第23回日本乳癌検診学会学術総会 イブニングセミナー:腫瘍超早期濃染の把握を目的とするASL法を応用したスマートなMRMの試み

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2014.05.29

第23回日本乳癌検診学会学術総会 イブニングセミナー

乳がん画像診断をよりスマートに。
日時:2013年11月8日
場所:京王プラザホテル
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長

 

聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター
福田 護先生

腫瘍超早期濃染の把握を目的とするASL法を応用したスマートなMRMの試み

 

演者
 
住友別子病院放射線部
加藤 勤先生

乳腺腫瘍の性状評価には乳腺MRI (以下MRMと略)が有用である。MRMでは腫瘍の血行動態画像化のために造影剤を使うダイナミックが有用であるが、造影検査はスクリーニングに適するとは言い難い。他方近年、Time-SLIP法に代表されるASL(arterial spin labeling)撮像技術を応用して、造影剤を使わずに血行動態を画像化できるようになった。最新のASL法を応用した非造影のMRMは、患者にやさしく検診などのスクリーニングに適した検査と言え、造影MRMで捉えきれない超早期の濃染を画像化する可能性も期待されている。今回、最新の3T MRI装置(Vantage Titan 3T、東芝メディカルシステムズ社製)で得られた経験をもとにして、非造影MRMの現状と将来展望を述べる。
 
【KEY Sentence】
●3T MRI装置の登場やTime-SLIP法などの新しい撮像法によって、非造影MRMの描出能が向上している。
●FASE法とTime-SLIP法を組み合わせることによって、腫瘍と血管を分離描出したFUSION像が得られた。
●現状の非造影MRMは、撮像シーケンス、撮像パラメータ、患者セッティング、月経周期などハード・ソフト両面で多くの改良の余地がある。
●課題を洗い出し改善方法を考察しながら、非造影MRMの検出感度の向上と幅広いスクリーニング検査をめざした臨床応用を探りたい。
 
はじめに
 MRMは、米国放射線学会のカテゴリー分類であるBI-RADSに従って評価することが一般的である。BI-RADSでは造影検査における早期濃染の評価が重要と記されている。任意型検診が推奨されるハイリスクグループには、毎回造影剤を使用するため、侵襲性の高い検査となる。ここでもし、非造影で腫瘍の血行動態、特に早期濃染の状況が把握できれば、スクリーニング検査としてMRMの有用性が拡がるであろう。また最近、ダイナミックはできるだけ早い時相で撮像すべきという意見がある。超早期相を画像化できる可能性がある非造影MRMは、造影MRMで得られない有用な臨床情報が提供できる可能性がある。
 
非造影MMRの技術的アプローチと画像の特性
 乳腺は体の表面に存在する臓器であるため、MRMは磁場不均一の影響を受けやすい。また内胸動脈など乳腺への流入血流は低流速であることが推測される。これらを考慮して今回は、高速Spin Echo法の一法であるFASE法とTime-SLIP法とを組み合わせることで非造影MRMを得た。図1cに示すようにFASE法を使った非造影MRMは乳腺内血管を良好に描出することができるものの、動脈と静脈が混在した画像が得られる。また腫瘍や背景乳腺も高信号を呈しやすい。そこで、動脈と静脈を分離描出して背景信号を抑制するため、Time-SLIP法の併用が必要となる。

図1 a:造影画像(早期相)
図1 b:造影画像(後期相)

図1 c:FASE法による乳腺非造影MRA

 

図2 FASE法によるTime-SLIP MRA(ASL-MRA)
Time-SLIP法を併用することで動静脈を分離する
 Time-SLIP法ではblack bloodパルスのかけ方によって、動脈血管の信号と静脈血管の信号に差が生じる。まず、乳腺へ供血する内胸動脈や腋窩動脈などの動脈がblack bloodになるように、胸壁部分にblack bloodパルスの180°パルスを入れ励起する。このとき心周期と3Tにおける血液の緩和時間を考慮し、BBT(I black blood traveling time)は1,500msecに設定する(図2)。次に、180°パルスを印加しない画像(動静脈画像)から、印加した画像(静脈画像)を差分する。差分することで血管信号に差が生じた動脈だけが残る。このとき動脈と静脈との信号差が5%以上ないと分離描出が困難であることが経験された。
 さらに、視認性を高めるために図3のように、動脈、静脈、腫瘍や背景乳腺のすべてが描出された画像(図3a)と、動脈だけが描出された差分画像のMIP像を作成し(図3b)、両者をレンダリングで重ね合わせたFUSION像を作成する(図3c)
 また、図4は充実腺管癌で粘膜下組織に結節影がみられた症例である。造影ダイナミックで早期濃染が認められ、拡散強調像で高信号を呈したことから悪性度が高いことがわかっている。非造影MRMの元画像MIP像(図4a)と差分画像のMIP像(図4b)を作成し、これらを重ね合わせたFUSION像(図4c)では、腫瘍の一部に血液が流入していることが示唆される画像が得られた。

図3 ASL-MRI(FUSION)の作成

図3 a
図3 b

図3 c

図4 FASE+差分画像(レンダリング)のFUSION像

図4 a
図4 b

図4 c

 

