1 PCI術者のニーズの変遷
(東芝メディカルシステムズ社アンケート調査より)
はじめに
 PCIを施行する循環器内科医に対して「血管撮影装置」に何を求めるかを聞いた(図1)。2010年は画質への関心が最多であったが、2013年には被曝の低減が最上位と、その意識が変化している。ある程度透視の画質に満足ゆくようになった現在、PCI術者の関心は、被曝を抑えたPCIをどのようにして実現するかということにシフトしている。
 
なぜいま、PCIの被曝マネジメントなのか?
 PCI術者が本来なすべきことは、期待された治療効果に辿り着くことである。被曝低減を意識しつつ質を落とさないPCIを実現することが前提なのである。さて、CTOを例にとってみよう。CTOでは治療の質を確保するために透視時間が長時間になり、患者の被曝が多くなりがちである。CTOにおけるPCIの質を確保するために、術中の被曝量をいかにマネジメントするかが重要課題になるのである。 また被曝の問題は患者に限ったことではない。術者自身の被曝が、実は深刻な問題なのであるという認識を持たなければならない。ここに2013年発表の論文1)がある。インターベンション経験平均23年の術者31人が頭頸部癌を発症、その85%が左側頭部に発生していることが示されている。当院にて術者の立ち位置における線量を実測すると、やはり右側頭部の1.7μSvに比べ左側頭部は26.3μSvと被曝線量が圧倒的に高く、この論文の正当性が間接的に裏付けられている。いまや術者自身の安全のためにも、術中の線量管理は重要な問題だと言える。

被曝マネジメントの基本:(1)総線量を抑える
 PCIにおける被曝マネジメントの基本は、手技全体を通じて総線量を抑えることである。ただし、ただやみくもに低線量化することではなく、必要な情報がしっかり見える画質を確保することが肝要である。画質と線量抑制の両立を実現する技術革新を以下紹介する。

図2 PureBrainと透視収集機能
・透視収集を多用する
 透視と撮影の使い分けが総線量抑制の重要なポイントである。検出器入射線量で比較した場合、透視の線量を1とすれば、DA撮影は10、DSA撮影に至っては100前後と、非常に大きな線量差があることをまず理解すべきである。可能な限り透視収集下で手技を進め、ピンポイントで撮影を行えばトータルの線量が低減できる。この場合問題になるのは、透視の画像が診療に耐えうる画質なのかどうかということである。当院のPureBrain(東芝メディカルシステムズ社製)は、Super NoiseReduction Filter技術によって、透視像であっても撮影像と遜色ない画質が得られている(図2)。特に、長時間の手技になる複雑なPCIでは、透視収集の有効性がより高まる。
図3 スポット透視
図4 Rotation Angioによる入射皮膚線量の分散
・低パルスレートに設定する
 透視撮影の際にできるだけ低いパルスレートを使えば、よりいっそう被曝を低減できる。手技の長時間化が事前に予想される場合は、許される範囲でパルスレートを落とすことが肝要である。通常PCIのパルスレートは15pps前後で設定されることが多いが、PureBrainであれば10ppsでワイヤー先端を確認できる十分な画質が得られる。ステントやバルーンの確認目的であれば7.5ppsでも十分である。このように状況に応じて柔軟かつこまめに術中のパルスレートを設定することが、低被曝化に寄与する。
・スポット透視を活用する
 照射するX線の面積を狭めることも有効である。ここでは透視画像の視野を関心領域だけに限定し、関心領域外は無駄なX線照射をしない「スポット透視」が有用である(図3)
被曝マネジメントの基本:(2)線量を分散させる
 放射線皮膚障害を防ぐには、発生する総線量抑制のほかに、線量を分散させながら入射する工夫も重要である。
・Rotation Angioで見る
 CTO症例においてRAO、LAOの2体位を得るケースを考えてみよう。別々にそれぞれの体位で1画像ずつ撮影するときの線量に比べて、Rotation Angioを活用して入射皮膚線量を分散させることは被曝マネジメント上有効なのである(図4)
 以上の技術や手技の進歩によって、装置が出力する総線量や入射線量は低減傾向にある。しかし果たしてこれだけで被曝マネジメントは十分と言えるだろうか? 放射線皮膚障害の患者合併症リスクは本当に低減できるだろうか? 改めてこの問題を振り返り、将来を展望してみよう。

これまでの被曝マネジメントの限界と問題点
 さて放射線皮膚障害のリスク管理から考えると、患者の実際の皮膚線量分布をリアルタイムかつ定量性を持って把握することが重要であることは、論を待たない。ところが現状これまでの血管撮影装置が有している線量表示機能は、装置が発生する1分あたりの入射線量率と積算の入射線量のみである。この積算の入射線量は通常あらゆる方向の入射線量を積算したものであり、アームの入射角度を考慮した現実の局所の皮膚面が受ける線量ではない。つまり、術中の患者の皮膚線量をリアルタイムに正しく把握できる術が、実はこれまで全く存在していなかったのである。この問題に気付き、術中の患者の皮膚線量分布を正確に、定量的にモニターできる機能が新たに開発されるべきである、という考えに至った。

