2011年 日本IVR学会第9回夏季学術セミナーレポート

2011.08.30

2011年 日本IVR学会第9回夏季学術セミナーレポート
慶應義塾大学病院放射線科
須山陽介

7月30~31日に日本IVR学会第9回夏季学術セミナーが開催された。このセミナーは日本IVR学会とテルモ株式会社の共催で、テルモメディカルプラネックスで行われている。様々なIVR手技のレクチャーがあり、その後ブタを用いて実際に手技を経験できる。このセミナーは非常に評判がよく、以前から先輩方に薦められていた。今回、運よく参加資格を得たので、カテーテルを触り始めて間もない初心者ながら参加させていただき、報告をすることとなった。
このセミナーの優れた点は、以下2点につきると思う。
1.保険が通っていない手技を経験できる点
2.全国から参加している先生と交流できる点

今回のセミナーのテーマは「塞栓物質」であった。その中でも、「ビーズ」「コイル」「NBCA」「Onyx」「エタノール」が取り上げられ、総論と各論に分けて講義が行われた。 その後、3つのブースに分かれて、それぞれのブースで塞栓物質・手技に詳しい講師がデモンストレーションを行い、続いて受講者がレクチャーを受けながら、実験動物で実際の手技を経験することができる。
1ブースに受講者10人、講師3人がつき、普段は慎重に使う(もしくは使えない)これらの素材をふんだんに扱い、それぞれの塞栓物質が実際にどのように固まっていくのか見ながら比較することができるという贅沢な実習である。その上、本来やってはいけないとされる手技を試してみることも可能という好奇心をくすぐられる実習でもあった。

実際のそれぞれのブースにおける実習内容は以下のとおり。
第1ブース
1.腹腔動脈系をビーズで塞栓(SMA含めて)
2.腎、SMAなどをNBCA-Lipiodolで塞栓
3.門脈系をエタノールで塞栓

第2ブース
1.肺動脈をコイルで塞栓
2.腹腔動脈系、SMAなどをOnyxで塞栓
3.腎などをNBCA-Lipiodolで塞栓

第3ブース(実験室)
1.血管モデルによる実習 Onyx ハイドロコイル NBCA-Lipiodol
2.スポンゼル細片の作成法 マイクロカテーテル通過後の観察
3.Q&A

ここでは紙面の関係上、このセミナー中で個人的に最も興味をもった塞栓物質「ビーズ」と面白いと感じたブース「実験室」について紹介させていただく。

●ビーズ
ビーズについてはIVR学会誌の「塞栓物質の全て」を読んだ程度の知識しかなく、実際に見るのは初めてであった。スポンゼルとの違いとして、ビーズの粒子径はあらかじめほぼ一定に保たれており、球状の形をしている。このため、塞栓レベルを調整できるというのが、最も特徴的とされている。粒子径のそろった球なので、見た目はいわゆる巷でいわれているビーズのような模様をしており、非常にきれいであった。
また、その他にも再分布現象など、スポンゼルと違った性質がある。そのため、スポンゼルと同様の感覚ではできず訓練が必須とのことであった。日本で保険認可されるのはあと数年後になると予想されているが、認可されたら是非使ってみたいと思う。

●実験室
このブースはブタを用いて実際に手技を行う他の2つのブースと異なり塞栓物質そのものを観察するための実験室となっていた。
具体的には、「Onyx(もどき)」が塞栓する様子を血管モデルで観察したり、「スポンゼル(ジェルパード)」がマイクロカテーテル通過後にどのようになっているかを顕微鏡でみたり、血液の重合後のNBCA-Lipiodolそのものを手に取って観察したりするものだった。
以下それぞれの素材を用いた実験についてもう少し書かせていただく。

〈Onyx〉
Onyxは有機溶媒が血流などにより撹拌することで析出し、固まるとのことで塞栓する。このさい、NBCAが「重合する」のに対しOnyxは「析出する」という点が講義では強調されていた。実際に血管モデルを使ったデモンストレーションでは常に血流がある状態ではOnyxは毛細血管レベルで塞栓されたが、一度血流を途絶した上でonyxを注入し、注入後血流を再開させた場合Onyxは固まらず、血管モデルの静脈側まで流されてしまった。これはNBCAとは違うOnyxの特徴をよく示したものであり、実際に目でみることができたため深く印象に残っている。

〈スポンゼル〉
スポンゼルはまず自分たちで細片を作成し、作成したものを顕微鏡でみてみるという作業を行った。
その後、1mm径と2mm径のジェルパードをそれぞれマイクロカテーテル通過させた後に顕微鏡で観察した。この場合、いずれも一部断片化されていた。ある先生の見解では、臨床現場で使用するさい、ジェルパードはマイクロカテーテルを通過するので、1mm・2mmのいずれを使用してもあまり大きな差はないのではないかということだった。
また、大阪大学の大須賀先生がスポンゼル細片を作る名人芸を披露してくださった。スポンゼル細片を作る経験がほとんどなかった私にとって、これも新鮮であり、非常に勉強になった。

〈NBCA〉
NBCAは臨床でもよく使用されているが、初心者には扱いにくいということもあり、このセミナーでは毎年とりあげられているらしい。
このブースでは、NBCA-Lipiodolを様々な配合で作り、血液と重合させ、固まったものを実際に手に取りそれぞれどのような硬さなのかをみた。NBCAの比重が大きいものほど固く、引きちぎったりすることは難しかった。
また、他のブースでは、カテーテルを腎動脈にwedgeさせた上でNBCAを使用するデモンストレーションが行われたり、様々な比率でリピオドールと混合したNBCAを使用することで、理論だけでなく、実際のコツを感覚的にも掴もうとする試みも行われた。

〈ハイドロジェルコイル〉
ハイドロジェルコイルを顕微鏡下で観察しながら生理食塩水に浸し、ハイドロジェルコイルの被膜が、生理食塩水を含み膨張していく様子を顕微鏡で確認した。

また、このブースでは様々な未使用のコイルが用意されており、実際に手で触れてみることができた。

このように講義・実習内容共に素晴らしいセミナーだが、さらに夜の宴会では日本中の多くの先生方と交流することができた。
受講者は北は北海道、南は熊本からと全国から参加されていた。年齢の幅も広く、私と同様に放射線科駆け出しから10年以上の経験をされている中堅の先生方までいらっしゃられた。みなほとんどの先生が初対面であり、当然講義・実習中はあまり会話しなかったが、この宴会時にはほぼ無礼講で、楽しく会話することができた。
そんなわずかな時間でも、通常学会などで会っても挨拶することのない先生方や諸先輩方から病院ごとの手技の違いや文化(?) の違いなどさまざまな話を聞くことができた。
講義・実習内容にならんで魅力的な一面と感じた。
ちなみに、蛇足となるが、宿も風情のある居心地のよい場所であった。

このセミナーは、参加費は結構な値段がするが、宿や使用できる物品、得られる経験を考えたら相当安いと感じた。可能であれば是非毎年でも参加したいと思っている。
個人的な反省点としては、この実習中、他の先生方は様々な質問や疑問を講師の先生方にぶつけていたのに対し、私は盛んな意見の交換を傍観することしか出来なかった点である。

最後に、この場を借りてこのような場を提供してくださったIVR学会やテルモ株式会社の関係者のみなさまには厚くお礼を申し上げたい。