透析エコーの実践と評価:VA合併症に対するエコーの実際-診断から治療まで

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.10.31

透析エコーの実践と評価

第2部 特別講演

司会
 
 
髙橋計行クリニック 超音波検査室
尾上篤志 先生

VA合併症に対するエコーの実際-診断から治療まで-

演者
 

飯田橋春口クリニック
春口洋昭 先生

 
はじめに
 かつて、約15年前の超音波検査では、VA合併症の診断においてBモードの画質は発展途上で、カラー画像においてグラフトの静脈吻合部の内膜肥厚がやっと評価できるような状況であった。しかし近年の技術進歩により、Bモードの画質は大きく改善し、血管内部が明瞭に評価できるようになった。さらに従来のカラードプラだけでなくAdvanced dynamic fl ow(ADF)を用いることで、診断の質が向上してきている。治療の場面でも超音波ガイド下PTA(経皮的血管形成術)は積極的に実施されており、超音波検査の有用性はさらに広がっている。
 
狭窄部位および穿刺部位と血流量、血管走行の関係性

図1 脱血不良はないが脱血部の止血時間が延長している症例
図2 血管分岐、狭窄、穿刺部と脱血の関係
 狭窄が存在する部位では、シャント血流量が低下して脱血不良が発生する。例えば200mL/min脱血する場合に必要な血流量は約350mL/minであり、ここが脱血不良のカットオフ値になる。狭窄の下流が350mL/minの場合、狭窄の上流も350mL/minとなるが、狭窄の上流であれば脱血不良は起こらない。狭窄がある場合、通常はその下流側の血流が少なくなることによって症状が起こるため、血流量が症状に関係してくる。しかしシャントの場合は穿刺部が狭窄の下流側か上流側かで異なり、これがシャントの超音波診断を行う上で最も大事なポイントの1つである。
 例えば、脱血不良はないが脱血部の止血時間が延長している症例がある。この症例は上腕動脈血流量が140mL/minであるが、脱血は良好である。これはどういうことか。この症例では図1に示すように脱血部の中枢側に狭窄があり、全体的な血流量は140mL/minと少ないが、現在の脱血部位であれば透析には問題がないということである。では透析が可能であるからといってこのようなシャントを放置して良いのかという問題がある。いつ行うかは状況によって異なるが、狭窄部位が閉塞する可能性があるため、時期を見て狭窄部位を広げる必要があると考えられる。
 静脈圧上昇に関しても同様に、狭窄部の上流で穿刺するか下流で穿刺するかによって異なる。したがって、脱血不良や静脈圧上昇が起こった場合には狭窄病変の部位と穿刺部位が非常に重要である。
 図2は血管分岐、狭窄、穿刺部と脱血の関係を示すシェーマである。AとBの間に狭窄があり、血流量が350mL/minある場合でも、Bに穿刺をすると脱血不良になり、逆に上流のAで穿刺を行えば血流量が100mL/minでも脱血は可能である。シャントでは分岐した後のC1やC2で穿刺することも一般的で、例えばBで血流量が350mL/minあったとしても、C1やC2では200mL/minや150mL/minになっているため、ここでは脱血できない。そのため、分岐部の位置を評価することも大事である。C2で脱血しているときに脱血不良があった場合、視診ではC1が見えないことがある。そうした場合C1に血流があるかどうかを評価するには、C2の脱血部を指で圧迫してみるとよい。圧迫した際に血液はC1に流れるため、Aにはスリルが残り、Bで圧迫するとAは拍動になる。したがって、Aでスリルを見ながらC2からBに向かって指を徐々に動かしていくと、ある場所になると急にAが拍動になる。そこで「ここに分岐がある」ということが、超音波検査をする前に把握できる。
 以上のように、狭窄と穿刺部の位置関係、血流量、血管走行という3つの因子の組み合わせで脱血可能か否かが決定される。

 

