第32回 日本画像医学会ランチョンセミナー7:あたらしい胸腹部画像医学 ~非造影MRAと面検出器CTが創り出す臨床インパクト~

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.05.31

第32回 日本画像医学会 ランチョンセミナー

あたらしい胸腹部画像医学
~非造影MRAと面検出器CTが創り出す臨床インパクト~

 
日時:2013 年2 月22 日( 金)
場所:東京ステーションコンファレンス
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
順天堂大学医学部放射線医学講座
桑鶴良平先生

非造影MRA、次は何を見る?
~女性骨盤を中心に~

 

演者
 
京都大学大学院医学研究科放射線医学講座
木戸 晶先生

はじめに
 東芝メディカルシステムズのMR Angiographyにおいては、非造影のMRAが定着している。今回は血管の評価だけではなく、造影剤を使用せずに、どのように血流の状態を評価するか、その方法もあわせ、私共の研究も踏まえながら解説する。
 

図1 子宮の画像解剖
図2 排卵期と月経期の子宮のMR 画像
子宮のMR画像の特徴
 子宮は解剖学的には膀胱の後部、直腸の前部に位置する。直腸内は、ガスを多く含むことが多々あり、また、不規則な蠕動運動をするため、この領域でMR画像を得る際には常に問題となる。正常の性成熟期の女性の排卵期の子宮はT2強調画像で、3層構造を示す(図1)。内膜は高信号を示し、筋層は内側で低信号を示すJunctional Zone(JZ)とその外側の外層筋層にわかれる。JZは解剖学的にも組織学的にもこれに相当するものは明らかではなく、子宮のMR画像で特有に認められる構造と言われている。
 また、子宮のMR画像上の特徴として、月経周期による変化が挙げられる。とくに月経期においては、極端な例では、子宮体部におけるMRの層構造が認められず、全体が低信号となって認められる(図2)。これは、子宮底部が強い、収縮をしている状態を反映している。我々の過去の検討では、この収縮の程度が強いほど、月経困難の症状が強いという結果を得ている。さらに、子宮は排卵期と月経期で形態だけでなく動きも変化する。排卵期においては、子宮頸部から底部へ向かってJZの信号変化と共に内膜の波状の動きが観察される。これは精子が頚部から子宮腔内へ向かう動きを補助する働きがあると言われている。このようなさざなみ状の動きは子宮蠕動と呼ばれる。月経期においては、子宮内腔の月経血を排出するため、子宮蠕動は逆に底部から頚部方向へ向かい、また、底部には強い収縮を伴う。このような筋層の強い収縮の状態は、T2が低信号になることから、水分が減少することは推測されるが、血流も減少していると推測される。時に臨床症例において、子宮収縮と血流の関係を示唆する画像を見ることがある。T2強調像において、子宮局所の収縮が認められている際、直後に造影剤を投与すると、この収縮の部位に一致して造影欠損が認められる。このような所見からも収縮が虚血であることがわかる。
 がん等の悪性疾患においては、造影剤を使用することは多々あるが、月経困難、不妊症等、妊孕能温存を目的として撮影に来る方々については、可能な限り造影のリスクを負わずに血流の状態を評価する方法がないかと考え、非造影の血流評価の手法を検討するに至った。
 
