東芝ユーザーズセミナー:セミナーⅡ GCA-9300Rの 臨床的有用性

Satellite View~Canon Special Session:セミナー報告
2016.04.11

東芝ユーザーズセミナー

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セミナーⅡ GCA-9300Rの 臨床的有用性

 

日時:2015年11月5日
場所:ハイアットリージェンシー東京
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社

 

演者
 
国立循環器病研究センター
脳卒中統合イメージングセンター
中川原譲二 先生

【KEY Sentence】
●画像の良し悪しには、コリメータの性能(特にシステム感度)と画像再構成法の違いが影響する。
●GCA-9300Rは、全体として約3.5倍のシステム感度向上を実現することで、短い収集時間でも高画質画像が得られ、
認知症やてんかん、小児など長時間検査が難しい対象に有用である。
●GCA-9300Rは123I製剤を使った画像において優れた空間分解を実現しており、線状体や大脳皮質の構造の見え方が
大幅に改善した。これにより、画像診断の質の向上にも寄与できることが示唆された。

 
 GCA-9300Rは3つの検出器を搭載しており、3D-OSEMなどの最新の画像処理技術を実装している点が主な特長である。これらはデータ収集時間の短縮や画質向上に寄与し、SPECT検査における患者負担の軽減や検査効率の向上といった効果が見込まれる。我々は、GCA-9300Rの導入にあたって、約2年間にわたりその有用性に関する検討を行った。
 

図1 99mTcを用いたEDC SPECT画像
(収集時間20分)
図2 99mTcを用いたEDC SPECT画像
(収集時間5分)
図3 図2に画像再構成法3D-OSEMをかけた画像
GCA-9300Rの基礎検討
1.コリメータによる違い

 今回は、99mTc製剤に適した低エネルギー高分解能コリメータ(LEHR)と123Iまでを考慮した低中エネルギー汎用コリメータ(LMEGP)の2つのパラレルホールコリメータに加え、99mTcを前提に高分解能を追求した超高分解能ファンビームコリメータ(FANSHR) と、99mTcと123Iの使用を考慮した高分解能ファンビームコリメータ(FANHR)の合計4種類について検討を行った。前装置GCA-9300Aの使用経験として、123I-IMPの画質については、圧倒的にFANHRが優れていた。これは空間分解能だけでなく、システム感度の重要性も示唆している。ファンビームコリメータとパラレルホールコリメータの仕様を比較すると、FANHRのシステム感度はLEHRの約1.8倍になり、高画質な画像を提供することができる。
 
2.画像再構成法による違い
 コンピュータの高度化に伴い、遂次近似処理による再構成が実用化されてきており、散乱線や吸収の影響を考慮した処理を加えることもできる。さらに近年はコリメータの設計情報を用いた再構成(3D-OSEM法)を行う処理も搭載されている。従来のFBP法と3D-OSEM法を比較すると3D-OSEM法ではノイズをさらに抑えることで、約1.3倍の実効感度向上が得られた。システム感度は「ハードウェアだけでなく、画像再構成でも向上する」という効果がとても重要である。
 
3.汎用二検出器型SPECT装置との比較
 汎用二検出器型SPECT装置を用いた従来の頭部SPECT検査は、2つの検出器、パラレルホールコリメータ、FBP法の組み合わせが一般的であるのに対して、GCA-9300Rでは、3つの検出器、ファンビームコリメータ、3D-OSEM法の組み合わせとなり、システムの実効感度は、1.5(検出器の数)×1.8(コリメータの違い)×1.3(画像再構成法の違い)=3.5倍にもなる。システムとして約3.5倍の実効感度向上があれば、99mTc製剤の場合で、収集時間を20分から5分前後に短縮しても、臨床的に耐えうる画像が得られると考えられる。
  
SPECT検査における患者負担の軽減の検討
 1年目には、被ばく低減と収集時間の短縮に関する研究を行った。図199mTc-ECD脳SPECT画像である。FNSHRを用いて20分収集してFBP法で再構成している。図2は収集時間を5分に短縮した画像だ。収集時間が1/4の5分にも関わらず、臨床に耐えうる画像が得られている。このような汎用二検出器型SPECT装置との違いは、急性期のHyper-Perfusionの検出、てんかんの診断、小児検査といった用途において、時間短縮という大きなメリットとなる可能性がある。また、画像再構成法を3D-OSEM法にすると、中心溝の描出もクリアになり、コントラストや位置分解能のさらなる向上が得られた(図3)。実臨床では細部にわたる診断のニーズは少ないが、新しい装置において、最新技術を用いて位置分解能の高い画像を提供する工夫は大事である。
  
