食品の放射能汚染推移と規制の問題点

2012.10.31

食品の放射能汚染推移と規制の問題点
科学ライター
松永和紀
 
 福島第一原発事故により放出された放射性物質は拡散し降下し、農産物や水産物を汚染した。また、福島第一原発から海に流れ出した汚染水が、水産物に影響を与えた。すぐに暫定規制値が運用され、国や県等が食品を検査し、暫定規制値を超過した場合には、エリアを決めてその食品に出荷制限や摂食制限を講じる仕組みができた。
 事故直後は、降下した放射性物質の直接付着により著しく高い汚染も検出された。だが、それらが規制され処分された後は、植物の根が放射性物質を吸収しにくいことや生産者による除染努力等により農産物の汚染は大きく低減し、また、水産物は汚染水の影響が大きい福島県が沿岸漁業の再開を見送るなどした結果、影響は最小限に食い止められた。国や県等のモニタリング検査は2012年3月末までに計13万3,832件に達し、暫定規制値超過は1,204件(0.90%)。食品による内部被ばくは、どの推計でも高くて年間0.1〜0.2mSv程度に留まった。汚染の著しい低減を受け、2012年4月からは、新基準値が施行されたが、科学的な安全と共に国民の安心感が追求され、著しく低い基準値となった。基準の意味が十分に説明されなかったため、一部の国民の間で放射能汚染に対する忌避感が強まったとみられ、福島県では「風評被害」の訴えが続くほか、学校給食の事前検査で数Bq/kgを検出した食品が廃棄されるなどの問題が生じている。また、新基準値の導入検討にあたって、費用便益分析や食品の持つほかのリスクとの比較による優先順位付けはまったく検討されず、限られたリソースの適正配分という観点から疑問の残る規制となっている。

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