第40回 日本放射線技術学会秋季学術大会ランチョンセミナー6:次世代CT、MRIによる イメージングイノベーション 講演2

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.01.31

第40回日本放射線技術学会秋季学術大会 ランチョンセミナー6

次世代CT、MRIによる
イメージングイノベーション

 
日時:2012 年10 月5 日(金)  
会場:タワーホール船堀   
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
東京女子医科大学病院
江島光弘先生

Aquilion ONE ViSION Editionの
最新臨床応用

 

演者
 
国立大学法人北海道大学病院診療支援部
笹木 工先生

はじめに
 当院では、2012 年7月にAquilion ONE ViSION Editionを導入し、臨床に応用するとともに、さまざまな検討を重ねてきた。ここでは、Aquilion ONE ViSION Edition の特性やこれまで得られたデータを紹介したい。
 

図1 骨盤骨切り術後の経過観察
図2 大動脈弁置換術後
Aquilion ONE ViSION Edition の特長
 当院でAquilion ONE ViSION Edition を実際に使用してみて、まず最初に、「速さというのは大きな武器である」という印象を受けた。多種多様の臨床からの依頼に対し、新しい武器を手に入れたとの感を強くした。Aquilion ONE ViSION Edition は、旧来のAquilion ONE と同様に160mm のcoverage があり、また0.275s/rot の高速で回転すること、さらに64 列のAquilion 64 と比べ、画像再構成が圧倒的に速いことなどが特長で、これらはいずれも、われわれの日常業務において大きなメリットとなると考えられる。
 また速度以外にも、予想していた以上に利便性を感じたのが、開口径が780mm と大きくなった点である。特に高齢者の検査を行う際などに、肩がなかなかうまく上がらずに非常に苦労することがあるが、径が大きいと、その点をさほど気にすることなく検査を行うことができる。
 また、寝台は心臓の撮影のために開発されたもので、横方向に移動する。これは心臓のCT のみならず、通常の撮影時にも有用で、ポジショニングが不十分で、きちんと中央にポジショニングしたいときに、スイッチを押すだけで寝台が横に移動して中央で撮影が可能となる。
 
Aquilion ONE ViSION Edition による臨床例
 臨床例を示す。骨盤の骨切り術後の経過観察例(図1)は、導入初日の午前中に撮影を行っている。当時はAquilion 64 が稼働していたが、本症例は2 歳の男児で、暴れて撮影が困難であったためAquilion ONE ViSION Edition で撮影を行った。その結果、鎮静することなく、ベッドの上で泣いているそのままの状態で、一切ぶれることなく撮影が可能であった。これは撮影速度が速いためで、まさに“速さが武器”といえる症例であった。
 大動脈弁の弁置換術後の症例(図2)は、循環器外科医より、大動脈基部と吻合部の状態、血流の有無、冠動脈の状態がみたいとのリクエストがあった。そこで弓部上方から心尖部まで、心電同期のヘリカル撮影を行った。通常であれば心拍コントロールを行うべきところであるが、術後間もないため心拍コントロールは一切行わずに撮影した。心拍数は100 ~ 109bpm であったが、通常のCoronary CT と同程度のクオリティをもつ画像を構成することが可能であった。回転速度は0.275s/rot ではなく0.32s/rot で行ったが、HeartNAVI、PhaseNAVI を使用した結果、広範囲を、ぶれることなく撮影することができた。
図3 Half Recon. vs. Full Recon.
Coronary CT のFull Recon.
 我々が現在取り組んでいるのは、Coronary CT でのFull 再構成(Full Recon.)を使用した検査である。Coronary CT のFullRecon. には、多くのメリットがある。通常、Coronary CT を行う際は、時間分解能を優先するためHalf Recon. を行う。
 Aquilion 64 ではHalf Recon. のみであったが、AquilionONE ViSION Edition よりFull Recon. が可能となった。FullRecon. を前提として電流を低下させAquilion ONE ViSIONEdition により撮影を行うと、当然full data を使用することになるため、画像のS/N が向上する。また小焦点で撮影することになるため、分解能の向上も期待できる。さらに高速回転が実現したこと、volume scan が可能になったことなど、多くのメリットがある。このようにさまざまな技術の向上が、結果的には患者における被ばく低減につながっていくと考えている。実際、心拍数60bpm の患者において、ひとつのデータからHalf Recon.とFull Recon. を行った画像を比較すると、Full Recon. の画像は、ざらついた感じがやや少なくなっているのがわかる(図3)。また冠動脈周囲の脂肪の部分にROI を設定してSD を測定すると、Full Recon. ではSD が向上していることも明らかになった。
 当院では現在、これらのことを加味し、BMI によるCoronaryCTA の撮影条件の適正化に取り組んでいる。比較的やせている患者に対し、心拍数を可能な限り低下させた状態で、FullRecon. を使用して電圧も低下させた撮影を実施することにより、被ばくの低減が達成できるのではないかと考えている。

