透析エコーの実践と評価 :VA機能・形態診断術(中級編)と実例提示

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.10.31

透析エコーの実践と評価

第1部 VA超音波検査の基礎

司会
 
 
横浜第一病院
野口智永 先生

講演3 VA機能・形態診断術(中級編)と実例提示

演者
 
髙橋計行クリニック
超音波検査室
尾上篤志 先生

検査前の視診とマッピング

図1 脱血不良例
1. 脱血不良
 図1は、脱血不良で超音波検査を実施した症例である。血管を観察すると、吻合部から中枢側に向かって太い血管の走行が確認できず、脱血穿刺部末梢(吻合部側)に窪みがあり、発達は良くない。一方で末梢側への側副血行路の発達が見られる。このような血管の状態からは、動脈穿刺部の末梢側に高度狭窄が存在することが推測される。超音波検査前の視診では、まずこのような推測を立てた上で超音波検査に進み、総合的に判断していく必要がある。
図2 人工血管症例
2. 人工血管
 人工血管の症例(図2)では、人工血管が二重に造設されている様子が観察できる。このうち外側に脱血穿刺部と返血穿刺部があることから、内側の人工血管が閉塞したため外側に新しく人工血管が造設されたものであることが視診により確認できる。実際の超音波画像では、内側人工血管内には全く血流が表示できないのに対して、外側人工血管内には血流が豊富であることが確認された。
 
3. 動脈表在化
 動脈表在化の症例は、拍動が明瞭に観察できるのが特徴で、超音波検査では拍動性の血流を示す所見が得られる。動脈表在化の場合には、まず脱血穿刺部を探し、穿刺部血管の性状や内部の血栓の有無を確認することが大事である。また繰り返す穿刺により動脈瘤が発生するため瘤の大きさを測定し、内腔の状態を検査で把握することも大切である。
図3 マッピング
4. マッピング
 超音波検査時における視診などの理学所見の結果をまとめ、バスキュラーアクセス(VA)のマッピング図を作成する。具体的には図3のように、まず腕の輪郭と走行するVAを描いていく。次に脱血穿刺部と穿刺方法・返血穿刺部と穿刺方向・吻合部を記入していく。さらに吻合部等に石灰化があればその石灰化を、瘤があれば瘤の径や皮下からの厚みも記入する。最後に狭窄部位と狭窄部血管径・狭窄部の血管内膜肥厚の有無・血栓性(非血栓性)閉塞の部位、血栓などの異常所見を記載する。特に狭窄は、外観上狭窄を起こしているように見えなくとも、実際は内膜肥厚があり狭窄に至る場合もあるため、その状態を短軸と長軸の両方で書き加えていく。さらには、側副経路、非血栓性の閉塞、静脈弁、スリルの有無も描き加えておくと良い。

 
血流機能評価のポイント
 一般的には、上腕動脈の血流をVAの血流量(FV)とする。VA造設前の動脈は、上腕動脈から末梢血管に行くほど血流速度は低下するが、VA造設後は逆に上腕動脈よりも橈骨動脈の方が血流速度は速くなり、かつ拡張期の血流も増大する。さらに、VA造設前後では吻合部の末梢部の血流動態にも違いがあることがわかっている。
 例えばFVが840mL/min、血管抵抗指数(RI)が0.45であれば血流機能は正常だと言えるが、乱流成分が増えて血管径が太くなってくるとFVが1,960mL/min、RIが0.38といった過剰血流が見られる。狭窄がある場合、軽度であればFVやRIが正常な場合も比較的多いが、高度狭窄ではFVが420mL/min、RIが0.80といったように拡張期血流が低下し、拍動性に近くなる。さらに拡張期にほとんど血流がなく、FVが170mL/ min、RIが0.93で拡張期血流が消失している状況になると、閉塞が起こっている可能性が考えられる。
 このように、上腕動脈の血流のパターンを見ることで(FVとRIを測定することで)、VAに高度狭窄や閉塞が起こっている可能性をある程度推測することができる。当施設では、脱血不良がある症例に限って、狭窄は1.5mm以下、血流量は300mL以下、RIは0.7以上を手術適応の基準として超音波検査を行っている。
 

