MY BOOKMARK No.50 フルデジタルPET/CT装置「Vereos」の臨床経験を通して

2024.03.27

埼玉県済生会川口総合病院 放射線技術科
髙橋美香

はじめに


 2022年2月より、フィリップス社製のフルデジタルPET/CT装置「Vereos Digital PET/CT(以下、Vereos)」の使用を開始した(図1)。それまで当院で使用していたアナログPETに変わり、VereosはデジタルPETの高い汎用性を臨床にて大いに発揮している。本稿では装置の特長と有用性を私の気に入っている理由とともに紹介していきたい。


図1 Vereos外観

Vereosの特長


 Vereos最大の特長は「デジタルフォトンカウンティング技術によるデジタル半導体検出器を搭載したフルデジタルPET/CT装置」という点である。従来のPET装置の検出器には光電子増倍管(Photo-Multiplier:PMT)が用いられていたが、Vereosでは検出部であるPMTを半導体検出器(Silicon Photo-Multiplier:SiPM)に置き換えたことでPMT搭載型のPET装置に比べシンチレータによる光信号の検出精度が大幅に向上した。


1:1 カップリング技術とD-SiPM


 従来のアナログPETの検出方式では、アンガーロジック方式と呼ばれるクリスタル1個につき複数の検出器で信号を検出し重心演算により位置を特定していたが、この方式ではDecoding Errorと呼ばれる画像の歪みによる空間分解能の劣化が発生していた。しかし当院に導入されたVereosの検出器はクリスタルと半導体の受光面(素子)が 1:1 で配列されている(1:1 カップリング)ため、Decoding Errorによる空間分解能の劣化が改善されている(図2)。また位置演算が不要となったため処理速度が高速化したことによりTime-Of-Flight(TOF)技術も大幅に向上した。さらにVereosはデジタルPETの中でも検出器部分において半導体でシンチレータの光を検出した後直接デジタル値に変換し、電気的な信号の増幅やA/D変換が不要な半導体検出器(D-SiPM)が実装されている。これら 1:1カップリング技術とD-SiPMによるデジタルフォトンカウンティング技術により、従来のPET装置より計数損失が少なく精度の高いPET画像を得ることが可能となった。

図2 1:1カップリング技術6


高画質と低被ばくの両立


 PET/CT撮影における減弱係数マップ取得用のCT撮影条件は、一般的な臨床用CT撮影に比べて高画質を必要としない場合が多く、低線量でのCT撮影が可能となっている一方、近年の高性能PET装置による高い空間分解能を持ったPET画像に合わせてCT画像もより薄いスライス厚でSNRが担保された撮影と画像再構成が求められる場合がある。従来のPET/CT装置とは異なり、VereosのCT撮影はX線出力が体厚に応じて可変する機能を有しているため、一般的なCT画像ではあまり行われない両腕をおろした状態で撮影を行ってもストリークアーチファクトを低減することができる。併せて、ハイブリッド逐次近似画像再構成「iDose4」を実装しているため、ノイズやアーチファクトを低減する機能により空間分解能とSNRの向上を確保しつつ被ばくの低減も可能となった。


高解像度撮影


 画像再構成法について、従来のPET/ CT装置では入力データからサイノグラムを作成し、OSEM法を用いて直接ボクセルで画像再構成を行う。しかしVereosではリストモード収集により得られた入力データをサイノグラム化せず、直接OSEM法にて画像再構成を行っている。加えて画像再構成はボクセルではなく球対象体積要素(Blob)として処理され、最後にボクセル変換を行い画像が出力される。さらに最終段階のボクセルサイズに合わせてBlobパラメータを調節することで2mmや1mmの等方性ボクセルサイズの場合でもノイズを抑制し高解像度な画像再構成が実現できるようになった。
 この画像再構成法によりVereosではより微小な病変の検出ができるようになった。図3にVereos導入前後に撮影された同一患者の画像を示す。VereosのMIP像では従来機に比べて高コントラストの画像が得られている。さらに右肺上葉のFDG集積を従来機では一塊の病変として描出していたのに対し、Vereosでは個々の病変として分離して描出されていることが確認できる(図4)。なお、SUVmaxはVereosで3.4、従来機は1.4であった。図5に脳画像を示す。Vereosで撮影した画像のほうが皮質と髄質の境界が明瞭であり、基底核のコントラストも良好となっていることが分かる。
 このようにVereosのPET画像は従来のPET画像に比べて部分容積効果が大幅に改善しており、高解像度で高コントラストな画像が得られ、集積のボケが少なく高いリカバリー係数を有するSUVの算出が可能となった。その結果、FDG-PETの診断に求められる病変の描出精度が向上したことが明らかである。

図4 FDG集積(非結核性抗酸菌症)
a Vereos CT像
b 従来機 CT像
c Vereos FDG-PET画像
d 従来機FDG-PET画像
図5 脳FDG-PET画像
a Vereos7)
b 従来機


