第27回 日本腹部放射線研究会イブニングセミナー:320列面検出器CTと3テスラMRIが創り出す最新臨床応用

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2013.09.30

第27 回 日本腹部放射線研究会イブニングセミナー

320列面検出器CTと3テスラMRIが創り出す最新臨床応用

 

日時:2013 年6 月21 日( 金)
場所:宇都宮東武ホテルグランデ
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

座長
 
熊本大学大学院
生命科学研究部放射線診断学分野
山下康行 先生

3テスラ腹部MRIの現状と展望

演者
 
神戸大学大学院
医学研究科内科系講座放射線医学分野
吉川 武 先生

はじめに
 近年、3T MRI は急速に普及してきており、腹部においてもルーチン検査で用いられる施設が増加している。今回は、腹部3T MRI および東芝メディカルシステムズ製3T MRI Vantage Titan 3T の特長、最近の撮影法の進歩について報告するとともに、高磁場を生かした新しい撮影法の検討結果と新たな画像処理として話題になっているComputed/Calculated diffusion(cDWI) について紹介したい。
 

図1 拡散強調像 HCC 術後再発

◆3T MRI の特長と第4 世代における進化
 3T MRI の特長として、まずS/N が非常に高いという利点がある。しかし磁化率効果やケミカルシフトの影響が大きくなる、あるいはRF 磁場(B1)の不均一によるpenetrationの低下、SAR が高いといった短所もある。またT1 の延長により造影効果の向上が予想されるが、造影剤の性質自体が磁場強度によって変わってしまう可能性があるという指摘もあり、必ずしも造影効果が上がるかは明らかになっていない。そのほか、撮像時の騒音が大きい、磁場酔い、吸引力の上昇による安全性の問題などが指摘されてきた。
 当施設で使用している3T MRI 装置は、これらの短所を改善した第4 世代といわれるVantage Titan 3T である。その特長として、Pianissimo 機構と、Multi-phase Transmission があげられる。撮像音については、Vantage Titan 3T のPianissimo 機構には聴感で約90%カットする静音効果があり、患者負担を考えれば非常に重要な要素である。B1 不均一への対策についても、Multi-phaseTransmission 技術がある。RF アンプ2 台で位相と振幅を独立制御し、また4 ポートの給電によりRF 強度分布の均一化が図られている。 実際の画像を1.5T 装置と3T 装置で比較すると、3T 装置においてS/N の大幅な改善が得られていることは一目瞭然である。また、従来のSingle Transmit においては不自然なコントラストになっていたが、それも大きく改善し、自然な画像となっている。拡散強調画像(DWI) については、1.5T MRI 装置では肝左葉の信号が落ち、心臓の大きい患者では拍動によって信号が飛んでしまうのがこの十数年の課題であったが、3T MRIでは心臓の近くにある病変も明瞭に検出できるようになった。また、3T MRI におけるDWIの有用性を示唆するものとして、図1に示すようにEOB dynamic早期像や肝細胞造影相で検出できなかった病変が3T MRI のDWI のみで描出されるような症例も経験している。

図2 3D-dual echo T1WI 膵体部癌
◆3D-dual echo T1 強調像
 これまで3T MRI において、グラディエント・エコー法でのT1強調像では、薄層撮像とin phase およびopposed-phase のdual echo撮像の両立は困難であった。しかし今回、シーケンスの工夫により、T1のコントラストを保ったまま、高分解能dual echo の撮像が可能になり、微細な構造物の観察ができるようになった。たとえば図2に示す膵体部癌の症例では、2D-T1 強調像で診断可能ではあるものの分解能が低いため境界がわかりにくい。一方3D-T1 強調像ではきれいに輪郭が描出され、微細な構造物が観察しやすいことがわかる。このように、in phase、opposed-phase の両方を撮影し、なおかつ高分解能であることは臨床において特に必要な機能だと思われる。

◆True-SSFP の画質改善
 True-SSFP の画質についてはbanding artifact などの課題があり、これまで体幹部3T MRI で最も苦しんできた領域であった。撮像シーケンスを工夫した改良型True-SSFP では、SAR のレベルを保ったままTR、TE を短縮し、banding artifact は大幅に減少することが可能となった。肝細胞癌患者における肝右葉後区域切除後の画像(図3)では、従来法と比較すると改良型ではbanding artifactが消失し、画像全体のコントラストも改善している様子がわかる。
 

