MY BOOKMARK No.19 CT画質評価のための3Dプリンタの活用

2021.12.24

広島大学 放射線診断学

檜垣 徹 先生

はじめに

 Computed tomography: CTの画質評価には、水ファントムやCatphan等の製品を使用するのが一般的である。規格品を使用することで複数の施設で同様の評価が可能となり、計測した画像ノイズ(均一領域のCT値の標準偏差 standard deviation:SD)や分解能特性(modulation transfer function:MTF)の数値は施設間で比較することができる。一方、株式会社京都科学等が販売している人体ファントムは、臨床に近い見た目の画像を得ることができるため、実用的で直観的な評価に有用である。
 従来から広く用いられていたCT画像再構成法であるfiltered back projection:FBPは線形の画像再構成法であり、線量によりSDが増減することを除けば、原則として対象の構造やコントラストなどの影響で画質が変化することは無い。一方で、昨今利用が広まっている逐次近似(iterative reconstruction:IR)や深層学習を応用した画像再構成法(deep-learning reconstruction:DLR)は非線形の画像再構成法であり、対象のコントラストや周囲の環境によって画質特性は変化する。そのため、Catphan等の規格品で計測した物理特性と実際の臨床画像の画質の間には、乖離が生じることが知られている。このことを受け米国医学物理学会(The American Association of Physicists in Medicine:AAPM)は、IRのような非線形の画像再構成法を用いる場合、臨床に近いコントラスト条件におけるMTF(task transfer function:TTF)や、臨床に近い構造を持つファントム(structured phantom)を用いたノイズ計測を推奨している1)
 当施設では、任意のタスクコントラストや形状を持つファントム実験を行う際に、3Dプリンタを活用している。本稿では、3Dプリントファントムを作成するための手順や実例、有用性などについて報告する。

3Dプリンタ

図1 KEYENCE社製3Dプリンター(Agilista-3200)の外観

 当施設では、KEYENCE社製のAgilista-3200(図1)を使用している。液体の造形素材を噴射し紫外線を照射することで硬化させる方式の3Dプリンタで、造形物を形成するための樹脂素材と水溶性のサポート材が用いられる。造形可能な最大サイズは210×297×200mmであり、A4用紙上に高さ20cmまで積み上げられると考えると直感的だろう。素材コストは造形物100gあたりおおよそ4〜5,000円であり、大型のものを出力するとそれなりのコストがかかる。3Dプリンタ本体は500万円〜1,000万円クラスの製品であり安易に購入できるものではないが、消耗品代+αで造形を請け負う3Dプリントサービスも様々な団体から提供されている。
 樹脂素材としては耐熱樹脂や柔らかいシリコン素材などが選択可能であるが、我々は標準的なアクリル系の樹脂素材(AR-M2)を使用している。これは120kVで撮影した際におおよそ60HU程度になることから、軟部組織に近いCT値となり使い勝手が良いためである。

データの作成と造形

 3Dプリンタで造形するデータはStandard Triangulated Language:STLと呼ばれるフォーマットで作成する必要がある。STLファイルはBlender2)等の3Dモデリングソフトで作成することもできるが、我々は見慣れた断面画像から始めSTLファイルに変換するという手順をとっている。
 ここでは、冠動脈造影CTのための胸部ファントムの作成方法について解説する。はじめに図2aのように大まかな断面画像をドローイングツールで作成し、NIH ImageJ3)で読み込む。ここから、後述する様々な濃度の素材を封入するための空間を形成しながらボリュームデータ化していく。なお、頭尾方向における解剖構造の変化を考慮したほうがより忠実なファントムを作ることができるが、手間を省きたい場合には頭尾方向に変化のない、金太郎飴のような構造とする。また、関心のあるパーツのみを別で3Dで造形して挿入するということもできる。今回は冠動脈の部分のみ3次元的な変化を持たせるために別パーツとして造形した。その後、3D Slicer4)のModel makerプラグインを用いて、ボリュームデータを図2bに示すようなメッシュ―データに変換し、STLファイルとして保存する。

図2 胸部ファントムの設計図
a 断面図
b メッシュ化した3Dデータ
図3 3Dプリントした胸部ファントムと付属パーツ
a 造形後の胸部ファントム
b 冠動脈ファントム
c アタッチメントの取り付け

 厚み方向に60mmの胸部ファントムの造形には24時間ほどかかり、素材造形コストは約10万円であった。造形後は、図3aのように追加の素材を封入していく。骨皮質の領域は空洞として造形しておき、石膏を封入することで骨を模倣する。また、左心室内腔には350HU程度になるよう希釈したヨード造影剤を封入する。別パーツとして造形した冠動脈ファントムは、図3bに示すように直径や狭窄のバリエーションをもたせ、胸部ファントム内に挿入した。冠動脈内には血液で希釈したヨード造影剤を封入した。当施設の3Dプリンタでは297×210mmまでのサイズの物体しか造形できないため、図3cに示すように別造形したアタッチメントを取り付けることで任意の体格となるよう調節した。

3Dプリントファントムの実例

図4 冠動脈CTAのための胸部ファントムのCT画像
a 心臓周辺の拡大再構成
b 正常な模擬冠動脈のMPR
c 狭窄のある模擬冠動脈のMPR

 図4に、前述の冠動脈CTAのための胸部ファントムのCT画像を示す。図4aの水平断の画像では、椎体や左室内腔の造影剤に由来するストリークアーチファクトやビームハードニングアーチファクトが発生しており、実際の臨床で得られるものに近い画質の画像が得られた。図4b・図4cに示す模擬冠動脈のmulti-planar reconstruction:MPRを観察することで模擬病変の視認性の評価が可能であり、線量決定のための参考画像として有用であった。また、冠動脈モジュールを対象としてTTFを計測することで、実際の臨床に近い環境の分解能特性を計測することができた。
 図5に、頭部CTのためのファントムを示す。このファントムでは3次元方向の立体的な脳構造までモデリングして造形しており、骨直下に生じるビームハードニングアーチファクトに対するコーン角の影響などを評価するために用いた。

図5 頭部ファントム
a ファントムの外観
b CT画像

おわりに

 本稿では、3Dプリンタを用いたCT画質評価のためのファントムの作成とその活用について紹介した。3Dプリンタを活用することで、バリエーション豊かなファントムを手軽に、かつ外注するよりは安価に作成することができるため、様々なシチュエーションに合わせた画質の評価が可能であった。再現性や品質の点では規格品には及ばないものの、臨床に即した画像が提供できるため、説得力の高いデータを得ることができる。研究用途にも有用であり、既製品のファントムでは計測できなかったユニークなデータが得られるかもしれない。

<文献>

1) Samei E et al: Performance evaluation of computed tomography systems: Summary of AAPM Task Group 233. Medical Physics 46(2): e735-e756, 2019
2) Blender: The free and open source 3D creation suite. https://www.blender.org/
3) NIH ImageJ: Image Processing ans Analysis in Java. https://imagej.nih.gov/ij/
4) 3D Slicer: An open source software platform for medical imageinformatics, image processing,and three-dimensional visualization.https://www.slicer.org/