植込み型除細動器による心臓突然死の予防に関し最新試験結果を欧州心不全学会誌にて公開~心臓突然死の予防において日本人と欧米人の間で有意差がないことが判明~

2022.06.03

 6月2日の欧州心不全学会(ESC Heart Failure 2021)にて発表され、論文が公開されたHINODE試験(Heart Failure Indication and Sudden Cardiac Death Prevention Trial Japan)によると、一次予防を目的に植込み型除細動器(ICD)や、両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)を植込んだ日本人の心室性不整脈による死亡率は、これまで発表された欧米人を対象とした無作為割り付け試験での死亡率と同等であることが示された。

HINODE試験により示された内容

1. 日本人の一次予防患者死亡率、心室性不整脈イベント率がMADIT RIT試験の患者群と同等であった。

2.欧米にて実施された植込み型除細動器に関するランドマーク臨床試験結果が日本でも適用可能であった。

3.デバイス植込み前の心臓電気生理学的検査(EPS)での心室頻拍(VT)や心室細動(VF)誘発性は、心室性不整脈または死亡率の発生率増加に有意差が無いことが確認された。

4.欧州心不全学会(ESC)または日本循環器学会(JCS)ガイドラインにて植込み型両心室ペースメーカ(CRT-P)適応となる症例で、CRT-Pが植込まれていない症例の24ヵ月における生存率は、CRT-P治療群よりも統計学的に有意に低値であった。

 HINODE試験の研究責任医師である前筑波大学循環器内科学教授、水戸済生会総合病院最高技術顧問の青沼和隆医師は、「今回の前向き研究によって、日本人における心臓突然死のリスクは欧米人と同等であることが証明されたことは、大変画期的であり、この研究成果によってより多くの患者様を救命できることを確信しています」と述べた。

 慢性心不全および心臓突然死の発生率の増加にもかかわらず、日本におけるICDおよびCRT‐Dの症例数は、欧米に比較してはるかに低い状況となる。現在の日本のガイドライン、特に一次予防のためのガイドラインは、ICDとCRT-Dに関するランドマーク試験からの得られた知見を活かしきれているとは言えない。日本の患者のICD治療は、費用対効果の観点でも議論されてきた。そこで、MADIT‐RITのような代表的な試験と比較し検証するために、心臓突然死の一次予防または心不全のCRT治療のためのヨーロッパ心臓学会(ESC)ガイドラインを満たす日本人患者における死亡率、適切に治療された心室性不整脈ならびに心不全の発生率を評価すべく、多施設共同前向きコホート試験としてデザインされたHINODE試験が計画された。

 HINODE試験では、ICD植込み群1) 、CRT-D植込み群2) 、標準的薬物治療群3) 、ペーシングデバイス4) (植込み型ペースメーカ、又はCRT-P)植込み群の4つのコホート(群)に、至適治療を受けた合計354人の患者が前向きに登録され、19.6 ± 6.5ヵ月の追跡調査が行われた。

※1)~3)群においては、左室駆出率35%以下、心不全の既往歴や心臓突然死のリスクを持つ一次予防治療が必要な患者に限定

 その上で ICD植込み群1)とCRT-D植込み群2) を合わせたHINODE試験ハイボルテージ群と、MADIR-RIT試験の同群との1:1のプロペンシティ・スコア・マッチングによる統計解析を行った結果、24ヵ月における生存率は、HINODE試験において89%、MADIT RIT試験において92% (p値=0.288) だった。また心室性不整脈のイベント非発生率はHINODE試験において92%、MADIT-RIT試験において94% (p値=0.612)であり、カプランマイヤー推定値において両群間に有意差は無かった。

 また、ペーシングデバイス群全体における12ヵ月、24ヵ月の生存率はそれぞれ94%、86%であり、ペーシングデバイス群内にて更にペースメーカ治療群とCRT-P治療群との24ヵ月生存率を比較すると、ペースメーカ治療群が74%、CRT-P治療群が91%であり、ペースメーカ治療群における生存率が統計学的に有意に低値だった。

 HINODE試験の研究調整医師である大阪大学医学部循環器内科学教授、坂田泰史医師は、心不全医として「日本人は複数のリスク因子を有していても突然死発症は少ないのではないか、という我々の「思い込み」を、部分的にでも払拭したことに、この研究の大きな意味があると考えています。」と述べている。

 この試験はボストン・サイエンティフィック コーポレーションによって研究助成され、資金提供された。