ISET (international symposium on endovascular therapy)報告記その2

2011.02.08

西岡健六朗

ISET  (international symposium on endovascular therapy)は、毎年1月にフロリダのマイアミ・ビーチの超高級ホテルFontainebleauで開催される、今年で23回目を数える国際シンポジウムである。本年2011年は1月15日から20日まで開催された。RadFanのWeb版に速報として“多発性硬化症Multiple Sclerosisに伴うCCSVI (chronic cerebrospinal venous insufficiency)とIVR治療”というテーマで既に第一弾を発表させてもらったが、ISET2011の概要を説明しているこちらが本来の第一報であり、CCSVIは実質的には第二弾である。

pre-symposiumを除き17日から20日まで参加したが、結論から言うと個人的には参加してとてもよかったと思っている。その理由はいくつかあるが、ひとつ印象的だったのは、本年で23回目のannual symposiumということはISETが23年前から開催されていることを意味するが全く古さを感じさせなかった、ということである。私は「学術会議は生き物」と考えているが、若いうちは勢いがあっても年数を重ねるに従い成長するものと廃れるもの、オタクの会合のように十年一日のごときもの、マンネリ化してすっかり油が回ってしまっているもの、会議も十人十色である。まだ若くあちこちから引っ張りだこのGEST、突然老化して今や死に体寸前のSIR、ふたつの併設会議をメインに持ってきてさえ高校の同窓会程度の規模という独特の味を出し続けるJSIRなど、様々だ。ISETは数年前にcoronary interventionをpre-sessionに採用し、今やスピーチが上手で押し出しのよいDr. Martin Leonを代表として前面に出して立派にシンポジウムの一部に取りこんでしまった。本年のpre-sessionはInterventional Oncologyで、これを開催前の1月15~16日にpre-symposiumとして会計も別にして開催し盛況だったようだ。今後interventional oncologyに興味のある層を取り込もうという考えのようだが、実に積極的で先を見据えた上手なプログラム改革だと思う。常に進化している、これが古さを感じさせない理由のひとつだろう。

 

会場のFontainebleau

ふたつ目に、メリハリのきいた会場運営のセンスのよさが挙げられる。かなり横長のスクリーンを備えつけた、基本的にはひとつの会場しかない。最近米国ではviva(vascular interventional advances)などもそうだが、こうした形式が多い。多元中継では通常サイズの画面をこの横長の中に3つ表示するという方式だ。午後遅い時間を除き、会場がひとつということは、ほぼ全員が同時にひとつの場所に集まっているわけで、これによって、多くの会場に分散する散漫さがなく、大きな集まりなのに何か「参加者間のこぢんまりとした一体感」さえ感じられる不思議さを醸し出す。同時並行発表にありがちな、他の部屋の発表を聞けない不都合さもない。ではトピックの多様性はどうやって保持するのかというと、これは時間の要素によってである。つまりinterventional oncologyに興味があればpre-symposiumに参加し、EVAR/TEVAR(Endovascular Aneurysm Repair/ Thoracic Endovascular Aneurysm Repair)は1日目の後半から2日目午前中、PAD(Peripheral Arterial Disease)は2日目後半から3日目、といった具合に、場所を移動するのではなくて時間帯を選択するのである(1日目の午前中は前回報告したとおりCCSVIしか選択肢がなく、今回ISETがいかにこのトピックに力点を置いていたかが分かる)。当然一部オーバーラップしていたり、carotid interventionのように2日目の昼と3日目午後という具合にギャップがある場合もあるが、時間が空いたら歩いてマイアミ・ビーチに行って日光浴でも楽しめばよい。白い砂浜の続く、遠浅のエメラルド・グリーンの海はホテルのすぐ横だ。ともあれ、聴きたいテーマを絞って集中的にほぼ全ての発表が聴けるという構成は参加者にとっては嬉しい。昨年の日医放総会のように「ようし、教育講演を聴くぞ」と意気込んでみても、朝食も取れないほど早い時間に10部屋すべて横並びに教育講演が行われるのではとても参加者の事情を考えているとは思えない。主催者の都合である。一般に日本の事情では、“そうは言っても長い期間会場は借りられないし、狭い会場運営では余裕がない”という言い訳が聞こえてきそうだが、狭い部屋にところ狭しと物を詰め込む日本人の癖が表れているようにも思える。事情は分かるが、四畳半一間に60インチTVを入れたらよく見えないので後ろに下がったら壁に頭をぶつけたというような悲しさが日本の会議にはある。これも現代のワビサビか。ともあれ、ISETの余裕のある上手な組織運営は、例えばSIRのような大きな組織ではなくて、ISETがフロリダのBaptist Cardiac & Vascular Institute (BCVI) の主催で、小回りが利くという点が理由のひとつと考えられる。BCVIの創始者のひとりでISETのhostであるDr.Barry Katzenは、要所ごとに壇上に、またはLiveカメラを通じて登場し聴衆に話しかける。それが全然押し付けがましくない。この人の人徳だろう。こういったきめの細かさが会議全体に統一感を与えている最大の理由と思われる。