図4 Aquilion 64 vs.
Aquilion ONE ViSION Edition(Small focus)
Aquilion ONE ViSION Editionの性能評価
 次に、Aquilion ONE ViSION Edition の性能の評価を行った。まず高速回転になっても本当に画質が担保されているのかを評価した。Aquilion 64 とAquilion ONE ViSION Edition を使用し、いずれも64DAS モードのhp53 と撮影条件をまったく同一にし、画像関数およびC-FOV も同一にして比較したところ、従来のAquilion 64 で心臓の部分となる9Lp/cm において、ほぼ同等の分解能が、0.275s/rot であるAquilion ONE ViSIONEdition においても得られている(図4)。また焦点サイズを大焦点から小焦点へと移行すると、電流による差はほとんどないにもかかわらず、ファントム内のスリットの間隔が非常に明瞭に観察できるようになった。0.35s/rot に設定すると12Lp ぐらいまで分解できるが、0.275s/rot という高速回転でも、細かい部分まで明瞭に描出できることが示された。高速回転であってもview 数を十分に担保できているため、このような優れた分解能が確保できていると考えられる。
図5 AIDR 3Dについて
図6 AIDR 3D:Prospective
図7 AIDR 3D:Retrospective
図8 Prospective NPS
AIDR 3D における逐次近似応用再構成の特性
 Aquilion ONE には、ノイズを低減する新技術であるAIDR3D が搭載されている。そこでAIDR 3D における逐次近似応用再構成の特性を理解するため、Catphan のhigh resolutionmodule、およびuniformity module を使用して実験を行った。AIDR 3D(図5)は、投影データ上で統計学的ノイズモデル、スキャナーモデルを用いてノイズを低減し、streak artifact などを選択的に除去する。またanatomical model を用い、各部位に合わせ繰り返しノイズ低減処理を行うことが可能である。さらにweak、mild、standard、strong、の4 段階の強度から選択できる。AIDR 3D には、撮影に連動するProspective な使用方法と、撮影後に設定してノイズ補正を行うRetrospective な使用方法の2 種類がある。この2 種類の方法について、SD とNPS の計測を行った。Prospective にAIDR 3D を使用する際には、off、weak、mild、standard、strong の4 段階の強度を設定し、Retrospective には、もっとも線量が強くなるoff 状態と、もっとも線量が少なくなるstrong 状態の2 段階の強度を設定した。なおNPS の計測に当たり、日本放射線技術学会東北部会で表示しているFO-BS と呼ばれるソフトを使用している。これはダウンロードして使用できるフリーソフトで、非常に使い勝手の良いものである。
 まずProspective に撮影した画像SD(図6)をみると、ほぼメーカが示している管電流の被ばく低減率の通りであった。一方Volume EC のSD は8 に設定したが、実際のSD は若干変動が認められた。Retrospective に補正した画像SD は、AIDR3D の強度を強くすると徐々に低下し、実際にノイズが低減されていることが示された。AIDR 3Dをoff の状態にして得たProspective なデータを、strong のAIDR 3D でRetrospectiveに補正した画像(off-strong)と、線量を最も低減するstrongの状態にして得たProspective なデータを、再度strong のAIDR 3D でRetrospective に補正した画像(strong -strong)を比較すると、画質は決してAIDR 3D をかけない元の状態に戻るわけではないが、SD の改善の状態は、線量が少ないほうがよいことが示された(図7)。実際の撮影時の設定や撮影後の設定の組み合わせはさまざまに考えられるため、各施設での検討が必要と思われる。
 次にProspective に撮影した際のNPS をみると、off、weak、mild の状態では、ほぼ同一のNPS 形状が示されており、standard とstrong は高値を示している。線量が60mA と非常に低いため、ノイズが出現していると思われる。ProspectiveなAIDR 3D の使用をoff の状態にして撮影したデータに、Retrospective にさまざまな強度のAIDR 3D で補正した際のNPS の形状をみると、SD 計測した結果と同様、AIDR 3D の強度が強いほどノイズが低減がされることが示された(図8)
 
まとめ
 Aquilion ONE ViSION Edition は、非常に広範囲かつ高速の撮影が可能であり、さまざまな症例に対応できる、「新たな武器」といっても過言ではない装置である。逐次近似応用のAIDR 3D については、本日示した検討ではまだまだ不十分であり、AIDR 3Dの特性把握のために、さまざまな項目、さまざまな条件下での検討が必要と考えている。現在、我々はCoronary CT での小焦点撮影、BMI による撮影条件の適正化によるさらなる被ばく低減に取り組んでいる。多くの技術が改良されたことにより被ばく低減が可能になっているので、それを臨床に応用していきたいと考えている。

 
 
(本記事は、RadFan2013年1月号からの転載です)