SPECT検査の今:新しい脳疾患診断薬と3検出器型SPECT装置への期待

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2014.03.27

新しい脳疾患診断薬と3検出器型SPECT装置への期待

~日本の核医学を世界へ積極的に発信~
 
2013年11月9日、第53回日本核医学会学術総会・第33回日本核医学技術学会総会学術大会のランチョンセミナーにおいて「脳血管障害PET/SPECT診断のPearls&Pitfalls」が講演された。講演後、棋界のオピニオンリーダーである座長の玉木長良先生と、演者の中川原譲二先生に、今回発表のあった2つのニュース(DaTSCANとGCA-9300R)を中心に、今日における脳SPECT検査の臨床的有用性や、日本の核医学が担う世界的な役割についてお伺いした。
 

玉木長良先生
北海道大学大学院医学研究科
病態情報学講座核医学分野

 

中川原譲二先生
国立循環器病研究センター
脳卒中統合イメージングセンター

DaTSCANとGCA-9300Rの登場が核医学会に与えたインパクト
 
玉木:核医学領域では新しい診断薬が久しく登場しておりませんでしたので、今回脳のドーパミントランスポーターを可視化するDaTSCANが薬事承認されたということは、非常に大きな進歩です。これを機に、脳のSPECTは大きく進展していくかと思います。特に、今まで行われていた検査に比べて、高精細な画像が求められると思いますので、東芝メディカルシステムズより新しく登場した3検出器装置「GCA-9300R」は非常に大きなインパクトを与えるだろうと思います。
 
中川原:今回パーキンソン病を主ターゲットとしたDaTSCANが薬事承認され、パーキンソン病と本態性振戦の鑑別により高い精度の画像診断を用いていくことが可能になったと思います。つまり従来は経験豊富な先生方が診断を行ってきましたが、それを補助する新しい診断学が確立してくるということです。最初は脳血管障害が画像化のターゲットとなり、続いて脳腫瘍に広がり、さらに神経疾患や認知症、パーキンソン病と徐々に画像化できる病気が増えてきています。目でみて診断するということは非常に大事なことで、画像診断が可能になることで得られる恩恵は多大なものです。かつてCTが登場した際には懐疑的な先生もいらっしゃいましたが、CTに限らず、モダリティの進歩をみると、今やその補助なしに神経疾患の診断はできません。そうした中で、核医学に新しい領域が入ってくることは非常に大切です。ただ診断するだけではなく、治療方針の策定や予後予測という意味では、研究者だけじゃなく、患者さんにとって、適切な治療を客観的に確立していく上で重要です。
 しかし、DaTSCANが使用できるようになると、非常に微細な画像が要求されてくると思われ、おそらく左右差が予測できる画像が要求されてくるのではないでしょうか。当然診断に直結しますので、ただ高画質であるというだけではいけません。最先端の研究はもちろん重要ですが、国民全体がその成果を享受できるように、専門家たちが、機器整備や撮像技術を含めて、指導していく必要があると思います。その中で、核医学会も重要な役割を果たす必要があるのではないでしょうか。
 
玉木:おっしゃる通りです。核医学会としても、撮影法や判断の仕方を標準化しようという動きがあります。
 誰が撮影しても、読影しても同じ結果がでて、同様の診断が下せるということが大切です。DaTSCANの臨床試験を行った際に、神経内科の医師が、パーキンソン病の初期症状の左右差が画像と一致するということを非常に喜ばれていたのが印象的でした。また、画像が高精細になると病気の広がりがわかり、そこから重症度もわかります。そうすると、治療方針の策定にもつながっていき、患者さんにとって脳のSPECTはメリットの大きい検査になるのではないでしょうか。そういった意味で、DaTSCANは期待の大きい薬剤ですね。
 また、画像がよくなることで2つの大きなメリットが生まれます。1つ目は、短い時間で撮像できるということです。CTやMRIに比べて、核医学検査は時間がかかるのですが、検査時間を2分の1や3分の1に短縮することができれば、臨床の現場にとって非常にありがたいと思います。検査を受ける患者さんにとっても、検査の苦痛が少なければ、それだけで大きなメリットだと考えます。2つ目は、学会を挙げて取り組んでいる課題でもあるのですが、患者さんの被ばく線量を少なくすることです。患者さんに優しいという意味では、低被ばく化もこれからの発展に非常に重要となります。その点での新しい装置への期待はぜひ強調させていただきたいと思います。
 
