第53回日本核医学会学術総会、第33回日本核医学技術学会総会学術大会ランチョンセミナー
従来、CTやMRIを中心に脳血管障害の診断が行われてきたが、一刻を争う病態の場合、適切な血流の評価と病態把握に基づく治療が行われていない状況が懸念されている。ここでは、2013年11月8日から11日にかけて福岡にて開催された第53回日本核医学会学術総会・第33回日本核医学技術学会総会学術大会のランチョンセミナーから、「脳血管障害PET/SPECT診断のPearls & Pitfalls」と題されたご講演を紹介する。なお、座長は北海道大学大学院医学研究科病態情報学講座核医学分野の玉木長良氏が務め、国立循環器病研究センター脳卒中統合イメージングセンターの中川原譲二氏が講演した。講演の中では、CT、MRIおよびPET/SPECTを用いた最新の病態把握に関する知見をふまえ、脳血管障害の病態分類を再定義するとともに、画像診断の可能性の一例として、東芝メディカルシステムズ社製3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の使用経験と今後の展望について紹介された。
はじめに
近年、脳血管障害の領域ではt-PAの登場など、様々な血栓溶解療法が行われるようになり、CTやMRI、PET/SPECTを用いたPenumbral Imagingにおいても病態をもう一度見直す必要が出てきた。また、バイパス術等の適用決定で重要となるMisery Perfusionにおいても、急性期、慢性期といった時期によって様相が違うことを踏まえて考える必要がある。
Penumbral imagingの理想と現実
Ischemic penumbraは発症からの経過時間と残存血流に依存する概念であり、血流再開通により梗塞への移行を阻止することが可能な病態である。t-PAを用いた血栓溶解治療は、CTにおいて脳梗塞発症から3時間でもEarly CT Signが出ていないことから3時間以内の適応とされてきたが、近年その適応が3時間から4.5時間まで延長された。一方で、Ischemic penumbraであっても、実際に3時間を過ぎた症例の神経学的改善度はそれほど高くなく、より早期の介入により救済の可能性が高まると考えられる。
1990年代には、Xe-SPECTによる脳血流定量画像をもとに血栓溶解療法の適応を決めていた。また、MRIによる拡散強調画像で梗塞がみられないものの、血流は健側の半分しかないような症例で、3時間を超えていても血栓溶解療法により、血流が再開されることで組織が救済され、麻痺や言語障害が直ちに改善する症例も経験してきた。したがって、脳梗塞発症後3時間あるいは4.5時間以内のt-PA投与は、あくまでも平均値に基づいた基準であり、Therapeutic time windowは個々の患者で異なるという認識が大事である。
そういった意味で、Penumbral imagingは、1人1人のTherapeutic time windowを決定する役割があるが、現在は検査に時間をかけずにCTあるいはMRIだけを撮ってt-PA治療を実施することが主流となっている。さらに、2013年2月に開催された国際脳卒中学会においてIschemic penumbraに基づいた臨床研究が発表され、このようなCTやMRIによる評価を行う有用性が示されなかった。しかし、内容を見ると治療に時間がかかっているためで、画像診断の価値が出ていないと理解できる。つまり、画像診断に時間をかけるわけにはいかないということは明瞭である。
PETとSPECTの進歩
かつてPET検査には1時間ほど要していたが、近年、短時間で検査を行う手法が開発されてきており、OEFだけであれば10分足らずで測定できるようになりつつある。初期にはDARGという手法が開発され、酸素とCO2を連続的に投与することにより画像を描出した。この段階ではC15OでCBVを描出し、画像を補完していたが、後に開発されたDBFM法ではC15Oを独立させ、CBVで補正しなくてもCMRO2、OEFを画像化できるようになった。
この手法の開発によりPETにおいて新たな病態解析が可能であることも分かってきた。C15Oで補正するということは血管床で補正することになるため、血管床が限りなく大きい病態では診断ができないことになる。例えば、脳動静脈奇形(AVM)は血管床そのもので、かつてPETではAVMの病変部分が真っ赤に染まり、その周辺に 盗血現象があるにもかかわらず、その正確な診断ができなかった。しかし、DBFM法では、動脈成分を除去することができるため、周囲の盗血現象の有無を診断できるようになった。
従来のPETでは動脈成分を除去していないため、Luxury perfusionを過大評価している可能性があり、逆にDBFM法を用いればPETでも正確に診断できる可能性があることがわかった。
まとめ
脳梗塞患者に対して適切な時期に適切な治療を提供するためには、急性期においてはIschemic penumbraやAcute miseryperfusionについての病態を理解し、治療までの時間をかけずに評価していくことが重要である。そのためには施設の総合力が求められる。また、慢性期においてはChronic misery perfusionやLong-term misery perfusionについて紹介した。
ただし、これらの病態は未だ確立したものではなく、今後研究をさらに進める必要がある。脳血管障害においてPETによる評価は既に確立していて、SPECTがそれを追随しているという関係性ではないことからも、PETおよびSPECTの有効利用について広く研究が行われる余地がある。
従来の15OGas-PETも完成されたシステムではなく、依然として進歩しているものである。特に、脳動静脈シャントなどによる偽高灌流域についてはPETのPitfallと呼ぶべきものであったが、DBFM法の導入により克服されつつある。さらに、3検出器型SPECT機器の登場により、撮影時間の短縮や高解像化が現実のものとなってきている。