第72回 日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー 26:講演2「3T MRI & 32ch頭部コイル ─脳神経領域における最前線─」

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.07.31

第72回 日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー 26 講演2
 
 
日時:2013 年4 月14 日(日)
場所:パシフィコ横浜
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
広島大学大学院医歯薬保健学研究院
放射線診断学研究室
粟井和夫 先生

3T MRI & 32ch頭部コイル
─脳神経領域における最前線─

 

演者
 
京都大学大学院
医学研究科放射線医学講座
岡田知久 先生

はじめに
 脳神経領域では3T MRI 装置は既に標準となり、近年ではさら
に32ch 頭部コイルも広く普及してきている。東芝メディカルシステムズ社製3T MRI装置「Vantage Titan 3T」にも32ch 頭部コイルは導入されており、当施設でもその有効活用を進めている。本稿では、中枢神経領域で従来使われてきたグラディエントエコー系の3D T1強調画像に加えて、variable flip angle法を活用した3D T2強調画像撮像法であるMPV法や3D ASL法(arterialspin labeling)、同じく3DであるFSBB法 による基底核穿通枝の描出などを含めて、32ch頭部コイルの有用性もまじえながら最新の3T MRI の現状について紹介する。
 

図1 3T 装置+32ch 頭部コイル
図2 GBM 症例
図3 3T 装置+32ch によるMRS
図4 3T 装置+32ch 頭部コイルによるASL-MRA
図5 もやもや病:3T 装置+ 32ch 頭部コイルによるFSBB(冠状断)
図6 HOP MRA
画質の向上
1. 32chコイルの活用
 当院では従来から薄いスライス厚(3mm)で撮像していたため、Vantage Titan 3Tに従来の14chコイルを使うとSNRが下がり、T2あるいはFLAIRでは少しノイズが目立つ画像となっていた。しかし32chコイルを使うと、ノイズが目立たず、T2WI、FLAIR、T1WIも良好なコントラストで撮像することが可能である(図1)。 図2に、膠芽腫(glioblastoma: GBM)の症例を示す。FLAIRでは左前頭・側頭葉に浮腫が認められる。ガドリニウム造影剤を用いるとT1WIで濃染する腫瘤があり、GBMであることがわかる。二次元位相エンコード化学シフト画像(2DCSI)法を用いたMRスペクトロスコピーでchemical shift imagingを作成することも可能である。32chコイルを用いて撮像し、腫瘍の充実性部分にsingle voxelを置いて、実際のスペクトラムを描いてみると、低いノイズで、コリンのピークは高くなっている(図3)。高感度な32chコイルだからこそ、このような画像を簡単に撮像することができる。
 3T MRI+32chコイルを用いたASL-MRAも、最近では多く活用されている(図4)。inversion time 800msecでは、TOF法と同様のMRアンギオ画像が得られるが、1,200msecに延長すると、より末梢まで血流を詳細に観察することができる。 32chコイルならば、腫瘍をisotropicなvoxelで撮像し、3D画Vol.11 No.8(2013) 14像に再構成して観察することも簡便である。MPV撮像法であれば、T1WIだけではなくT2WIでも、1mm3を4分以下で撮ることが可能となる。MPV撮像法はvariable flip angle法がベースにある手法で、信号強度は最初の時点で強く落ちるが、その後コンスタントになり、blurringを抑えながらデータを取得する。再構成しても画像は非常に鮮明である。
2. FSBB(flow-sensitive black-blood imaging)法の活用
 磁化率強調画像(suscetibility weighted imaging: SWI)は、動脈・静脈系、特に静脈系を中心として、ボールド効果(bloodoxgenation level dependent: BOLD)を強調して血管を黒く描出するblack blood imagingの代表的なシーケンスである。これと同様の撮像法として、Vantage Titan 3 TにはFSBB(flow-sensitive black-blood imaging)法がある。流れの速い血液をblack bloodとして描出する方法で、微細な血管まで高精細に描出できる。ベースとなる撮像方法は3 Dのfield echo法またはgradient echo法で、普通は血流をリフェーズするが、FSBBでは血流を積極的にディフェーズする新しい非造影MRAの手法である。
 Greenberg SMは2006年のNEJMで脳微小血管疾患のリスクを説いている1)。Gotohらは64列CTによる頭部造影検査で、同年齢でも正常血圧の患者では基底核穿通枝が鮮明に描出されるが、高血圧の患者では画像が不鮮明で、血管形状に変化が見られることを報告している2)。次の展開として、より高精細なMRIによって高血圧特有の基底核穿通枝の病態を描出することができれば、ラクナ梗塞を引き起こす動脈硬化性変化や、末梢の脳アミロイドアンギオパチーなど脳血管障害の早期発見につながり、高齢化社会においては大いに貢献することが期待される。
 そこで、微細な血管の描出を得意とするFSBB法に注目が集まっている。7T装置ではTOF法により、レンズ核線条体動脈が良好に描出されたと報告されている3)。これまでの1.5T装置+TOF法であっても、画質向上技術SORS-STC(Slice-Seietive Off-Resonance Sinc Pulse-Saturation Transfer Contrast)で水信号を抑制すれば、基底核穿通枝の観察は一応可能であり、日常臨床のアプローチとしては悪くない方法であった。しかしFSBB法を活用すれば、より明瞭に基底核穿通枝の解剖学的形態を描出することが可能である。現時点でも、1. 5 T装置+ FSBB法によるMRAで、高血圧患者やラクナ梗塞患者での病態と思われる変化を捉えたという報告もある4)図5はもやもや病の患者のTOF画像と、3T装置+32chコイルを用いたFSBB法による冠状断である。基底核穿通枝がよく描出されている。もやもや病で基底核穿通枝が拡張していることから当然ではあるが、これぐらい鮮明に観察できれば診断は非常にしやすいだろう。小さな出血も同時に見えることがあり、今後はこれも評価の対象になるのではないかと考えている。
 Vantage Titan 3Tにはこのほか、HOP-MRA(Hybrid ofOPposite-contrast)というシーケンスがある。1st echoはTOF法、2nd echoはFSBB法、というDual Echoで3D-MRAを収集することで、低流速から高流速を反映した血管信号を1回の撮像時間内に収集する手法である。図6は、右の放線冠に梗塞のある症例で、1st echoのTOF法でみると、右のICAが閉塞し、右のPCAが拡張している。これをHOP-MRAで差分すると、末梢から右側にかけ、後頭葉、側頭葉側に血流が回っていっている様子がより鮮明に描出される。
図7 TOF-MRA:
32ch コイルを用いたパラレルイメージング
撮像時間の短縮
 脳梗塞の画像診断は時間との勝負で、「Time is brain」とも言われるほどであるため、撮像時間の短縮は重要な意義を持つ。脳梗塞による脳損傷の推定値によると、1分経過するごとにニューロンは190万個、シナプスは140億個損傷されるという。これは脳の老化に換算すると3週間分の損傷とされる5)
 撮像時間を短縮するためにはパラレルイメージングが用いられることが多く、32chコイルの活用が非常に有効である。図7は32chコイルを用いたパラレルイメージングのTOF-MRAである。フェーズのみ2倍速にして、2(フェーズ)×1(スライス)と設定すると撮像時間は5分弱になるが、画質にはまったく遜色がない。3×1でもバックグラウンドはきれいに落ち、末梢もかなり鮮明である。4×1では、中心部で少しエラーのような画質低下が目立ってくる。これを解決するためには、2×2にすることでバックグラウンドが比較的きれいに落ち、撮像時間は2分38秒、ほぼフルサンプリングと同等の画像が得られた。さらに、FOVを絞って梗塞に合わせ、必要な領域だけを撮像すれば、パラレルイメージング2×2で1分弱、0.7×0.7×0.8mm程度の解像度を担保することができる。
 DWIでは一般に、パラレルイメージングファクター2または3が使われている。1では画像が伸びてしまうが、2、3では安定した画像を得られる。4まで上げるとSNRが低下してくる。ADC(apparent diffusion coefficient)の計測なども考慮するなら、2~3が適当であるといえよう。
 FLAIRとT2W1のどちらを選択するかについては、撮像時間の短縮を優先するならばT2WIということになるだろう。パラレルイメージングファクター1×1の画像は2分弱で撮像できる。これを2倍速にすると、画質にほとんど差はないが、時間的には約半分に短縮できる。3倍速にしても差異はそれほど認められない。さらに4倍速でも、中心部分はノイズがかなり目立ってくるものの、1.5Tの画像と比べれば許容できる範囲と考えられる。撮像時間は30秒以下である。
 脳梗塞のプロトコールを高速化という観点からまとめると、T2WIでは30秒以下、MRAは1分以下、DWIは1分以下、PWIは3分を少し超える程度で十分にwhole brainをカバーでき、これらを合計した総撮像時間は5分強となる。これだけ短時間でありながら、十分な画質を担保できることが3T装置+32chコイルの利点といえよう。