Bold imagingによる血流・血管の評価
 非造影MRIによる血流・血管の評価法として代表的な手法がBold imagingである。同手法は脳機能イメージングに用いられることが多い。脳機能イメージングの場合、脳賦活時には酸素消費は5%しか増加しないのに対し、局所血流は20~40%増加する。酸素化されたOxy-Hbが増加すると磁化率が変化する。T2強調像では、この磁化率の変化は信号変化としてとらえられるので、これを定量化し、画像化することができる。現在では腎臓や前立腺、心臓でもBold imagingが応用されている。腎では、Boldimagingは血流を反映するものと考えられ、腎移植後の虚血変化、糖尿病性腎症の評価への応用が報告されている。我々は過去に子宮での応用を試みた。7つのエコー時間(TE)を設定し、磁化率を定量化したT2*mapを作成したところ、解像度は良好とは言えないものの、子宮の3層構造が確認でき、各層ごとの酸素分圧が異なっていることが推測された。このT2*値を健常女性の子宮筋層の月経周期毎に観察したところ、外層筋層、JZとも月経周期変化が認められた。外層筋層においては、月経期において有意に他の周期よりも低値を示した。この結果から、月経期の外層筋層の低値は、子宮収縮による酸素分圧の低下と関連している可能性が考えられた。Hallac R.らは、子宮頸癌においてBold imagingを応用している。これによれば、子宮体部と腫瘍部分の比較では腫瘍の方で酸素化が不良であると示している。一般に悪性腫瘍では酸素化が不良なhypoxic tumorにおいては、治療効果や予後も不良であることが知られているので、腫瘍の酸素化の状態を治療前に予測できることは有用な情報となりうると思われる。
図3 腎移植症例でのASL及びR I 検査
ASLによる血流状態の評価
 Arterial Spin Labeling(ASL)は、毛細血管レベルでの組織内の血流動態を評価する手法である。この手法は、関心臓器の中枢側で一定領域の動脈血中のプロトンの磁化をRFパルスを用いて反転させることにより、血液をラベル標識し、関心領域(対象臓器)で画像を取得、血管の描出、及び血流量の定量的測定を行うことが可能となる。本手法は近年、脳血管障害や脳腫瘍、てんかんなどを対象とした研究が盛んに行われ、臨床応用も進み、従来は被曝を伴う核医学検査によって行われていた血流量の定量化も可能になっている。近年、体幹部領域においても腎や肝、前立腺を対象としてASLを用いた血流計測の報告が認められる。とくに血流量の豊富な腎における研究が進んでおり、潅流画像の再現性、血液データとの相関ともに良好な結果が報告されている。ただ、体幹部へ応用する場合には、幾つかの問題点がある。主たるところは、心拍、呼吸による腹部の動き、腸管の蠕動運動などによるアーチファクトである。心電同期や呼吸同期などにより影響を減らすことは可能だが、撮影時間が延長するという問題も発生する。また、子宮の場合、直腸や小腸など空気を多く含み、MRIによる検査が適さない臓器が周囲を取り巻くため、磁化率に鋭敏なシーケンスでは強いアーチファクトが出現し、形状自体の描出さえも困難な場合がある。
 我々は、後腹膜で他臓器に比べて動きの少ない腎臓でASLの描出を試みた。シーケンスは、東芝メディカルシステムズのASLシーケンスであるASTAR法を使用。健常人においては、Tagから撮影部位までの時間(BBTI=800~2,400msec)が長くなるに従い、血管が末梢まで描出され、実質の信号が上昇、更に時間が経過すると血管・実質とも信号が低下する像が観察された。臨床症例では、糖尿病性腎症により生体腎移植を施行した症例を経験した。移植術後のクレアチニン正常化後も尿量が少なく腎梗塞を疑われた為、非造影検査を求められた。time-SLIP法による血管描出では、吻合血管が蛇行しながらも末梢まで良好に描出され、起始部に狭窄も認められなかった。ASTAR法により、腎臓実質は、時間経過と共に欠損なく描出された。後日RI検査でTc-MAG3を用いて血流評価をした結果においても同様に実質欠損は認めず、その後の経過も順調である(図3)。子宮への応用は経過途中であり、Tagの設定等の工夫が今後必要と思われる。
図4 TI 時間による子宮動脈描出の変化
図5 閉経前と閉経後の症例のMRA 比較
図6 子宮頸癌
Time-SLIPによる子宮動脈の描出
 子宮のASL描出のために、末梢血管の描出が必要と考え、ASLの一手法であるtime-SLIPにて子宮動脈の描出を試みた。Time-SLIPはASLとほぼ同様に、Tagパルスで関心領域を選択、その組織およびその血管の背景信号を抑制し、一定時間後にTrueSSFP/FASEで画像を撮影することにより、新たに入ってくる血管が高信号として描出される。子宮動脈の場合、肝・腎等の上腹部の臓器と異なり大血管から距離があり、血管径も細くなっている。また、子宮は背景信号の抑制が不十分な状態では、血管が描出され難い。このためTagと撮影部位を近接させるなど様々な工夫が必要である。健常女性において、BBTI時間による描出能の検討を行ったところ、子宮動脈の観察にはBBTI= 1,400~1,600msecが適当であると考えられた(図4)。次に、子宮動脈描出の検証を行うため、閉経前後で描出能の比較検討を行った。これは、子宮の機能・形態はホルモン状態に依存するため、閉経前後ではホルモン環境が大きく変化し、子宮動脈の状態の変化も大きいと考えられた為である。子宮の血流動態はドップラーエコーによるstudyが多数行われている。閉経後の子宮動脈についても、Kurjak A.らは、閉経後の年数に従って子宮動脈末梢側、すなわち子宮の内膜側の描出が不良になり、血管抵抗であるResistanceindexも上昇していると報告している。また、最終出血から1年未満と1年以上で描出に大きな差が出るということも示している。我々のMRIによる検討においても、閉経前の症例では、子宮動脈末端は筋層の中まで明瞭に描出されている例が多く認められたが、閉経後は、筋層内まで描出される症例は限られていた(図5)。また、Kurjak A.らの報告に習い、最終出血からの1年未満とそれ以後で描出能を比較したところ、子宮動脈は閉経後1年未満であれば、動脈末梢は、筋層の中まで描出され、閉経1年以上では描出率は低下するという結果が得られた。これは、上殿動脈が閉経年数に関わらず、末梢2分岐まで描出されていることと対照的であり、撮像法の問題で子宮動脈の描出が不良であるわけではないことは推定される。このように、time-SLIP法を用いて安定した子宮動脈の描出が可能となったと言える。
 今後の臨床応用としては、子宮の動脈塞栓術(UAE)を施行する施設においては術前マッピングとして使うことが可能である。また、最近では妊娠希望年齢と子宮頸癌発症年齢が近接していることから、がんであっても子宮温存を希望する患者も増えている。初期の子宮頸癌では、子宮動脈を末梢まで剥離した上で、一部を切断する頸部摘出術が行える場合もある。このような場合には、動脈末梢までの解剖の描出が何らかの貢献ができると期待される。

終わりに
 非造影での血流・灌流評価には複数の手法があるが、体幹部では動きに伴う特有の問題も多々存在する。今後のハード、ソフト両面からの検討の蓄積により、腹部各臓器での血流・潅流評価が可能になることが期待される。

 
 
(本記事は、RadFan2013年5月号からの転載です)