MY BOOKMARK No.13 3D Non-selective balanced TFE冠動脈 MR angiography

2021.12.18

1)東京女子医科大学病院 中央放射線部
2)東京女子医科大学病院 画像診断・核医学科
3)株式会社フィリップス・ジャパン

小平和男 先生1)、長尾充展 先生2)
米山正己 先生3)、後藤康裕 先生1)
椎名 勲 先生1)、田中 功 先生1)

はじめに

 東京女子医科大学は、世界でもトップレベルの心臓病治療施設として、広く患者が集まる施設であり、わが国における循環器臨床のパイオニアとして先導的役割を担ってきた。MRIは、被ばくがなく非造影で心機能や三次元的な解剖学的情報を得ることができ、低侵襲で経時的な評価に適している。当院では、虚血性心疾患、心不全、心筋症、不整脈、先天性心疾患などを対象に、年間約300件の心臓MRI検査を行っている。心臓MRIでは様々なシーケンスが撮像されるが、その中で冠動脈MRAは非造影で冠動脈形態評価を行う重要な役割を担う。我々は、冠動脈MRAに特化する新たなシーケンスとして、3D Non-selective balanced TFE(bTFE)を開発し、その臨床的有用性をISMRMなどの国際学会で報告してきた。本稿では、はじめに3D Nonselectiveシーケンスの原理と特色を紹介する。次に3D Non-selective balanced TFE(bTFE)冠動脈MRAのもたらす撮像時間短縮及び画質向上のメリットを、臨床例を混じえながら報告する。

3D Non-selectiveの特徴

図1 従来のbTFEと3D Non-selective bTFEのシーケンスチャート
3D Non-selectiveではスライス選択励起をせず、RFパルスがブロックパルスになることでTRとTEの短縮が可能。

 3D Non-selectiveとはスライス選択傾斜磁場なしで、RFパルスをブロックパルスにしたことによってTRとTEを短縮する画期的な技術である1)。シーケンスチャートを図1に示す。
 高いSNRとCNRを確保するためにbalancedシーケンスを用いることが多い冠動脈MRAでは2)、3D Non-selectiveによるTRとTEの短縮により1心拍間により多くのエコーを収集することができるため、撮像時間の短縮が可能となる。また、心拍動や呼吸によるモーションアーチファクトやバンディングアーチファクトの低減も期待できる2、3)
 撮像において注意するポイントとしては、スライス選択励起を行わないことでボア内全てが励起されることになるため、スライス方向の折り返しが問題となる。これを避けるためにスライス断面はコロナールを選択し、かつスライス方向に対象を全て含むように撮像範囲を設定する必要がある(図2)。

図2 スライス断面の決定方法
スライス断面は冠状断を選択し、スライス方向に対象を全て含むように撮像範囲を設定する。
このように撮像範囲を決定することで折り返しのない画像が得られる。

3D Non-selective冠動脈MRAの高速化

 1.5T装置にて3D Non-selectiveを用いることによる撮像時間短縮と画質について検討した。3D Non-selective bTFEを用いた冠動脈MRAは、従来法と比較して画質を保ちつつ撮像時間を5分から3分20秒まで短縮可能であった。さらに、CompressedSENSE(C-SENSE)を併用することで高速化でき、撮像時間を2分(C-SENSE factor:7)まで大幅に短縮しても画質に有意差はないという結果が得られた4)図3)。

図3 3D Non-selective bTFEを用いた冠動脈MRAによる右冠動脈(1.5T)
HR:58bpm
voxel size:1.5×1.5×1.5mm3
TR/TE:bTFE=3.5/1.77ms, 3D Non-selective bTFE=2.3/1.19ms
視覚評価ではa、b、c、dで有意差なしの結果が得られた。

3.0T冠動脈MRAへの応用

 3.0T装置での冠動脈MRAにおけるbalancedシーケンスは、SARの制限によりflip angle(FA)を高く設定することが難しく、血液と心筋との良好なコントラストを得られなかった。また、B0およびB1の不均一性が増加することで、バンディングアーチファクトが目立つという問題を抱えていた。このため、冠動脈MRAでbalancedシーケンスを使用することは困難であり、造影のグラディエントシーケンスが主に用いられてきた2)。3DNon-selectiveの技術は、スライス選択傾斜磁場をなくすことでSARが低減しFAを高く設定でき、さらにTR短縮がバンディングアーチファクトを低減する3)ことから、3.0T装置におけるbalancedシーケンスの抱える問題を解決してくれる。これにより撮像時間を短縮可能なだけでなく、そのうえ非造影でありながら高い信号値とコントラストを得ることができ、またバンディングアーチファクトも目立たない良質な画像を提供できるようになった5)図4)。

