日立製作所、米国ジョンズ・ホプキンスから陽子線がん治療システムを受注。10年間にわたるシステムの運転・保守契約も締結

2015.06.11

(株)日立製作所(以下、日立)は、このたび、北米において日立の5つ目となる陽子線がん治療システムを、米国メリーランド州にある世界トップクラスの医療機関ジョンズ・ホプキンス・メディスン(Johns Hopkins Medicine)傘下のシブリー・メモリアル病院(Sibley Memorial Hospital/米国ワシントンD.C.)から受注し、また、10年間にわたるシステムの運転・保守契約も締結した。
今回、日立はスポットスキャニング技術を搭載し、回転ガントリ室3室と研究開発に使用される固定照射室1室を備えた陽子線がん治療システム「PROBEAT」を設置する。本システムは、米国ワシントンD.C.において初となる複数の照射装置室を備えたマルチルームタイプであり、IMPT(Intensity Modulated Proton Therapy: 強度変調陽子線治療)*1や、ガントリ搭載型コーンビームCT*2を使った精度の高い照射が可能なものである。

ジョンズ・ホプキンス・メディスンは、米国メリーランド州ボルチモア市に位置する研究と臨床を一体化した総合病院であり、「全米の優れた病院ランキング*3」で毎年、上位に選ばれるなど世界トップクラスの医療機関として高く評価されている。ジョンズ・ホプキンス・メディスン傘下のシブリー・メモリアル病院は、1890年の設立以来、米国ワシントンD.C.における非営利医療機関として、がんを中心とした研究から臨床・治療、リハビリまで幅広く手がけている。

日立は、2007年12月、スポットスキャニング技術を搭載した陽子線がん治療システム「PROBEAT」で、世界初となる米国食品医薬局(FDA: Food and Drug Administration)の販売許可を取得した。2008年5月に世界最大級のがんセンターである米国M.D.アンダーソンがんセンター向けに陽子線がん治療システムを納入し、これまでに1,400名以上の患者を治療している。近年では2013年9月に名古屋陽子線治療センターに、2014年3月には北海道大学にも納入しており、日立の陽子線がん治療システムは高い信頼性と実績を有している。2015年度は、北米の納入施設で新たに治療が開始される予定である。
陽子線がん治療分野において日立は、98%以上の装置稼働率や、お客さまへの長期的かつ充実したサポート体制などの高い信頼性と実績が評価されている。

日立の執行役社長兼COO東原敏昭氏は、今回の受注に関して次のように述べている。「このたび世界トップクラスの医療機関であるジョンズ・ホプキンス・メディスンの陽子線がん治療パートナーとして、当社を選んでいただき、大変光栄です。研究開発を通じて最先端のがん治療をめざすリーダーであるジョンズ・ホプキンス・シドニーキンメル・がんセンターの理念は、健康で安心して暮らせる社会づくりを革新的技術・システム、ソリューションやサービスでサポートする日立の社会イノベーション事業の考えと同調するものであり、両者で長期的なパートナーシップが築けることを期待しています。シブリー・メモリアル病院の陽子線治療センターは、ワシントンD.C.およびその周辺地域に、がんの新たな治療法をもたらし、がん治療・研究などの領域において先進的な事例になるものです
今回のパートナーシップを通じて、世界中の患者およびがんの研究に貢献できると確信しています。」

近年、副作用の少ないがん治療法の一つとして、世界中の病院や治療センターで陽子線がん治療に対する関心がますます高まっている。日立は、今後もヘルスケアビジネスの主力事業の一つである陽子線がん治療システムのグローバル展開を通じて、世界のがん治療に貢献していくという。

陽子線がん治療システムについて
陽子線がん治療は、放射線によるがん治療法のひとつであり、水素の原子核である陽子を加速器で光の70%のスピードに加速させ、がん細胞に集中して照射することでがんを治療するものである。治療に伴う痛みがほとんどなく、身体の機能と形態を損なわないため、治療と社会生活の両立が可能であり、生活の質(Quality Of Life)を維持しつつ、がんを治療できる最先端の治療法の一つとして注目されている。

スポットスキャニング照射技術について
スポットスキャニング照射技術とは、がんを照射する陽子線のビームを従来の二重散乱体方式*4のように拡散させるのではなく、細い状態のまま用い、照射と一時停止を高速で繰り返しながら順次位置を変えて陽子線を照射する技術である。複雑な形状をしたがんでも、その形状に合わせて、高い精度で陽子線を照射することができ、正常部位への影響を最小限に抑えることが可能である。さらに、患者ごとに準備が必要であった装置(コリメーター*5、ボーラス*6)が不要、また、陽子ビームの利用効率が高く不要な放射線の発生が少ないなど、患者に優しく、病院スタッフの負担を軽減でき、さらに、廃棄物の発生量の低減が可能であるという特長を備えている。

*1IMPT(Intensity Modulated Proton Therapy: 強度変調陽子線治療): スポットスキャニング照射技術を用いて、多数の門を重ね合わせ、線量分布を最適化する照射方法。よりターゲットに陽子線を集中することが可能となる。
*2ガントリ搭載型コーンビームCT: ガントリに搭載されているX線管とイメージ機器を用いて、コーンビームCTの画像を取得する技術で、体内の軟組織を見ることができる。これにより高精度なターゲットの位置決めが可能となる。
*3U.S. News Best Hospital: U.S. News & World Report誌が毎年公表している全米で最も優れた病院のランキング。
*4二重散乱体方式: 物質中を通過する際の散乱効果を活用して、陽子線の細いビームを二つの散乱体に通過させ、拡散させることで、陽子ビームの直径を拡大する。拡大された陽子ビームは、コリメーターやボーラスを通して、がんの形状に成形される。
*5コリメーター: 真鍮等の厚板をがんの輪郭に合わせて中を切り取ったもの。これによって、がんの形状に合わせて陽子ビームを成形する。
*6ボーラス: ポリエチレン等のブロックをがんの奥行きの形に合わせて中をくり抜いたもの。これによって患部より奥に陽子ビームが届かないように設定することができる。

●お問い合わせ
(株)日立製作所
ヘルスケア社粒子線治療事業部 粒子線治療ソリューション部
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