ミッドサマーセミナー報告記

2012.07.26

2012年度ミッドサマーセミナーの報告記を渡邊 環先生(山梨大学医学部放射線科)より頂きました!

MSS (MidSummer Seminar) 1:
会場の神戸ポートピアホテル。
セミナー前日の夕立の後で、
セミナー開催を祝福するかのように、
南の空に出現した
虹が右側に見える。
(クリックすると拡大)
MSS 2:今回A会場として使用された大ホール。
8月には西本智実、指揮・大阪フィルハーモニー
交響楽団の公演が予定されている場所。
MSS 3:従来のB,C会場も満員御礼のセッションが多かった。
MSS 4:藤本肇先生(沼津市立病院放射線科、左)と、
右は世話人の1人である大西洋准教授(山梨大学放射線科)。
2人ともこんなにリラックスした表情を見せるのは珍しい。
ミッドサマーセミナー報告記 

渡邊 環(山梨大学医学部放射線科)

 2012年度ミッドサマーセミナー(神戸ポートピアホテルにて開催、JCR主催、JCR会長水沼仁孝)に初めて参加しました。参加者が1,200人を超えて過去最高、日医放の秋季大会を超えたという報告が入ってきておりますが、各所に工夫の凝らしてある、参加者への愛情が伝わる素晴らしい会であったので、若干の個人的感想をまじえて報告させていただきます。

 今回のテーマは「診断医と治療医の共同発展を目指していきたい」。この内容に尽きますが、各テーマごとに「ルネサンス」というキーワードを用いて「復興」に重きを置いた点がユニークです。ご存知のように、従来の放射線科は画像診断科と放射線治療に分離してゆく傾向にあります。欧米の例を見れば一目瞭然で、ようやく日本にもその波が現実のものとして伝わってきた感もありますが、ここでは単に分離してしまうのではなく、両者のwin-win relationshipを今から意識して求めてゆくという姿勢を打ち出し、これはとても重要なことであると感じました。

 今回は金沢で肝臓の画像診断学を含む大きな集まり、広島で放射線治療に関する集まりとちょうど重なるという日程でしたが、それらのカンファレンスから駆け付けた方々もいらして、2012年度ミッドサマーセミナーは大成功であったようです。
 
 神戸ポートピアホテルでの会場は3つに分かれていました。昨年まで約500名入る会場が2つであったそうですが、参加者が多く手狭になったため、今回は会場をひとつ借りることとしたそうです。追加された会場というのが、オーケストラのコンサートも可能な2,000名は入るという大会場で、今回は2階のパルテレは使用せず実質は1,500席程度かと思われますが、ここは会期中すべてのセッションで大入りであり、この会場に教育講演を持ってきた世話人たちのセンスの良さにはおそれ入りました。

 このA会場はおもに教育講演、おおよそ500名入るB会場が少し的を絞ったより専門的な画像診断、放射線治療、そしてIVRに関する講演、最後のC会場は独特のユニークな内容を有しており、放射線科の社会的側面とも言うべき講演が多く含まれていました。参加者は自分のレベルと関心に応じて会場を選べばよいことになり、実際とても親切なスケジュールとなっていました。
 
 例えば私のような認定医試験受験前の研修医や、専門医は取得したけれどもあまり馴染みでない分野の画像診断学を再び学びたいという医師たち、さらには今更他人には訊けないという分野をお持ちの放射線科医であれば、A会場の教育講演に行けば2日間で相当なものを学ぶことができます。B会場にはIVRのうちでも今回は凍結療法に関してのセッションがあって、これは約2ヶ月前に同じポートピアホテルで開催された日本・国際IVR学会にもなかった、ひとつのsubspecialtyを深く掘り下げた内容となっていました。
 