位置分解能の改善に関する検討
 2年目には、123I製剤を用いた検査における診断精度向上のための位置分解能の改善について検討を行った。内容としては、IoflupaneとIomazenilに関して、1人のボランティアにつきコリメータを2種類用いて撮像し、散乱線補正、減弱補正、コリメータ開口補正の各種補正を加えることで画像にどのような影響を及ぼすかをコリメータごとに観察するものである。

図4 Iofulupaneを用いた頭部SPECT画像
(LEHR with FBP)
図5 Iofulupaneを用いた頭部SPECT画像
(FANHR with 3D-OSEM)
図6 Iomazenilを用いた頭部SPECT画像の比較

1.Ioflupane(123I-FP-CIT)での検討結果
 ドーパミントランスポーターイメージングに使用するPET製剤として18F-FP-CITがある。PETでは、線条体は内包前脚により分離されており、脳幹の集積もわかる。対してIoflupaneを用いたSPECTでは、ドット・カンマという評価しかできない。そのため定量的な評価が必要となっているが本質的ではない。たとえば、軽症のパーキンソン病を考えたとき、左から症状が始まれば右の被殻の後ろの神経が脱落し、集積がじわじわと欠けてくる。こういった情報が診断医にとっては重要である。それをみるには相当の分解能が求められるが、応えるために画像の質を上げることができないかという大きなテーマが出てくる。
 LEHRコリメータを用いてFBP法で再構成したSPECT画像(図4)に対して、散乱線補正・減弱補正(CTAC)をかけると、画質の向上が見られた。さらに再構成を3D-OSEM法に変えると画質は大幅に向上する。また、同一ボランティアでのコリメータをFANHRに変えて各種補正を加えると図5のよう画質がさらに向上する一方で、定量性としてはほとんど差がなかった。画像診断を考える上では、定量評価だけでなく、画像そのものをしっかり評価することが大変重要である。今回の検討結果から、GCA-9300RのSPECT画像は、左右差の評価、サジタル・コロナル画像を加味した局所の神経細胞脱落などを議論ができるレベルに来ているといえる。さらにフュージョン画像から神経細胞の脱落の程度や発生箇所が分かるようになれば、パーキンソン病の診断等にも非常に有用になると期待される。
 
2.Iomazenilでの検討結果
 Iomazenilは、通常はてんかん診断に用いられているが、高次脳機能傷害の診断にも有用である。神経細胞のマーカーとなるGABA/BZR(ベンゾジアゼピン受容体)の低下部位をBZRに結合するIomazenilを用いて検出することにより、MRIでは異常がない箇所の神経細胞の脱落も診断が可能だ。大脳皮質へのRI集積の分布を観察することによっててんかんの焦点を診断することができるが、てんかん診断のターゲットの多くは側頭葉てんかんとなるため、内側側頭葉のRI集積の分布を正しく捉えることが診断のカギとなる。コリメータがLEHRでは脳の深部に位置する内側側頭葉のRI集積の分布は観察し難いが、FANHRを用いることで深部の情報を明瞭に描出することができている。さらに、散乱線補正、吸収補正、コリメータ開口補正などの各種補正を行うことで内側側頭葉のRI集積がよりしっかりと見えている(図6)。この結果は画期的であり、統計画像解析といった方法もあるが、画像そのものが重要となる。従来の汎用二検出器型SPECT装置では、脳の深部に位置する内側側頭葉の集積は少し低下しているように見えていたが、GCA-9300Rでは、大脳皮質の構造の見え方が大きく改善している。これは我々に与えられた、「大きな贈り物」といっても過言ではない。
 
終わりに
 今回のGCA-9300Rの検討では、用いるトレーサーのエネルギープロファイルに適したコリメータ選択と画像再構成法(3D-OSEM)の改良によって、検査時間の短縮や、空間分解能の改善が得られるようになった。99mTc製剤を用いた脳血流SPECTの場合、従来の検査時間での空間分解能を改善可能にする一方、従来の空間分解能であれば検査時間を著しく短縮できることが特長であり、緊急検査や小児検査へ応用が期待される。123I製剤を用いる脳血流SPECTの際、FANHRなどのコリメータを使用することで、従来よりも非常に高い空間分解能を得られることが明らかとなった。特にIofulupaneや、Iomazenilなどの123I製剤のイメージングにおいて、SPECT診断の精度向上をどのように目指していくのか、これから我々がやるべき仕事ではないかと考えている。

(本記事は、RadFan2016年2月号からの転載です)