狭窄部を知る方法

図3 指1本での触診
図4 上肢の拳上による静脈虚脱の確認
 狭窄部を知る方法としては、症状から類推する方法、視診・触診・聴診、そして超音波検査の3つがある。例えば視診では凹んでいるところが狭窄だろうと推定できる。また、私自身は触診を重視しており、丹念に触ると狭窄部がわかってくる。狭窄部の手前は内圧が高いため拍動性になり、狭窄部はジェットの流れが出て乱流が起こるためスリルになり、下流は弱くなるという原則がある。スリルを確認するときに指4本で触診をすることがあるが、狭窄がある場合でも、例えば薬指から良いスリルが伝わってしまい、「これは良いシャントだ」という判断になってしまう可能性がある。したがって、吻合部から指1本で触診することが大事であると考える(図3)。吻合部で拍動になっていれば、その上流が狭窄していることが推定できるため、触診を丹念に行い狭窄部はある程度把握した上で超音波検査に進むのが望ましい。
 もう1つの有用な方法として、狭窄がある場合には上肢を拳上することで狭窄部中枢の静脈が虚脱することが確認できることがある(図4)。したがって、視診、触診、聴診にプラスして「手を挙げる」ということも診察技術として有効であると思われる。
 狭窄を知るための最後の手段は超音波検査である。ポイントの1つは、短軸と長軸の両方で狭窄病変を描出することである。最初に長軸で見たら、次に必ず短軸で見て、また長軸で見るという癖をつけておくことが肝要である。そして、カラードプラとBモードの両方で描出することが大切である。例えばADFで内膜肥厚を認めた場合に、ADFの設定の仕方によっては表示のはみ出し(ブルーミング)が生じて過大評価してしまうことがあるため、必ずBモードでも評価することが大切である。
 注意点として、流速レンジを低い血流に合わせていると狭窄病変の正確な把握ができない場合があるため、適宜調節する必要がある。カラードプラについても、ブルーミングアーチファクトを避けるために、設定を調節するなど、狭窄を見逃さないための細かな工夫が必要である。
 静脈弁を描出するためには、ゲインやダイナミックレンジを上げていくことが効果的で、それによりジェットの流れを把握することができ、狭窄を発見することが可能である。

 
狭窄病変の治療

図5 エコーガイド下PTA
 狭窄病変の治療法としては、最近では狭窄部をバルーンで拡張して流れを改善する経皮的血管形成術(PTA)が広く行われており、当院では超音波ガイド下で実施している。また、場合によってはバルーンを用いた血管内治療ではなく外科的再建術を行うこともある。
 超音波ガイド下PTA(図5)については、まずシースを挿入し、エコーで確認しながらガイドワイヤーを挿入していく。狭窄部を超えて十分ガイドワイヤーが通過したら麻酔を行う。超音波ガイド下PTAのメリットの1つは、血管付近を観察しながら麻酔を行うことができる点である。麻酔を行ったらバルーンを挿入していき、バルーンを一定時間拡張したら、今度はバルーンをデフレーションして抜去する。また超音波ガイド下では、血管の性状が内膜肥厚であるのか、血管収縮型であるのか、弁なのかもわかるため、どこから穿刺し、PTAを行うかについても有用な情報が得られる。
 PTAが必要とされるのは、狭窄によって透析困難が生じており穿刺部位を変えてもどうにもならない場合や、狭窄によって透析効率が低下している場合、狭窄による閉塞の危険がある場合である。透析効率の低下については再循環が関係してくる。再循環とは、脱血し、透析膜通過後の返血が再度脱血に取られてしまうことである。再循環を疑うのは、例えば狭窄部よりも上流で脱血していて、シャント血流量が少ないにもかかわらず脱血が良好な場合である。シャント血流量が少ない場合、返血の血流が相対的に強くなり、脱血部位に一部逆流してしまう可能性があるため、このような場合には再循環を疑う。また、返血している血管の中枢側に狭窄があるような場合にも逆流して再循環してしまうことがある。そして、脱血と返血の穿刺の位置が非常に近い場合も再循環してしまう可能性がある。

 
閉塞に対する治療

図6 慢性非血栓性閉塞慢性非血栓性閉塞側副静脈吻合部
 閉塞は突然生じることも多いため、その危険性がある場合にはPTAを考慮する。例えば、最初はシャント血流量が800mL/minあり、その後狭窄が進行して500mL/minになってもまだ脱血良好の状態が維持される。それが300mL/minに変動して脱血不良になると、今度は吻合部近くに穿刺部位を変更することがある。そのような場合には一時的に脱血良好になるが、シャント血流量がさらに低下すると突然閉塞してしまうことがある。そのため、たとえ透析がうまくいっていたとしても、理学所見をきちんと取って適切なVA管理をすることが重要である。
 閉塞に関しては、太い血管でシャント血流量が1,000mL/minを超えるような症例であっても、内圧上昇がある場合は突然閉塞することがあるため注意が必要である。そのため、PTAの適応は血流量だけでは決めることが難しく、何らかの方法で血流速度を計測できればある程度閉塞を予測できるのではないかと考えている。
 閉塞に対する治療としては、閉塞部を直接治療するケースと、新たなVAを作製するケースがある。直接治療する方法には、外科的血栓除去術、経皮的血栓溶解、経皮的血栓除去がある。外科的血栓除去では血栓除去用のバルーンカテーテルを用いて血栓を除去する。経皮的血栓溶解は血管の切開が不要な方法で、カテーテルからウロキナーゼを注入して血栓を溶解させ、血栓吸引カテーテルで溶解した血栓を除去するものである。
 閉塞には血栓性のものだけでなく、慢性非血栓性閉塞もある。慢性非血栓性閉塞がある場合は、側副静脈に血流があることを超音波画像上で確認することができる(図6)。ただし慢性非血栓性閉塞がある場合でも他の部位への穿刺で透析ができていれば、必ずしも治療を行わなくてもよいとされている。治療を行う場合は、ガイドワイヤーがこの閉塞部位に通過すれば、バルーンで広げていくと慢性非血栓性閉塞は拡張して血流が改善する。

