CIRSE 2023 報告IVR

2023.11.17

「CIRSE 2023 報告IVR」を林 信成先生(IVRコンサルタンツ)にご寄稿頂きました!

 2023年9月9日からコペンハーゲンで開催されたCIRSEに4年ぶりに参加しました(図1)。

2020年と2021年は完全オンラインでの開催だったので自宅から参加してかなりの演題を聴いたのですが、昨年は現地開催に戻ったしAll Access Passも購入していなかったので、総会の内容には2年ぶりのアクセスでした(図2~4)。

以下、私が理解できた範囲内での報告となりますが、数字など細かな点は間違っている可能性があること、様々な内容が交錯して議論されるので一部が重複することをご了解ください。なお質問やご意見などは遠慮なく編集部までご連絡ください。私宛にTwitterやFacebookなどでメッセージくださるのも大歓迎です。

学会全体のトレンドなど

 オープニングセレモニーの会長講演でDr.Binkertは「今回はコロナ関連のあらゆる規制がすべて撤廃され、CIRSEは完全に元に戻った」と高らかに宣言されました(図5、6)。まったくその通りで、現地ではただの一度も誰一人としてマスク着用者は見かけませんでした。引き続いて会長が話したことの中心は「IVRは独立した臨床科になろう」ということでした。つまり、まず手技の前後には患者を診ましょう、そしてIVR外来を開設しましょう、さらには専用病床を持ちましょう、ということです。この動きは世界中で数十年前からあったことで、医学会においてはまずIVRが内科における消化器内科のようにサブスペシャリティとして認められることを目指し、そして究極的には米国のように放射線診断科と同等の、ほぼ完全に独立した診療科として正式に認められることを目指すトレンドが続いています。ただ先頭を走っている米国でも、トレーニングなどのシステム整備には10年以上を要しており、当然のことながら今でも診断部門とは若干の重複がありますし、複数の教育システムが並行して稼働しているようです。欧州は米国に比べると概ね10年くらい遅れて本気になってきたように思われます。実際20年くらい前までの総会ではかなりの人が明確に反対でした。それはやはり、画像診断能力が必須なだけでなく、診断部門を手放したくない、診断部門と装置が共通なので購入や使用の権限がからんでくるという現実的な事情が大きいのでしょう。
 この件ではGruenzig記念講演でもDr.Uberoiが「IVR医はImage-GuidedSurgeonである」と定義し、専門化したト
レーニングや診断との分離の歴史を世界の趨勢を含めてまとめていました。先行できた国々について箇条書きにし、「日本は2023年に完全に独立した」と述べていましたが、これはちょっと彼の誤解でしょう。日本専門医機構からIVR(名称は放射線カテーテル治療)がサブスペシャリティとして認められそうになっているのを指しているのでしょうが、これらの認定制度はまだ始まっていませんし、その前に解決すべき問題が山積しています。なお米国は当初、外科の一部門のようにImage-guided surgery科という名称を目指したのですが、Surgeryを名乗るなども
ってのほかと外科学会が猛反発して門前払いになっています。まあ脳外科はともかく心臓血管外科などでさえ、サブスペシャリティとして独立するまでには長い期間を要していますから。

目指すべきものは何?

 前向き臨床試験において主要(一次)エンドポイントが設定されるのは、皆さんご存知かと思います。統計学的にこれを達成するのが、目指すべきゴールです。特に第III相であるランダム化比較試験では結局のところ「勝つこと」を目的にして試験が設計されます。ただ医師や患者が本音で一番大切と考えるものは何なのか、今回の学会ではそれが問われていました。コロナ禍では多くの高齢者たちが施設や自室に閉じ込められ隔離されました。感染や感染死亡は少しくらい防げたかもしれませんが、それで生存期間が多少伸びたとしても、子供や孫たちや友人たちとの面会や外出を制限され、フレイルや認知症を進行させた孤独な余命が本当に彼らにとって幸せだったのか、私たち日本の医療従事者は厳しく問われるべきでしょう。元々無駄な延命治療は行わず、尊厳死はもちろん安楽死もいくつかの国では認められている欧州は正直です。「標準治療よりも個別化治療」というのも大切なキーワードでした。全身化学療
法が分子標的薬や免疫治療を加えてさらに強化され、腫瘍の評価がイメージングの進歩や遺伝子解析などで格段に進歩した現在、一般的なガイドラインはもはやゴールドスタンダードとはいえない時代となりつつあります。ただこの言葉が、ランダム化比較試験など確固たるエビデンスをつくる作業を避けるための方便に使われていないか、私たちは十分に注意する必要があります。現実的な臨床試験を導入することの提案やリアルワールドデータの重要性の強調なども同様で、科学的に厳しいエビデンスづくりではなかなか勝てないIVRの姑息な逃げ道にならないことを心から祈っています。また同様に、全身化学療法の進歩やオリゴメタ(少数転移)の症例をどんどん発掘する精度の高い画像診断の普及に伴って、TACEやTAREだけでなく、アブレーションや放射線治療なども外科手術なみの局所根絶を目指すトレンドが続いています。つまり、全身化学療法の進歩でかえって根治的な局所治療の重要性が増しているのです。

Rosch記念講演

今回最も楽しみにしていた荒井保明先生の受賞講演は、まさに最高級に素晴らしいものでした(図7、8)。

「固定観念の箱から飛び出そう」というタイトルで、ポートやアンギオCT、ステアリングカテーテルの開発、エビデンスづくりを目指す臨床試験グループの設立、さらには多彩なAmazing症例を通じての「いかに固定観念を破ってブレイクスルーしてきたか」という彼の歴史が具体的に凝縮して語られました。彼の集大成にふさわしい講演でした。最終夜のFarewell Partyではたまたま2009年にSIRの会長を務めたDr.Stainkenや今年のSIRのプログラムチェアマンであったDr.Baljendraらと同じテーブルになったのですが、彼らもみな荒井先生の講演を聴いていて一様に絶賛していたのがまた嬉しい感動でした(図9)。なお蛇足ですが、本年のFarewell & DinnerPartyはWallmansという北欧最大のディナーショウ会場で開催されました。私はほぼ毎年このパーティーに参加していますが、今年は過去最高級レベルでした。135ユーロと少しお高いですが、それだけの価値のあるハイレベルなショウ、コースディナー、飲み放題、未明まで続くダンスパーティーがついています(図10)。

GUNTHER
INNOVATION AWARD

 IVRの世界で革新的な仕事をした人に送られるこの賞を、今年は奥野祐次先生が受賞されました(図11)。これもものすごく嬉しく、また素晴らしく誇らしいことでした。「長い道のりだった、でもまだたくさん解決すべき問題がある」という受賞スピーチも素敵でした。彼が開発したTAME(Transcatheter Arterial Micro-Embolization)の発展や普及は、コロナで海外学会に出られなかったブランクの間に一番変わったことでした。以下、これに関連するセッションについて述べます。

★続きはRadFan2023年12月号にてご覧ください!