SPECT検査の今:第53回日本核医学会学術総会、第33回日本核医学技術学会総会学術大会ランチョンセミナー:
「脳血管障害PET/SPECT診断のPearls & Pitfalls」

Satellite View~Canon Special Session:SPECT検査の今 Archives
2014.03.27

第53回日本核医学会学術総会、第33回日本核医学技術学会総会学術大会ランチョンセミナー

「脳血管障害PET/SPECT診断のPearls & Pitfalls」

 
従来、CTやMRIを中心に脳血管障害の診断が行われてきたが、一刻を争う病態の場合、適切な血流の評価と病態把握に基づく治療が行われていない状況が懸念されている。ここでは、2013年11月8日から11日にかけて福岡にて開催された第53回日本核医学会学術総会・第33回日本核医学技術学会総会学術大会のランチョンセミナーから、「脳血管障害PET/SPECT診断のPearls & Pitfalls」と題されたご講演を紹介する。なお、座長は北海道大学大学院医学研究科病態情報学講座核医学分野の玉木長良氏が務め、国立循環器病研究センター脳卒中統合イメージングセンターの中川原譲二氏が講演した。講演の中では、CT、MRIおよびPET/SPECTを用いた最新の病態把握に関する知見をふまえ、脳血管障害の病態分類を再定義するとともに、画像診断の可能性の一例として、東芝メディカルシステムズ社製3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の使用経験と今後の展望について紹介された。
 

座長
北海道大学大学院医学研究科
病態情報学講座核医学分野
玉木長良先生

 

演者
国立循環器病
研究センター脳卒中
統合イメージングセンター
中川原譲二先生

 
はじめに
 近年、脳血管障害の領域ではt-PAの登場など、様々な血栓溶解療法が行われるようになり、CTやMRI、PET/SPECTを用いたPenumbral Imagingにおいても病態をもう一度見直す必要が出てきた。また、バイパス術等の適用決定で重要となるMisery Perfusionにおいても、急性期、慢性期といった時期によって様相が違うことを踏まえて考える必要がある。
 
Penumbral imagingの理想と現実
 Ischemic penumbraは発症からの経過時間と残存血流に依存する概念であり、血流再開通により梗塞への移行を阻止することが可能な病態である。t-PAを用いた血栓溶解治療は、CTにおいて脳梗塞発症から3時間でもEarly CT Signが出ていないことから3時間以内の適応とされてきたが、近年その適応が3時間から4.5時間まで延長された。一方で、Ischemic penumbraであっても、実際に3時間を過ぎた症例の神経学的改善度はそれほど高くなく、より早期の介入により救済の可能性が高まると考えられる。
 1990年代には、Xe-SPECTによる脳血流定量画像をもとに血栓溶解療法の適応を決めていた。また、MRIによる拡散強調画像で梗塞がみられないものの、血流は健側の半分しかないような症例で、3時間を超えていても血栓溶解療法により、血流が再開されることで組織が救済され、麻痺や言語障害が直ちに改善する症例も経験してきた。したがって、脳梗塞発症後3時間あるいは4.5時間以内のt-PA投与は、あくまでも平均値に基づいた基準であり、Therapeutic time windowは個々の患者で異なるという認識が大事である。
 そういった意味で、Penumbral imagingは、1人1人のTherapeutic time windowを決定する役割があるが、現在は検査に時間をかけずにCTあるいはMRIだけを撮ってt-PA治療を実施することが主流となっている。さらに、2013年2月に開催された国際脳卒中学会においてIschemic penumbraに基づいた臨床研究が発表され、このようなCTやMRIによる評価を行う有用性が示されなかった。しかし、内容を見ると治療に時間がかかっているためで、画像診断の価値が出ていないと理解できる。つまり、画像診断に時間をかけるわけにはいかないということは明瞭である。
 

図1 PET検査中に一過性脳虚血発作(TIA)を
起こした症例
各モダリティでみているものに対するさらなる理解が必要
 脳梗塞患者の治療適応を考慮する際に用いられるDiffusion-perfusionmismatchは、実際には脳血流ではなく平均通過時間(MTT)という時間の概念を示す画像と、拡散強調画像の梗塞巣(DWI)で決めている。そして、脳血液量(CBV)が低下している場合は組織としては死んでいるという判断をする。
 CTも同様であり、脳血流画像をみることができるが、これはCBVの画像とMTTの画像で数学的に処理した画像であり、定量画像としての過剰な期待はもつべきではない。また血管内に造影剤が入っていれば流れているという解釈はできないことからも、循環が遅れているかどうかをみるために4D-CTAによるダイナミックの情報が必要となる。
 CT灌流画像(CTP)で得られた画像からは、MTTやピーク到達時間(TTP)とCBVとのミスマッチをみることが大事で、造影剤が届かないところは穴のように見えるため、CT画像上で異常がない場合においても該当部位の組織は死んでいると判断できる。逆に、MTTが遅れていてCBVが保たれている部位は、まだ救済可能だと判断することができる。こちらはCBV-MTT Mismatchといい、重要な判断材料になる。
 PETを用いてこのような病態を診断するのは難しいが、もやもや病患者で偶然PET検査中に一過性脳虚血発作(TIA)を起こし、酸素摂取率(OEF)やCBVなどを確認できた症例があるので紹介する(図1)。著明なCBFの低下がみられるが、脳酸素消費量(CMRO2)はわずかに低下した程度で、OEFは著明な上昇がみられた。もやもや病ではCBVは高い傾向にあるが、TIAを生じた際にCBVの増加に比べてはるかに高いOEFの上昇がみられたことから、脳虚血の急性期には急激にOEFが上昇して脳組織が保護されることが示唆された。 したがって、従来はまず血管拡張により血流が維持され、限界を超えると組織の酸素代謝を維持するためにOEFが上昇するというメカニズムが想定されていたが、急性期のIschemic penumbraの領域では血流低下に応じた血管拡張はなく、OEFが上昇して脳組織を保護している可能性が高い。