図3 改良型True-SSFP HCC 術後
◆Time-SLIP 法を用いた非造影MRA
 Time-Spatial Labeling Inversion Pulse(Time-SLIP) 法を用いたMRA は3T の強みを生かした撮影方法であり、選択的に血管が描出できるため血行動態を観察できることが特長である1)。この手法は一般的にFlow-in、Flow-out、Tag-on/off という3 法に分かれるが2)、今回我々は肝動脈の撮像にあたり、最もシンプルな手法であるFlowinを用いた。撮影シーケンスはTrue-SSFP を使用した。他の非造影MRA 手法と異なるのは、空間的にどこをラベリングするかというTag の設定と、どの時間で撮影したらいいのかというTI の設定が重要なパラメーターになることである。
 Time-SLIP 法は、描出したい血液を選択的IR パルスや非選択的IR パルスでラベリングし、ある一定の時間をおいてデータ収集を行うシーケンスである。信号を消去したい領域を設定して血流だけを描出したり、全体の信号を消去しておいて、Tag を付加したところだけ血流を描出する方法も報告されている2)。またBBTI を変えることで、血行動態を見ることもできる。

図4 正常分岐例
◆ Time-SLIP 法による非造影肝動脈MRA
 肝動脈の解剖学的評価は、腹部疾患における有効・安全な治療のためには不可欠である。近年では生体肝移植が行われていることもあり、重要性は高まっている。肝動脈の評価には造影CTA が一般的に使用されているが、造影剤や被ばくの問題があり、また描出不良例も経験している。我々は高磁場化にともなう3T MRI のラベリング性能の向上をいかし、Time-SLIP 法による非造影肝動脈MRA による肝動脈描出能と描出不良の要因について検討を行った。肝胆膵疾患疑いの101 症例を対象とし、Flow-in 法、3DのTrue-SSFP法を用いた。撮像時間は5 ~8 分、呼吸同期を行いながら検査を実施した。BBTI については、ボランティアでの検討にて短めの1,200msec の場合には胆管系や肝静脈が描出され、1,800msec と長めに設定すると下大静脈や門脈が描出されるため、肝動脈を描出するのに最も良好であった1,500msec とした。
 図4に示す正常分岐例では、解剖学的情報という意味ではCTAとTime-SLIP-MRA とも、ほぼ同等で良好な画像が得られた。ただ、末梢枝の描出については、CTA と比べてMRA のほうがやや劣る印象であった。また狭窄の強調がTime-SLIP法でも起こることがわかったが、これは腫瘍の進展範囲を評価するうえでは利点ともなり得ると考えられた。症例によっては胆管の描出がみられ、画像の劣化の原因にもなり得るが、逆に胆管が動脈を圧排している様子が観察できることもあり、症例によっては解剖学的情報が増えると考えることもできる。
 我々の検討では、約90%の症例ではTime-SLIP-MRA が臨床で使用可能と考えられた。分岐様式を分類できなかった描出不良例は9例であった。描出不良例の背景因子を検討したところ、高齢、不規則な呼吸、肝動脈狭小化/狭窄、動脈硬化性変化、心拡大、画像のアーチファクトなどの因子が見出された。CTA 画像と比較可能であった41 例のうち、15 例でMRA のほうが描出能は低いと判定されたが、これらはすべて先述の描出不良に関連する因子を複数有する症例であった。また胆管癌7 例中1 例および膵癌5 例においてencasementが認められ、これはCTA と比べてMRA で強調された。
 課題は残っているが、体幹部において非造影でスクリーニング的に使用できる検査という意味では、高磁場MRI の有用性は高いと考えられる。

