第36回 日本脳神経 CI 学会総会 ランチョンセミナー LS-2
日時:2013 年2 月23 日( 土)
場所:広島国際会議場
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
社会医療法人禎心会病院脳卒中センター
谷川緑野先生
社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院中央放射線部
笹尾 明先生
非造影MR灌流画像(ASL)
灌流画像には、造影剤を使用したDynamic SusceptibilityContrast (DSC)法というT2やT2*効果を利用した従来の方法と、最近開発されたArterial Spin Labeling(ASL)法がある。ASLは、血液に磁化を与えてそのT1値の変化を画像化するもので、3Tになって画質が向上し臨床応用が進められてきた。灌流画像の分類としては、CT-perfusionやMRI-DSC法など血管内の血流を反映する非拡散系灌流画像と、Xe-CTやASL、SPECT、PETなど脳組織内の血流も直接観察できる拡散系灌流画像の2つに、大きく分けられる。
ASLの大まかな原理を図2に示す。まずControlの画像を撮像し、次いでラベリングした後の画像を取得しそれを差分することで、灌流の情報が得られるというものである。ここでは、先に述べているT1緩和時間が延長するということが非常に重要になってくる。それは、ラベリングした血液の信号(主にT1値の変化)持続時間が延長するということと同義であり、ラベリングした場所から離れた部分での灌流情報を得ることができるからである。ただし、3T MRIでは、RF penetrationの低下という、RF波が対象物の中心部まで届きにくいという欠点がある。しかし、その欠点も頭部ではさほど強くは現れない為十分有用な画像になっていると思われる。
ASLには、ラベリングパルスを印加し続けて撮像するContinuousASL法と、パルス状にラベリングパルスを印加するPulsed ASL法の2種類がある。前者では高いSNRが得られるがSARも高くなり、後者ではSNRが比較的低くなるがSARも低く抑えられることが特徴で、東芝メディカルシステムズの「ASTAR」と呼ばれるASLはPulsed ASL法に分類される。
図3に症例を示す。髄膜腫が頭頂部にあるが、ASLでは、脳実質部より腫瘍部での灌流が上昇しており、富血管性腫瘍であることが一目でわかる。
T2強調像で撮影すると矢印で示した部分に灌流していく静脈の拡張が描出されている。後述のFSBBという東芝メディカルシステムズ独自の方法で撮影すると、その血管がさらに強調されてみえる。
脳脊髄液動態画像(Bulk flow imaging)
Bulk flow imagingの原理は、まず撮像断面のすべての信号を抑制して、次にその関心領域の信号のみを回復させる。そして、その回復した部分に存在する液体の高信号成分や信号回復部周囲の抑制された低信号成分が移動する動きを画像化する手法であり、Time-SLIP ASL法の一環として開発された。
図4aは先天性の水頭症の症例である。Bulk flow imagingで矢印で示した部位の脳脊髄液の流れを確認したところ、中脳水道にはほぼ流れがみられず、橋前槽には流れがみられたため、第三脳室底部を開窓する手術が施行された。図4bはその術後で、Bulk flow imagingでは開窓部に脳脊髄液の流れがみられ、信号回復部の中には周辺部からの低信号液体の流れ込みもみえる。またT2強調像では、矢印の部位に脳脊髄液の流れによると思われるジェット状の信号がみられる。
1H-MRSの臨床応用
1H-MRSとは、生体内に含まれる水素原子核の状態を調べる方法で、有機化学の分野では、一般的な手法である。人体を構成しているのは水(60~70% )、タンパク質、脂質、無機塩類、金属元素、代謝関連物質(アミノ酸、核酸、糖類など)などで、無機塩類、金属元素以外はほとんど1Hを含んでいるため、理論上は大部分が撮像可能であるが実際は信号が小さく評価は難しい。それぞれの物質には、その化学構造内における1Hの位置によって特有の共鳴周波数があり、その共鳴周波数を基準物質TMS(テトラメチルシラン)の1Hから得られる単一周波数を0ppmとして相対的に表すことができる。本稿では中枢神経がメインであるので、対象となる代表的な物質としては、神経細胞に含まれているNAA(N-アセチル アスパラギン酸)、細胞膜の成分であるコリン、エネルギー代謝や細胞密度に依存するクレアチン(この3つは中枢神経病変のMRSでよく検討項目とされる)があり、さらに嫌気性代謝の指標となる乳酸(Lac)や壊死、細胞の破壊などを表す指標となる脂肪(Lip)などがある。健常脳のMRSでは、NAAが高く、コリン、クレアチンが低くなる。
図5の症例は髄膜腫であり、腫瘍内に神経細胞が含まれていない為NAAの信号がなく、隣接した部分に信号があるようにみえる。これはグルタミン酸やグルタミンからの信号と思われる。一方、コリンの信号は高くなっており、腫瘍の細胞密度が高いことが示唆される。図6は膠芽腫の症例で、NAAの信号低下と、コリンの著明な信号上昇を認める。NAAの信号が残っているということで、神経由来の細胞が関心領域内に混在していることがわかる。
図7は脳膿瘍の症例で、T2強調像および造影後T1強調像だけでは脳膿瘍であるという判定はなかなか難しいが、MRSでは、NAAの高磁場側(右側)にアラニンと乳酸の信号がみられ、膿瘍の可能性が高いと診断し、手術にて膿汁の排出がみられた。
FSBB(Flow Sensitive Black Blood)法と位相差強調像
最後に、FSBB法と位相差強調像について説明する。FSBB法は、図8に示すようにT2*強調像のような画像が得られるが、BlackBloodで血管をさらに黒く描出することができる。かなり遅い血流まで描出することができ、もやもや血管や細い静脈の構造なども明瞭に描出することが可能である。また、このシーケンスでは弱いMPGパルスを印加していることが特徴である。
図9は膠芽腫の症例で、FSBBで得られた画像から位相差強調画像化法(PADRE)を使用し合成したものである。実際の撮像としてはFSBBを撮像するだけで、あとはコンピュータ上で位相情報を使用し画像を作成するのであるが、左は血管が強調される画像、右は神経走行が強調される画像である。血管が強調される画像では、腫瘍周囲で拡張した静脈と思われる小さな血管構造が明瞭に描出されている。また神経走行が強調される画像では、健常側の視放線は明瞭に全ての走行が描出されているのに対して、腫瘍が浸潤していると思われる部分では視放線が途絶している。この現象は、視野が1/4欠損しているという症状によく合致していると思われる。
以上、比較的短期間ではあるが、3T MRIの使用経験をもとに中枢神経系の臨床画像を供覧し、その臨床的有用性を報告した。
※早速のご対応、用法・用量に関連する使用上の注意(抜粋) ・肝細胞癌に対する局所療法との併用について、有効性及び安全性は確立していない。
(本記事は、RadFan2013年6月号からの転載です)