 

図2 左総頸動脈閉塞の患者の例
もうひとつの救済可能な急性期病態
「Acute misery perfusion」

 Ischemic penumbra以外にも急性期の脳虚血病態として、数日の間に血行再建を行えば救済可能なAcute miseryperfusionがある。これは、Ischemic penumbraと比較して脳循環の低下はわずかである一方、OEFは非常に高い。そして、血管拡張が多少あり、血流を維持している点が大きく異なる。
 主な対象は進行性脳卒中を呈す症例であり、ここでは2例紹介する。1つは、内頚動脈の狭窄に伴い皮質下の梗塞が出ているような症例で、血圧を上げる等の治療を実施しても1日目2日目と進むにつれ症状が悪化し3日目にステントを入れたが、これに伴い一過性のHyper Perfusionが生じた。この周術期管理も重要だが、血流が健側の半分で皮質下の梗塞が徐々に拡大する病態も治療対象であることがポイントである。
 もう一例は、TIAを繰り返し、その周期も徐々に短くなって脳梗塞に至るような病態で、梗塞を起こす前の第1日目にステントを入れ、SPECTおよびCTPを行った症例である。CBFは低下しているのに対して、CBVが健側よりも増加していたことから、循環を維持する予備能が働いており、血管拡張(Vasodilation)が血流を維持する要因となっていると考えられた。ここが、脳血流が健側の半分でもPenumbraとは違うといえるポイントである。
 術後のCTPでは、CBFやCBVで若干高い部分がみられるが、これはVasoparalyticな変化であり、術前の虚血時にみられるReactiveな血管拡張とは異なる。これらの画像から、血管拡張には2種類あり、術後のHyper perfsuionの要因にもなるVasoparalyticな変化に対して、術前の血管拡張は、血流を維持するための代償能であることがわかる。
 このような病態をPETやSPECTでみた症例がある。左総頸動脈閉塞の患者では、図2に示すように皮質下の梗塞が徐々に拡大し、CBFは健側の半分程度しかなく、OEFが極端に上昇していることが分かる。つまり、多少なりとも血管の拡張があるために循環が維持され、酸素摂取率を上げることにより組織の生存を支えているということであり、従来の慢性期に見られるMisery perfusionとは異なる。これがAcute misery perfusionでの血管の代償能である。

 

図3 左総頸動脈閉塞の患者の例
図4 もやもや病患者の循環動態について
SPECTで撮像したケース
図5 もやもや病患者の循環動態について
PETで撮像したケース
Chronic misery perfusionとLong-standing misery perfusion
 従来Misery perfusionと定義されていたものが、Chronic misery perfusionという病態となる。Chronic miseryperfusionはCBFが多少緩やかな低下で、OEFの上昇や血管拡張もみられる病態である。
 SPECTでは、血行力学的脳虚血の重症度分類を用いて血管拡張の側から定義していて、血管拡張がある部分は血管反応性がないと評価する。最近では、DTARG法という1日でDiamox負荷画像と安静画像を得る方法により誤差要因を最小化したり、3D-SSP解析と同じテンプレート上に、Rest、Diamox、Reserve、Stageを表示することによって標準化する手法(SSE解析)が普及してきた。
 内頸動脈狭窄の症例を紹介すると、SPECTでStage2と評価された患者のPETは、OEFとCBVが上昇していることが分かる(図3)。この点が従来から研究されてきたChronic misery perfusionであり、まず血管拡張によって循環を維持し、足りない部分はOEFを上げることにより酸素代謝を維持するということである。
 近年では、さらに慢性的な脳虚血の病態として、long-standing misery perfusionという概念が出てきた。例えば10年間TIAを起こしているようなもやもや病の患者の循環動態についてSPECTやPETで比較してみると、SPECTでは図4に示すようにStage 2あるいは前頭葉に予備能が30%以下の部分も出てくるのに対し、PETでは図5のようにOEFの上昇はさほ
ど顕著ではなく、代わりにCBVが両側性に増えているような所見が得られる。通常こういったものはStage2とまでは評価されない。
 同様の症例を複数まとめ、OEFおよび血管拡張と血管反応性(CVR)の関係について調べたところ、もやもや病ではOEFが健常者の平均値+2SDのときのCVRは0.1であったのに対し、CBVが健常者の平均値+2SDのときのCVRは0.27であり、正常の下限ぐらいであった。このことは、もやもや病においては血管反応性が低下するかなり前から血管拡張が起こっていることを意味する。したがって、Long-standing miseryにおいては、まず血管拡張によって代償され、足りない部分をOEFでカバーするという仕組みになっていると考えられる。そのためLong-standing miseryに関しては、SPECTは過大評価になる。しかし、PETのMisery perfusionはOEFだけで定義した概念である一方、SPECTは血管拡張能だけで定義したステージングであることから、2つのモダリティの間で乖離が生じる。血行力学的脳虚血を考える上では、血管拡張と酸素摂取率の両方を常に意識する必要がある。
 以上のことから、血行力学的脳虚血には血管拡張による循環維持とOEF上昇による酸素代謝の維持という2つの代償能があり、その総和によって循環が維持されている可能性がある。その代償能から病態が位置づけられ、時間、日、月、年といったTherapeutic time windowが考えられる。我々は、この点を再認識する必要がある。