図4 T1TFE、bTFE、3D Non-selective bTFEを用いた冠動脈MRA(3.0T)
HR:60bpm
Voxel size:1.5×1.5×1.5mm3
TR/TE:T1TFE=3.4/1.51ms, bTFE=4.5/2.2ms, 3D Nonselective
bTFE=2.4/1.2ms
FA:T1TFE=12°, bTFE=11°, 3D Non-selective bTFE=70°
acquisition time:T1TFE=5m38s, bTFE=8m11s, 3D Nonselective
bTFE=3m04s
3D Non-selective bTFEはT1TFEよりも高信号で、従来のbTFEより良好なコントラストが得られている。

臨床でのメリット

図5 心臓移植後症例(HR:96bpm)
心臓移植後患者の冠動脈MRAの原画とCPR
3D Non-selectiveを用いることで高心拍の患者でも問題なく撮像できている。

 心臓移植後冠動脈病変は、移植後患者の予後を左右する重要な病態である。通常経年的に冠動脈造影が施行され評価されているが、侵襲的検査のため患者の負担は大きい。我々は、移植後冠動脈病変の低侵襲評価法として冠動脈MRAが代替えできないか検討している。移植後患者は、心拍数90bpm以上の高心拍の患者も少なくないが、3D Non-selectiveを用いることで良質な画像を提供できている(図5)。これは3DNon-selectiveに用いられているブロックRFパルスによる短時間励起によってモーションアーチファクトが低減しているためと推測する。また、3D Non-selectiveはコロナールで撮像することになるが、撮像時間延長なしでFOVを大きくし広範囲の撮像をすることも可能である。これにより、冠動脈バイパス手術後や冠動脈肺動脈瘻、冠動脈起始部異常症例などの評価にも問題なく対応できる(図6、7)。広範囲を撮像することは解剖の把握に役立つため、臨床的にメリットが大きい。

図6 冠動脈バイパス手術後(LITA-LAD)症例(HR:84bpm)
左内胸動脈(LITA)から前下行枝(LAD)へ冠動脈バイパスしている患者の冠動脈MRA。
3D Non-selectiveを用いた広範囲撮像によりLITAの起始部からLAD末梢部まで良好に描出されており、解剖の把握に役立つ。
図7 右冠動脈起始部異常症例(HR:64bpm)
右冠動脈起始部が通常より高位であり、大動脈と肺動脈に挟まれる位置から分岐している。
横断像撮像による冠動脈MRAでは撮像範囲増加による撮像時間延長などの問題が想定されるが、冠状断撮像の3D Non-selectiveでは問題とならない。

3D Non-selective balanced DIXONへさらなる可能性

 冠動脈MRAにおいて、冠動脈は心外膜脂肪に覆われているため脂肪抑制が重要である6、7)。一般的に冠動脈MRAの脂肪抑制法としてSPIR法が用いられることが多いが、T1TFEDIXONがSPIR法と比べ冠動脈MRAの画質を向上させたという報告もある6)。
 しかし、balancedシーケンスは自由誘導減衰(FID)、ハーンエコー(HE)、誘発エコー(STE)の取得と傾斜磁場による3軸の流速補正が成り立つことで血液信号が高いが3、8)、T1TFEでは血液の信号値は比較的低く2)、撮像時間も延長してしまう。
 balancedシーケンスとDIXONを組み合わせれば血液信号を高く保ちつつ脂肪抑制効果が高まることが想定される。しかし、DIXONでエコー収集回数が増えることによるTRとTEの延長がバンディングアーチファクト増加と撮像時間延長の問題を生じ、また傾斜磁場が複雑化することで水と脂肪の分離が難しかった(図8)。
 そこで、3D Non-selectiveとbalanced DIXON(bDIXON)を併用することで血液信号を高く保った状態でバンディングアーチファクトと撮像時間延長を抑えつつ脂肪抑制効果を高めることに成功した9)図9、10)。3D Non-selective bDIXONでは冠動脈の細かい枝や末梢血管の描出が改善し、特にLCXの描出能向上が目立つ。LCXは経験上、他の2枝に比べ描出不良な場合も少なくないため、臨床的意義は高い。