図5 60歳代の充実腺管癌症例
図6 60歳代の乳頭腺管癌症例
図7 40歳代の充実腺管癌症例
図8 60歳代の充実腺管癌症例
図9 40歳代の充実腺管癌症例
非造影MRMにおける腫瘍の早期濃染の検討
 造影ダイナミックで早期濃染を有し、病理学的に浸潤性乳管癌と診断された17例(乳頭腺管癌5例、充実腺癌10例、硬癌2例)を対象に、非造影MRMにおける早期濃染の検討を行った。
 図5に示す60歳代の充実腺管癌症例では、FUSION画像において腫瘍の一部に血液が流入していることが確認できた。
 図6に示す60歳代の乳頭腺管癌症例では、FUSION像において太い供血路から腫瘍の一部が映っている。
 腫瘍だけでなく、乳腺組織の一部にも濃染を認めたケースがあった。BI-RADSのガイドラインでは月経開始5~12日目までに撮像することが推奨されているが、現実的にその時期に撮れないケースもある。図7の症例は術前に急遽撮像となった40歳代の充実腺管癌の症例である。ダイナミック早期相ではBackground parenchymal enhancementがmoderate/markedでみられ、どこまでが腫瘍で、どこまでが乳腺組織かわからない状態であった。FUSION像において、腫瘍の一部に濃染を認めるが、この濃染よりも対側の乳腺組織への血流が多く認められるという結果になった。
 乳腺組織の一部のみに濃染を認めたケースもあった。図8の60歳代の充実腺管癌症例では、造影ダイナミック早期相において腫瘍の早期濃染を認めたものの、非造影MRMのFUSION像では、患側の乳腺組織にのみ濃染が認められ、腫瘍の濃染はとらえることができなかった。
 全く濃染を認めないケースもあった。たとえば図9に示す40歳代の充実腺管癌症例では、造影ダイナミックにおいて典型的なrim enhancementが認められたが、非造影MRMでは描出されなかった。
 以上、造影ダイナミックで早期濃染を有し、病理学的に浸潤性乳管癌と診断された17例の検討結果をまとめると、画像不良例18%、腫瘍の一部のみ濃染47%、腫瘍と乳腺組織に濃染6%、乳腺組織のみに濃染12%、濃染なし18%という結果であった。腫瘍の一部に濃染を認めたケースは50%を下回る結果となり、現状では非造影MRMはスクリーニング検査としては適していると言えない結果となった。
 
非造影MRMをスクリーニング検査に適用するための課題
 課題は画像不良、描出能不足への対策である。画像不良の一因には、180°パルスの印加に不向きな胸郭形状や、乳腺の容積が少ないなど患者の体格の問題がある。腫瘍と濃染組織が一緒に濃染されたケースについては、月経開始後15日目に撮像した症例で腫瘍の早期濃染と背景乳腺組織とのコントラストが不良であったことから、月経周期も考慮に入れた撮像時期を設定する必要がある。乳腺組織のみに濃染がみられるケースや濃染が認められないケースに関しては、差分前の画像でとらえられなかった血流の存在が原因であろう。
 撮像手法の問題もある。今回非造影MRMの撮像に用いたFASE法では、心拍が速い場合は元画像の収集タイミングが収縮期にあたったため、血流信号が抜けてしまったものと推測される。心拍が早い症例の場合にはβ遮断薬などを用いて心拍を落ち着かせて撮像する必要があるだろう。さらに今後はTrueSSFP法などの高速FE系の撮像法を考慮に入れるべきと思われる。撮像のパラメータ設定についても、より詳細に検討する必要がある。今回設定したBBTI=1500msecが至適でなかった可能性がある。至適なBBTIで画像を得るためには、TIを段階的にずらせて撮像するTime-Resolved法を検討する必要があるだろう。
 
まとめ
 今回の検討では非造影MRMの感度は47%に留まり、現状ではスクリーニング検査に適しているとは言えない結果となった。しかし、画像不良の原因は推測することができた。磁場の均一性を向上するため乳腺とコイルの間にパッドを入れるなどの患者セッティングの工夫、撮像面を冠状断ではなく水平断で実施するなど、撮像の方法を再考することで課題が解決あるいは改善される可能性がある。非造影MRMの描出能が月経周期に大きく依存することも重要である。閉経前の患者においては月経開始5~12日目という撮像時期を厳格に守る必要がある。早期濃染をとらえられなかった原因には、速い血流をとらえるのに不向きなFASE法を基本パルス系列としたことやBBTI値の検討が不十分ということが考えられる。現状では通常の検査に付加する5~6分で実施可能という条件下で実施しているが、検査時間、煩雑さ、検出感度などを総合的に見直して非造影MRMを評価する必要があろう。装置の向上に期待しながら、将来的にはTrueSSFP法など高速FE系の撮像法やTime-Resolved法によるさらなる検討を待ちたい。患者にやさしい非造影MRMへの期待は大きい。腫瘍の早期濃染の把握という臨床目的も明確である。改善すべき点を一つずつ克服してゆく試みを継続してゆきたい。
 
(本記事は、RadFan2014年3月号からの転載です)