第20回肝動脈塞栓療法研究会(TAE研) 〜国際学会後の充実感と疲労感〜

2015.06.12

2015年5月30日に宮崎シーガイアコンベンションセンターで開催された第20回肝動脈塞栓療法研究会(TAE研)の参加見聞記を、吹田徳洲会腫瘍内科がんカテーテル治療センターの関 明彦先生にご執筆頂きました!

第20回肝動脈塞栓療法研究会(TAE研) 〜国際学会後の充実感と疲労感〜

吹田徳洲会腫瘍内科がんカテーテル治療センター
関 明彦

はじめに
IVR学会総会(JSIR)/ 国際IVRシンポジウム(ISIR)/アジア太平洋インターベンショナルオンコロジー学会(APCIO)2015シンポジウムと合同する恒例の形で、本研究会は5月30日午後、宮崎シーガイアコンベンションセンターで開催された。今回の当番世話人は大阪市立大学の西田典史先生であり、上記国際学会の準備等で多忙な中、本研究会をマネージメントして頂いたご尽力にまず感謝申し上げたい。

今回私が受けた執筆依頼は、TAE研に絞った参加見聞記、である。ただ少しだけ、国際学会全体についてコメントさせて頂きたい。とにかく「疲れた〜…」。ホテルと会場の往復の中の僅か数分の徒歩の際に、宮崎の南国感を味わえたが、「ちょっと息抜きに遊びに行こうかなあ」という邪な気持ちにさせないくらい、周りに行く所がなかった。それ故、学会参加中は(夜の飲み会を除き)学会エリア内だけの移動となり、英語環境内にいる時間が多く、最終日にはいつもより英語が聞き取れた(気がした)。ただ閉じ込められ感も高いため、3泊4日の行程の最後のTAE研は、参加者から疲労感がたっぷりと滲み出ていた。参加された131名の先生方、本当にお疲れ様でした。
私事だが光栄なことに、私は本研究会にて基調講演1本と一般演題1本を発表する機会を頂いた。自分の発表に関しては最後に記述するとし、まずは総論から。本研究会は基本的に前半、後半の2部構成で、前半に臨床部会の報告(本研究会が実施しているon goingの臨床試験の進捗状況や、今後の新規試験のお披露目)、後半に一般演題などが設置される。今回もこの形でプログラムが構成されており、5つの研究部会報告、2つの基調講演、6つの一般演題、最後に15分のパネルディスカッションが組み込まれるハードスケジュールだった。正直絶対に延長し、飛行機予約組の途中離脱を予想していたが、きっちり2時間で終了したので、大半の先生が最後まで参加されていた。宮崎という土地柄、飛行機を交通手段とされる参加者が圧倒的に多く、国際学会の最後に時間を気にしながら実施するにはもったいないプログラム構成である。私も2つの発表を受け持った立場から、また少しでも討論する時間があればとの思いから、自身の発表を共に予定時間の80%で切り上げるという自己調整を成し遂げた。しかし残念なことに、本研究会でのフロアからの挙手は、なんと私の2回の質問だけであった…。まあ、会場に漂う疲労感と、腕時計を気にする雰囲気からは、しょうがない、と思った。

研究部会報告
各論に入りたい。まず研究部会報告。兵庫医大山門先生の「BCLC-Bのサブグループ化」について。他の学会でも何度か拝聴した話題で、非常に科学的に成就された研究である。TACEの予後をBCLC病期分類とChild-Pughスコアの2つの因子で解析され、今後のTACEの適応、臨床試験がどうあるべきかをお示し頂いた。特に、Child-Pugh 9点以上の症例にTACEを実施するとnatural historyよりも予後が悪いといった指標は、実臨床での患者選択の際に説得力ある数字であった。愛知がんセンター佐藤先生からは、BCLC-Cの進行HCCに対するsorafenib治療に対し、これにTACEをon demandに追加する第II相試験の進捗報告があった。個人的にも興味深く、またprimary endpointもプロトコール治療完遂率という実直なものであり、期待すべき試験である。奈良医大西尾福先生からはconventional TACE(c-TACE)抵抗性HCCに対するDEB-TACEの有効性に関する第II相試験の進捗報告があり、現在24例の予定症例中、既に9例が登録されたそうだ。c-TACE発祥の本邦からのデータだからこそ重みが出る研究であり、また最大の課題である「c-TACE抵抗性の定義」に関しても「治療結節の造影効果(50%以上)が残存する場合、または新規病変出現が2回以上続く場合(薬剤変更や治療血管の再検討を含め)」と苦心して決定されていたが、様々な諸事情を考慮するとかなり妥当だと思った。こちらも結果が楽しみである。DEB-TACEの治療手技内容や早期治療効果等に関する全国調査について、金沢大学の南先生がご発表された。国内での使用ビーズは圧倒的にDC-Beadが多いようだ。ただ、販売後1年強の手探り状態、それも一部の施設の結果をまとめたものであり、あくまで参考レベルの情報であった。
私が???と思ったのが、「治療抵抗性多血性肝転移に対するBland-Bead TAEの第II相試験」である。名古屋市立大の下平先生が新規プロトコールとして紹介された。今後我々が切り開くべき優先順位の高い領域であり、試験計画には大賛成である。ただ、実際に治療抵抗性と言われる患者層がいかなるものか、実臨床で患者マネージメントしている自分(一応肩書きは腫瘍内科医)としては、やはり疑問が多い試験と感じた。まず、癌腫が混ぜこぜであるのに、primary endpointに1ヶ月の局所奏功だけが設定されていたことだ。局所治療は癌腫の種類、前治療で成績が大きく左右される。Nを稼ぐ点で多癌腫を組み込む必要があるのはよくわかるが、これで奏功率がわかったとして、果たして実臨床上、エントリーされなかった癌腫にもこの治療を勧めるのか? またinclusion criteriaの「治療抵抗性」の定義が曖昧である。曖昧にする必要があるのもわかる。ただし、標準治療の切り上げのタイミングは、oncologistの熱意や知識、経験によって随分と違う。すぐに諦める先生もいれば、全身状態に応じて抗癌剤を上手く使い切る抗癌剤のスペシャリストもいる。化学療法に関する抵抗性に関してもう少し明確化し、例えば何レジメンまで実施されたか明記するべきだと思った。また「肝切除拒否例」を含めていたことにもあまり同意できず、思わず挙手、質問してしまった。研究会として苦心された上でのcriteriaとのことで、そうですかとその場を引き下がったが、我々放射線科は「患者拒否例」を安易に「治療抵抗性」と同格に考えてはいないだろうか? 前治療が多ければ、それだけ生物学的に悪性度が高くなる。拒否例=initialの症例に対し「短期奏功」を出しても、今後の臨床マネージメントが変わるようなインパクトがあるのか?疑問だった。また安全性がsecondary endpointに入っていたが、予後の厳しい症例群だからこそ安全性を担保し、今後臨床展開しなければならないはず。安全性もprimary endpointに含めて欲しかった。(空想だが)Nを一定数担保し統計的意義を持たせる、そのような意図もあって選択されたstudy designかと思う。しかし、もう少し説明が欲しかった。

(続きはRadFan7月号にてご覧ください!)