第26回 日本老年脳神経外科学会ランチョンセミナー1:脳神経領域におけるMRI最前線

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.08.31

第26回 日本老年脳神経外科学会ランチョンセミナー1

脳神経領域におけるMRI最前線

 

日時:2013 年3 月1 日( 金)
場所:東京ステーションコンファレンス
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
東邦大学医学部医学科脳神経外科学講座
周郷延雄 先生

Vantage Titan 3Tによる脳腫瘍の先進的診断技術の現況

 

演者
 
東京逓信病院放射線科
土屋一洋 先生

はじめに
 3 次元シーケンスは1.5T でも撮像可能であったが、3T を使用することにより非常に高精細な画像が短時間で撮像できる。また3T ではT2 強調、FLAIR、T1 強調のいずれのシーケンスでも撮像可能であり、空間分解能の非常に良好な画像が得られる。特に腫瘍性病変においては、造影後のT1 強調像を3D で撮像し、3方向の再構成を実施している。一方造影増強効果がみられない病変では、FLAIR 像の3D が非常に有用である。また3D の撮像ではないが、拡散強調画像をボリュームデータとして再構成することも有用な場合がある。増強効果を示す腫瘍性病変では、T1 強調像での3D の撮像とその再構成は日常的に用いられている。ここでは、東芝メディカルシステムズのVantage Titan 3T 装置による脳腫瘍診断の最新のテクニックについて述べる。
 

図1 左側頭頭頂葉深部のリンパ腫 (76 歳男性)
維体路と腫瘍の関係が明瞭である。
図2 右視床のglioblastoma (73 歳男性)
造影T1 強調像 (a)で腫瘍は不整に強く増強されている。
CTAとMRIのtractography( 維体路) ならびに
増強効果を示す部分を重ね合わせた画像 (b) で
病変と維体路ならびに主要な血管の関連が明瞭である。
拡散強調画像による撮像
 腫瘍の広がりを詳細に描出するには、3D のFLAIR 像が有用で、撮像時間は若干かかるものの、各方向を3 回撮像するよりも患者の制約時間が短縮できる。一方、拡散強調画像により非常に特徴的な信号が認められる腫瘍性病変として、類表皮腫が挙げられる。当院においても、3T であるにもかかわらず頭蓋底のアーチファクトや歪みも比較的少ない、良好な画像が得られている。術前のシミュレーションを含めた脳表画像では、当院ではCT を日常的に使用しているが、MRI もしばしば用いている。特に造影後にワークステーション上で頭皮あるいは頭蓋を消去することにより、脳表の形態や、損傷を避けねばならない静脈を、深さを自由に変えて観察することができる。このことは、術前の情報として極めて有用性が高い。また3D のFLAIR 像のシーケンスも、後処理によって脳表を観察でき、いずれの方向からも観察が可能である。拡散強調画像のtractography は現在汎用されているテクニックであるが、3T では1.5T に比べ、一貫して簡便かつ明瞭に、維体路などの重要な神経線維路を描出することが可能である。視放線も常に明瞭に描出でき、tractography により表示したり、カラーマップで示すことも可能である。腫瘍性病変との関係の評価も、術前情報としては非常に有用である(図1)
 また最近のワークステーションの進歩も非常に著しいものがある。たとえばCTA による血管の情報とtractography による腫瘍性病変とを、ワークステーションを利用して同時に表示することがかなり容易になってきている(図2)。最近注目されているdiffusion kurtosisも、当院では臨床応用には至っていないものの、本法のためのデータのスキャンが可能となっている。
図3 左視床のリンパ腫 (76 歳女性)
DSC での灌流画像のCBF マップ (a) で腫瘍はリング状の
高血流を示す。ASL (b) でも同部位にわずかな高血流
が見られる。
灌流画像におけるDSC 法およびALS 法の有用性
 従来から広く用いられているMRI 灌流画像の撮像技術であるDSC 法は、ガドリニウム造影剤の急速静注によりデータを得る方法であるが、最近は造影剤を用いないarterial spin labeling(ASL)法が注目されてきている。DSC 法とALS 法によりリンパ腫の症例を比較すると、DSC 法では白質、灰白質のコントラストが良好で、空間分解能そのものが格段に良好になってきているわけではないものの、造影T1 強調像では比較的均一に濃染された腫瘍内部においても、内部の灌流の限局性の違いが明瞭に描出されている。一方ASL 法では、造影剤を用いず電磁的なspin のlabeling を用いる方法でスキャンを行うが、DSC 法を用いた画像と同部位に、 わずかにリング状に高血流量の部分が描出される(図3)
 またoligodendroglioma 症例をASL 法で描出すると、周辺の正常な脳表の皮質ないしは皮質下の白質に比べ、腫瘍内部は血流量がかなり多いことが示されている。一方DSC 法でみると、わずかに上昇傾向はみられるものの、さほど明瞭ではなく、両画像の間に乖離がみられた。またDSC 法、ASL 法のいずれの画像においても、明らかに低灌流であった症例では、その後の生検で腫瘍のほとんどの部分がnecrosis であることが確認されている。このように、ASL 法は簡便に施行可能なことと、その優れた描出能から、腫瘍の鑑別診断に繁用している。