図4 狭窄
形態評価で注意すべきポイント
 透析患者の血管においては、動脈、静脈を問わず、石灰化が多く認められる。動脈側の石灰化は比較的均一である場合が多く、石灰化が強いと、パルスドプラ法でも血流波形が捉えにくく、血流の評価が困難となる場合がある。一方静脈側では、特に吻合部で石灰化が見られるが、高度石灰化病変の場合は、内部の血流が全く評価できない状態になっていることも多い。透析患者における血管の石灰化は一様ではなく、複雑に隆起するカリフラワー状の石灰化がよく見られるため、狭窄の評価を慎重に行う必要がある。
 瘤は基本的には動静脈の吻合部に生じることが多い。瘤が見られる場合には、その発生原因を考える必要がある。瘤が発生しているということはVAの血流量は多く、瘤の中枢側(下流側)に何らかの狭窄あるいは高度な屈曲が起こっている可能性を考え、超音波検査で確認する必要がある。同じ瘤でも穿刺部の瘤については、狭窄に注意するよりも、複数回の穿刺が原因で血管内が肥厚していないか、石灰化が起こっていないか、血栓が発生していないか注意する必要がある。さらに瘤化シャントについては、透析患者では血管が太く盛り上がっているように見えるが、一部に窪んだ部位が見える場合には、そこを注意して視診する必要がある。
 図4に狭窄の特徴を示す。狭窄とは、最も細い血管径を持つ部位を指すが、末梢側と中枢側に屈曲点が存在することが基準になる。一般的には狭窄部の径が1.5mm以下で閉塞のリスクが高くなると言われているが、臨床上は2mm程度の狭窄でも脱血不良になることがある。病変の進行を考慮すれば2mm、スクリーニング目的であれば3mm以下の狭窄を見つける努力が必要ではないだろうか。また触診ではスリルが認められ、超音波検査ではPerivascular Artifactというノイズが発生することが特徴である。狭窄は脱血不良、静脈圧上昇、穿刺困難、止血困難の原因となるため、早期発見・早期治療が重要である。また狭窄部位は、閉塞の発生時には血栓の終点になることが多い。VA閉塞には血栓性の閉塞と非血栓性の閉塞の2種類があるが、いずれもBモード法で判定可能であり、病変の局在部位と広がりを診断することができる。

 

実例提示

図5 表在化動脈症例に発生した穿刺困難症例

1. 表在化動脈の脱血部に発生した穿刺困難症例
 表在化動脈症例(図5)では、脱血穿刺部に3.5cm大の瘤が形成され、この瘤に穿刺困難が生じていた。エコーを当てれば一目瞭然で、瘤内に血栓形成が認められる。短軸と長軸像を組み合すことで、穿刺部の瘤内が血栓で閉塞し、内腔がほとんど無い状態であるため穿刺しにくいということがわかる。このような症例の場合は比較的簡単に超音波検査で把握可能である。