 
瘤の観察ポイントと治療法
 VA合併症は、脱血不良、脱血不能、静脈圧上昇などの透析で生じる症状と、静脈高血圧症、スチール症候群、瘤、痛み、感染など患者に生じる症状に大きく分けることができる。動・静脈瘤については、吻合部の瘤なのか、それ以外の部位なのかということは治療を考える上で非常に重要である。そして、血管壁が残っている真性の瘤か、穿刺によって生じる血管壁を持たない仮性の瘤に分類される。仮性の瘤ができる原因は、穿刺孔からの出血による血腫形成に基づくものが多く、止血不良などでも一瞬のうちに生じることがある。また人工血管であっても止血不良により小さな瘤が形成され、その瘤が重なって大きな瘤が生じることもある。
 超音波検査での瘤の観察ポイントとしては、瘤のサイズ、壁在血栓の有無、壁石灰化の有無、吻合部瘤の流入動脈がどうなっているか、瘤前後の狭窄病変、皮膚から瘤の血管前壁までの距離などが挙げられる。手術法はグラフトで置換する方法やパッチを当てる方法、血管壁を直接縫合する方法などが用いられる。
 
静脈高血圧症の観察ポイントと治療法

図7 尺側皮静脈への逆流
図8 手背枝の圧迫前後の上腕動脈のパルスドプラの変化
 上肢全体や胸部の腫脹がみられる場合は、中心静脈狭窄が疑われる。静脈狭窄の好発部位は腕頭静脈や内頸静脈上腕静脈、橈側皮静脈などの血管が合流する場所で、例えば腕頭静脈が細くなると血液が内頸静脈を逆流することがある。このような場合の超音波検査のポイントは、内頸動脈と内頸静脈の方向である。静脈が動脈と同じ方向に流れていたら、内頸静脈が尾頭方向に進んでいるという証拠になるため、顔面が半分腫れて鼻血がよく出る症例などでは、内頸静脈を逆流している可能性が考えられる。
 前腕だけが狭窄して腫脹がみられる症例も比較的多い。グラフトが留置されている症例で、中枢側の静脈に狭窄があるために逆流を起こして前腕に腫れがみられるケースをよく目にする。したがって、前腕だけが腫れてきたら上腕尺側皮静脈の狭窄を疑う(図7)。 その他、吻合部付近の狭窄あるいは閉塞により手背枝に逆流して大半は第3、4指付近に腫脹やびらんを呈するソアサム症候群という病態も起こり得る。このような症例で上腕動脈のパルスドプラの変化を見ながら背側枝の血管を圧迫すると、拍動様に変化して閉塞するというパターンを呈したため(図8)、閉塞のために逆流が起こったことがわかった。
 静脈高血圧症における超音波検査では、臨床症状から狭窄部、閉塞部を予想すること、解剖所見に沿って判断すること、流速が上がっていないか、逆流している血管はないか、PTAは可能かどうか、バイパスできる静脈かどうかなどについて、注意すべきである。 治療の方向性としては、まず静脈高血圧症は過剰血流の場合もあるため、シャント血流を減少させることを考える。そして狭窄部を拡張する、バイパス手術を行う、または末梢へのシャント血流を遮断する、あるいはシャントを閉鎖して対側に新たに作製する方法もある。

 
スチール症候群の観察ポイントと治療法

図9 逆行性血流
 スチール症候群はシャントの血流増加のために末梢(指先)への血流が障害される病態で、頻度はそれほど多くはない。静脈血流の逆流も影響するが、もともと尺骨動脈の動脈硬化が強い場合に、血流がシャントの方に取られてしまうと、末梢の手指には血流が行かなくなってしまうことの影響が大きい。スチール症候群は、初期は冷感や透析中の痛み・痺れなどの症状であるが、進行すると安静時の痛み・痺れや潰瘍・壊死にも進行するため、早期発見・早期治療が大切である。
 逆行性血流がみられる場合、シャント血管を圧迫して逆行性の血流が順行性に変わるようであれば(図9)、シャントを閉鎖すれば逆行性の血流が戻り、末梢への血流が改善する可能性がある。スチール症候群で安静時でも痛み・痺れの症状があるStage Ⅲ以上の場合は、血管造影や超音波検査、サーモグラフィなどを用いて中枢の動脈狭窄の有無や過剰血流の有無を確認する必要がある。血流量が少ないにもかかわらずシャントのスチールが生じる場合は、シャントを閉鎖することもある。

 
最後に
 VA合併症はさまざまあるが、超音波検査を行う前にまず、なぜそのトラブルが起きたのかを考え、マッピングができる程度の理学所見を取ることが大切である。その上で超音波検査で確認していくことが重要であり、それにより効率的で正確な診断が得られ適切な治療につながると考える。