京都大学、新型コロナウイルス感染症に対する全⾃動遺伝⼦検査システムを開発 ―プール検査法を⽤い⾼精度の⼤量検査が可能に―

2021.07.16

⻑尾美紀 医学研究科教授、松村康史 同准教授、⼭本正樹 医学部附属病院講師、野⼝太 郎 同助教らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症に対して⼤量検査が可能な全⾃ 動遺伝⼦検査システムを開発し、その有⽤性を実証した。

新型コロナウイルス感染症対策において、⾼精度な診断検査法を⼤量に実施できる検査 体制が望まれている。同グループは、複数検体を混合し1検体とする「プール」検査法と、 既存の全⾃動遺伝⼦検査装置を組み合わせることで、⾼精度な⼤量検体処理を⽬指した。3種類の全⾃動遺伝⼦検査装置(ジーンリード:プレシジョン・システム・サイエンス ㈱、パンサーシステム:ホロジックジャパン㈱、Biomek システム:ベックマン・コールター㈱)とインテグラ・バイオサイエンセズ㈱の⾃動分注機を組み合わせたプール検査システムを開発、検証、最適化し、さらに数千の臨床検体を⽤い実証試験を⾏い各システムの有⽤性を確認した。

本研究成果により、⾼精度な⼤量検査の導⼊が容易に可能となり、新型コロナウイルス感 染症対策に貢献できることが期待される。

 

 

新型コロナウイルス感染症においては、発症者のみならず無症状者も感染伝播に関わっている。感染者のクラスター事例やハイリスク者(エッセンシャルワーカー、帰国者、あるいは⼤規模イベント実施時等)へのスクリーニング検査において、⼤量検体を迅速・⾼精度・低コストで検査可能な体制を整備することが、医療と経済社会活動の両⽴へつながる可能性がある。

複数検体を混合し1検体とする「プール」検査法は、理論上、検査数を増やしコスト削減に寄与する。例えば、陽性率1%の集団において6検体をプールする場合は検査数とコストは約5分の1となる。実際の検査⼿順としては、プールした検体が陽性の場合、そのプールを構成する検体全てを個別に検査して陽性検体を確定する(図左)。プールが陰性の場合は、全ての個別検体が陰性と判定する。

プール検査法の懸念として、検体希釈による性能低下や交差汚染などにより精度が低下することが挙げられる。⾼い技術が要求される遺伝⼦検査においてエラーを避け、精度の⾼い検査を⾏うためには⾃動化が有⽤だが、既存の⾃動化検査システムでプール検査ができるものはなかった。

そこで、精度の⾼い核酸増幅検査法と⾃動化検査システムを⽤いたプール検査法(図右)を開発し、実際に⼤量の検体を⽤いることでその有⽤性を実証する研究を行った。

核酸増幅を原理とし、⾼精度の⼤量検査が可能な3種の⾃動化システム:①ジーンリードエイトおよび24(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)、➁パンサーシステム(ホロジックジャパン株式会社)、③Biomekシステム(ベックマン・コールター株式会社)を⽤いて、プール検査法を可能とする検査⼿順を構築し、基礎性能評価の後、⼤量検体を⽤いた実証試験を⾏いました。プール検査法の性能は、国⽴感染症研究所が規定するリファレンス法を個別検査として⾏い決定した。

①ジーンリードは、8検体(発売中)または24検体(発売準備中)を約2時間で同時処理可能な検査装置です。バーコード管理とプール化を⾼速に⾏う”Poolingstation”と組み合わせることで、8検体までの⾃動プール検査が可能です。基礎性能試験の結果、ジーンリードエイトの最適プール数は6であり、1バッチあたり48検体を約2.5時間で処理可能だった。ジーンリード24の最適プール数は8、1バッチあたり192検体を約3.5時間で処理可能だった。実証試験では、唾液やスワブ検体計2448検体の検査を⾏い、感度97.1%、特異度99.9%と⾼い精度を有することが実証された。②パンサーシステムは、随時検体投⼊と同時処理が可能な検査装置です。1検体あたり3.5時間、最⼤数である120検体投⼊時は5.5時間で検査が完了。プール検査を⾏うため、Biomekシステム(ベックマン・コールター株式会社)およびASSISTPLUSシステム3/4(インテグラ・バイオサイエンセズ株式会社)を⽤いた管理⼯程を左記企業と協⼒し開発した。これらと組わせることで、10検体までの⾃動プール検査が可能。基礎性能試験の結果、最適プール数は4であり、384検体を約5時間で処理可能だった。実証試験では、専⽤⿐腔スワブ検体計3228検体の検査を⾏い、感度95.6%、特異度99.9%と⾼い精度を有することが実証された。③Biomekシステムは、研究⽤の汎⽤装置だがPCR装置と接続し、国⽴感染症研究所の試薬を⽤いることで94検体を約2.5時間で同時処理可能。ベックマン・コールター株式会社と共同でバーコード管理とプール化、その後全⾃動PCRを⾏うプログラム等を開発した。これにより、任意の検体数での⾃動プール検査が可能。基礎性能試験の結果、最適プール数は4であり、376検体を約4時間で処理可能だった。実証試験では、唾液やスワブ検体計6420検体の検査を⾏い、感度97.9%、特異度99.8%と⾼い精度を有することが実証された。