 
PETとSPECTの進歩
 かつてPET検査には1時間ほど要していたが、近年、短時間で検査を行う手法が開発されてきており、OEFだけであれば10分足らずで測定できるようになりつつある。初期にはDARGという手法が開発され、酸素とCO2を連続的に投与することにより画像を描出した。この段階ではC15OでCBVを描出し、画像を補完していたが、後に開発されたDBFM法ではC15Oを独立させ、CBVで補正しなくてもCMRO2、OEFを画像化できるようになった。
 この手法の開発によりPETにおいて新たな病態解析が可能であることも分かってきた。C15Oで補正するということは血管床で補正することになるため、血管床が限りなく大きい病態では診断ができないことになる。例えば、脳動静脈奇形(AVM)は血管床そのもので、かつてPETではAVMの病変部分が真っ赤に染まり、その周辺に 盗血現象があるにもかかわらず、その正確な診断ができなかった。しかし、DBFM法では、動脈成分を除去することができるため、周囲の盗血現象の有無を診断できるようになった。
 従来のPETでは動脈成分を除去していないため、Luxury perfusionを過大評価している可能性があり、逆にDBFM法を用いればPETでも正確に診断できる可能性があることがわかった。
 

図6 99mTc-ECD SPECTにおいて
スキャン時間5 〜20分で撮像
SPECTにおける撮像時間短縮と被ばく量低減の試み
 3検出器型ガンマカメラGCA-9300Rを用いて、2013年9月から「SPECT検査における患者負担の軽減(収集時間短縮・被ばく低減)に関する研究」を開始した。最初に行った99mTc-ECDを用いたSPECT画像を図6に示す。なお、散乱補正およびCTによる吸収補正を行っている。当初は20分を10分に縮めるという目標を立てていたが、5分でも基底核も視床も比較的鮮明に見える画像が描出された。そして画像再構成をFiltered back projection(FBP)から3D-OSEMに変更すると、コントラストがさらに向上することもわかった。
 また、自施設の2検出器型SPECT装置を用いて20分撮像した場合と比べても良好な画像が得られているのがわかる。 このように、短時間の撮像であっても良好な画像が得られるようになれば、もうひとつのテーマ「被ばく線量の低減」についても考えられる。放射性医薬品の投与量を半分に減らすことが可能になれば、検査時間は従来通りで、全体の投与量を増やさずに、繰り返し検査が可能になるかもしれない。
 この研究では分解能の問題にも取り組んでいるが、3D-OSEMによる画像再構成の際にButterworthフィルタをかけると分解能が向上することが確認された。今後DaTSCANなどが登場すると分解能が勝負となるため、このような手法によりPETに匹敵するような画像が作成できるのではないかと期待している。

まとめ
 脳梗塞患者に対して適切な時期に適切な治療を提供するためには、急性期においてはIschemic penumbraやAcute miseryperfusionについての病態を理解し、治療までの時間をかけずに評価していくことが重要である。そのためには施設の総合力が求められる。また、慢性期においてはChronic misery perfusionやLong-term misery perfusionについて紹介した。
 ただし、これらの病態は未だ確立したものではなく、今後研究をさらに進める必要がある。脳血管障害においてPETによる評価は既に確立していて、SPECTがそれを追随しているという関係性ではないことからも、PETおよびSPECTの有効利用について広く研究が行われる余地がある。
 従来の15OGas-PETも完成されたシステムではなく、依然として進歩しているものである。特に、脳動静脈シャントなどによる偽高灌流域についてはPETのPitfallと呼ぶべきものであったが、DBFM法の導入により克服されつつある。さらに、3検出器型SPECT機器の登場により、撮影時間の短縮や高解像化が現実のものとなってきている。