参加者の内訳は、IVR医のうち動脈系手技を積極的に行っているもの(これをIVR-Aとする)、Vascular Surgeonのうちendovascular therapyを積極的に行っているもの(これをVS-Eとする)を併せてほとんどで、これにcoronary interventionを行っているものが少数加わる。そしてヨーロッパとアメリカから半々くらいの比率である。アジアからの参加は少なく、日本からの参加は極端に少ない。これには様々な要因があるようで、真面目で辛抱強い日本の放射線科医が11月にRSNAに行き、2ヶ月後の1月にフロリダと続くのではあまりにも期間が短すぎる、あるいは3月にSIRがあるためやはり1月にフロリダに行きづらいということも一因であろうが、上記述べた本格的IVR-Aが少ないことも理由のひとつだろうか。米国にはVS-Eが多く、ISETでも積極的に発言し、ArizonaのDr. Edward Diethrichなど結構な年齢の血管外科医かと思われるが、素晴らしいEndovascularの発表をされた。TEVARのparaplegia発生率の低さは、これまでの外科手術がばかばかしくなるほど低く、endovascular therapyのAortic archやAscending aortaへの進出も視野に入ってきた。日本からはVS-E自体が少ないのか、いても来ないのかは私には分からないが、おそらくその両方だろう。日本には特に保守的なVS-nonEが、基本技術の全く異なるendovascular procedureをこころよく思わずに若い外科医が身動きが取れないという噂も聞くが、もし本当だとすると世界から取り残されガラパゴス化する日も近い。5年以上前から主張しているとおり、将来ほぼ100%のvascular surgery症例はendovascular therapyになると私は思っている。

演者はかなり贅沢な選択で、各分野でトップクラスの顔ぶれや、ISETから数週間後に開催されるiCON(International Society of Endovascular Specialists)やCRT2011など他のシンポジウムを主催したりSIRなどでセッション丸ごと受け持つほどの大物が次々と現れた。例えばDEB (drug-eluting balloon)ではドイツからGunnar Tepeが来ていたし、ワシントンからRon Waksman、同様にDES (drug-eluting stent)のcoronary useはニューヨークからGregg Stone、peripheral useでのZilver PTXのRCT(Randomized Control Trial)はMichael Dakeみずから発表していた。プログラムの詳しい内容はここISETのwebsiteでご確認いただくとして、IVRに関してはSIRのようにごった煮にはなっていないので興味のあるトピックがあるかどうか確認してから参加されるとよいと思う。

ここで少し医学的な内容について報告しよう。まず特筆すべきはZilver PTXのRCTである。データは24ヶ月までの結果が発表され、24ヶ月後の開存率74.8%(12ヶ月で86.2%)、event-free survival 86.6%。これ以上詳しいことはくどくど述べないが、“It is a statistically significant difference”なんて、どんな研究をしていてもなかなか言えないものなのに、およそ15秒おきにDakeが連発するという圧倒的な内容でDESの優位性が、統計学的な有意差を持ってこれでもかというくらい次々と示された。こうなると、私見だが、外科手術なんかと比較する必要はなく、議論は24ヶ月後に開存していない約4分の1の病変に対して、再びplastyをするか、ここでDEBを使用するか、はたまた外科手術するか、ということになるだろうか。いずれにしてもcoronary interventionと同様、PADも第一選択はendovascular therapy (DES/DEB)になる日は近いと思う。日本はどうか知らないが、外科手術はよく言えば「切り札」的な役目に回ることになるであろう。

初日とは打って変わって良い天気

DEBはWaksmanが優れたreviewをcirculation誌に書いているが (circulation 2: 352-358, 2009)、いかんせん米国では認められておらず、ドイツのTepeの発表が優れていた。Single isolated lesionで石灰化なしの病変を選んで、1群ほぼ50名という3群のRCTでDEBの圧倒的な優位さを示した2008年NEJMの論文(N Engl J Med 358: 689-699, 2008)が発端で、その後multiple lesionや石灰化、部位などによって群を振り分け、現時点でIn.Pact SFA、In.PactPopなど12種類の異なるIn.PactシリーズのRCTが80施設以上、1,200名以上の患者登録がなされて並行して行なわれているということだ。欧米の良いところは、こういったNEJM誌などにバシバシ論文を書いているような人たちが、フロアでつかまえると実に気さくに質問に応じてくれることだ。いくらインターネットをやっていても、心が内向きで海外へ出なければ世界から取り残されるのである。もちろん生きた英語が理解できなければ話にならないが、日本の若い人たちは特に、これはRSNAでもSIRでも同じことなので、医学の世界で積極的に世界と通信してほしいと思う。