本研究により開発した全⾃動プール検査法は、既存の全⾃動遺伝⼦検査システムを利⽤しており、またプール化に必要なノウハウ等を京⼤および各企業から提供することで、他施設においても迅速に導⼊することができる。これにより、本邦において⾼精度な⼤量検査を⾏うキャパシティーが増加し、新型コロナウイルス感染症対策に貢献できることが期待される。

本研究は下記の研究助成等を受けて⾏われた。

・⽇本医療研究開発機構(AMED)令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(早期・⼤量の感染症検査の実現に向けた実証研究⽀援)「新型コロナウイルス感染症に対する安全かつ⼤量処理可能な⾼精度全⾃動遺伝⼦検査システムの実証・⽐較研究」

・京都⼤学iPS細胞研究所との共同研究「コロナウイルス感染症の解析と検査法の検討」

・プレシジョン・システム・サイエンス株式会社との共同研究「全⾃動遺伝⼦検査装置geneLEADシリーズ及び関連システムを⽤いたSARS-CoV-2検査PCR試薬の評価研究」

・ベックマン・コールター株式会社との共同研究「⾃動分注装置Biomek4000を⽤いたサンプルプーリング法の開発」

・インテグラ・バイオサイエンセズ株式会社との共同研究「新型コロナウイルス感染症に対する⾃動分注機を⽤いた検査法の開発および実証研究」

⽤語解説

・核酸増幅検査

病原体に固有の遺伝⼦(核酸)を増幅することで、病原体の有無を判断する⼿法の⼀つだ。適切な試薬を使⽤すれば、極めて⾼精度な検査が可能。ジーンリードが採⽤しているPCR法の他に、パンサーシステムが採⽤しているTMA法など複数の種類がある。

・ジーンリード

プレシジョン・システム・サイエンス株式会社が販売する汎⽤全⾃動遺伝⼦検査装置で、新型コロナウイルスの診断にも使⽤することができる。⼀度に8〜24検体を同時処理することができる。

・パンサーシステム

ホロジックジャパン株式会社が販売する全⾃動遺伝⼦検査装置で、専⽤試薬と専⽤採取キットを⽤いた場合、簡便に⼤量検査が可能。新型コロナウイルス感染症の診断のための使⽤が可能。

・Biomek

ベックマン・コールター株式会社が販売する汎⽤全⾃動分注機です。Biomek4000を検体プール、Biomeki5を全⾃動検査に使⽤しました。研究⽤機器ですが、プログラムの開発によりプール化や核酸増幅検査の⾃動化が可能で、国⽴感染症研究所のリファレンス法と組み合わせることで新型コロナウイルス感染症の診断のための検査が可能です。

・ASSISTPLUS

インテグラ・バイオサイエンセズ株式会社が販売するコンパクト⾃動分注機です。スワブ検体やPCR試薬を遠⼼チューブやPCRプレートに移す作業を容易にします。

感度、特異度

検査性能を⽰す指標で、感度は真の陽性検体のうち当該検査で陽性となった検体の割合、特異度は真の陰性検体のうち当該検査で陰性となった検体の割合です。

 

機器に関するお問い合わせ先

プレシジョン・システム・サイエンス株式会社
TEL:047-303-4801

ホロジックジャパン株式会社
TEL:03-5804-2340
E-mail:info@dx.hologic.com

ベックマン・コールター株式会社
TEL:0120-566-730/03-6745-4704
お問い合せフォーム:https://www.beckman.jp/contact-us

インテグラ・バイオサイエンセズ株式会社
TEL:03-5962-4936