第41回日本放射線技術学会秋季学術大会ランチョンセミナー
日時:2013年10月19日(土)
場所:アクロス福岡
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
本邦における3T装置の普及は2007年から始まったが、臨床現場の主流は今だ1.5T装置である。3T装置の利点を明確にし、臨床応用の普及を図ることが今後の課題といえよう。当院では2011年に導入した東芝メディカルシステムズ社製Vantage Titan 3T(以下Titan 3T)を用い、非造影検査の新たな方向性を探る取り組みと挑戦を続けている。本稿では画像とともにその成果を紹介する。
【KEY Sentence】
●3T(Vantage Titan 3T)の非造影MRAは、日常臨床に使えている。
●3Tの非造影MRAは、末梢動脈や狭窄部位の描出が向上する。
●3T のASL法及び1H-MRSは、腎癌など体幹部の悪性新生物の診断に有用である。
●FSBB法は、新たな処理の導入によって神経束強調画像としての応用が可能になった。
Titan 3TのASL法は体幹部の悪性新生物疾患に応用できる
Titan 3T最大の特長は、送受信系ハードウエアの革新による体幹部画質の向上である。そのメリットをASL法の有用性と組み合わせれば価値を最大化できる。IgA腎症のため造影剤を使用しなかった腎細胞癌疑いの症例を示す。腎動脈にラベリングすると(図7a)、ラベリングされた血流が高信号に描出される(図7b)。T2強調画像(図7c)と合成処理するとさらにわかりやすく状況を理解できる(図7d)。従来画像に血流情報を手軽に概観できるASL画像を追加することで、悪性新生物診断の質的向上が期待できるであろう。
骨盤領域に1H-MRS、ASL法を積極的に用いる
3Tのもうひとつの原理的メリットとして1H-MRSのスペクトル分離の確実さがある。たとえば髄膜腫では、脳の正常代謝物質であるNAAが低下し、腫瘍細胞の代謝亢進によりコリンが上昇する。前立腺癌症例では前立腺の正常代謝物質であるクエン酸(CA)が低下し、腫瘍細胞増生によるコリン上昇という腫瘍性の所見を示している(図8b)。またT2強調像(図8a)と拡散強調像(図8c)でコリン上昇部位に一致した高信号が認められる。ASL法による非造影灌流画像でもこの部位に一致した高信号が確認できる(図8d)。造影T1強調像(図8e)と併せれば、癌細胞増殖部位に血流が増えているのであろうと推測できる。このように1H-MRS、ASL法を総合的に使うことで、体幹部の悪性新生物の診断情報にプラスアルファの有用性を与えうると思われる。
FSBB法は新しい画像処理で神経束強調画像が可能に
最後に、これまで見ることができなかったものがTitan 3Tで見られるようになった例を紹介する。右目の右耳側4分の1に視野欠損がある神経膠腫の症例。造影T1強調像で濃染が認められ(図9b)、T2強調像では周りに浮腫を伴う腫瘍が指摘された(図9a)。1H-MRSでは腫瘍を強く疑うスペクトルが得られた(図9d)。MPGパルスを加え血流のディフェーズ効果を促進させ低流速細部の動静脈血管の描出向上を図ったFSBB法では、周囲の血管の状態を詳細に把握できた(図9c)。熊本大学米田らにより研究されている新たな位相差強調処理を使いて、神経束を強調した画像(図9f)では、視放線の3層構造や病変部付近における視放線の途絶が認められ、この所見は視野欠損の臨床症状と一致していた。3Tの高いSN比をベースにしたFSBB画像(図9e)に、新たな処理を加えることで、これまで詳細を把握できなかった神経束の状況が可視化できるようになった。
まとめ
高齢化社会を背景にして非造影検査は今後ますます存在価値が高まると予想される。ここにASL法、1H-MRS、FSBB法など高いSN比を活かした3Tの非造影アプリケーションは、従来の血管疾患の診断のみならず、体幹部悪性新生物の診断に有用な情報を与え、あらたな可能性を拓いてゆくものと期待している。
(本記事は、RadFan2014年2月号からの転載です)