図8 balanced DIXONのシーケンスチャート
balanced DIXONは3軸の傾斜磁場の総和が0になるように設定されることでリフェージングを行いつつ、2ポイントでエコーを収集する。これにより、原理的にはbalancedシーケンスでありながら、DIXON法を用いて水と脂肪の分離が可能となる。
図9 SNRとCNR
血液のSNRはbTFEとbDIXONがT1TFE-DIXONより優位に高かった。
心外膜脂肪のSNRはT1TFE-DIXONとbDIXONがbTFEより優位に低かった。
血液と心外膜脂肪のCNRはbDIXONがT1TFE-DIXONとbTFEより優位に高かった。
血液と心筋のCNRはbDIXONとbTFEがT1TFE-DIXONより優位に高かった。
これらの結果より、3D Non-selective bDIXONはSNRとCNRに優れていると言える。
図10 3D Non-selectiveを用いたT1TFE-DIXON、bTFE、bDIXON
HR:57bpm
Voxel size:1.5×1.5×1.5mm3
TR/TE:3D Non-selective T1TFE-DIXON=5.3/1.73, 3.6ms, 3D Non-selective bTFE-SPIR=2.3/1.14ms, 3D Non-selective bDIXON=3.3/1.14, 2.2ms
FA:3D Non-selective T1TFE-DIXON=20°, 3D Non-selective bTFE-SPIR=70°, 3D Non-selective bDIXON=70°
Compressed SENSE factor:7
acquisition time:3D Non-selective T1TFE-DIXON=6m06s, 3D Non-selective bTFE-SPIR=2m38s, 3D Non-selective bDIXON=3m57s
3D Non-selective bDIXONはT1TFE-DIXONより高信号で、SPIR法を用いたbTFEより脂肪抑制が良い。これより、細かい枝も含めて起始部から末梢部まで冠動脈の描出が良好である。

おわりに

 現在、様々なアプローチで撮像の高速化や画質向上のため研究が行われているが、冠動脈MRAは血管径が1cm未満の冠動脈を描出するために高分解能が求められ、心電図同期と呼吸同期も必要なため撮像時間が長くなってしまう現状がある10)。撮像時間延長による患者負担と画質の劣化、balancedシーケンスで避けられないバンディングアーチファクト、高心拍による描出不良など多くの問題を抱える冠動脈MRAにおいて、3D Non-selectiveはこれらの問題を解決し得る最高の技術である。3.0T冠動脈MRAにおいても、3D Non-selectiveでは今まで困難であったbalancedシーケンスでの撮像が実現可能となり、非造影でありながらも高信号、高コントラストな画像を提供できるようになった。さらに、bDIXONを搭載した3D Non-selectiveは、冠動脈の末梢や細かい枝まで診断可能になるという期待が持てる。
 今後の展望として、不整脈症例での応用や、新しい呼吸同期法であるImage based 2D NAV(iNAV)11)と3D Non-selectiveとを組み合わせた冠動脈MRAの有用性について検討を考えている。3D Non-selectiveは冠動脈MRAのスタンダードに成り得るポテンシャルを有する。

謝辞

 当院の様々な研究に協力し3D Non-selectiveの導入に際しても尽力して頂いた株式会社フィリップス・ジャパンの皆様に対し深謝申し上げます。

<文献>

1) Mayil S Krishnam et al: Noncontrast 3D Steady-State Free-Precession Magnetic Resonance Angiography of the Whole Chest Using Nonselective Radiofrequency Excitation over a Large Field of View: Comparison With Single-Phase 3D Con-trast-Enhanced MagneticResonance Angiography. Investigative Radiology 43(6): 411-20, 2008
2) Jingsi Xie et al: Whole-heart coronary magnetic resonance angiography at 3.0T using short-TR steady-state free precession, vastly undersampled isotropicprojection reconstruction. J Magn Reson Imaging 31(5): 1230-5, 2010
3) 高原太郎ほか: MR応用自在 第3版.メジカルビュー, 2013
4) Kazuo Kodaira et al: Acceleration of whole-heart coronary MR angiography using 3D non-selective bSSFP with Com-pressed SENSE. Proceedings of the 27th Annual Meeting of ISMRM, 2019
5) Isao Shiina et al: Whole-heart coronary MRA using Non-Selective balanced SSFP sequence at 3T: comparison of image quality. Proceedings of the 27th Annual Meeting of ISMRM, 2019
6) Maryam Nezafat et al: Coronary MR angiography at 3T: fat suppression versus water-fat separation. Magn Reson Mater Phy 29: 733-738, 2016
7) Peter Bornert et al: Water/Fat-Resolved Whole-Heart Dixon Coronary MRA: An Initial Comparison. Magn Reson Med 71: 156-163, 2014
8) 荒木 力: MRI完全解説 第2版. 学研メディカル 秀潤社, 2014
9) Kazuo Kodaira et al: Whole heart coronary MRA with 3D non-selective bSSFP-DIXON: comparison with conventional methods. Proceedings of the ISMRM &SMRT Virtual Conference & Exhibition, 2020
10) Mehdi H Monghari et al: Three-dimensional Heart Locator and Compressed Sensing for Whole-heart Magnetic Resonance Angiography. Magn Reson Med 75(5): 2086-2093, 2016
11) Markus Henningsson et al: Whole-Heart Coronary MR Angiography Using Image-Based Navigation for the Detection of Coronary Anomalies in Adult Patients With Congenital Heart Disease. Journal of Magenetic Resonance Imaging 43(4): 947-955, 2016