MY BOOKMARK No.4 Ingenia1.5Tと小児MR検査への思い入れ

2021.11.26

茨城県立こども病院

本元 強 先生

はじめに

 皆さま、こんにちは。今回は私のお気に入り製品として、フィリップスのMR装置「Ingenia1.5T」(図1)と、この装置を用いた小児検査への思い入れについて紹介させて頂く。Ingenia1.5Tは、小児検査に適したオプションやシーケンスが多数揃えられており、当院では小児検査専用MR装置と呼んでもよいと思える仕様で使用している。現在国内では多数のMR装置が販売されているが、小児専用オプションがある装置は未だに少ないのが現状である。しかしIngenia1.5Tは別の県の小児専門病院でも多数導入されており、フィリップスアプリケーションスペシャリストによる小児検査の情報共有やシーケンス共有も容易である。2017年12月の装置更新から約3年経過したが、装置の性能及び操作性の良さから、検査件数を毎年増加させることができている。これらを踏まえて今回は、「装置の特徴ハードウエアについて」、「装置の特徴ソフトウエアについて」、「装置を使いこなす学び方について」の3つについて、診療放射線技師の目線で説明していきたい。

図1 Ingenia 1.5T

装置の特徴ハードウエアについて

 小児検査に適したハードウエアとして、フィリップスの「Ambient Experience」と「MR In-boreソリューション」について説明する。Ambient Experienceは、フィリップスが提唱する、患者とスタッフの検査環境の向上を目的とした臨床環境設計であり、現在MR・CT・一般撮影・血管撮影・リニアック・陽子線治療の環境に対応しているとのことである。当院ではAmbient Experience MR In-Boreソリューションとして、照明・大型モニタ・音響を組み合わせることにより、映像を見ながら検査することを可能としている(図2)。当院では、あらかじめプリセットされている10個の映像(図3)、もしくは持参して頂いた映画やアニメのDVDを視聴でき、鎮静をしなくても検査可能な患者が増えてきている。これらは、特に小学校入学前後の年齢(5~8歳)くらいの年齢で有用である。当院ではMR検査が不安な患者のプリパレイション(子どもの発達に合わせた説明や配慮)として、検査前に装置の見学体験を行なっている(図4)。その際に映像が見られることや好きなDVDを持参してよいことを伝えることによって、患者の不安感を軽減させている。導入の成果として、検査時の不安とそれにより発生する不意の挙動による再撮像の低減がみられ、鎮静をしなくても検査ができる患者が増えている。非常に優れた機能であり、当院では鎮静しない患者ではほぼすべての患者で使用している。若干の問題点として、小児は映像に集中しすぎて一緒にセリフを話す・歌いだす・目線だけではなく頭も動かしながら映像をみてしまうことがあるが、そのようなときは映像を切り音のみにすることによってなんとか検査を進めている。

図2 In-Boreソリーション
図3 プリセット動画
図4 プリパレイションで使用しているぬいぐるみ

装置の特徴ソフトウエアについて

 小児検査に適したMRソフトウエアとして必要な機能を考えると、静音化・体動補正・高速撮像の3つが最重要になってくる。以下、それぞれを詳しく説明していく。
 まず静音化機能の「ConforTone」について。鎮静した患者が騒音のため途中覚醒するのはできるだけ避けたい現象である。ConforToneは、従来の静音化機能のSoftoneよりさらに優れており、gradient wave formを可変させ、コントラストごとに最大限の静音効果が得られるように設計されているとのことである。当院での鎮静MR検査における騒音対策として、耳栓・ヘッドホン(イヤーマフ)を装着しており、新生児では小児専用コイルにアコースティックフードなどドーム状のアコースティックフードをかぶせて物理的に騒音を遮断している。しかしこれだけでは小児鎮静MR検査の騒音対策は不十分であり、当院ではSoftone及びConforToneを併用している。フィリップスによれば最大で80%のノイズを軽減させることができるとのことである。
 つぎに体動補正機能の「MultiVane XD」について。当院では非常に使用頻度の高い機能である。従来のMultiVaneからアルゴリズムが改良され、大きな動きや複雑な動きに対し高い補正効果が得られる(図5)。仕組みはブレードを回転させ、Kスペースの中心を重点的に埋めていく方法である。体動補正を使用する時の注意点として、コントラストの変化・撮像時間の延長・FOVの円型化(特にCOR,SAG)の3つがあげられる。体動補正を使用する場合にはこれらを十分考慮する必要がある。特にコントラストの変化については、小児画像診断では微細なコントラストの変化が診断に影響することがあるので、時間が許せばMultiVane XD有り無しの撮像を試みている。
 そして高速撮像技術の「Compressed SENSE」について。当院では、フィリップスの協力のおかげで早い段階でCompressedSENSEを導入することができた。フィリップスの圧縮センシングはSENSE(パラレルイメージング)とCompressed Sensingを融合した高速化技術になり、2Dと3D撮影に対応・全身領域で使用可となっている。当院の現状はまだ使用するシーケンスやパラメータの設定に試行錯誤しており、T2W系の白黒のコントラストが比較的良好なシーケンス(例えばT2W-DRIVEなど)に使用して撮像時間短縮をしている。

図5 MultiVaneXD使用例

装置を使いこなす学び方について

 上記の機能を臨床に応用して使いこなすには、MR装置の原理やシーケンスの仕組みを深く知る必要があり、さらに小児の臨床に対する知識も欠かせない。そこで小児MR検査での装置を使いこなす学び方について、学術と臨床の2つを説明する。
 フィリップスのMR装置を使いこなす学術の学び方について。フィリップスMRユーザーは、各県にあるMRIユーザーズミーティンググループに参加することができ、年に数回MR撮像技術の情報交換をすることができている。また2年に一度開催されるフィリップス MRIユーザーズミーティング全国大会「GyroCup」では、フィリップスのMR装置を使用したユニークな撮像方法及びアイデア溢れるテクニック等が発表されている。ここで発表された撮像シーケンスは、後ほどブックレットなどでまとめられフィリップスユーザーに情報を共有される仕組みになっている。
 つぎに装置を使いこなす小児の臨床の学び方について。当院は都立小児総合医療センターの放射線科医師である河野達夫先生が非常勤で勤務されており、臨床画像のカンファはMRI室で行われている(図6)。その際に適切な撮像方法の確認や、診断能を高める追加シーケンスの検討などを随時行っている。その他には、毎日画像読影レポートをすべて確認し、臨床の疑問点を解決している。

図6 カンファや日常業務で用いる専門書籍

最後に

 小児MR検査を専門とする診療放射線技師の役割は、診断能の高いMR画像を読影医に届けることであると考えている。体動がある画像、大きすぎる撮像領域、多すぎる撮像枚数などは読影医の負担になり、小児画像診断の質を低下させてしまうことにつながっていく。これらは診療放射線技師の知識と技術で改善可能であり、我々の腕の見せ所であると言える。未だに学ぶことが多い小児MR検査であるが、今後も学びを積み重ねてRadFan読者に情報発信していければ幸いである。
 小児検査に興味を持たれた読者への参考文献として、RadFan誌に掲載された私の小児検査についての執筆記事を
記載しておく。「診断につながるやさしい小児検査・第1~6回」(RadFan2019年8月号~2020年1月号)、「街場のボランチ~MRI初心者に贈るメッセージ~第2回小児専門病院のMRIってどんな感じ?」(RadFan2016年11月号)