第41回日本放射線技術学会秋季学術大会ランチョンセミナー 最先端CT/MRIによる臨床応用

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2014.03.28

第41回日本放射線技術学会秋季学術大会ランチョンセミナー

最先端CT/MRIによる臨床応用

 
日時:2013年10月19日(土)
場所:アクロス福岡
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
産業医科大学病院放射線部
小川正人 先生

3T装置の最新Technologyの活用
~非造影検査の新たな取組み~

 

演者
 
社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院中央放射線部
沖川隆志 先生

本邦における3T装置の普及は2007年から始まったが、臨床現場の主流は今だ1.5T装置である。3T装置の利点を明確にし、臨床応用の普及を図ることが今後の課題といえよう。当院では2011年に導入した東芝メディカルシステムズ社製Vantage Titan 3T(以下Titan 3T)を用い、非造影検査の新たな方向性を探る取り組みと挑戦を続けている。本稿では画像とともにその成果を紹介する。
 
【KEY Sentence】

●3T(Vantage Titan 3T)の非造影MRAは、日常臨床に使えている。
●3Tの非造影MRAは、末梢動脈や狭窄部位の描出が向上する。
●3T のASL法及び1H-MRSは、腎癌など体幹部の悪性新生物の診断に有用である。
●FSBB法は、新たな処理の導入によって神経束強調画像としての応用が可能になった。

 

図1 FBI法 検査成功率の進歩
最近では検査性効率100%の
確実な検査が実施できるようになっている。
非造影MRAの現在の到達点は?
 まず、血管疾患を対象とした非造影MRAの歴史と経緯を振り返ってみたい。当初大動脈が対象であったFresh Blood Imaging(FBI)法は、技術改良を重ね下肢や末梢動脈へと応用範囲が広がった。初期に見られた偽狭窄傾向は、撮像シーケンスの改良により現在ほとんどなくなったと言ってよいだろう。撮像方法が難しく描出が不安定といった初期の問題点も、現在ほぼ100%の撮像成功率が得られるまで進歩した(図1)。1.5T装置での開発と実績によってここまで到達した非造影MRAの有用性を、3Tでどのように継続あるいは発展させうるのかを以下に述べる。

 

図2 3Tの非造影MRA
診断からインターベンションまで
造影剤を1滴も使わなかった例。
日常臨床で使える3T非造影MRA
 一般に静磁場強度が高くなるほど非造影MRAの技術的困難さが増すことが知られている。そこでまず、3Tの日常検査として非造影MRAが支障なく行なえることを検証した。図2はヨード系造影剤アレルギー患者でインターベンション時にも造影剤を使用できなかった患者の例である。非造影MRAをナビゲーションとして炭酸ガスDSAを行い、造影剤を一滴も使わずに血行再建術を実施できた。本例に代表されるように、当院のTitan 3Tでは日常的に非造影MRA検査が実施されている。

 

図3 3Tは末梢動脈の描出が向上する
流速が遅い末梢血管の描出は
1.5Tに比べ3Tの方が優れる。
図4 腎動脈の末梢は3Tでより鮮明になる
3TのBBTIは1.5Tにくらべて300ms長くできる。
図5 3Tは狭窄部も確実に描出できる
乱流が起きている狭窄部も
3Tでは良好に描出できる。
非造影MRAにおける3Tのメリットは末梢と狭窄の描出向上
 ファントムデータでは流速が上がるに従い1.5T装置に比べTitan 3Tは一気に信号が欠損した。しかし流速が遅い足背動脈では動静脈分離が明瞭となった(図3)。Time-SLIP法で比較すると、同程度の血管コントラストを得るために必要なBBTIは、Titan 3Tでは1.5T装置より約300ms長くできる。結果的に末梢の腎動脈描出を向上させることができた(図4)。流れが遅く乱流が起きていると考えられる腎動脈狭窄部位において、Titan 3Tは良好な描出が得られる(図5)。非造影MRAにおける3Tのメリットは、末梢と狭窄部の血管描出能の向上にあるといえよう。
 
非造影検査の新たな取り組み:体幹部の悪性新生物診断への応用
 高齢化が進み造影剤が使用できない患者が増える社会情勢を鑑みると、非造影検査への期待がますます高まるのは間違いない。有用性が期待できる非造影撮像法としては、脳灌流画像に用いられるArterial Spin Labeling(ASL)法のほかに1H-MRS、FSBB法がある。これらは従来頭部領域を中心に用いられてきたが、撮像条件を最適化することで全身の疾患への適応拡大を目指している。なかでも検査ニーズの高い体幹部の悪性新生物の診断に視線を向けている。

 