おわりに
 Vantage Titan 3Tでは、コンソール上での画像処理が非常に簡単に行えるようになった。MIP処理は当然であるが、造影の脳血流画像解析、CBVやCBF、MTT(mean transit time)、脳機能画像解析、拡散テンソル画像など、数々の高度な解析も簡便に行える。画質向上、FSBB法の可能性、撮像時間の高速化といったメリットのみならず、脳神経領域で3T装置+32chコイルを活用することのアドバンテージは非常に大きく、今後の治療方針を革新することに期待している。

 
 
<文献>
1)Greenberg SM: Small vessels, big problems.N Engl J Med354(14):1451-1453,2006
2)Gotoh K et al: Evaluation of CT angiography for visualisation ofthe lenticulostriate artery: difference between normotensive andhypertensive patients. Br J Radiol 85(1019):e1004-1008,2012
3)Cho ZH et al: Observation of the lenticulostriate arteries in thehuman brain in vivo using 7.0T MR angiography.Stroke 39(5):1604-1606,2008
4)Okuchi S et al: Visualization of Lenticulostriate Arteries by Flow-Sensitive Black-Blood MR Angiography on a 1.5T MRI System: AComparative Study between Subjects with and without Stroke.AJNR Am J Neuroradiol 34(4):780-784,2013
5)Saver JL: Time Is Brain-Quantified.Stroke 37(1):263-266,2006
 
 
(本記事は、RadFan2013年7月号からの転載です)