Live caseはISET会場から車で15分のBCVIからの中継がメインであったが、3日目には同時期に開催されているLINC(Leipzig Interventional Course)が参加するという形を取り、これが非常に対照的で印象的だった。BCVIにはIVR手術室が7つあって、初日はそのうち3部屋からの中継であったが、PADがtiboperoneal trunk(TP trunk)の高度狭窄とanterior tibial(AT) arteryのCTO、infrarenal AAAへのEVAR、それにcoronaryはLADのCTOであった。PAD症例は3人が術野に入っていたが、TP trunkはもちろんballoon plastyして、ATをどうするかをISET会場と一緒に議論して、この症例とAAAはまずまずであったものの、coronaryはラテン系の医者が登場し威勢のいいことを喋るのだが、激しく動くのは口だけで肝心の手が動かず、Finecross wireを使用して15分たってもほとんど進行しておらずマスクから鼻ははみ出ているし大丈夫かいなこの人と思っていたら、30分後にはwireがあらぬ方向へ進んでおりもう完全にextra。こんなんでLive case presentationするか?とさすがに思ったが、私の横に座っていた参加者が「近年まれにみる中身のないLive caseだ」と切り捨てたのにも驚いた。

それに比べて3日目はライプチヒで開催されているLINCと合同中継でドイツからのLive caseであったが、これはpopliteal arteryの5cm以上あるCTOで、術者と助手の2人で地味にやっていたが最初wireが何度もcoil upして通らない。もちろんドイツ語訛りの英語は必要最小限しか喋らない。しかし2分も経たないうちにCTOのおそらくど真ん中からwireを末梢へ通したときには、ISETの会場のあちこちから「ォオーっ」という歓声が上がり拍手まで起こった。術者たちは冷静だったがISETの途中でライプチヒに飛んだDr. Dake(忙しい男だ)がLINC会場から「今使用したwireは何だ?」と尋ね、6時間時差のあるISET会場からも「どんなdeviceを使ったのか」とせわしなく質問が飛んだが、平然と返ってきた答えは「TerumoのGlidewire、0.035インチ」。どヒャーである。その後着実にDESを入れてあっという間に手術終了、その後のISETの米国人パネラーからの質問がすべて負け惜しみに聞こえるほど、ライプチヒのLive caseは日本の『きょうの料理』に匹敵するほどの手際のよさと完成度の高さを示して見事であった。DES/DEBに象徴されるように、高度に進んだ医療知識と技術、巧みにRCTで結果を積み上げてゆく卓越した能力、“道具じゃなくて腕だよ”と言わんばかりの質素で洗練されたヨーロッパ伝統の底力をまざまざと見せ付けられた感があった。ちなみにLINCには本年3,000名以上の参加があり大盛況で、来年からさらに大きな会場を用意する必要がありそうだということだ。

さてISETでの豪華な顔ぶれは、1月のマイアミという意味を考えてみるとまた別の面が見えてくる。米国の東部特にニューイングランドやニューヨーク近郊に住んでいる人に単純に、11月末のシカゴと1月マイアミとどちらに行きたいか?と尋ねたら、よほどのへそ曲がりでない限り1月のマイアミと誰もが答えるであろう。Thanks Giving day weekendの翌週の寒いシカゴになんぞ誰も行きたくはない。街に人がいなくなるから延べ6万人の参加者とも言われるRSNAを開催することができるのだ。逆に、ISETに贅沢な演者の顔ぶれが揃うのはこういう理由もあるわけで、従ってハイ・シーズンのフロリダのホテルはベラボーに高い。会場のFontainebleauや隣接のEden Roc Renaissanceなどは一泊450ドル以上するので、いくら経済が得意でない日本の政権が円高を保ってくれるとは言え、行くのなら覚悟しておいたほうがよい。周囲は夜の治安がよくないし、この点も今後日本から若い人が参加しにくい要因となるかも知れない。

以上、SIRやCIRSEの報告のようには上手にいかず、とりとめのない報告で恐縮だが、なんとなく雰囲気でも分かっていただければ幸いである。次は3月のシカゴのSIRに参加する予定だが、あまり楽しみにしているというわけでもない。それにしても、実際に会議に参加してみると如実にその分野の勢いや、各国の勢力関係が分かるところが興味深いところだ。これは机の前でインターネットしているだけでは決して分からない何かがあるからだろう。

毎晩パトカーが走り回る、Miami Vice。ピンボケ写真で良かった。