図6 ASL法は原理的に3Tが有利である
円蓋部髄膜腫。
腫瘍は外頚動脈からの血流で灌流されている。
非造影灌流画像(ASL)は3Tのメリットを活かせるアプリケーション
 3TのASL法は、SN比向上と組織のT1緩和時間延長に起因する背景信号抑制という原理的アドバンテージを有している。円蓋部髄膜腫におけるASL法の応用例を示す。髄膜腫の場合腫瘍は外頸動脈優位で血流供給を受けるが、外頸動脈をラベリングすることで右外頸動脈からフィードされる血流のみを可視化できる(図6)。ASL法は、柔軟かつ繊細な血流状況を手軽に概観できる有用なツールである。

 
Titan 3TのASL法は体幹部の悪性新生物疾患に応用できる
 Titan 3T最大の特長は、送受信系ハードウエアの革新による体幹部画質の向上である。そのメリットをASL法の有用性と組み合わせれば価値を最大化できる。IgA腎症のため造影剤を使用しなかった腎細胞癌疑いの症例を示す。腎動脈にラベリングすると(図7a)、ラベリングされた血流が高信号に描出される(図7b)。T2強調画像(図7c)と合成処理するとさらにわかりやすく状況を理解できる(図7d)。従来画像に血流情報を手軽に概観できるASL画像を追加することで、悪性新生物診断の質的向上が期待できるであろう。
 

図7 腎細胞癌の非造影検査

a Time-SLIPラベリング位置
b ASL

c 脂肪抑制T2強調像
d T2強調像+ASLでは、癌組織の血流上昇部を推測できる。

 
骨盤領域に1H-MRS、ASL法を積極的に用いる
 3Tのもうひとつの原理的メリットとして1H-MRSのスペクトル分離の確実さがある。たとえば髄膜腫では、脳の正常代謝物質であるNAAが低下し、腫瘍細胞の代謝亢進によりコリンが上昇する。前立腺癌症例では前立腺の正常代謝物質であるクエン酸(CA)が低下し、腫瘍細胞増生によるコリン上昇という腫瘍性の所見を示している(図8b)。またT2強調像(図8a)と拡散強調像(図8c)でコリン上昇部位に一致した高信号が認められる。ASL法による非造影灌流画像でもこの部位に一致した高信号が確認できる(図8d)。造影T1強調像(図8e)と併せれば、癌細胞増殖部位に血流が増えているのであろうと推測できる。このように1H-MRS、ASL法を総合的に使うことで、体幹部の悪性新生物の診断情報にプラスアルファの有用性を与えうると思われる。
 

図8 前立腺癌の非造影検査

a T2強調像
b 1H-MRSでは、クエン酸(CA)の低下と
コリンの上昇が見られる。
c DWI

d T2強調像+ASLでは、
ASLと造影T1強調像(e)と
同じ部分が高信号化している。
e 造影T1強調像(早期像)

 
FSBB法は新しい画像処理で神経束強調画像が可能に
 最後に、これまで見ることができなかったものがTitan 3Tで見られるようになった例を紹介する。右目の右耳側4分の1に視野欠損がある神経膠腫の症例。造影T1強調像で濃染が認められ(図9b)、T2強調像では周りに浮腫を伴う腫瘍が指摘された(図9a)1H-MRSでは腫瘍を強く疑うスペクトルが得られた(図9d)。MPGパルスを加え血流のディフェーズ効果を促進させ低流速細部の動静脈血管の描出向上を図ったFSBB法では、周囲の血管の状態を詳細に把握できた(図9c)。熊本大学米田らにより研究されている新たな位相差強調処理を使いて、神経束を強調した画像(図9f)では、視放線の3層構造や病変部付近における視放線の途絶が認められ、この所見は視野欠損の臨床症状と一致していた。3Tの高いSN比をベースにしたFSBB画像(図9e)に、新たな処理を加えることで、これまで詳細を把握できなかった神経束の状況が可視化できるようになった。
 

図9 神経膠腫の神経束強調画像

a T2強調像
b 造影T1強調像

c FSBBでは周辺血管の詳細が把握できる。
d 1H-MRSでは典型的な腫瘍のパターンを示す。

e 位相差強調画像法を加えて
血管を更に強調した。
f 位相差強調画像法を加えて
神経線維束を強調した。

 
まとめ
 高齢化社会を背景にして非造影検査は今後ますます存在価値が高まると予想される。ここにASL法、1H-MRS、FSBB法など高いSN比を活かした3Tの非造影アプリケーションは、従来の血管疾患の診断のみならず、体幹部悪性新生物の診断に有用な情報を与え、あらたな可能性を拓いてゆくものと期待している。
 
 
(本記事は、RadFan2014年2月号からの転載です)