簡単・安全に細胞の三次元培養を実現する三次元ナノファイバー「HYDROX」を社外提供 大阪大学大学院薬学研究科との共同研究でヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導に適用

2021.11.29

島津製作所は、細胞の三次元培養を実現する三次元ナノファイバー「HYDROX(ハイドロックス)」※1を2022年1月から研究機関、大学、企業に提供していく(図1)。島津製作所は、細胞研究・細胞関連産業に携わる研究機関、企業を支援するため、細胞培養ソリューションの研究開発においてオープンイノベーションを推進してきた。「HYDROX」のサンプル提供は、その一環である。

細胞研究や創薬スクリーニング、再生医療などでは生体の機能に近い細胞の塊(以下、細胞塊)を生体外で構築することが求められる。三次元ナノファイバー「HYDROX」は、細胞塊の形成を補助する島津製作所独自開発の新素材だ。今年8月には、大阪大学大学院薬学研究科分子生物学分野の水口裕之教授、鳥羽由希子特任助教(常勤)らの研究グループと共同で、「HYDROX」をiPS細胞※2から肝細胞への分化誘導に適用することで、高効率に肝細胞へ分化することを明らかにした(参考文献1)。島津製作所は「HYDROX」について、同12月1日〜3日開催の分子生物学会で発表、12月8日~10日開催の再生医療EXPO(幕張メッセ)で展示を予定している。

従来、細胞培養は、二次元的な「平面培養」が一般的だった。しかし、ヒトの細胞は大半が三次元的に構成されるため、平面培養した細胞は生体細胞の機能に及ばないと指摘されている。そこで、近年、立体的な培養である「三次元培養」が注目されている。三次元培養では、主に動物由来成分が細胞同士および細胞と細胞外マトリックス※3の相互作用を促進する足場材※4として用いられている。しかし、動物由来成分を使用すると再現性や安全性、取り扱い、製造の難しさが課題になっていた。

島津製作所は2016年に独自の化学合成ポリマー (以下、HYDROX原料ポリマー)※5から、三次元ナノファイバー「HYDROX」を開発し(図2、参考文献2)、その後、「HYDROX」を利用すれば、簡便な三次元培養が可能であることを突き止めた。実際の培養は、溶解したHYDROX原料ポリマー粉末を培養プレートに滴下し、乾燥させて乾燥ゲルをプレート底面に形成する。その後、作成したゲルに細胞懸濁液を添加する(図3-1)。乾燥ゲルが水分を吸収し三次元ナノファイバー「HYDROX」を形成する(図3-2)。その過程でナノファイバーにトラップされ培養された細胞が凝集し、三次元の細胞塊が形成される(図3-3)。さらに過剰量の水分を添加することでHYDROXナノファイバーはの構造が壊れるため、細胞塊のみを容易に回収できる(図3-4)。

一連の培養操作は簡単で安全性も高いことから、HYDROXは動物由来成分の代替材料としての可能性を秘めており、当社は2023年以降の商品化を目指している。商品化に向け、島津製作所と大阪大学大学院薬学研究科の研究グループが2019年8月から取り組んできた共同研究で、「HYDROX」をiPS細胞から肝細胞への分化誘導または初代培養肝細胞に適用し、高機能な細胞塊の形成が可能であることを明らかにした。iPS細胞から肝細胞への分化過程(14日目)における細胞にHYDROXを適用し、乾燥ゲルがファイバーを形成する過程において3時間後に細胞塊を形成し始め、24時間後には輪郭がはっきりとした細胞塊を形成することを確認している(図4)。また、「HYDROX」の適用によって、分化した細胞の各種肝機能の向上を実現できた(参考文献2)。

※1「HYDROX」は島津製作所の登録商標。ナノファイバーは直径が1nmから100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質
※2 細胞を培養して人工的に作る多能性の幹細胞。京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めて作製
※3 細胞外基質とも呼ばれる。細胞外の空間を埋める働きをする物質
※4 細胞の構造を保持するために細胞外マトリックスの機能を模倣した材料
※5 ポリ乳酸とポリサルコシンから成る両親媒性ポリマー

図1.「HYDROX」のサンプル

図1.「HYDROX」のサンプル 
図1.「HYDROX」のサンプル
図2.「HYDROX」の電子顕微鏡写真
図2.「HYDROX」の電子顕微鏡写真
図3.「HYDROX」を利用した細胞凝集フロー
図3.「HYDROX」を利用した細胞凝集フロー

※黄色の物質が目的の細胞。青い帯状の物質が「HYDROX」

図4. 「HYDROX」の適用により形成された三次元細胞塊 

Scale bar; 200μm

図4.「HYDROX」の適用により形成された三次元細胞塊

島津製作所は、簡便な三次元培養を可能にする三次元ナノファイバー「HYDROX」について、細胞の基礎研究に加えて創薬スクリーニングや再生医療研究での普及も目指している。今回の共同研究で使用した肝細胞や株化細胞以外の細胞への適用可能についても現在調査中だ。さらなる用途拡大・機能性向上の実現には「HYDROX」が細胞に与える分子メカニズムの究明や多種細胞への適用が必要だ。そのため、島津製作所は2022年1月から三次元ナノファイバー「HYDROX」を国内の研究者・研究機関に提供していく。サンプル(試供品)を希望する方は、下記の問い合わせフォームより所定の事項を記入して申し込みできる。

「HYDROX」サンプル問い合わせフォーム

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細胞培養ソリューションとは:株式会社島津製作所 (shimadzu.co.jp)

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