検査時間の短縮


 FDGは腸管などの正常組織や炎症性病変にも集積するため、偽陽性となることが問題となる。そのためPET検査は他モダリティと異なり、1日に早期像と後期像の合わせて2回撮影を行うことが少なくない。後期像撮影により偽陽性や偽陰性の鑑別を行ってきたが、検査時間の延長による患者の身体的負担、追加のCT撮影による被ばく線量の増加、姿勢変化に伴う対象病変の位置ずれ、検査スループットの低下や術者の被ばくなどといった様々な問題点もあった。しかしVereosの導入により分解能や感度、定量性の向上によって高画質な撮影が可能となったため後期像は必要時のみの撮影となり、スループットが大幅に向上した。さらに同じ撮影時間でも画質が圧倒的に良好となり、病変の検出効率の増加にも寄与している。
 また、従来機では悪性リンパ腫などの全身撮影が必要な患者は頭部~骨盤腔と下肢の2回に分けて撮影していたが、Vereosでは寝台の最大スキャン長が約190cmでありほとんどの被検者において頭頂から足先まで1回撮影ができるようになったため、撮影途中で体位を変更する必要がなく患者の負担が減るとともに検査時間の短縮にも繋がった。


その他


 前述以外にもVereosを臨床で使用するうえで従来機より優れていると感じる点がある。
 まず、日常業務ではCTとPETの始業点検に必要な項目が少なく短時間で終わるため日々の業務時間への負担が少なくなった点である。また、装置はコンソール・ガントリ・サーバーなど複数のコンピュータから構成されているが、電源のON/OFFは1つの操作で行えるため、簡便に装置の再起動が行うことができる。
 さらに始業点検(Daily QC)に用いられる線源は22Na(半減期2.6年)を使用しており、従来使用していた68Ge線源(半減期270日)より半減期が長いため、線源交換の頻度も低くなった。加えて22Na線源はコンパクトかつ軽量のため(図6)、以前の68Ge線源は寝台にセットする際に相当な重みがあり苦労をしていたが、22Na線源は軽量なためセット時の重量による負担も大幅に減少した。
 撮影した画像の管理に関しては、PET画像のRaw DataをDICOMフォーマットで保存することができるため、Raw Dataのアーカイブが簡便となっている。日常的にバックアップを行うことで、いつでも過去のPET画像再構成をやり直すことが可能となり、後日追加の画像再構成を求められた際でも早急に対応することができる。
 患者視点では、検出器が半導体になったことによりPET検出器ユニットが薄くなったため、従来のPMT搭載型PET装置に比べてガントリの奥行き幅が短くなった。そのため、撮影中に閉塞感を感じる時間が短縮され、閉所恐怖症の患者に対しての負担が比較的軽減されている。
 このようにVereosは私たち業務従事者のみならず患者に対しても魅力な装置となっている。

図6 22Naロッド型線源(76.2mm、5グラム)


アミロイドPET検査に向けて


 厚生労働省によると、日本における65歳以上の認知症の人数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されている。この認知症の原因疾患の過半数を占めているのがアルツハイマー型認知症である。このアルツハイマー型認知症は、発症する10年以上前から脳内にアミロイドβというタンパク質が蓄積され脳の正常細胞が破壊されることによって発症すると言われている。
 アミロイドPET検査では、アミロイドPETイメージング剤の投与によりアミロイドβの有無の可視化が可能だ。このアミロイドβ沈着が陽性か陰性かという定性判定によって、認知症の診断や予防における有用な指標となる。
 当院においてもアミロイドPET検査を実施する予定である。アミロイドPET検査は装置の性能、撮像計測技術と撮像プロトコール、画像再構成パラメータ、および画像品質の適正化が必要となっている。この基準を満たしていることを証明するため、日本核医学会による「アミロイドイメージング剤を用いた脳PET撮像施設認証」を現在申請中である。今後はアミロイドPET検査を正確に診断するための体制を整えていきたいと考えている。


まとめ


 今回紹介したフルデジタルPET/CT装置Vereosは、導入当初から当院のPET診療の診断能向上に大きく貢献している。検査時間が短縮されたことにより、スループットの向上だけでなく患者への負担も軽減された。そして、従来よりも微小な病変の検出が可能となったうえ、画質を担保しつつ被ばく線量の低減も図ることのできる点が私のお気に入りの理由である。


<参考>
1) 北瀬正則 ほか: Philips社フルデジタルPET/CT装置「Vereos PET/CT」の特徴と使用経験. 映像情報Medical 52(12): 42-47, 2020
2) 平田健司 ほか: 腹部領域におけるフルデジタルPET/CT装置の使用経験. インナービジョン 35(5): 52-55, 2020
3) 朝戸呂仁: 「Vereos Digital PET/CT」の技術解説 - 小病変検出を支える高分解能再構成技術. インナービジョン 35(5): 62-63, 2020
4) 厚生労働省ホームページ: こころの病気を知る 認知症https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html
5) 日本核医学会: アミロイドPETイメージング剤の適正使用ガイドライン (第2版)
6) Jun Zhang et al: Performance evaluation of the next generation solid-state digital photon counting PET/CT system. EJNMMI Res 8(1):97, 2018
7) Julien Salvadori et al: Head-to-head comparison of image quality between brain 18F-FDG images recorded with a fully digital versus a last-generation analog PET camera. EJNMMI Res 9(1): 61, 2019