LNTモデルがもたらす誤解

2012.09.27

LNTモデルがもたらす誤解
長崎大学名誉教授、放射線影響協会理事長
長瀧重信
 
 低線量被ばくの影響について、科学者間で一致した結論が出るのは数十年先であるともいわれている。「真実に迫る」と努力しても現状では結論は出ない。LNTも、どの立場で、何のために使用するのか、を明らかにして議論せざるを得ないのが現状である。
 低線量被ばくの影響に関して科学的な立場(サイエンス)と、科学的事実を認識した上で放射線防護を考える立場(ポリシー)があり、この範囲は国際的に共通した知識、考え方として存在する。この範囲でのLNTは、閾値なし直線仮説(Linear Non-Threshold:LNT仮説)と訳され、この仮説あるいはモデルは原爆被爆者の調査を基礎にしたものである。
 一方、上記の科学的事実を理解しないまま、低線量影響の議論に参加する立場がある。この立場の多くは、売名的、儲け主義的な目的を持って参加するもので、LNTも自分の主張に都合の良い部分だけを強調することが多い。この立場は表題のLNTの誤解に相当するかもしれない。
 しかしながら、放射線を浴びないようにする放射線防護のほかに、原爆、原発事故などにより放射線を浴びてしまった場合の低線量被ばくの影響も忘れてはならない。福島第一原発事故に関して低線量被ばくを取り上げる時、目標はこの立場の被害者の被害を最小にすることにある。被害者としての当然の要求にしたがって徹底的な除染を行い、被ばく線量を1mSv以下になるまで政府が責任を持つとしても、気の遠くなるような時間がかかることも認めざるを得ない現状である。
 今後の毎日の生活の中で、放射線の健康に対する被害を個人の被ばく線量に合わせて推定し、放射線の被害から逃れるための被害とのバランスを慎重に考慮し、被害者の被害を最小にするためのきめ細かい対話が必要である。その際、被害者の被害をさらに拡大するようなLNTの誤解・曲解は厳に慎むべきである。
 
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