図5 Dose Tracking System
図6 DTS非表示時のCTO
図7 DTS表示時のCTO
図8 CTOの例における照射総線量と
患者の最大入射皮膚線量
 
これからの被曝マネジメント:入射皮膚線量のリアルタイムの見える化
・DTS(Dose Tracking System)の評価使用
 これら要望に基づき東芝メディカルシステムズ社が開発した実際の入射皮膚線量をリアルタイムにカラー表示するDose TrackingSystem(DTS)(図5)を、国内で初めて評価使用することとなった。DTSは、術中の放射線の入射部位と積算線量をシステム内の患者モデル
にリアルタイムにカラー表示し、刻々と変化している最大入射皮膚線量(Peak Skin Dose:PSD)の数値を自動的に表示する。DTSによってはじめて、患者の皮膚線量状態をリアルタイムに把握できるようになったのである。これによって、状況に応じた低線量条件への設定変更や、線量が1点に集中しない合理的なアームのアングル操作など、術中におけるきめ細かい被曝マネジメント作業がはじめて可能になった。
・DTSは高い精度を有する
 ファントムを用いてDTSの精度を検証した論文2)がある。ここではDTSの線量計算精度は±5%に収まることが示されている。また透視であっても撮影であっても、RAO/LAOに振った場合の誤差は10%以内に収まるという。フィルム撮影の実像を比較してDTSの表示像は高い一致が得られたことも報告されている。DTSの線量計算精度、角度依存性、照射面表示の正確さ、いずれも臨床的に信頼するに足るものであることが検証されている。
・DTSはリアルタイム性に意義がある
 DTSを実際どのように活用するか、当院の例を紹介する。 まずは、DTSを術中に表示しない状態でCTOに対するPCIを実施した。これは従来の標準的なPCIをDTSに記録させた状態である。13番のCTOでretrograde approachを施行した例(図6:左)では、真っ赤な高線量部分が1か所見られる。6番のCTOでretrograde approach
を施行した症例では高線量部分が2か所見られる(図6:右)。いずれもワーキングアングルとパルスレートが固定された状態で、高い局所入射皮膚線量が確認された。このような被曝に関する情報がPCIの終了後に得られても、現実に被曝を低減する手立てとしては意味をなさない。
 次に、術中にDTSを表示して施術した例を図7に示す。DTSで術中に患者皮膚線量を確認できることで、ワーキングアングルの変更や線量低減を随時実施している。DTSにより皮膚線量を意識することで、DTSを表示せずに実施した時のような高い皮膚線量の箇所が解消されている。これは、特定のアーム角度が必要な疾患観察以外の、バルーン操作やワイヤーの出し入れ時に、こまめにアーム角度を変えX線の照射野を1点に集中させない、あるいは状況に応じて低パルスレートを設定した結果である。術中における被曝低減操作の重要性が改めて納得できる結果となった。
 さてそこで、術中のアーム操作は主としてセカンドオペレータの役割であることを思い起こしたい。術者と意思疎通して的確な被曝低減操作を得るためには、DTSのわかりやすいモニタリング機能で術者と情報を共有できることは、大きな福音になる。チームスタフのスムーズな連携で迅速的確にPCI手技を進めるためには、DTSの果たす役割は大きい。
・DTSはPCIの被曝低減の強力なツール
 DTSによる被曝低減効果を線量測定値で検証しておこう。前述CTOの例における入射総線量(Ref AK値)と、患者の最大入射皮膚線量(PSD値)を図8にプロットした。DTSを使用した場合のPSD値は、使用しない場合に比べ1/2近くまで減少している。これに加えて透視収集を行えば、実に1/4近くまでPSD値を低減できる。またDTSにより線量低減を意識すれば入射総線量(Ref AK値)を1/2以下に抑えることができる。DTSは、患者さんにも術者にもやさしいPCIを実現しうることが示唆された。

まとめ
 患者利益のためには、手技を成功させることはもちろん、放射線皮膚障害の合併症リスクを低減させる工夫と努力が必要である。術者自身の利益のためにも、被曝マネジメントへの意識変革が必要である。従来言われる被曝量は装置がX線を発生した総入射線量であり、これは患者や術者のリスク評価の直接の指標にはならない。被曝低減の手技や技術の評価のためにも、術中にリアルタイムで被曝した局所の皮膚線量をその指標とすべきであろう。またPCIでは、術者のみならずセカンドオペレータの役割が重要で、両者の息を合わせれば被曝低減をいっそう高めることができる。その際には、リアルタイムの局所皮膚線量をわかりやすく共有できるDTSのような機能は不可欠である。
 DTSを嚆矢とする新たな被曝低減や線量管理の技術を積極的に取り入れ、熟知し、使いこなすことが、これからのPCI術者に課せられた使命であろう。
 
<文献>
1) Roguin A et al: Brain and neck tumors among physicians performing interventional procedures. Am J Cardiol 111(9): 1368-1372,2013
2) Bednarek DR et al: Verification of the performance accuracy of a real-time skin-dose tracking system for interventional fl uoroscopic procedures. Proc Soc Photo Opt Instrum Eng13; 7961, 2011
 
(本記事は、RadFan2014年3月号からの転載です)