日本の優れた核医学診療システムにフィットする3検出器型SPECT装置
 
玉木:GCA-9300Rは、待ちに待った3検出器型SPECT装置でした。かつて3検出器型SPECT装置を使っていた多くのユーザーが首を長くして待ち望んでいた装置がようやく登場したので、非常に期待しています。
 世界的にみて、脳血流SPECT検査にどれだけ将来性があるかということが議論されています。PET検査が多いアメリカでは脳血流SPECTの検査数はあまり伸びてないという実情があります。日本はもともと脳血流SPECT検査が多いので、3検出器型SPECT装置の再登場によって脳血流SPECT検査がさらに発展し、「脳SPECTでこんなこともわかるのか」というのを日本から世界に向けて発信していけるようになれば嬉しいですね。
 
中川原:日本から世界に向けて発信していくという話ですが、放射性医薬品に関して、日本はデリバリー性が高いなどの利点があり、これが日本で核医学検査が発達した1つのバックグラウンドとなっています。さらに、標準化も進んでおり、200施設以上が同じSPECTの定量法をつかって日常診療を行っています。そうなると診断の質が担保されてきますから、どの施設でも同じような診断基準のもとに治療が行えるということが実現しています。これは欧米に同様の例があったわけではなく、これ自体が非常に重要なエビデンスなのです。欧米のEBM時代で世界に眼は向かっていましたが、足元を見れば欧米にはない非常に優れたシステムが国内で作られてきたのです。われわれの発信がいまだ十分ではないので、玉木先生のおっしゃる通り、この優れたシステムを世界に向けて発信していく必要がると思います。
 GCA-9300Rについては、本当に多くの3検出器型SPECT装置ファンが待ちに待っていたと思います。私自身、施設でGCA-9300Aをずっと使用してきましたが、画質の面から他の装置に替えるということはできませんでした。ですから、後継機の登場は非常にありがたいことです。GCA-9300Rの登場は核医学会の先生方にとってとても大きな朗報だと思います。最終的には患者さんにとっても朗報となるでしょう。
 
玉木:本日の中川原先生のランチョンセミナーに多くの方が集まられたのも、先生方への期待の大きさを反映してのことではないでしょうか。医師だけでなく、診療放射線技師にも数多くご来場頂けました。
 
今後の核医学検査への展望
~日本の産学が連携し、世界へ発信~

 
玉木:今後の核医学検査ですが、日本においてかなりの割合を占めている頭部検査については、絶対に3検出器型SPECT装置が必要になると思います。今回の3検出器型SPECT装置は頭部だけではなく、他の部位も撮れるので、我々の場合で考えると、心臓が挙げられますが、GCA-9300Rでどのようなものが撮れるのか、どんなことができるのか、ということも考えてみたい。その際に、高精細な画像を短い時間で撮り、さらにトレーサーの投与量を減らし、患者さんに優しい検査にしていきたいという気持ちは中川原先生と同じです。
 
中川原:私のこれからの要望としては、世界に向けて発信できる競争力のある医療機器を世に送り出したいということですね。日本からも世界と勝負できるような、競争力のある医療機器をもっと作っていく必要があると思います。PETもSPECTも、日本国内で磨いて、世界に発信できるレベルに十分あると思っています。産学連携で国内の技術を育てていくという形も大切ですが、今は国外に対しても出ていく時代です。ものづくりは日本の得意領域でもありますから。
 
玉木:私も同感です。実際に様々な大学が日本のメーカーと共同でいいものを作り、それを世界に発信していこうという動きがあります。そういった意味でも国内メーカーの新製品であるGCA-9300Rには大いに期待しています。東芝メディカルシステムズはCTで世界に発信できる製品をもっています。核医学の分野でも是非、世界に発信して頂きたいです。
 また、現在PETの検査数も著明に伸びていますが、脳核医学の検査数も伸びています。その他の一般核医学検査については不変か若干減少していますが、脳検査だけは本当に増えています。こういった事情も、いい形でプラス効果になるのではないでしょうか。
 
中川原:将来的には、臓器別のSPECT装置の時代に入っていかなければならないと考えています。そのためには専門的医療を進めていく必要があると思います。しかも、最新医療は時間との勝負という場合があります。そういう意味では、巨大な医療センターのようなものを数多く整備し、そこにSPECT装置が10台程並び24時間365日いつでも稼働している状態が理想ではないでしょうか。理想的な医療に向けて、核医学も専門性を高め、さらに発展していくことを期待しています。