MY BOOKMARK No.44 検査ワークフローの大幅な改善を実現─ AIRTM Recon DL ─

2022.04.21

福岡大学病院放射線部

神宮綾多郎

はじめに

 GE healthcare社からAIR IQ Editionという新しいプラットフォームがリリースされ、画質改善とワークフロー改善に繋がる新機能が追加された。今回、その中でも私お気に入りの製品としては、近年様々な分野に応用されているdeep learning(深層学習)を採用したmagnetic resonance imaging(MRI)再構成技術であるAIR™ Recon DLをご紹介したい。当院に2021年5月に先行導入されて以来、画質向上と撮像時間短縮によって、検査ワークフローの大幅な改善を実現してきた。本稿ではAIR™ Recon DLの簡単な特長や当院での使用経験・運用についてご紹介する。

AIRTM Recon DLの特長

 AIR™ Recon DLの特長として主に①ノイズの劇的な低減によるsignal-to-noise ratio(SNR)の向上、②空間分解能の向上、③トランケーションアーチファクトの低減が挙げられる。これまでの様々な高速化技術やフィルター処理等の経験則から、「ノイズ低減によるSNR向上技術」と聞くとSNRの向上に反して、空間分解能の低下やコントラストの低下が生じるのではないか?と疑いを持つかもしれない。しかし、AIR™ Recon DLを使用することによる上記のような懸念は無く、SNRの高い、非常に鮮明なMR画像を得ることが可能である。AIR™ Recon DL再構成は従来再構成のようにフーリエ変換を介さず、raw dataから直接畳み込みニューラルネットワークを介して、MR画像を再構成する(図1)。現仕様では、2D撮像のみの対応となっており、DL再構成によるdenoising levelはLow、Medium、Highの3段階で調整可能である。また、比較のためにDL再構成処理なしのoriginal画像も出力可能となっている(図2)。再構成に費やす時間も従来再構成と比較して遜色なく、「画像がなかなか出てこない!」といったようなストレスを感じることなく業務を遂行できる。

高画質化と新たなチャレンジ

1. ルーチン検査の全体的な高画質化

 AIR™ Recon DLは現在2Dのみの対応ではあるが、spin echo(SE)系、gradient echo(GRE)系、diffusion weighted image(DWI)、FIESTA、single-shot fast spin echo(SSFSE)の幅広いコントラスト・撮像法に対応している。当院の運用として、AIRTM ReconDLによってSNRに余裕が生まれるため、最短echo spaceになるよう受信バンド幅を調整しつつ、収集ボクセルサイズを検査全体で平均約35%向上させた。さらにAIR™ Recon DL自体にも鮮鋭度を向上させる効果(従来再構成よりも約30%鮮鋭度が向上)があるため、視覚的インパクトは想像以上である(図3)。体動やフローアーチファクトの影響無ければ、加算回数(NEX)を積極的に減らすことができるため、撮像時間の短縮に繋がる。急に画質が良くなりすぎると逆に違和感を持つ人もいるかもしれないが、AIR™ Recon DLはdenoisinglevelを3段階調整可能なため、適度にノイズがのった鮮鋭度の高い画像を得ることもできる。

2. 新たなチャレンジ

 画質の大幅な向上により、従来再構成の時には撮像していなかった新しい撮像にチャレンジできるようになった。一例として、前立腺MRIでは撮像や読影の標準化を目指してPI-RADS1)という指針が作成されたが、面内分解能0.4×0.7mm以下、スライス厚3.0mm以下というように高分解能が要求されるため、SNRや撮像時間を考慮すると従来再構成法では臨床に採用することは困難であった。しかし、AIR™ Recon DL再構成により、撮像時間の延長無く、分解能とSNRを共に向上することができたため、PI-RADS撮像条件をクリアしながらも前立腺MRI検査の時間短縮も実現できた(図4a~c)。他にも、息止めが必要な部位の撮像には息止め時間の制限から、従来再構成では得られる画質にも限界があった。

AIR™ Recon DL再構成により、以前はSNRが乏しかった息止めDWIを上腹部検査において新たにルーチンとして組み込むことができた(図4d)。

当院検査フローの改善に貢献

1. 検査時間の短縮

 AIR™ Recon DL導入の恩恵は画質改善だけでなく、それに伴う撮像時間の短縮においても大いに臨床に役立っている。AIR™ Recon DLが適用可能な2D撮像のみに関しては頭部検査:約40%、脊椎検査:約30%、四肢検査:約30%、下腹部検査:約25%の検査時間短縮を実現できた。当院では画質と撮像時間の両方を重視して撮像条件を調整したが、仮に画質を導入前と同程度に設定した場合、さらなる検査時間の短縮が可能と思われる。

2. AIR™ Recon DL導入機種の検査数増加

 AIR™ Recon DLが実装されているDiscoveryMR750w 3.0Tの直近数年間の10月~12月期の検査実績を図5に示す。コロナ禍によって外来患者の受診控えや入院患者の制限により、2020年は前年に比較して約5%の検査実績減少となった。AIR™ Recon DLが導入された2021年は新型コロナウィルスへの警戒感の緩和もあるが、大幅な検査実績の増加となった。図5の( )内は全検査数に対するDiscovery MR750w3.0Tにおける検査実績の割合であるが、2019、2020年に比較して2021年は2~3%検査数が増加している。また、図6のDiscovery MR750w3.0Tにおける1検査当たりの平均検査時間では例年は28分~30分を要していたのに対し、2021年は平均約26分に短縮されている。以上のように検査ワークフローの改善により当該機種の一日当たりの検査数が増え、予約枠圧迫の改善や時間外業務の減少などの病院経営への貢献にも役立っている。

まとめ

 簡単ではあるが、AIR™ Recon DLの概要や特長、当院での使い方をご紹介した。施設の規模や読影医の好みによって撮像時間や画質はそれぞれ大きく異なるが、AIR™ Recon DLはどのような施設でも使いやすく、臨床的・経営的観点のどちらの貢献度も高い製品であると誠に勝手ながら評価している。現状では2D撮像のみの対応だが、今後3Dや様々なシーケンスへの対応にも強く期待をしている。

<参考>

1) American College of Radiology. Prostate Imaging Reporting and Data

System (PI-RADS) 2019 v2.1. https://www.acr.org/Clinical-

Resources/Reporting-and-Data-Systems/PI-RADS