ASL 法とDSC 法の乖離
 先述したASL 法とDSC 法の乖離について19 例で検討した。待ち時間(delay time)2,200 msec で信号を得たASL 法の画像をDSC 法による画像の視覚的所見を比較すると、19 例のほとんどは両者で一致していたが、anaplastic oligoastrocytoma(AOA)およびリンパ腫各1 例はASL 法で高信号であり、逆に脳転移やoligodendroglioma はDSC 法で高信号であったが、ASL法とDSC 法が一致していた疾患と比べ、組織診断に明らかな傾向はみられなかった。ただし比較的均一な増強効果を示す疾患では、ほぼ同等かASL 法のほうが高信号であり、またリング状の増強効果を示す疾患の多くは同等であった。一方さほど増強効果のない疾患では、ASL 法とDSC 法の間に乖離が生じる傾向がみられた。このような乖離は、labeling delay time、すなわち上流でラベルされてから信号を得るまでの時間の違い、また特にDSC法に関しては患者の心大血管を含めた循環の要素、スライス厚などの違い、ASL 法は撮像時間が数分かかる影響、さらに最大の原因である腫瘍内部での血流の違いなど、複合的な要因により生じると考えている。1 回のみのスキャンではこのような乖離がしばしば生じるため、当院ではASL 法だけでなく、灌流画像に関してはtime-resolved contrast-enhanced MRA(MRDSA)にひき続き行うDSC 法を併用することをルーチンとしている。glioblastoma では、MRDSA でも典型的なAV shunt や濃染像が描出され、また続けて造影剤の残り半量で得るDSC 法の灌流画像では、高いCBF、CBV が描出される。また手術翌日から感覚性の言語障害が出現したバイパス術後の内頸動脈閉塞例では、STA-MCA バイパスは開存しているが、バイパス部位近傍を中心にやや腫脹傾向があり、ADC が若干上昇している部分と低下している部分が混在していた。本症例のMRDSA をみると、バイパスの開存が確認できることに加え、わずかなcapillary brush 様の所見が認められた。本症例でも腫瘍症例と同様の灌流画像を続いて撮像すると、わずかなhyperperfusion の状態を描出することができた。
 

図4 左中大脳動脈閉塞 (15 歳女性)
( ) 内はそれぞれのBBTI (delay time) での撮像時間
( 分: 秒) を示す。側副血行の描出は良好であるが、
BBTI が長くなると撮像時間もかなり延長する。
ASL-MRA 法のメリット・デメリット
 最近、ASL 法を用いて血管の形態を描出するための方法として、ASL-MRA が登場している。その原理はTime-SLIP と同様で、tag をoff にした状況からon にすると、血流が低信号で描出され、これをsubtraction して血管を高信号として描出するというものである。元データとして3D の撮像を行い、これをMIP 処理することにより、TOF 法のMRA に類似の画像を得ることができる。本法ではdelay time を変化させることにより、徐々に末梢の部分が描出できるようになる。3T を用いて左中大脳動脈閉塞例をみると、delay time を400、600、800、1200 と変化させることにより後大脳動脈の領域からの側副血行が非常に明瞭に描出され、中大脳動脈からのわずかな順行性の血流が残っていることもわかる(図4)。ただし1 コマの撮像に2~4 分台の時間がかかり、トータルの撮像時間が長くなるというデメリットがある。腫瘍病変を撮影すると、ASL 法では基本的に描出されるのは動脈系であるが、シャントの血流が多い例では流出静脈も描出される。ただし濃染像などは造影剤を用いたDSA 法のほうが明瞭である。このようなメリット・デメリットは、今後検証していく予定である。
図5 正常圧水頭症 (68 歳男性)
Time-SLIP 法での髄液イメージングのうち3 コマを示す。
モンロー孔を介する髄液の動きがみられない。
MR spectroscopy など
 MR spectroscopy(MRS)も、腫瘍性病変の評価には不可欠である。近年は3T により信号が捉えやすくなったため、ほぼルーチン化している。頭蓋直下の病変は、従来はなかなか信号が出にくく、アーチファクトが入りやすいが、Vantage Titan 3T では良好なスペクトルが得られる。 東芝独自のblack blood 法は、磁化率強調画像(SWI)にdephasing を加えることにより、T2 *強調像をベースとして、血流が非常に低信号になるFSBBと呼ばれるシーケンスを用いる。例えば海綿状血管腫が存在する症例をFSBBで描出すると、T 2*強調像に比べ、腫瘍部分の信号が強調されるとともに、合併したvenous malformation も良好に描出されることがある。すなわちFSBB は、venography 的な役割も果たすものといえる。amyloid angiopathy 関連疾患でも、微小なヘモジデリン沈着を描出でき、また腫瘍性病変ではglioblastoma 中の出血成分や血管も描出可能である。転移性脳腫瘍では原発巣によらず、内部が低信号になることがしばしば経験される。 functional MRI も3T によって微細な信号の変化が捉えやすく、1.5T に比べはるかに良好な画像が得られる。 脳脊髄液イメージングは、Time-SLIP 法を用いて脳脊髄液の動きを画像化する方法で、たとえば巨大な松果体嚢胞症例では、4分ほどのスキャンでその近傍の中脳水道の信号の消失、すなわち髄液の流れの欠如が確認できる。また正常圧水頭症を疑う症例では、モンロー孔を介する流れの欠如を簡単に描出できる(図5)。 また近年盛んに行われている術中のナビゲーションへの応用は、本装置でも日常的に行われている。現在、T2 強調像をリバースするgray scale-reversed T2WI と、PET 画像との融合などを行って良好な結果が得られている。 以上に述べてきたように東芝メディカルシステムズの3T システムは、脳腫瘍の治療診療において術前に重要な多様なデータを提供してくれることを強調したい。

 
 
(本記事は、RadFan2013年8月号からの転載です)