図6 脱血不良(典型例)症例
2. 脱血不良症例
 図6のような脱血不良は典型例と言える。超音波検査で上腕動脈の血流機能評価をしたところ、FVが340mL/min、RIが0.74と明らかに高度狭窄を疑う結果が得られた。脱血不良があり血流も不良ということから、脱血穿刺部と吻合部の間に高度狭窄の存在が推測された。その部位のエコー像では、1.7mmと1.2mmの狭窄が認められ、特に1.2mmの狭窄が血流の低下に関与しているであろうと考えられた。
図7 シャント音減弱症例
3. シャント音減弱症例
 図7のシャント音減弱症例は、非常に発達した良いシャントで、一見するとシャント音減弱(脱血不良)が起こっているとは判断しにくい血管である。しかし超音波検査で血流機能を評価したところ、FVが370mL/min、RIが0.68と、狭窄が疑われる所見であった。
 このVAは超音波検査時の前々回透析時に脱血不良があったため、前回透析時脱血部位を吻合部側に変更したところ脱血不良が解消された症例である。そこで前回と前々回の脱血部位の間の血管を超音波で形態評価をしてみると、血管径は小さくなっていないが、著明な内膜肥厚のために内腔が狭小化し血流低下が起こっていたことがわかった。したがって、視診上、くぼみや細い血管として認識されないような狭窄も存在することに注意が必要である。
図8 静脈圧上昇症例
4. 静脈圧上昇症例
 図8に示した症例は皮下脂肪が厚く、VAがわかりにくいため穿刺も困難なことが多くボタンホール穿刺が施行されている。この症例はFVが410mL/min、RIが0.55と、RIは上昇していないもののFVが低下していることから高度狭窄とは考えにくいが、静脈圧が上昇していることから、狭窄の存在が疑われる。超音波による形態診断では、脱血部には異常を認めなかったが、返血穿刺部がトンネル状に描出されその先の血管内腔に血栓の存在が認められた。静脈圧上昇の原因はこの血栓であると診断されただけでなく、この血栓により超音波画像上にノイズが乗っている、また血流が狭窄部位を通過しているために血流が速くなっていることなどから、血流低下の原因にもなっていることが考えられた。
図9 脱血穿刺部止血困難症例
5. 脱血穿刺部止血困難症例
 図9図9の脱血穿刺部止血困難症例では、吻合部の末梢血管が張った状態であり末梢側への血流が過大であることが推測されたが、触診ではスリルが触れる場所は全くなく、FVが840mL/min、RIが0.45で血流機能は正常であった。しかし、超音波検査による形態評価では、脱血穿刺部から上腕の橈側皮静脈に繋がっているはずの血管に非血栓性閉塞が描出され、この閉塞により穿刺部の血流の内圧が高まり止血が困難になっていると考えられた(図9点線部が非血栓性閉塞部位)。この症例では吻合部より末梢に脱血穿刺部位を変更することにより治療可能であった。
図10 スクリーニングで初めてVAの異常を指摘された症例
6. スクリーニングで初めて穿刺部の異常を指摘された症例
 スクリーニングで穿刺部の異常を指摘された症例を図10に示した。この症例ではFVが390mL/min、RIが0.6と、RIは上昇していないもののFVはかなり低下していたため、高度狭窄を疑い、注意深く検査・観察を行った。形態評価では脱血部位より吻合部側に1.7mmの狭窄を認め、返血穿刺部位より中枢側にも1.3mmの高度狭窄を認めた。検査後透析スタッフに確認したところ、脱血量は220mL/minと十分であったため透析は順調であるという認識であった。しかし、超音波検査の結果を説明し、再度透析スタッフに確認したところ、「実は返血側は穿刺しづらく、穿刺を進めていくと何かに当たるような印象があった」という話であった。透析スタッフは、脱血不良でないこと、また透析が問題なく実施できていることばかりを重視する傾向がある。しかし、超音波検査上は閉塞のリスクが大きいため、外科的な適応も考慮して血管外科に紹介となった。このような例もあるため、一見して問題が起こっていなくても、くまなく評価をして適切なリスク評価を行うことも大切である。

おわりに
 今回の講演ではVA超音波検査時において、視診の大切さを強調して説明したが、実際の検査時には触診によるスリルの検出もVAの異常を推測する手がかりとなるため大切な手技である。さらに講演で使用した血流表示はほとんどが東芝メディカルシステムズ独自の血流表示技術であるAdvanced DynamicFlow(ADF)を使用した。この方法は血管からのにじみが無く、血管内腔を過大評価することなく表示できる優れた特性だけでなく、Perivascular Artifactを利用することで狭窄の判定は容易にできる利点もある点を付け加えておく。