 私の場合は基本的にA会場で教育講演を一日中聴講し、ときどきB会場にも足を運ぶというパターンでした。A会場ではテーマ毎に3人の講師の先生が担当されており、一例を挙げると「胸部 呼吸器感染症の画像診断」では、まず呼吸器内科の先生が呼吸器学会ガイドラインを分かり易く説明してくれ、次に市中肺炎の画像診断の先生は最初のガイドラインを踏まえた、主に外来で多くみる画像の提示となっており、3人目の先生は日和見感染の画像診断という病棟での珍しい症例も含まれており、3者の中身が有機的につながり一貫性が感じられ、広がりと深みが同時に得られたまとまりの良さが印象に残りました。胸部CT、胸部単純X線写真の適応に関しても明確にご自身の意見を述べられ、3者3様でとても分かり易い講演でした。
 
 B会場はすべてを聴講できませんでしたが、特に「骨軟部ルネッサンス 画像診断のピットフォール」という藤本肇先生のご講演を拝聴させていただきました。本年4月の日医放総会に続いて2度目に聴く機会でしたが、講演の準備の良さ、内容の多彩さと深さ、発表のパフォーマンス、詳しくはまた別の機会に述べますが、すべてにおいて圧巻でした。欧米では不可欠の講演がinteractiveであることを日本語の文化に上手くアレンジしたあのユニークの藤本節は、きらめく才能の上に並々ならぬ努力を重ねて到達した極みであり、ちょっと言い過ぎかも知れませんが、日本語での医学・医療に関する教育的発表のひとつの頂点を極めたものとも言える領域に達していると思います。みなさんも是非一度、拝聴してみてください。ただし内容の一部は相当オタクでマニアックです。

 さらにユニークなのはC会場で、タイトルだけみても「医療保険制度の動向と放射線診療への期待」「専門医として知っておきたい被曝の知識」「死後画像診断読影実践」など社会的側面の強いテーマです。C会場の参加者は数だけ見るとまばらに見えましたが、よく見ると各大学の医局長または診療部長レベルだらけであり(各会場の平均年齢を取ってみると面白いかも知れません)、A、B、C会場と、参加者の多様な関心事に上手に対応していたと思います。

 ミッドサマーセミナーで最もユニークなのは(私はuniqueという単語をしばしば使用しますが、英語での使用時と同様、「最高に素晴らしい」という意味合いをたいていの場合ニュアンスとして含んでいます)何と言ってもそのプログラムの時間構成です。プログラムは1日目のスタートがお昼からで、2日目は昼過ぎまでです。一見すると、「詰め込めば1日で終わるだろう」としみったれの貧乏性なら言いそうな量ですが、そこを優雅にリゾートプール付きの会場を借りて2日間にしているところがポイントです。私たちのように片道3時間以上かかる遠方からの参加の場合、1日中かかる早朝から夕方遅くまでのプログラムだと、前泊が必要でさらに下手をすると2泊しなければならないことになります。それが必ず1泊で済むし、欧米の優雅なカンファレンスのような時間の使い方ができる、さらにはひと晩あることによって、懐かしい友人たちと旧交をあたためることができる、などそのメリットは計り知れないものがあります。実際、私も夏の夜のひとときを、九州からの友人とゆっくりと食事をしながら話をすることができました。

 さらに特記すべきことは、神戸ポートピアホテルが各種催し物に対応して、小さなお子さんを持つ方々の参加を考慮して、託児所を設けていることで、JCRでは託児所にかかる費用を半額補助するという、欧米並みの進んだ考えを実行に移していたことです。女性医師の割合いは女性の社会進出が遅れている日本においても益々増加しており、今後、女性放射線科医師も増加することが予想され、その傾向に先んじて対応しているJCRは大したものだと思います。今後こういった工夫は重要になってくると思われます。

 ミッドサマーセミナーに参加して良かったどころか、参加しないと後悔するとまで言い切れる理由は、この会が教育的であると同時に、マニアックな深みを持ったセッションを擁し、さらにアップデートな社会的側面から放射線医学、医療を斬るというユニークな側面を有しており、それらが神戸の夏の風と一体となって、勉強なのか遊びなのか分からないほどの自然体で放射線科の魅力を現しているからではないかと思います。

 できれば毎年参加したいと思っています。お近くにお住まいの方は、両日またはどちらか一方でも参加されることをお勧めいたします。