図5 弓状靭帯圧迫症候群
◆呼吸停止下Time-SLIP 肝動脈MRA
 上記の描出不良因子の1 つである肝動脈狭窄には、内臓動脈瘤が発生しやすい弓状靭帯圧迫症候群という病態が含まれる。今回の検討で我々が経験した弓状靭帯圧迫症候群の症例では、CTA と比較しTime-SLIP-MRA で狭窄が強調され、また、末梢肝動脈の描出が不良である場合が多かった(図5)。この狭窄以外にMRA の描出不良因子がみられない症例が散見され、この病態が非造影MRA の描出不良因子となる可能性が示唆された。CTA では吸気での息止め、MRAは呼気での息止めで撮影しており、MRA で狭窄が強調される原因は、息止め時相の違いと乱流によるアーチファクトが考えられるが、特定はできていない。
 これに対して、現在、息止めTime-SLIP 法の開発と検討を行っている。息止め撮像が可能となれば、検査時間の短縮にもつながると期待している。現状では、背景信号の抑制がやや不良でぼけが目立つ症例もあり、呼吸同期に比べると少し画質が悪い印象である。しかし、吸気・呼気で撮影することにより、現状では造影CTA が必須とされる弓状靭帯圧迫症候群の診断を被曝と造影剤投与なしに非侵襲的に行うことが可能となるのではないかと期待している。

◆非造影MR 灌流画像(ASL)
 非造影MR 灌流画像(Arterial Spin Labeling: ASL) も3T MRI のラベリング性能を生かした方法である。これは関心領域の上流側にラベリングパルスを付加した画像とコントロールの画像を差分することにより、非造影で臓器実質内の灌流を画像化するものである3)。この方法を肝臓で応用すると、肝尾側にラベリングパルスを付加することで灌流を明瞭に画像化することができた。様々なT I で撮像を行えば血行動態の把握も可能であった。以前EPI 法で同様の検討を行った際には不鮮明な画像しか得られなかったが、True-SSFP 法を用いることにで画質は大幅に向上しており、技術の進化が感じられる領域である。
 

図6 cDWI HCC-TACE 後、膿瘍合併
◆拡散強調画像の新しい画像処理法─ cDWI
 DWI における最適なb 値は病態や被検者によって全く異なると考えられる。計算の上で最適なb 値であっても、実臨床では嚢胞など液体の信号が消えないなどといった問題が起こることもある。そこで新たな画像処理法であるComputed/Calculated diffusion(cDWI)を用いると、撮像後にb 値を変更して画像を再構成することが可能となる。これはもともとDWIBS の画質改善と背景信号抑制を意図して開発された技術で4) 、DWI(b=0) とADC map によりcDWI 画像が作成される。計算時間は非常に短く、汎用のパーソナルコンピューターでも画像作成が可能である。
 膿瘍を併発した肝動脈化学塞栓術(TACE) 後の肝細胞癌(HCC) の症例(図6)では、T2 強調像で胆汁性仮性嚢胞(biloma) か膿瘍、あるいはHCC の再発が疑われるが確証は得られなかった。元のb=1,000 で撮像したDWI 画像では全体が白くなっており、b=500のcDWI 画像を作成しても判別できなかった。ところがb=2,000に上げるとT2 強調像で疑われた再発巣のコントラストが高まることがわかる。これまでは膿瘍、biloma、HCC は鑑別が困難という報告が多かったが、この手法によって診断能の向上が期待される。
 cDWI では撮影後にDWI の条件を変更できるため、読影においてもに非常に有用である。低いb 値で再構成すると画質が改善するケースがあり、高いb 値で再構成すると質的診断に寄与する可能性があるのが特長であろう。したがって、低磁場MRI 装置で撮影した画像や、不規則呼吸などの原因による画質不良時で有用性が期待される。ただし元の撮影条件での灌流の影響は除外できないことに注意が必要である。将来的には読影医がウインドウ幅、ウインドウレベルを読影端末上で変更できるような運用方法が理想的だと思われる。

まとめ
 体幹部3T MRI は近年非常に進歩しており、腹部ルーチン検査としても1.5T MRI を凌駕しつつある。さらに高磁場を生かした様々な新しい撮影方法も開発されてきていることから、腹部3T MRI は今後ますます普及していくと考えられる。
 
 

<文献>
1) Miyazaki M et al: Non-contrast-enhanced MR angiography of theabdomen. Eur J Radiol 80(1): 9-23, 2011
2) 山下裕市: 造影剤を用いない選択的なMRA Time-SLIP 法. Innervision21(9): 64-65, 2006
3) 木村徳典: Modified STAR using asymmetric inversion slabs(ASTAR)法による非侵襲血流イメージング. 日本磁気共鳴医学会誌 20(8): 374-385, 2000
4) Blackledge MD et al: Computed diffusion-weighted MR imagingmay improve tumor detection. Radiology 261(2): 573-581, 2011
 
 
(本記事は、RadFan2013年9月号からの転載です)