MY BOOKMARK No.11 受診者にやさしく精緻な乳房画像診断システムの構築を目指して

2021.12.16

三河乳がんクリニック

渡辺恵美 先生

はじめに

 日々の乳がん診療において、マンモグラフィと乳房超音波は必須の検査である。当院では、マンモグラフィ撮影装置としてGE Healthcare社(以下GEHC社)の Senographe Pristinaを、乳房超音波診断装置として同じくGEHC社のLOGIQ- E10を使用している。私の愛機でもある両装置について紹介したい。

マンモグラフィ撮影装置について

 GEHC社製Senographe Pristinaはトモシンセシス(Seno3D)、ステレオガイド下生検やトモシンセシスガイド下生検を可能とするオプション機能(Pristina Serena, Pristina Serena 3D)を備えた最新鋭機である。当院ではSenographe DS Laveriteの後継として2020年1月に導入された。現在本邦では保険収載されていないが、造影マンモグラフィ検査も可能である(SenoBrightHD)。

1. 受診者にやさしいSenographe Pristina

図1 Senographe Pristinaの乳房支持台

 本機の最たる特徴は、デザイン・機能などすべてが受診者にやさしいことにある。現に私どもの多くの外来受診者から、マンモグラフィに関する苦手意識が軽減されたという感想をいただいている。特に定期的受診者には非常に好評である。実際、撮影室に入室した時点での印象からして、受診者は違いを口にされる。前述のごとくSenographe DS Laveriteからの更新なのだが、入室した途端に「装置が変わった」とつぶやく受診者が多い。Senographe Pristinaは温かみのある色調を纏い、本体、ガントリー、乳房支持台まで丸みを帯びた形状で、外観から受けるやさしい印象もあるのだろう。ところが印象に留まらず、撮影後に圧迫による痛みの軽かったことに感謝を表する受診者が少なくない。これは本当に有難い。当院では、開設時より、マンモグラフィ受診者に必要以上の痛みを与えないように担当技師はみな最大限の注意を払ってきた。それでもマンモグラフィの圧迫を苦痛に感じ、マンモグラフィを苦手とする受診者は少数ながらも存在した。然るに現状は特に乳癌術後の方から喜ばれることが多く、大変に助かっている。この圧迫痛の軽減をもたらした要因について考察すると、Senographe Pristinaの数々の創意工夫が浮かび上がってくる。まず角を落とした丸い乳房支持台(図1)はポジションニング時の体幹への苦痛を取り去ることに成功した。ついで受診者が把持し手を置くハンドレスト(図2)も丸みがあり、強く握ることなく力を抜いて(大胸筋を弛緩させて)上肢を保持することが可能となっている。この効果は円滑なポジショニングにもつながっている。またX線管球部分をパーキング位置に退避させることができ、撮影者にとってMLOをポジショニングする姿勢が容易となった(図3)。撮影者にとってもやさしい装置となっている。
 COVID-19の感染拡大防止を考慮し現在、行えていないが、受診者が自分で圧迫圧を調節することのできる機能(Pristina Dueta)についても今後、検証予定である。Pristina Duetaは、ポジショニング時に技師が加えた最低限の圧迫ののち、受診者がリモートコントローラーで自ら圧迫圧の加減を調節できる機能である。Henrot1)やUlusら2)はこの機能を利用した先行研究を行い、受診者の痛みの軽減や、検査への満足度向上が認められたうえに、画質を落とすことなく検査の行えた結果を報告している。日本人女性においても同様の成果が期待できるだろう。同技術(Pristina Dueta)はTIME誌によるBEST INVENTIONS 2019(2019年の発明品ベスト100)にも選出されている。
 マンモグラフィ撮影における乳房圧迫は、①乳房の厚みを減らし被写体と受像体距離を減少させることで、幾何学的ボケを減少させる、②乳房の厚みを減らし、被ばく線量を減少させる、③動きによるボケを減少させる、④散乱線を減少させる、⑤コントラストを向上させる、⑥乳腺と病変を分離させる、といった効果がある。しかし我々技師が撮影前に入念な問診や丁寧な説明を行っても、圧迫の痛みは避けられず、マンモグラフィ検査を嫌がる受診者の存在は今日に続く永年の難題であった。圧迫圧についての研究は未だ発達途上である。マンモグラフィの圧迫が強すぎると感度が下がり、弱すぎると特異度が下がるというドイツの研究報告3)もあり、精度を犠牲にせず、かつ受診者にやさしい検査を実現したい。そのためにもPristina Duetaの検証も含め、適切な圧迫の実践に向け、今後も真摯に取り組
んでいきたい。

図2 Senographe Pristinaのハンドレスト
図3 Senographe PristinaのX線管部分を移動した状態

2. Seno3D Pristina Serena3Dを用いたトモシンセシスガイド下生検

 Pristina Serena 3Dの導入により、当院でも2020年6月頃からトモシンセシスガイド下生検が可能となった。ステレオガイド下生検と比較して、ターゲットの位置設定が容易となり、また操作性の向上により、術者のストレスなく検査が行えている。検査所要時間についても、ステレオガイド下生検よりトモシンセシスガイド下生検の方が短縮できたという報告がいくつか見られる4、5)ものの、腹臥位のステレオガイド下生検と側臥位のトモシンセシスガイド下生検の比較であった。当院では腹臥位でなく、側臥位でVerticalアプローチを用いることが多いため、あらためて検討を行った。その結果、スカウトからピアス後撮影までの所要時間の比較において、中央値で約2分間の短縮(ステレオガイド10分間からトモシンセシスガイド下生検8分間へ)が認められた。詳細は当院の小林が第29回日本乳癌学会総会で発表する予定である。今後さらに創意工夫を重ね、経験を積んで検討したい。

超音波診断装置について

 当院の超音波診断装置はLOGIQ-7から同E10に更新され、2018年に導入された。画質は大きく改良され、これに影響したcSound ImageformerとMV(I Micro Vascular Imaging)、またRaw dataの活用について述べる。

1. より高精細なB-mode画像を提供

 LOGIQ-E10の最大の特徴としては高性能のGPUを搭載し、cSoundというアルゴリズムを用いて全深度・全視野においてフルフォーカスされている点である。cSoundとは超音波ビームをオーバーラップさせることで、1つの反射源から複数の受信信号を取得する画期的なアルゴリズムのこと(図4 GEHC社提供)。これにより高精細な画像が得られている。乳房超音波診断において何よりも重要なのはB-mode画像である、とわれわれは位置付けている。したがってB-mode画像の画質向上は診断能に大きく影響すると考える。B-mode画像で小腫瘤径の腫瘤を精細に描出した超音波画像を示す(図5 症例1)。不整形低エコー腫瘤が認められ、病理組織は浸潤性乳管癌(硬性型)であった。
 LOGIQ-E10の導入後の日々の臨床でわれわれが強く実感しているのは、石灰化の描出において以前の装置(LOGIQ-7)より圧倒的に優れていることであろう。症例2(図5 症例2)の超音波画像では、楕円形の腫瘤内に点状高エコーが明瞭に描出されているのがわかる。マンモグラフィ画像では、淡く不明瞭〜多形性の微細石灰化の集簇性分布を認められる。病理組織はDCIS(充実型)であった。

図4 E10の画像再構成法(cSound Imageformer)と従来の画像再構成法
図5 左上 症例1 不整形低エコー腫瘤の超音波画像
右上 症例2 楕円形低エコー腫瘤内の点状高エコーを描出した超音波画像
右下 症例2 淡く不明瞭〜多形性微細石灰化の集簇を呈したマンモグラフィ画像

2. 微細な血流の描出 MVI(Micro Vascular Imaging)

 cSoundの画像再構成が可能にした技術として、MVI (Micro Vascular Imaging)がある。こちらは、血流イメージングとして、従来のカラードプラやパワードプラに加え、さらに微細な血流を描出できる技術である。処理能力の向上により、高い分解能とフレームレート(リアルタイム性)および感度の向上を実現させた成果として、小さい腫瘤内に豊富な血流を伴う症例や低エコー域内部の血流を詳細に描出して病変の情報提供に成功した。症例3は楕円形の等エコー腫瘤内部に豊富な血流を描出している(図6 症例3)。乳管内乳頭腫を疑う所見である。症例4は低エコー域の内部の豊富な血流を描出している(図6 症例4)。高度の細胞増殖を伴う乳腺症やDCISを疑う所見である。

図6 左(上段/下段) 症例3 楕円形等エコー腫瘤の超音波画像(上段 B-mode/下段 MVI)
右(上段/下段) 症例4 低エコー域の超音波画像(上段 B-mode/下段 MVI)

3. 客観性・再現性のある検査へ Raw Dataでの保存

 画像の保存形式に関して、RAW Dataのまま保存が可能となった。Raw Dataとは画像処理前の生データを保存することで、検査中でも検査後でもデータ加工ができる技術である。例えば経過観察中の症例の評価において、パラメーターの変化が影響して比較の困難な場合がある。B-modeの場合はゲイン、視野深度、周波数、ダイナミックレンジなどのパラメーターが挙げられるが、毎回、前検査と同じ設定にするのは手間がかかる。E10では前回検査と画像スキャン設定条件を自動同期させることができ、同画面での比較が可能となっている。この技術によって客観的な評価を容易にしている。

まとめ

 紙面の限りもあり、すべての特徴を紹介できなかったが、われわれは日々の臨床現場でSenographe Pristina・LOGIQ E10の有効性を実感しており、享受している掛値なしの両機の優秀性を要約した。今後も両装置を軸に精緻な診断システムを構築し、受診者にやさしい診療の実践から乳がん患者の予後向上につなげていきたいと考えている。

<文献>

1) Henrot P et al: Self-compression technique vs standard compression in mammography: a randomized clinical trial. JAMA internal medicine179(3): 407-414, 2019
2) Ulus S et al:A New Technical Mode in Mammography: Self-Compression Improves Satisfaction. European journal of breast health 207: 4-15, 2019
3) Holland K et al: Influence of breast compression pressure on the performance of population-based mammography screening. Breast cancer research 19(1): 1-8, 2017
4) Schrading S et al: Digital breast tomosynthesis–guided vacuumassisted breast biopsy: initial experiences and comparison with prone stereotactic vacuum-assisted biopsy. Radiology 27(3): 654-662, 2015
5) Bahl M et al:Comparison of Upright Digital Breast Tomosynthesis–guided versus Prone Stereotactic Vacuum-assisted Breast Biopsy.Radiology 290(2): 298-304, 2019